683: 333 :2017/02/07(火) 01:35:37
フローデ達の憂鬱 第三章
ファーズ ビュール・ガンボト
平面宇宙に布陣した山本艦隊。
その戦力が敵を睨み据え、撃滅せんと意志を向ける。
「25個艦隊か…もう少しほしかったが。」
敵の戦力はおよそ23個艦隊。数の上ではほぼ互角だった。
ラブール
つまり星界軍の有利だが、戦いが決まるほどではない。
まあ、それもいい。それでこそ博打のし甲斐がある。
チリチリと身を焦がす感覚は前世で、そして今生でも数えきれないほど味わったものだ。
戦場では何が起きるかわからない。
まともに戦っては勝ち目のない敵が、突然起きた津波に本国が飲まれて崩壊するなんてこともあるのだ。
天祐があるのならば、災難もある。
ヤ・ファド
ガンボースは油断することなく平面宇宙図に映る敵を見つめた。
ほんの僅かな変化も見逃さないように。
グラハレル ホクサス
「司令長官。機雷放出完了しました。いつでも発射できます。」
ディリオクス
「よし。対抗雷撃の割合は多めにしておけ。蹂躙戦になればこちらが有利だ。」
横長の陣形になった艦隊は引き絞られた弓だ。
狙いを定め、機雷という矢を番えてその時を待っている。
だがこれはまだ前哨戦に過ぎない。
ダディオクス
通常空間戦を重視する星界軍にとって機雷戦は本番ではないのだ。
「敵艦隊、射程に入りました!」
ヤドビュール・ヴォートゥト
「全打撃分艦隊は機雷を分離せよ。戦闘開始だ。」
フラサス ゴール・リュトコス
合図と共に大量の時空泡が時空分離する。
敵も同時に射程に入ったようで、平面宇宙は途端に機雷で埋め尽くされた。
敵と味方の機雷が互いを狙い、あるいはそれから逃れて敵へと向かっていく。
しかしさすがにすべての機雷を対抗雷撃で潰すことはできなかったようで、ガンボースのもとには次々と損害報告が舞い込んでくる。
684: 333 :2017/02/07(火) 01:36:28
ヤドビュール・マスカスナ・ウセム
「第二十一偵察分艦隊が損害多数!後退許可を求めています!」
「許可しろ。それから打撃分艦隊とその護衛は後退、偵察分艦隊と突撃分艦隊を中心に艦隊を抽出しておけ。機雷戦が終わったら
敵陣に切り込むぞ。」
カーサリア・トラショト
ガンボースの言葉に砲撃参謀が戦術を立案し、戦力を再配置していく。
平面宇宙で機雷が消費されていく間にも陣形は刻一刻と変化する。
既に機雷戦の次を見据えているのだ。
それは敵も同じだったようで、前方に出ていた時空泡群がのろのろと後方に下がっていく。
代わりに出てきたのが巡察艦と突撃艦だろう。だがその数は、艦隊全体に比して明らかに少なかった。
アレーク
「連合軍め、機雷戦で打撃を与えるつもりか。機雷を増産したな…いや、戦列艦以外の戦力再建が間に合わなかったのか。」
ヤドビュール・ビスブナ・アシャル ヤドビュール・マスリュナ・アシャル
「第三十六突撃分艦隊壊滅!第二十五突撃分艦隊壊滅!」
その分だけ敵の戦列艦は多い。すなわち一度に放たれる機雷の数も多かった。
次第に増えていく損害報告。
いかに物量を揃えた星界軍といえど、それは無視できる規模を通り越していた。
レート
護衛艦とて無敵ではない。多数の機雷に群がられて消滅したり、機敏な機動を捉えきれず機雷を逃したりする。
そしてその被害は後方の戦力に及ぶ。
フラサス スプーフラサス
時空泡が消えて時空粒子に変わる。敵と味方の損害は明らかに味方の方が多かった。
それでも機雷だけで崩れる程ではない。
この程度の機雷で撃破できると思っているのなら、随分と甘い想定だ。
フリューバル ラブール
帝国は、星界軍はそれほど与しやすい敵ではないぞ。
685: 333 :2017/02/07(火) 01:37:26
ホクサス
「機雷を無駄に消耗してしまったな。」
ソード・センタラル
センタール門付近。
ホクサス・マージュ
歪んだ螺旋から放たれた長距離機雷は、射程が長い分機動力にも劣る。
それでも並大抵の艦艇よりは早く、迎撃に機雷を使ってしまったのだ。
「しかし消費は比較的少なく済みました。攻撃は続行可能です。」
長距離機雷は射程が長い分機動力が低く、容量を食うため搭載できる量も少ない。
そのため通常の機雷で対抗雷撃をされれば、少ない量で無効化されてしまうのだ。
それでも長距離機雷などという兵器があるのは、使い方次第で十分有効にもなるからだ。
「機雷の残りはどれほどか?」
「およそ七割です。敵戦力の推定から予測して、機雷の量は十分です。」
だが、退けないのはこちらも同じだ。
退路が断たれる危険がある以上、そして後退しても間に合わない以上、前に進むしかない。
フェーク・ラスィーサル
一刻も早くラスィース王国へ到達するしかないのだ。
「よし、総攻撃をかける。センタール門が射程に入り次第、すべての機雷を射出しろ。」
レンド カーサリア・ドロショト ドロシュ・フラクテーダル
嶋田の命令が下されると通信参謀が復唱し、泡間通信で伝えられる。
攻撃準備が伝えられると各時空泡内で機雷が放出されると同時に、機雷を持たない艦艇も突撃態勢をとる。
門から出てくる機雷の迎撃で敵の指揮が少しでも乱れている間に、こちらも突入するのだ。
スプーフラサス
消滅した機雷の残り香たる時空粒子も薄れ、元の穏やかな平面宇宙に戻りつつある。
しかしそれと反して戦火はいよいよ燃え盛ろうとしていた。
徐々に近づくセンタール門。
ソード グラーガーフ
門と艦隊の距離が縮まるにつれて、司令部の空気は張りつめていった。
「3、2、1、センタール門、射程内に入りました。」
「機雷発射!全軍突撃!」
矢継ぎ早に命令が下され、ここにセンタール門攻略作戦が始まる。
ソーヴ・ヴォートゥト ソーヴ・ディレール
打撃戦隊の時空泡から無数の機雷が分離し、蹂躙戦隊の時空泡は突撃を始める。
機雷が艦艇を追い抜き、門に殺到する。
レスィー ソーパイ ゲール
多数の巡察艦や襲撃艦がそれに続き、相対的に少なくなった突撃艦が先導する。
少しでも時間を稼ごうとする連合軍。
突破しようとする星界軍。
センタール門攻略戦がここに始まった。
686: 333 :2017/02/07(火) 01:38:47
サレール
「艦長。突撃命令が出ました。」
「突撃するがよい。」
ソーパイ ガホール
襲撃艦《フリーコヴ》の艦橋。
ドロキア ローワス
通信士の報を受けてラフィール十翔長が命じる。
少し前まで不快感を顔に張り付けていた彼女は、どうやらなにかあったようで晴れ晴れしい表情をしている。
ウィグ
書記の仕事は出撃前と出撃後、そして戦闘中が最も忙しく、今のような時間は基本的に暇だ。
横目で恐る恐るそれを確認したジントは内心胸をなでおろしていた。
ファサンゼール
正直、皇族の怒りは恐ろしかったのだ。もっとも、こんなことを彼女に言えば怒られただろうが。
地位故ではない。皇族はめったに怒らない分、怒ると途轍もなく恐ろしいのだ。
暫く見つめていると、彼女の方もその目線に気付いた。
ウィグ
「書記。戦闘中だぞ、よそ見をするな。」
「は、はいっ。」
注意を受けてしまったが、ラフィールの顔に浮かぶ表情は柔らかい微笑みだった。
ラトーニュ
なぜか気恥ずかしくなって、ジントは顔を戦闘指揮卓に向ける。
優しい声色が鼓膜を撫で、微笑みの残滓と共に心を蕩かす。
これほど優しげなラフィールを見たことは、付き合いの長いジントにもなかった。
鈍いぼくにも一目でわかる。彼女は恋をしているのだ。
そういえば…ジントは思い出す。
フォフローデ
少し前、ラフィールがレンド大提督と話していたと噂が流れていた。
もし、彼女が変わった理由がぼくの想像どおりだとしたら…。
その瞬間、胸が締め付けられるような思いに駆られた。
レンド大提督は家柄も、外見も、能力も、ぼくとは比べ物にもならない。
生粋のアーヴだから外見はもちろん、二千年以上前から続く名門貴族という家柄。
百年前のシャシャイン戦役でも五十年前のカミンテール戦役でも功績を上げている点からも能力には申し分ない。
女性からの人気も高く、結婚していないのは釣り合う相手がいないからだといわれるほどだ。
それも皇族と両想いだったのなら、説明がつく。浮いた話がないわけだ。
二人の年齢は百近く離れているが、アーヴは年齢差をあまり気にしない。
ベイダーシュ
身分の高い二人は宮中でも会う機会は多かっただろう。ぼくとは違う世界の住人なんだ。
「せっかく見つけた好きな人なんだ…。応援しなくちゃ。」
胸の痛みを無視して、ジントはつぶやいた。
そうでもしなければ、よからぬことを考えてしまいそうで。
687: 333 :2017/02/07(火) 01:39:37
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最終更新:2017年02月10日 21:58