699: 333 :2017/02/07(火) 22:25:50
フローデ達の憂鬱 第三章



           ウィグ
ふと視線を感じて書記を見る。

案の定、ジントがラフィールを見つめていた。

恥ずかしさと共に嬉しさがこみ上げてくる。彼が自分に見惚れていたのだ。

己の頬が緩むのを感じながら、愛しい部下を注意する。
 ウィグ
「書記。戦闘中だぞ、よそ見をするな。」

「は、はいっ。」

目が合ったのは一瞬だけだった。

その一瞬で、ラフィールの心は喜びに踊る。

自分がこんなに簡単な女だったなど、思いもしなかった。

視線を交わしただけで幸福に全身を浸らせる。

己の想いを自覚しただけで、こんなにも心が軽やかになる。

それは今まで自ら押さえつけていたことの裏返しでもあったのだろう。
                               レー
しかしラフィールの浮ついた気持ちは聞こえてきた想人のつぶやきによって瓦解した。

「せっかく見つけた好きな人なんだ…。応援しなくちゃ。」

衝撃が全身を駆け巡る。彼は今何と言った?

応援しなくちゃ?何を他人事のように言っているのだ。おぬしのことだというのに。

どうやらジントは己の想い人が彼自身であるを知らず、他人を好いていると思っているらしい。

何を馬鹿な、と叫びたくなった。私がおぬし以外に慕情を寄せるかと。

しかし思い当たるところがあるのに気付いてラフィールは愕然とする。
        フォフローデ
そうだ、レンド大提督との噂が立っているのだ。

愚痴を吐きに行って恋愛相談をしたという事実が、どこでどう間違ったのかレンドとの恋愛という噂に歪んでいたのだ。

ジントはその噂を聞いたに違いない。それでラフィールの恋愛対象を勘違いしたまま、その恋路を応援しようとしているのだ。

余計なお世話だ、と思う。私が好きなのはそなたなのだと。

しかし今は戦闘中。そんなことを言えるわけがない。
                           ヤ・ファド
悶々とした思いを抱えたまま、ラフィールは平面宇宙図に光点を見つめていた。

二波に分かれた時空泡。
      ホクサス
その先頭、機雷の群が歪んだ螺旋に殺到した。

700: 333 :2017/02/07(火) 22:27:11


「突撃だ!連合軍を撃滅しろ!」
ソード・スメイル
スーメイ門。
ホクサティオクス                        ラブール
機雷戦が終わり、機雷を撃ち尽くした連合軍艦隊に星界軍が押し寄せる。

星界軍も痛めつけられているのには変わりない。
             レスィー  ゲール
しかしそれでもなお、巡察艦や突撃艦といった戦力の少ない連合軍を相手にするには十分だ。
 ファーズ
平面宇宙を津波の如く押し寄せる星界軍。

その突撃にさらされた連合軍は前衛艦隊を前に出し、撤退の姿勢を見せている。

ほう、そう来るか。
                             レンド
後方拠点であるスーメイ星系に攻め寄せたのは嶋田の指揮する侵攻艦隊を包囲殲滅するためだろう。

博打同然の作戦だが、どうやら指揮官は堅実のようだ。

勝てる可能性が低いと見たら即座に退却する。確かにその判断は一面では正しい。

「見つけたぞ。連合の弱点を。」

しかしその判断は作戦とかみ合っていない。

そもそも博打でもしなければ勝てないからこそ、こんな作戦を実行しているのだ。

その作戦を指揮する司令官が負けないための判断を下してしまっては意味がないのだ。

勝つための作戦を、負けまいとする指揮官が実行する。

それはおそらく、対帝国戦争の方針を巡って起きた対立が原因だろう。

勝っているときはいい。その方針で続ければいいのだから。

だが負け始めたら。押さえつけていた対立が噴出することになる。

状況を打破するために、何をすべきなのか。全員が納得するなどあり得ないのだ。

「味方前衛艦隊、接敵しました。」

言われて平面宇宙図を見る。
フラサス・グラーガム                                   ソーパイ
司令部時空泡のある場所の前方、敵艦隊が防衛陣を敷いているところに襲撃艦を中核とした艦隊が襲い掛かる。

青と赤の光点が複雑な軌跡をなして機動し、時空融合して紫に変わる。

襲撃艦は機雷搭載能力を削った分、巡察艦よりも機動性に優れる。

それでいて武装は巡察艦に準じており、このような戦闘では非常に強力なのだ。
                 ディリオクス
敵陣に切り込んだ星界軍は蹂躙戦の名に相応しく、敵を切り刻んでいく。

平面宇宙に整然と並んでいた連合軍は、いまや四散して逃げまどっていた。

間違いなく帝国の勝利だった。

もっとも、敵主力を取り逃がすというレンド大提督と同じ失敗を犯していたが。

701: 333 :2017/02/07(火) 22:28:33


キーヨース・センタラル ソード・センタラル
センタール星系 センタール門

                                     ホクサス
直径1セダージュの光から無数の、そう無数と呼んでいい数の機雷が湧き出てくる。
   ブルーヴォス・ビス・スュン   ブスューリア
周囲には三カ国連合の艦隊と自翔弾。

もう一つの宇宙から放たれた殺意の群を迎撃するも多勢に無勢。

艦艇は傷つき爆散していき、自翔弾は敵に体当たりして数を減らしていく。

それでも門を隔てた攻撃が困難であることは変わらない。
ボーリア   ダーズ
防衛艦は通常宇宙では最強であり、自翔弾も機雷以上に機敏だ。

故に攻撃側にとって最も有効な戦術は、数をそろえること。

常に…とはいかずとも多くの場合において、戦場で重要なその要素が勝敗を決める大きな要因となる。

無論のこと、数だけですべてが決することはない。

防衛艦が、巡察艦が、自翔弾が。

突撃艦が、超巨大電磁投射砲が。
フリューバル
帝国程の中央集権ではない人類統合体首都の、数少ない要塞兵器たちが咆哮する。

後方襲撃艦隊に戦力を割いて少なくなった艦艇が雄たけびを上げる。

そしてそれらが断末魔の叫びとなり、爆散して死の華を咲かせていく。
ソード         ホクサス
門から湧き出てくる機雷が少なくなってきた頃、連合軍の艦隊は満身創痍だった。

しかし侵攻はこれで終わらない。むしろこんなものは前座に過ぎない。

ようやく一段落ついた攻撃に一息つく暇もなく、次なる殺意が湧き出てくる。
ガノト・フリューバル        ラブール
大和帝国の抜き放った刃、星界軍だった。
                                 レンド・アロン=レークル・クレグ・リグスノー・リグソーズ
指揮するのは救国の宰相を先祖に持つ帝国屈指の大貴族、嶋田朝臣鹿公爵繁太郎繁一。

彼こそがその先祖そのものであると知っている者は、この戦場に片手で数える程しかいない。
          フォフローデ
だが如何にレンド大提督であっても門を隔てての指揮はできない。

しかしその不利は、数が覆す。

門から現れる星界軍の大艦隊。
                      ゲール   レスィー  ソーパイ
それはまるで統制が取れておらず、突撃艦も巡察艦も襲撃艦もバラバラだった。

連携を取り、いいように打ち据えてゆく連合軍。

しかし星界軍も負けてはいない。

即席で連携戦闘をしはじめ、連合軍に対抗する。

後は雪崩のように崩れていった。

元より門から転移して連携の取れていない艦隊を攻撃して凌いでいたのだ。

星界軍に連携を組みなおす隙を与えてしまえば、どうしようもなかった。

702: 333 :2017/02/07(火) 22:29:59

「最も近くの艦と連携するがよい!」

ラフィールが吼え、《フリーコヴ》が急激な機動をする。
       イルギューフ
放たれた電磁投射砲をすんでのところで躱した。
   ヴォークラーニュ
「可動凝集光砲、第三群が損傷しました!」

「やってますよ!」
ウィグ           トラキア
書記が損害を報告し、砲術士が必死の形相で躁艦する。

門を抜けて戦闘に入ったラフィールの脳内は、戦いのことで満たされていた。

余計なことは考えない。でなければ生き残れもしないから。
 ドロキア   アルムソーパイ
「通信士!嚮導襲撃艦とは連絡がつかぬのか!?」

「繋がりません!何度やっても!」

衝撃。眼前の物体にしがみつき、何とかこらえる。

書記からの報告を待たず、次の命令を出す。

迷ってはいられなかった。
     ソーヴ                     アルムソーパイ
「ならば戦隊各艦に伝達!以後《フリーコヴ》が嚮導襲撃艦となる!」
サレール     イルギューフ
「艦長!艦尾電磁投射砲が損傷しました!修理不能です!」

書記からの報告。

損害。影響。可能。
      ビュヌケール ヴォークラン・ビーナ・ホーカ
「捨て置け!監督!第三群可動凝集光砲の修理を急がせろ!」

大きな損害を受けつつ、《フリーコヴ》が門の近くで奮闘する。

この乱戦の中、生き残っているだけでも幸運なのだった。

「《スィールコヴ》《バートコヴ》爆散!」

「構うでない!残りの艦との合流を優先せよ!」

混乱していた星界軍は徐々に態勢を立て直す。

センタール星系攻略戦。

それは犠牲を出しつつも、星界軍の勝利に終わるのだった。

703: 333 :2017/02/07(火) 22:30:30
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最終更新:2017年02月10日 21:59