736: 333 :2017/02/09(木) 17:38:34
フローデ達の憂鬱 第三章
フェーク・ラスィーサル キーヨース・イジュディル
ラスィース王国 イジュディ星系
レムヒューニュ・グラゴラル
ラスィース王国でも第三環と第四環の付近に広がる領域は昔、グラゴル共和国という星間国家だった。
フリューバル
数百年前に帝国に吸収されたが、今もこのあたりには当時の文化が残っている。
ゴレー・グラゴラル
グラゴル風の店内を見渡しながら、ジントはそんなことを考えていた。
傍らにはラフィールがいる。
ケテク レルテル
彼女はかなりの勢いで蜜酒の林檎火酒割りを飲んでいた。
「まったく、おぬしはいつもいつも…きいておるのか?」
ファル・フィア・クフェーナ
「はいはい、聞いていますよ。ぼくの可愛い殿下。」
顔を赤くしたラフィールがジントにもたれ掛かってきた。
だめだ、完全に酔ってる。
それでも強く言えないんだから惚れた弱みだよなあ。
センタール星系での戦いは激しいものだった。
ラブール レンド グラハレル
だが被害を出したものの結局は星界軍の勝利、そのまま嶋田大提督を司令長官とする侵攻艦隊はラスィース王国まで突破した。
ペリア キーヨース・スメイル ガンボース
追いついてきた連絡艇からの情報によるとスーメイ星系を守護していた山本提督も襲撃してきた敵艦隊を撃退したそうだ。
ブルーヴォス・ビス・スュン
これで三カ国連合の内、アルコント共和国が孤立。
閉じ込められた敵主力艦隊共々、近々包囲殲滅作戦が行われるだろう。
ボスナル
そこで作戦を完遂した軍士達はこうして、ひと時の休息を楽しんでいるのだ。
「ジント…」
「うん?…あ」
ラフィールに半眼で見られ、何か不満があるのかと思えば。
無意識のうちに彼女の髪を手櫛で梳いていたのに気付く。
手持無沙汰になった右手。
それをどうしようか悩んでいると、再び彼女の口が動く。
ファ・ダル・ルクレール
「私はそなたが好きだ」
その言葉に、言いたいことは山ほどあった。
聞きたいこともたくさんあった。
胸に秘めていた感情は抑えきれず、表情から、声から、身体からあふれ出そうとする。
それでもジントは一言だけ囁いて、ラフィールの肩を抱いた。
「ぼくも」
737: 333 :2017/02/09(木) 17:39:33
「というわけで、作戦は成功しました。」
帝都ラクファカールの料亭。
そこで
夢幻会の会合が開かれていた。
クファゼート・アサク
議題はもちろん、戦争の件である。旭日作戦の報告をしているのだ。
「スーメイ門沖で35個分艦隊を、センタール星系で10個分艦隊を撃滅し、残った敵の主力艦隊は拡大アルコント共和国に逃げ込み
ました。」
レンド
嶋田が面々の前で説明する。
ヤ・ファド
平面宇宙図に連合軍艦隊と星界軍艦隊の移動が示され、敵軍を表す矢印が拡大アルコント共和国に戻る。
共和国を根拠地としていた連合軍後方襲撃艦隊は、国ごと帝国に包囲される形となっていた。
「こうしてみると帝国の版図も広くなりましたねえ。ハニア連邦が併合されたからでしょうが。」
スリー
辻が平面宇宙図をみて零す。実際、人類統合体に並ぶ広さを誇っていたハニア連邦が併合されたことは、戦略環境を大きく変えていた。
連合軍の残った領域は人民主権星系連合体と人類統合体の首都近辺を除く宙域に切り離された拡大アルコント共和国が入るだけだ。
「ええ、それに敵は主力艦隊を分断された領域に取り残されて弱体化しています。」
ソード・スメイル
星界軍侵攻艦隊を包囲するにはスーメイ門を落とさねばならない。
そのためには拡大アルコント共和国から攻め入らねばならず、包囲殲滅の好機は連合軍自身が包囲殲滅される危機でもあった。
「そこで次の作戦は拡大アルコント共和国とそこにいる連合軍主力艦隊を包囲殲滅するという内容になります。」
細長い孤立した領域をなぞって大きな矢印が蹂躙していく。
同時に主要航路には艦隊が配備され、主力艦隊の逃亡を防止していた。
平面宇宙は広大なので、すべての領域を封鎖することなどできないのだ。
「作戦目標は敵主力艦隊の殲滅および三カ国連合の一角を崩すことです。」
「かの国は首都アルコント近辺だけが第二環に位置しているのか。ハニア連邦が脱落した今はセンタール星系と同じく最前線だな。」
平面宇宙図に光点が宿る。
旧ハニア連邦領域と旧人類統合体領域に接したそこは紛れもなく最前線だった。
しかも人類統合体と違って帝国と似た中央集権国家である。首都が陥落すれば、その影響は大きいだろう。
サーソート・フリューバラリ
「それではこれで会議を終わりたいと思います…帝国に勝利を!」
サーソート・フリューバラリ
「「「「「帝国に勝利を!」」」」」
738: 333 :2017/02/09(木) 17:40:25
「だから無茶だと言ったんだ!」
「ならばどうしろと言うのだ!」
帝国と同じく、連合軍でも今後の戦争に関した会議をしていた。
ただしこちらは凱歌が木霊する帝都と違い、怒号に満ちている。
乾坤一擲の作戦が失敗してお先真っ暗だからだ。
「こんな博打に頼らず、緒戦で敗退した時点で守勢に切り替えるべきだったのだ!」
「そうしたところで結局は同じだ!帝国相手に講和を結べるとでも思うのか?必ず敵国を併呑するまで戦争をやめない帝国が!」
軍人たちが顔を赤くして怒鳴りあっている。
初めは穏やかだった対立も、切羽詰まった状況になることで激化したのだ。
人は誰しも自分の考えが正しいと思うものである。
そして失敗したときは自分の考え通りにしなかったからだと相手を責める。
「結局、帝国相手に戦争したこと自体が間違いだったんだよ。」
誰かが呟く。
決して大きな声ではなかったが、その言葉に場が静まり返った。
誰もがわかっていたのだ。そんなことは。
だが戦争しないよりも、したほうがいいと考えたのも自分たちなのだ。
「戦争しなくても同じさ。第十二環を帝国に独占された時点で俺たちゃ天川銀河に閉じ込められたんだ。」
それは戦前から上層部をずっと覆っていた閉塞感でもある。
未開拓領域はある。第八環から第十一環までは未だ人類の手は及んでいない。
しかしその外側が帝国のものなのだ。これではいずれ拡張に限りが出てくる。
遥かな古の時代、地球上の全てを地図に記した先人たちも同じだったのだろうか。
開拓は永遠には続かない。地図の空白を埋めていって未知を駆逐したら、後に残るのは未来への希望なき世界だ。
人は未知に恐怖し、未知をなくしたいと願うくせに未知がなければ希望も持てないのである。
だが先人たちと違う点が一つだけある。
それは、アーヴ達だけが、敵対種だけがその外へ出る手段を持っていることだ。未知を、希望を持っていることだ。
マニフェスト・デスティニー
だから欲した。奪おうとした。それが明白なる天命だからだ。
生存領域を広げるのは、より遠くへ行くのは生物としての本能だからだ。
「とにかく、帝都攻撃作戦は予定通り実行する。期日は帝国がアルコント共和国に攻め込んだ時だ。」
とんでもない言葉に耳を疑う。こいつは一体何を言っている?
「待ってください!今手元にある戦力はたった20個分艦隊です!これでは帝都の防備を破れません!」
「三年前はできたのだろう。それに、帝国相手の戦争では勝利以外、滅亡なのだ。…これは命令だ。」
「…了解しました。」
歯ぎしりして、命令を飲む。
だがこのまま済ませるものか。取り残された将兵を見捨てるものか。
後に連合軍最高の指揮官としてフレント大将と並び称されるヴィクト・ヴィンセント中将は、こうして頭角を表すことになる。
739: 333 :2017/02/09(木) 17:40:58
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最終更新:2017年02月10日 22:03