416: 第三帝国 :2014/05/17(土) 00:39:09


衝号抜きの太平洋戦争~第25章「衰亡の国」

ソビエト赤軍は昨年秋のクルスクの大地で半壊してしまった。
グルジアの髭の命令により赤軍が無茶な攻勢を続け、消耗を重ねて最後は包囲殲滅線に持ち込まれ。
結果、陸軍大国として誇っていた赤軍の編成表の約半分が姿を消し、撤退の過程で重装備を多く失った。

史実よりも貧弱な工業力とレンド・リリースがない状態で早急に戦力を回復させることは難しく。
おまけにスターリンの指導に不満を抱いた軍の一部が独裁者の爆殺を目論み、これに失敗してしまう。
当然発生した大規模な粛清で軍の頭脳を担う将校団はガタガタで、士気が下がる一方であった。

なお、軍の装備も酷いもので銃は数人に一丁、酷いときはスコップや水道管で作った槍だけ、
そんなのがザラで、肝心な戦車や大砲も不良品ばかりでまるで役に立たず、無茶な生産ノルマでさらに不良品が出る。
という最悪の悪循環を重ねつつあり、ソビエト政府中枢はモスクワからウラル山脈の向こうへ疎開を決定した。

だが、残念なことにその決断は遅くドイツが先手を打った。
1月中旬、ついにドイツ軍、そして枢軸有利の戦況でここで恩を最大限売るべく参加した、
イタリアを始めとする諸国の軍が一斉に首都モスクワを目指して進撃を開始し『春の目覚め作戦』が発動された。

この攻勢は「バルバロッサ作戦」で苦戦したのが嘘のように順調に移行した。
これには軍の装備、士気が最低であったこともあるが疑心暗鬼状態のスターリンが無意味な死守命令を連発したのが大きい。
そのため、史実の「バクラチオン作戦」でドイツ軍が包囲殲滅されたのと同じく、各地で赤軍は簡単に包囲殲滅されていった。
戦局優位のためヒトラー総統の横槍がなく、参謀本部は思うが侭に軍を動かせる状況とはまるで逆である。

スターリンの横槍、壊滅状態の軍、その全てをドイツは味方とし、冬将軍と共に前進を継続した。
ロシアの冬はナポレオン遠征時に気温マイナス50度を記録したように人間が住めるような環境ではない。
しかし一面地面が泥まみれで、戦車やトラックが沈む泥将軍よりもドイツ軍にとっては冬将軍はましであった。
何せ地面が凍りつけばトラックに戦車は動けるし、都合がいいことに今年の冬は長いことが予想されていた。

だからこそ、モスクワ南部の要衝ツーラ市の攻略に成功。
2月には先行した偵察部隊がモスクワのクレムリンの尖塔を眼にする。
そして、モスクワを丸ごと包囲すべく機動するドイツ軍に赤軍はまったく対応できずにいた。

独裁者スターリンは逃げるようにウラル山脈の向こうへ行く列車に乗ったが、戦神マルスは臆病者を生かさなかった。
夜間、国家の頭脳たる中央官僚団と共に密かに脱出を図ったが、チャーチルが偶然の一発で死んでしまったのと同じく彼もまた偶然の一発でこの世から去った。

指導者の突然の死、それも中央官僚団と共に亡くなったせいで大混乱に陥った。
そして右往左往している間にドイツ軍はモスクワの包囲を完成し、ドイツにとって最後の戦争を終わらせるべく攻勢に出る。

建物一つ一つを争う、一進一退の悪夢の市街戦が展開されたが、
火力に勝るドイツ軍がついにクレムリン宮殿に鉤十時のハーケンクロイツを翻すことに成功した。
指揮官グデーリアンの立会いの下、生き残った外相モロトフが降伏の調印文章にサインし、ここにソビエト連邦は敗北した。
その時期は3月中旬、泥将軍と共に春が目覚めつつある時期でドイツは文字通り春の目覚めと共に作戦を完遂したのだ。

だが、辛うじてウラル山脈の向こうへの疎開に成功したベリヤを中心にロシア連邦の成立を宣言。
ナチスとの抗戦を誓うと同時に、宗教の容認、市場主義経済の段階的導入を始めとする政策を発表し全世界を驚愕させる。

挙句、日本には非公式に各種支援の申し込み。
そして、ロマノフ王朝の血統と今後について対話を望むと夢幻会に知らせた。
夢幻会では一瞬ブラックジョークか?と疑ったが本気らしく後に公式にその事を表明する。

対してナチスドイツは春の目覚めと共に始まった泥将軍でモスクワより東への進撃は不可能であった。
それ以前にいくら弱体化著しかったとはいえ、ドイツ側も相応の被害を蒙っており息切れ状態である。

よってソビエトは打倒したので一方的に勝利宣言、そして停戦を宣言。
動員を解除し、ドイツの戦争もついに終わりを迎えた。

417: 第三帝国 :2014/05/17(土) 00:39:40

そう、欧州での第二次世界大戦は真の意味で終結した。
世界に残った戦争は日英VS米の戦争だけとなり、ドイツは両者の戦争に介入せずひたすら物資の売買に専念した。
特にイギリスとは正式に講和を結んでから各種物資の委託生産を請け負っていたが、動員解除後の余剰人員を使ってさらに生産に集中。

これにより、真っ赤な財政のせいで過労死寸前のシューペアの苦労が多少なりとも緩和することができた。
今の所日英がアメリカを一方的にボコっているため、勝ち馬に乗る形でアメリカに宣戦布告をする手もあるがそんな余裕はドイツになかった。

海軍はお粗末極まりないし、財政破綻寸前状態でこれ以上戦争を続けることに意義が見出せない。
だからこそ即座に動員を解除し、イギリスへせっせと物資を生産し、得られた外貨で民間経済の回復にいそしんだ。
だが、義勇軍名目でUボートが英国と共に活動を開始した事実は、どう見てもアメリカよりイギリスとの関係を重視していた。
しかも、造船所で完成した駆逐艦がそのまま英国本国艦隊へ配属される光景は中立国というより同盟国と表現するに相応しい光景であった。

つまり、この世界でアメリカに味方となる国はいなかった。
太平洋は巨大な日本海軍、大西洋は英国と密かに参加しているドイツと孤立無援状態。

建国以来最大の危機、と表現してもよいくらいでアメリカは焦りを募らせる。
戦力差は自慢の工業力を以ってしても開くばかりで、戦うたびに撃破され負ける一方だ。
おまけに、夏になれば日英の連合軍が西海岸へ増援として来る事が予想されており、これを防ぐ手立てはなかった。

最悪なのは英国がニューファンアイランド島への撤退に成功したことだ。
しばらくすれば6発巨人機の『富嶽』が原爆を腹に抱えて東海岸へ展開することが予想できる。
日本人は自分達がやったことを許すつもりはないことは知っているので、キノコ雲が東海岸へ立ち昇る未来はそう遠くないはずだ。

だからこそ、今のうちに打撃を与えなければならない。
さもなければ、戦力差は開くばかりでジリ貧になるのは見えている。
しかも、日本人達はあの神の炎、原子爆弾を自由に使えるとなれば出来るだけ早いうちに打撃を与えることが必要だ。

418: 第三帝国 :2014/05/17(土) 00:40:36

このまま黙って死ぬくらいなら、前に進んで死んだほうがましだ。
そんな余裕を失った国家は太平洋艦隊へ以下の命令を伝達する。

「太平洋艦隊はその全力を以てアンカレッジに突撃し、敵輸送船団を殲滅せよ」

現在日本のアラスカ最大の補給基地にして、アメリカ侵攻の一大拠点として活動しているアンカレッジには無数の輸送船が屯っている。
これを撃破し、港に降ろした物資を焼き払えば補給に多大な負担を強いることが可能で、このような艦隊による泊地襲撃は珍しくない。
が、太平洋には常に日本が率いる機動部隊が常に睨みを利かせており、たどり着く前に全滅するほうが高かった。

この命令を受けた太平洋艦隊艦隊司令長官であるハルゼー大将は、
合衆国艦隊司令長官ロバート・L・ゴームレー大将に罵声と共に命令の意図を問い直したが、ただ大統領命令だと告げる。

また、今後も落とされるであろう原爆。
先の戦いで未だ理論段階でしかないジェット機が日本に登場した事実と、ドイツの事実上の参戦。
といった事実を羅列し、もはや本土決戦で有利な講和条約を締結する以外なく、その準備の時間が足りないと述べる。
そして、ゴームレー大将は頭を下げ、本土決戦、そして自由と民主主義の先駆けとなってくれ、と懇願するに至る。

この言葉にハルゼーはしばらく沈黙する。
そして、作戦としては承服できないが、合衆国の軍人として全力を尽くす。

と、言った。
かくして、アメリカ版捷一号作戦への道が始まった。
生き残った空母を囮として、戦艦部隊を突撃させるという史実のレイテ沖海戦と同じ事をアメリカは計画する。
が、稼動可能な艦船の数と合わさって普通ならば途中で全滅するのがオチで、図上演習では何度もそうなった。

しかし、この時ばかりは戦の神はアメリカにチャンスを与えた。
通常、アメリカ西海岸に台風が来るのも稀でその経路は最初は西へ、その後東向きへと進路を変えて消滅することが多い。
が、5月末にやってくるアリスと命名された台風は西海岸を直撃するルートが予想されており、台風ならば航空機の使用はできない。

このチャンスをアメリカは見逃さなかった。

5月27日。
日本海で信濃丸がバルチック艦隊を発見した日。
サンディエゴ港は接近しつつある台風で風はいつもよりも強く、波は高かった。
そんな中、太平洋艦隊司令長官自らがアメリカ太平洋艦隊と共にサンディエゴから出撃した。

最後の決戦が始まろうとしていた。

419: 第三帝国 :2014/05/17(土) 00:47:13
前回いい加減中篇に投稿すれば?
と指摘を受けたので以後中篇で投稿してゆきたいと思います。

相変わらず突っ込みどころ満載の火葬戦記ですが今後もよろしくお願いします。

次話:第26章「合衆国海軍の最後」目次

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最終更新:2017年08月30日 15:56