717: 陣龍 :2017/01/11(水) 17:04:41
黒鋼の廃城。一言で表現するとすれば、この言葉以上に相応しい物は存在しないだろう。

「……初めてのお顔合わせが、お別れの時になる。……運命を、恨まざる負えません」
「……感謝する、モンタナ。君の言葉を聞けば、きっと、大和も喜ぶ筈だ」


姉貴とビッグセブンの会話を他所に、俺…モンタナ級戦艦の二番艦『オハイオ』は、目の前の光景を眺めて、そんな感想を抱いていた。



第二次世界大戦における『U.S Navyと連合艦隊の戦争』と呼ばれた太平洋戦争に置いて、我がアメリカ合衆国海軍は歴史に刻み込む
結果を残していた。一つは、列強海軍数個分の艦艇を撃沈、喪失した損害記録。もう一つは、それ以上に大量生産した艦艇建造記録。
目の前で座礁している廃城…つまり、設計的には俺の義姉にあたる戦艦『大和』は、アメリカ海軍に消える事のないトラウマと絶望を
刻み込んだ怪物であった。この沖縄で、その化物と戦ったミズーリさんもこの場に来ているが、この光景を見て未だに治りきっていない
古傷の痛みが再燃仕掛けているようで、僅かながらに顔を顰めて居る。


「……姉貴。やっぱり、俺も行かないと駄目か」
「今行かないと、永遠に後悔するわよ、オハイオ」
「……分かっているけどさ」


姉貴に再度確認するも、ステイツにて交わした言葉と一言一句違わずに返って来た。別に気後れしている訳でも、怖気ついている訳でも無い。
相手はもう動く事も出来ない廃艦だ。……ただ単に、何となく気が進まないだけだ。




西暦1952年4月17日。あの海戦より七年が経つ今、アメリカによる離岸作業を一切受け付けず、海風、雨風に晒され続けて錆も腐食も進んだ
この巨大戦艦も、とうとう仲間と好敵手が眠る大海原へと葬送される。艦長や上層部は『散った偉大なる敵への敬意』などと言って、ステイツからは
モンタナ姉妹やミズーリさん等が、日本からは大和型の末妹である『シナノ』にビッグセブンの『ナガト』第二次日本海海戦の武勲艦『サカワ』等
そうそうたる艦艇が揃っているが……正直に言って、気が進まない。


「オハイオ、しっかりしなさい」
「……分かっているさ、姉貴」


俺だって一応子供じゃ無い。こう言った儀式は重要な事ぐらいは分かっているし、表面上位は取り繕えている。……姉貴には完全にバレバレだが。


「……大和」

「その声は……長門さん?お久しぶりです、元気でしたか?」
「ああ。私は元気だ。信濃や雪風たちも居るぞ」
「大和さん!お久し振りです!雪風です!」
「姉様……信濃、です。お久し、ぶり、です……!」
「ぴゃあー!大和さん、お久しぶりです!」


目の前では、ボロボロの傘……バンガサ?を持って、第一砲塔に腰かけている女性が、同僚との感動の再開とやらを果たしていた。……やはり場違いだと
思うんだが、俺。正装はしているけど、元の粗野な性格のせいか、服に着られている感じだし。


……しかし、どういう訳だ?


「……何で面と向き合わないんだ、あの人」
「あら、その娘は?」
「?!」


え、聞こえた!?直ぐ隣の姉貴も聞き取れない位凄い小声だった筈なのに?!


「その娘は、オハイオだ。大和の、義理の妹に当たる。アメリカ生まれの戦艦だ」
「そうですか……。面と向き合わない理由、ですね」


そう言うと、あの人……大和は、腰かけていた第一砲塔から傘を持ったまま飛び降りた、って?!身体大丈夫なのか!?


「ちょ、か、身体大丈夫なの……か……?」

驚きと心配で駆け寄りかけた俺は、途中で身体を止めた。まるで、時が止められたかのように。


「オハイオさん……。端的に言えば、今の私には、目が見えないんです。ですから、この顔を見せたくない気持ちが有ったので」


アメリカが最も恐れた怪物は、傾斜した甲板の上でしっかりと、誰の手も借りずに立っており、そしてとても美しかった。……そして、ボロボロの身体に、二度と
光の戻る事のない瞳で、真っ直ぐ俺を、オハイオを見つめていた。

718: 陣龍 :2017/01/11(水) 17:10:42


「……ん……んぁ……あぁー…!」
「おはよう、オハイオ」
「あぁ、姉貴。おはよう」
「夢でも見ていたの?」
「……うん。……大和義姉さんと会った、最初で最後の日の事」


21世紀へと入る直前、20世紀の最後の年。我が祖国の白い家にて覇権国家どころか人としての仁義も忘れて自分勝手に動き回り、
かき乱しまわった結果第三次世界大戦直前にまで状況を悪化させたアメリカ大統領史上最強の馬鹿野郎が締め上げられてる頃。
俺達モンタナ姉妹は、ここ日本へと久方ぶりに寄港していた。刺激するなとか抜かしたどっかの馬鹿のお陰で名目上は遠洋航海任務だが、
誰一人としてそんなお題目は信じていない。


「陸式のゴミ屑海軍はどうなってる?」
「今の所外洋に出てはいないわね。……オハイオ、その口の悪さ、結局直さなかったわね」
「実際事実だしさ。少なくとも会話が出来るし、それなりに常識弁えてるソ連海軍…今はロシア海軍か。なら兎も角、あんな連中に遠慮する
必要なんか無いって」


俺達がここ日本に寄港し、命令一下即時出撃可能になっているのは既に周知の事実。色ボケプレシデンテは兎も角、アメリカ合衆国は
絶対に同盟国を見捨てる事は無い。俺達モンタナ級戦艦の存在は、この事を全世界に痛切に叩き付ける為のショーウィンドーだ。日本風に
言えば、祭りの山車かな。


「そういえばオハイオ。貴女、大和義姉様と会うとき、どうしてあんなになっていたの?」
「……あの時は、正直言って接収した日本の技術を用いて俺が建造された事に対して、罪悪感と言うか何というか……引け目、見たいな感情があってさ」
「……そう、良かった。もし【なんでわざわざ死ぬ鉄屑相手に貴重な時間を割いて白人様が会わないといけないんだよ】とか、そんな言い出さなくて」
「いや流石に言う訳無いっしょ!?そんな目で見てたのかよひでえよ姉さん!っていうか何処から取り出したのその金属ノコギリ!?」
「使う事が無くて良かったわ」
「使う気!?使う気だったの姉貴!?俺変な事言ったらゴリゴリ解体されてたの!?」


……やっぱり怖えよ姉貴……。以前共産主義の馬鹿どもが長門さんを爆破しろとか言い出したと知った時なんか、怒り狂って暴れまわったせいで
乗員をガチビビりさせた位だし……



俺らがそんな姉妹同士の恐ろし……楽しい会話を交わす中、艦隊に出撃命令が下る。内容を聞いてみると、日本海軍との共同戦線。しかもあの長門さんや
信濃も出撃すると言う。ヤバい、魂が震えて来た。


「負けられないわね、オハイオ」
「負けようがないの間違いだよ、モンタナ姉貴」


同じ艦隊の駆逐艦や巡洋艦、航空母艦の皆も士気が最高潮に天元突破しているのが見て取れる。そらそうだ。偉大なる、偉大極まりない先達が戦った聖地へ
土足で入り込もうとする連中を、今では最高の朋友である日本海軍と轡を並べて出撃するんだ。先人たちと自分たちを重ねるのも無理はない。俺達だって、
そうである部分がある事は否定出来ないし。


「それじゃあ、行きましょう。オハイオ」
「ああ」

それ以上の言葉は不要だった。


「……大和義姉さん」


1952年4月17日のあの日。初顔合わせで見事にやらかして真っ青になった俺を、大和義姉さんは笑って許してくれた。それどころか、貴重な時間を割いて、俺なんかと話してくれた。

『オハイオ。……皆と一緒に、仲良くして下さいね』


最後の別れ際。大和義姉さんは俺に、こう言ってくれた。


「……絶対、助けて、守って見せるさ。大和義姉さん達の意志を受け継いだ、日本海軍が居るんだからさ」


……暇だったら見て居てくれよ、大和義姉さん。義姉さんの意志と血が、立派に後世で生きている事を。







『極東危機』に置いて、事態鎮圧のために日米双方の戦艦を含む大艦隊が大挙出撃。そして、各国のテレビ局、ラジオ、新聞、それら全てが一様に同じ言葉を、同じ情景を伝えていた。






『日米合同艦隊、日本列島より抜錨を確認』
『古の強者達、今なお現世に健在』
『Z旗、Kikusui-Flagが全艦に掲げられている。これは演習では無い!』



その日、世界は太平洋…否、海の支配者が一体誰であるのかを、脳裏に改めて刻み込む事となった。


【老兵は死なず。ただ、皆の心の中、歴史の中で生き続けている。一人でも覚えている者が居るのならば、彼らは死ぬ事は無い】…とある新聞記者の手記より

719: 陣龍 :2017/01/11(水) 17:11:43
以上となります。真面目な議論中失礼致しました。ネタが下りたのが悪いんじゃー(責任転嫁)
最終更新:2017年02月11日 21:52