900: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:31:21
大陸seed アナザーストーリー 番外編 自由と正義

CE71年4月1日。新ソ連DSSD要塞。

カレンダーの上ではエイプリルフールではあるが、今は戦時中。
平時ならともかく戦時の軍人が冗談で嘘を言うことはできないのである。

アルチョムはそんな中で要塞に配備されてしまった運のない男だ。祖国のコロニーから言えばここは最前線。
最もプラントのあるL5宙域と隣接している月戦線やAEUコロニー群よりはマシだとは思うが。

「聞いたかアルチョム。ザフトの連中がまた補給路を襲ったらしいぜ。連中も飽きないよな」

友人のジェーニカがそう話を振ってくる。アルチョム自身は「ああ…」と短く返事をするだけだが、付き合いの長いジェーニカはそれだけでわかってくれる。
彼は「お前本当無口だよな」と笑いながらいつものことだと言ってくれる。
話すのが得意ではないアルチョムとしては自分の意志を汲んでくれるジェーニカは数少ない友人だ。
ただ無口過ぎて友人が少ないだけともいうが。
そんな二人の所属はMSパイロット。もとはただの歩兵であったが厳しい適性試験を潜り抜け三か月ほど前にMSに乗れるようになった。
今は仕事を振られていないので要塞上部にある展望台へと来ていた。
元々は火星関連技術の開発や研究を基としていたDSSDだけあり、職員のリラクゼーションも兼ねて展望台が整備されている。
情勢が悪化し、要塞化されL4・L1宙域近くまで移動させられた後もこの展望台は兵士への慰撫のために残されており、憩いの場となっていた。

そんな中でアルチョムは外へ不思議なものを見た。
「ん…?」「どうしたよアルチョム」「向こうに何かある。揺らぎみたいな…」
展望台から外の景色を見ていた彼は偶然にもそれが見えた。その瞬間要塞の港口が爆発した。

響く爆音。突然の揺れ。鳴り出すアラート。二人は半ば本能的に悟った。これは敵の襲撃だと。

901: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:31:53
「取りあえず持ち場に戻るぞアルチョム!」
言うが早いかジェーニカは早速動き出す。アルチョムは無言でそれに追従。
内部放送で港が爆発した、同時にいきなり要塞直前へザフトの艦隊が現れた、確認持ち場につけとの放送が流れているが、突然のことのためか通路を通りすがる人々も皆混乱と焦りが見える。

爆発による揺れは断続的に続く。これは多分ミサイルが当たった振動か何かだろう。
どうやらザフトの艦隊が要塞直前まで来ているというのが本当のようだ。

「お前たち!」
突然声を掛けてきたのは上官のメリニコフ大尉だ。

「大尉!敵の襲撃ですか!!俺たちはどうすれば」
「落ち着けジェーニカ。取りあえず俺たちは23番ハッチに行く」
「え…そこって俺たちの機体がある場所の反対側じゃないですか」

ジェーニカの言うとおりだ。本来なら彼らのMSが置いてあるハッチは12番ハッチ。
要塞の正面側であり、23番ハッチは反対側だ。

「さっきの爆発…工作かどうかわからんが幾つもの港口だけではなく機動兵器用のハッチも幾つかやられていてな。俺たちの機体は出口ごと瓦礫や艦そのもので埋まってる」
「そ、そんな…」

ジェーニカの顔が分かりやすく青くなる。つまり出だしで出せる防衛戦力が減っているということだ。
多分正面に位置するところは代々がそうだろう。何より一番腹が立つのはようやくもらったMSで、しかも新型だったのにそれが実戦に出る前にパァになったということだ。
名前まで付けていたに…

「とにかくジェーニカやアルチョムも落ち込んでいる暇はない。23番ハッチに行って予備の機体を受け取って出撃する。既にウニマン達は向かっている。急ぐぞ!」

そういいながら大尉は泳ぐように無重力をかけ動き出す。俺たちもそれに続くが、さっきから爆発音は大きくなるばかりだ。
最悪宇宙に出るまで要塞が持てばいいのだが……

902: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:32:28
その頃要塞付近の宙域ではザフトの艦隊とMSが猛威を振るっていた。

エターナル級一隻とナスカ二隻、ローラシア級三隻の艦隊で戦場へは新型MSであるフリーダムとジャスティス、そして先行生産型のゲイツが投入されていた。
その三種は勿論昨年大西洋から奪った五機のGシリーズすらも投入されている。

今回の奇襲の種明かしは簡単だ。大西洋から奪ったブリッツを解析し、手に入れたミラージュコロイドを使って身を隠してきた。
ローラシア級の一隻をミラージュコロイド散布艦に改装。艦隊ごとDSSD要塞付近まで展開。その後はNJC付き核動力を搭載させたブリッツとこちらはバッテリー式だがミラコロ展開できるように特殊な装備をしたゲイツを数機出撃させて港口や機動兵器出撃用のハッチなどに爆薬を設置。

工作部隊が要塞を離れた後にこれを爆破。同時に艦隊もミラコロを解除し、ミサイルやビームを叩き込む。
あとはフリーダムやジャスティスを突破点としながらある程度暴れた後で撤退。規模はでかいがつまるところ嫌がらせである。
もう一つの意味としては自由と正義の実戦試験。また奪ったGシリーズの性能確認テストであろうか。
ミラージュコロイドが正常に作動するか、どの程度の隠蔽効果が連合相手に見られるかのデータ収集も兼ねている。
何より最も望まれていることは連合へ目に見える打撃を与えて国民への宣伝材料にするためだ。
軍事が政治に振り回されているといえばそうだが、その政治を振り回しているのが民衆のなのだからたちが悪い。

結果としては全てが成功と言えるだろうか。
NJCを搭載した核分裂エンジンMSである自由と正義は新ソ連のMS・MA部隊を圧倒していた。
ザフト製パーツの占有率を上げ、独自の改修を行ったGシリーズも性能的には上回っている。事前の奇襲で複数の部隊と艦艇が要塞内に閉じ込められたおかげでこちらの艦隊は要塞へ撃ち放題。
砲台が反撃してくるが、フリーダムやバスターがその火力を以て優先的に排除している。
DSSDは既に半壊状態だ。
どうにか出てこれた艦艇も出たそばからイージスのスキュラやフリーダムの砲撃にからめとられ撃沈している。戦果としては十分だろう。

903: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:32:59
艦隊の指揮官は撤退の信号弾を打ち上げる。

「あ、もう終わりか。こっちはまだまだ戦えるんだが」
「しかし命令だ。これ以上は新ソ連の艦隊も裏口から出てくる。さっさと撤退するぞハイネ」
「りょーかいであります。黄昏の魔弾殿」
「茶化すなよ緋蝶殿」

フリーダムを駆るミゲル・アイマンが行き掛けの駄賃のように出てきたばかりの新ソ連のMS隊相手にプラズマ砲を放ち数機を撃墜。
ハイネ・ヴェステンフルスはジャスティスで近寄ってきたMA隊を蹴散らしながらも艦隊のもとへと戻っていった。

新ソ連側として助かったとも言えるが要塞側は半壊状態。
すぐさま追撃の艦隊を差し向けようとしたがミラージュコロイドで姿を隠したザフト艦隊を発見することはできず、空振りに終わる。

この報告を受けて新ソ連上層部ではザフトとそこへ技術を取られた大西洋連邦への罵声が幾つも響いたという。
なおこの情報を受けて大西洋は流石に不味いと思ったのか戦闘後の要塞の修復や哨戒、防衛任務などに自国の艦隊や工作部隊を援軍として向かわせることとなる。

ザフト側としては久しぶりの大戦果であるため国内向けのプロパガンダとして大々的に宣伝。
プラント議会の議員たちはこれで当面の間は自分たちの首は“物理的に”繋がったと安堵したと言われている。
ザフトとして今回の戦果により自由と正義を始めとするNJC搭載核分裂動力機の追加生産を決意。議会からも追加の予算が下りたため新型や後継機の開発も弾みが付くことになっていく。

904: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:33:29
設定諸々


  • 自由と正義
フリーダムが強奪されたのが原作の71年5月5日なので原作よりも大よそ一月早く開発され実戦投入された。エターナルも同じく。
性能は原作とそれほど変わっていないが、大西洋から奪ったGシリーズからミノ粉散布下におけるノウハウを手に入れているため一応はミノフスキー粒子散布下でも戦闘力はさほど下がらずにいられる。

これは他のザフト機や艦艇においても順次改修が進められており4月頃には殆ど宇宙軍と地上軍の7割ほどまで適応が進んでいる。

残念ながら相変わらずミノフスキー式核融合炉の再現には失敗続きだが…

因みにゲイツも先行生産型が投入されたとあるが、こちらも原作よりも3か月ほど早い。
これは機体自体の開発は既に原作以上に進んでいたため後は連合から奪ったビーム技術を再現した武装を合わせるだけであったためである。



  • DSSD要塞
新ソ連の宇宙要塞。
原作では火星の探査と開発のために設立された民間機関であったが、こちらでは作中でもあるように元は新ソ連の火星関連の技術を開発・研究する機関の施設であった。
しかし序盤の戦況に悪化に伴い施設は接収され要塞化された。
元々は新ソ連のコロニー群と同じL4とL3の間に位置していたが、要塞化が済んだ後に善戦であるL1宙域付近へと移動した。

配備していた戦力は要塞警備と緊急出動のための半個艦隊ほどと要塞防衛のための防衛部隊。
MS隊の主力は大洋からライセンス生産しているザニーとガンキャノンを改修したものと最近になって配備され始めた先行生産型ドートレス。
アルチョム達の部隊はこのドートレスに乗っていた精鋭部隊だったが、戦う前に機体が破壊されてしまったため、本人たちは生き残ったがザフト艦隊がさっさと撤退してしまったことも合わさり今回は活躍の場がなかった。

因みに単純なパワーなら上回るが基礎性能で劣っていたためザニー隊やガンキャノン隊はゲイツ相手に苦戦し、自由や正義にGシリーズ相手には普通にやられてしまった。
このため新ソ連はドートレスの増産と改修を続けるとともに自国の高性能MS開発を加速させていくこととなる。

要塞に関しては今回の襲撃では大よそ半壊してしまったため生き残った新ソ連艦隊は辛うじて残った要塞のドッグに入るか、修復が完了するまで本国コロニー群へ退避することとなる。
要塞の再建が終わるまでは本国艦隊と残った要塞駐留艦隊、援軍に来た大西洋艦隊とでシフトを組んで警備を担当する。

なお再建するため使う物資を載せた輸送艦隊が度々ザフトの通商破壊艦隊に襲撃されるため鬱陶しいことこの上ない。

905: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:34:13
  • 機体設定

ザフト

  • フリーダム&ジャスティス
ザフトの開発した核動力搭載MS。
何度やっても何故か失敗するため連合の核融合炉再現は一旦棚に置き、以前から開発を進めていたNJC搭載の核分裂炉の方をMSに搭載した。

性能的には原作とそこまで変わっていないが、出てきた時期が一月ほど早い。

今回の戦いでは一機ずつが投入され、自由にはミゲル、正義にはハイネが搭乗した。
両方共まだオレンジ色ではない。



  • 先行生産型ゲイツ
ザフトの開発した次期主力MS。
武装はビームライフル、シールドとそこに内蔵されたビームクロー、接近防御用の頭部バルカンに腰のエクステンショナル・アレスターと原作と同じ。
追加でレールガンやらマシンガンやらバズーカやらのジンやシグーの武装を流用可能。
原作よりも大よそ三か月ほど早く開発・投入された。

最も大きな変更点は内部のコックピットであり、多数のベテランを失ったザフトとしてはパイロットの養育が急務のため比較的操縦しやすいジン系の操縦系を採用。
練習機や既存の機体からの転換を容易にした。
またこの発想はパイロット達への負担軽減へと目に見える形で現れたため、ザフトの全軍にて可能な限り操縦系の統一が進められた。
ザフト版統合整備計画とでもいうべきであろうか。

なお自由や正義などの高級機はこれまで全く違った動きが求められるため操縦系においては別途のものが採用されている。

性能としては搭載しているエンジンの関係から単純出力では負けるが、基礎性能ではジムやストライクダガー、各国の初期型量産MSに負けず劣らずの性能を獲得して言いる。

今回投入されたのはミラージュコロイドが使用できる特殊改装タイプ数機と隊長格用の数機。

機体そのもの評判は良かったが、シールド内蔵ビームクローや腰のアレスターなどは使い難い、使う機会がない、ビームサーベルにしてくれなどの苦情が相次いだため、正規量産版ではクローとアレスターは廃止され普通のビームサーベルとレールガンに代えられた。
いわゆる原作におけるゲイツRと同じ武装である。

906: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:34:47
  • Gシリーズ
大西洋連邦から奪取した五機のガンダム。
それぞれ研究用にばらされていたが戦局の悪化に伴いザフト製パーツを使用して再組立てが行われた。
動力炉は初期はバッテリータイプの予定であったが、それでは本来の能力の半分も引き出せなかったため急遽NJC搭載核分裂炉へと変更された。
それでも大よそ7割程度の性能までしか引き出せなかった。

核分裂炉が搭載されているためPS装甲や高火力兵器の多様によるエネルギーダウンが起きなくなっている。

この点では確実に原作の前期Gシリーズよりも強力なのだが、この世界のGシリーズは最初からミノ粉式融合炉搭載を前提とされていたため、本来の能力を発揮しきれないでいる。
それでも強力なMSなのは変わらないため、データ収集のついでにDSSD要塞奇襲戦に投入された。

パイロットは原作でのG奪取五人組。ラスティも死んでいないのでストライクに乗っての参戦である。

これは彼らが優秀という点もあるが議員の息子が高性能機に乗って戦果を挙げるというプロパガンダ的な意味合いも強い人選であった。



  • エターナル級
ザフトの開発した新型の高速巡洋艦。
原作と違いこちらは自由と正義の専用母艦ではなく、他のMSの搭載も前提に開発されている。
また明記も高速フリーゲートから巡洋艦へと変更している。

性能的に原作とそこまで変わらないがナスカ級以上の船速は脅威の一言。
こちらも原作よりも早めに開発・就役しているため順次追加建造されている。
船体カラーはピンクではなく、ナスカ級に近い色合いのディープブルー。

907: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:35:22
連合

  • 初期生産型ドートレス
幾つか前の話でも挙げられた機体。
ドートレスの初期生産型。武装はマシンガン、バズーカ、シールド、ヒートサーベルなど。
今回は出番がなかった。



  • キャラ紹介

連合

  • アルチョム
もとネタはMETRO2033に出てくる主人公。
原作小説では結構話すのだが、ゲームだと殆ど喋らないことで有名。
無口という設定はそこから持ってきているために性格はゲーム準拠。

元歩兵隊出身。MS隊へ憧れて友人と共に選抜試験を生き残り、晴れてMS隊へと配属となった青年。
若いながらも操縦テクニックには光るものがあり、将来のエースとして期待されている。

無口なので誤解されがちだが割と臆病で潔癖症…つまるところ正義感が強いビビり。
内心はどうあれ外面には出ない便利仕様。

今回は乗るはずだった機体が先にお釈迦になったため予備のザニーに乗ろうとしたところ、ザフトがさっさと撤退してしまったため戦闘には参加できなかった。



  • ジェーニカ
もとネタはMETRO原作小説におけるアルチョムの親友。

本や噂話が好きな青年でそこまで活発ではないが相方のアルチョムが無口過ぎるので逆に明るい印象に見える。

無口な友人との付き合いが長いため相手の感情を読むことが得意。逆に自分の感情は顔に出やすい。



  • メリニコフ
もとネタはメトロ原作に出てくる同名人物。相性はメリニク。ゲームや小説ではこちらの愛称で登場する。

大戦初期から一線で活躍をつづけるベテラン。エース見本市と言われた月のグリマルディ戦線に参加し、戦果を挙げている。



  • ウリマン パーヴェル
アルチョムの小隊の同僚。メリニコフ大尉を隊長とし5人で一個小隊。
東側では一般的な編成。西側では四機一個小隊。

二人ともMETROに登場した同名の人物がモデル。

ウリマンがアルチョムと同年代ながら人生経験豊富で逞しい青年。
パーヴェルがおしゃべり好きなムードメイカー。

908: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:36:05
ザフト

  • ミゲル・アイマン ハイネ・ヴェステンフルス
今回自由と正義に搭乗して暴れた二人。
ミゲルがフリーダム。ハイネがジャスティス。
まだオレンジ色には塗装していない。

二人とも大戦初期から戦い続けてきた兵士。初期は新兵であったが、現在では立派な先任である。
主に宇宙で戦ってきており、ミゲルには黄昏の魔弾。ハイネには緋蝶の二つ名が存在する。

この世界では同期であり、戦友。互いに軽口を言い合う仲である。



  • アスラン、イザーク、ニコル、ディアッカ、ラスティ
原作のG奪取五人組。こちらではラスティが存命。
殆どプロパガンダ要員とみられているが実力は本物。若手としては光るものを持っていると期待されている。

なお訓練校の教官から散々連携について教え込まれたため原作以上にしっかりとした連携を取ってくる。

アスランとニコルの真面目組とイザークとディアッカの不真面目組を少々皮肉者のラスティが取り持つという不思議な関係。つまりところ仲はそれほど悪くない。

909: トゥ!ヘァ! :2017/02/12(日) 21:38:00
投下終了。

今回は前にちょこっとだけ紹介した戦いに視点をば。
自由や正義にGシリーズの出番をという意味合いも強いのですけどねw

因みにこの時点ではまだ自由や正義や奪われたGシリーズがNJC使っていることを連合側は察知しておりません。
夢幻会やアズにゃん(天城)さんなんかはそろそろ来るかもと予想していそうですが。
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最終更新:2023年11月05日 15:51