483 :①:2010/10/09(土) 12:07:05
設定無理ありの小ネタ話。
初投稿で文章も下手ですがこういうのもどうかなと。
よく考えれば彼らも世界史上重要な存在でありますし
命を懸けて守ろうとする
夢幻会の人もいるでしょうから
職人達は黙々と暗い照明の下でレンガを積み上げていく。
「しかし、日本て国は不思議な国だな。こんな港町の市民用防空壕建設に金出すっていうんだから」
レンガ職人がレンガにコンクリートを塗ってレンガを置きながら言った。
「一度同盟も解消して袖にしたって言うのにね。まあ、この町は大西洋航路の要だから」
手伝いに来ていた若い船員が板にコンクリートをさらって渡す。もうすぐ航海に出るが、
カードで負けたレンガ職人に手伝えとつれてこられたのだ。
「それにしちゃあ、やけに大盤振る舞いだぞ。このコンクリートだって日本からわざわざ運んできたんだろ?
いくらわが国が物資不足だって言っても、何でそんな苦労までして…」
職人がメイドインジャパンの新しいコンクリートをレンガに塗った。
イギリスのその港町は最も重要な港町で工業地帯の一つだった。
戦前からドイツとの戦争が始まればドイツ軍の格好の的になると予想された。
しかし、恐慌の影響で財政難が響き、市民の防空施設まで十分手が回っていなかった。
1940年5月、ドイツ軍はフランスに電撃的に進撃し、フランスは陥落していた。
ドイツ空軍のイギリス空襲はもはや必然と思われていた。
この街も空襲に備えようとしていたが、いかんせん軍事施設の防御が優先され
市民の為の施設は後回しにされていた。
ところが、イギリス政府が袖にしたはずの日本が資金と物資の援助を申し出てきた。
イギリス政府は当然、それらを重要な施設の防御に使おうとしたが、なぜかその一部はこの街の市民防衛に使うことを
強く望んできた。
イギリス政府は不思議がり、かつあまりにも過大だと思って折衝したが日本人は頑として譲らず、
イギリス政府はやれやれと思いながらも貴重な資材を使ってこの街に住民用の防空壕を作り始めた。
「そりゃまあ、奴らの義勇軍が来たら補給物資の大半荷揚げすんのはこの街だからだろ」
「にしては厳重すぎるわな。それに知ってるか?奴らこの街専用の高射砲部隊や戦闘機隊まで置くつもりらしいぞ。
郊外じゃ新しい飛行場まで作り始めてるし」
「ホントか?ま、奴らが部隊を常駐してくれてこの街を守ってくれるってんなら、別にかまわんがね」
職人達はなんとも不思議な国、日本を話題にしながらレンガを積んでいく。不意に入り口からの光がさえぎられた。
「ち、入り口に立たれると見えねんだよ」
職人が舌打ちしてそちらを見ると、一人の男が立っていた。
見慣れない軍服を着ている。カーキー色の制帽には星のマークがついている。
「あんた、日本人か?」
若い船員が尋ねた。
「そうだ」
その日本軍人はそれ以上言葉を交わそうとせず、何か大きなケースを床に置くと、壕の中を見渡す。
それはまるで旧知の地を訪れた訪問客の振る舞いだった。
ここは何ら変わったところのない防空壕だった。
職人達にとっては100人ほど収容できる、ワイン倉のような薄暗い場所でしかなかった。
なのにこの日本軍人は蒲鉾状のレンガ作りの天井を懐かしそうに見上げたり、奥まった一角のできたばかりのレンガの壁を、
愛おしそうに撫でていた。
しまいにはコンクリートの粉で薄汚れている床に座り込んでじっとしている有様だ。
「なんなんだ?こいつ」
職人達は、この気味悪い日本軍人を横目で見ながら壁を作った。
現場監督が小休止を告げる。
職人達はこの薄気味悪い日本人から離れ、表で煙草を吸おうと入り口に向う。
入り口に日本人が置いたケースがあった。
「ん?こりゃギターか?あんた、ギターを弾くのか?」
手伝いの若い船員がなにげなく日本人に尋ねた。
「ああ」
日本人は天井を見上げたまま答えた。
「そりゃあいい。ちょうど休憩だ、何か弾いてくれ」
レンガ職人がそれを聞いて、階段を上がるのをやめ、傍らの椅子に座り煙草に火をつけた。
手伝いの若い職人はギターケースを取り上げて日本人に渡した。
日本人は少し躊躇したようだが、意を決したようにギターケースを開いた。
ギターは見慣れたクラッシックギターでなく、アメリカ製のスチールギターだった。Martinと銘が彫られている。
日本人は一番奥まった場所に立つと、少し周りを見渡しギターを弾き始める。
484 :①:2010/10/09(土) 12:10:20
レンガ職人と若い船員は日本人の演奏が始まると驚いた。
今まで聞いたこともないメロディだった。そして日本人がギターに合わせて歌いだすと二人は眉をしかめた。
Words are flowing out
Like endless rain into a paper cup
They slither while they pass they slip away
Across the universe…
日本人にしては英語の発音は聞き取りやすく歌詞の内容はわかる。が、内容がさっぱり理解できなかったのだ。
「こいつ、何の歌を歌ってるんだ?」
「…さっぱり意味わかんね」
Pools of sorrow, waves of joy
Are drifiting through my opened mind
Possessing and caressing me
Jai Guru De Va Om
Nothing's gonna change my world
そのうち意味不明な歌詞まで含まれ、耳障りは良いが難解な歌詞の歌が続く。
ただ二人がわかることは、日本人がうまい演奏者だということだ。
日本人の演奏がようやく終わった。二人は一応感謝の意をこめて拍手する。
日本人は二人に向ってギターを抱えたまま、丁寧に腰を折って何度もお辞儀した。
「あんた、うまいな」
レンガ職人が日本人に言って握手を求めた。
「ありがとう」
日本人は握手し、はにかみながらギターをケースにしまう。
「あんたの国の歌の翻訳かい?」
若い船員がたずねた。
「いや、これはイギリスの歌だよ」
「イギリス?俺の国の歌詞かい?聞いたことがないし、意味がさっぱりわからなかったぜ」
「君たちにはね。でも、君たちの子供達にはきっと理解できると思うよ」
日本人は微笑みながらそう言ってギターケースを閉じた。
「俺の子供にねぇ…もうすぐ俺にも子供が生まれるんだが、こういうのがわかるのかねぇ」
「この音楽を聴いたら、おめえの変わり者の嫁のジュリアだってそう思うだろうよ」
「ジュリア?」
不意に日本人が身を翻し、若船員の顔をまじまじと見る。
「…あんたの名は?」
若い船員は名乗った。
「…もうすぐ航海で出発するんだがカードで負けちまってね。ここでレンガ積みの手伝いさ」
「おめえ、ドイツ野郎にやられて俺の金を返せねえなんてことになるなよ」
「何、日本人が前の大戦のように守ってくれるさ。なあそうだろ?」
二人は笑いながら日本人の顔を見たが、日本人は何かに驚くように若い船員の顔を見ている。
親方が階段から仕事再開をわめき散らした。
日本人はギターケースを手に持ち、制帽をかぶりなおすと階段へと歩みだす。
若い船員は日本人が何かを口ずさんでいるのを聞いた。
最後の歌詞がわずかに聞き取れた。
dady come home…
そのまま日本人は階段に足をかけると二人に向って言った。
「守るよ」
「ん?何をだ?」
「あんたは俺の同胞が守るだろう、だが、あんたの息子は俺が命をかけて守ってやる。
あんたの息子の「遊び場所」になるここもな」
そう言うと日本人は階段を昇って行った。
「なんなんだろうね、あの日本人は」
イギリス・リバプールの若い船員アルフレッド・レノンはあきれて言って、再びレンガ職人を手伝い始めた。
しばらくするとドイツ野郎が待つ海に航海へと出かけ、1946年になるまで戻らなかった。
彼はすぐにこの出来事を忘れたが、日本人は約束を守った。
1940年6月、ドイツ空軍がバトルオブブリテンを開始。
日本人が訪れた地下壕のある港町もドイツ空軍の空襲を受けたが
ほとんど被害はなかった。
日本の航空隊が街を守っていた。港町の付近に展開した日本機の尾翼には、
ト音記号に重ねてイギリス人が忌み嫌う「四匹のかぶと虫」が描かれていた。
イギリス人にはそのマークの意味が全くわからなかった。
ドイツ軍機は日本機の激しい迎撃に出会った。
弾が尽きた日本機が、体当たりをしてでもドイツ軍爆撃機を撃墜、まさに街を命を懸けて守ろうとしていた。
日本人が体当たりをしてまで守ろうとする港町に何かあるのではと、ドイツ空軍は攻勢を仕掛けるが、
激しい迎撃とあまりの被害にドイツ空軍は割の合わないこの港町への空襲を中止する。
よくわからない理由で日本人達が必死で守ろうとした港町、イギリス・リバプール。
あの日本人が訪れた防空用地下壕が「キャバーン・クラブ」となり、
レンガを積んでいた船員の息子を含めた四人の若者が、
ここから世界へ羽ばたくのは後の話である。
最終更新:2012年01月10日 11:37