883: ① :2017/02/14(火) 21:50:38
①です、仕事が忙しくなってあまり来てなかったのですが
正男さんが暗殺されたと聞いて記念真紀子にきたら懐かしくなって…
というわけで、久しぶりに投稿してみることにしました。
と、言っても離れる少し前にネタで一時盛り上がった、征途×憂鬱世界の自分が投稿したDDRネタで、まだ推敲もしてない駄文すが…

藤堂一家のお話も音楽ネタも収拾つけてないので、なるべく来てカキコできたらいいなと。
まあ暇つぶしに読んでくらはい。



ベルリンの菩提樹の下で

 1992年12月8日。ベルリンの西にある刑務所の門番といつものやり取りを終えると、ドイツ連邦共和国の国選弁護人ペーター・ミラーは、陰鬱な思いで刑務所の門をくぐった。
 ベルリンの冬であるのに季節はずれのこの雨もそうだが、世間がドイツ戦後二度目となる海外派遣となるボスニア・ヘルツェゴビナへの派兵に参っている。

 ドイツ連邦軍が、クロアチアへ「紛争拡大予防」として参加し、世間が一喜一憂している。60年代反抗の世代の彼にとって、「ドイツが戦争に参加している」ことに彼は慣れていなかった。
 はるか東方の同じ分断国家だった「日本」でも戦火が起きそうな気配もある。世界が戦争の季節に入ることに彼は憂鬱だった。

 そして今、抱えている裁判の案件に、彼はもう一つの頭痛の種を抱えていたのだ。今日はその裁判の初公判。彼が弁護する被告人を迎えに来たのだ。

 ペーターはこの裁判に勝てる気がしなかった。彼が弁護すべき老人は、彼に弁護の種を与えようとはしない偏屈な老人だった。おかげで初公判に望むのに弁護の種がまるでなかった。

 ペーターは元々ジャーナリストだった。*注1

 しかし、ある事件をきっかけにナチス戦犯を追う検察に転進。
 検察官としての職を全うした後、貧しさゆえに犯罪に走った者や政治的思想ゆえに祖国に反逆した者を弁護する弁護士になった。ネオナチや保守的な右翼からは「反逆者を擁護する弁護人」と呼ばれ、警察やかつての職場である検察庁から忌み嫌われている。
 そんな彼が国選弁護人と任命された。誰も引き受けなかった犯罪者の弁護人に国は彼を指名したのだった。
 エーリッヒ・ホーネッカー、元ドイツ社会主義統一党書記長。
 今は亡きドイツ民主共和国(DDR)の国家元首だった男だ。
 ソビエトロシアの手先、ベルリンの壁で192人を射殺する命令を下し、ポーランドの連帯を潰し、ダンツィヒ(グダニスクI)・シュレージェン(シロンスク)・ポンメルン(ポモージェ)・ヴェストプロイセンをポーランドから奪い、世界中から「侵略者」と非難された男。*注2
 おかげで統一ドイツはゴタゴタを東方で抱え続けている。
 壁の解放を宣言して辞任した直後、彼は東ドイツ政府から贈られた西プロイセン、エルヴィング郊外の別荘で隠遁生活に入った。東西ジャーナリスの取材攻勢があったが彼は固く門を閉ざした。
 1990年10月3日ドイツ再統一後、ホーネッカーは統一ドイツ政府から冷戦犯罪、特にポーランドにおける「連帯」弾圧と侵略。ベルリンの壁を越えようとして死んだ192人に関しての訴えられた。
 彼は病気や高齢を理由に別荘に引きこもり続けた。

884: ① :2017/02/14(火) 21:58:23
 が、奪った旧ポーランド領、すなわちドイツ東方領と、「連帯」介入のご褒美でソ連から返還されたオストプロイセンとメーメルが住民投票の結果、ドイツ帰属が決定した直後の1992年1月30日、ホーネッカーはベルリン警察に突然出頭した。
 そのまま逮捕され、閉鎖され取り壊されようとしていたシュパンダウ刑務所に収監された。統一を見ることが出来なかったナチス副総統ルドルフ・ヘスの後に共産主義者が囚われるというのはなんとも歴史の皮肉であったが。
 今日の裁判まで彼は検察の取調べに一言も喋らず黙秘を貫いている。
 それに弁護士であるペーターにも何も喋らず、ただ「初公判の日を待って居たまえ」と笑みを浮かべるだけだった。

 そしてついにこの日を迎えたのだ。

ベルリンの裁判所初公判が開かれた時、彼は全世界を驚かせた。
裁判長より氏名の確認を行われた彼はこう答えた
「私には名前がいくつもあるので答えられない」
裁判長が「あなたはDDR元国家評議会議長エーリッヒ・ホーネッカーではないのか?」
「それは2つ目と3つ目の任務の名前だな、本名は別にある」
「任務?本名?いったいあなたは何者なのですか?」
「それを知ったら、私の罪は増えるだろう…だがよいのだ、ドイツは復活したのだから」
「あなたは何を言っている?」
「いいだろう、私が何者かをあなた方に告げよう。私の本名はアーダベルト・フォン・ギースラー、ドイツ国家社会主義労働者党員党員ナンバー3002584。親衛隊SD所属、階級は親衛隊中尉。最初に受けた任務はソ連に潜入し、情報入手。最後に受けた命令は<祖国を統一せよ>
ドイツ統一と私が奪還した旧ドイツ帝国領のドイツ帰属が決まり、私は任務を遂行したと感じた。だからここで裁判とやらを受けているのだ。おそらく世界で一番難しい任務を受け、そんな任務を遂行しドイツ再興と統一を果たした私を、統一ドイツ政府は裁けるのかね?」
彼は被告人席から立ち上がった。90近い高齢にも関わらず、背筋をピンと伸ばし、かかとを鳴らす。
『私は任務を完遂した、偉大なるドイツ、そして総統のために。ハイル・ヒトラー!」
彼は右手を伸ばし、あの敬礼姿で被告人席で塑像のように立っていた。


 彼がそう言った瞬間、法廷はあっけに取られてしばらく沈黙した後、怒号に包まれた。
混乱の中、裁判長は休廷を命じ、裁判は中断された。

885: ① :2017/02/14(火) 22:02:38
注1:イメージは小説「オデッサファイル」の主人公の人です。
注2:ポーランド連帯の騒ぎの時に東ドイツが介入した設定です。
元のネタ話は過去スレを探せば出てくると思いますが…

なんじゃこりゃと思われた方、すんません

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最終更新:2017年02月20日 10:19