487 :①:2010/10/09(土) 18:30:20
もう一つ思いついたパクリ小ネタを
夢幻会の粛清に絡んで一つでっち上げ。
人によってはなんちゅーことするんだと言われるかもしれませんが
「或る列車」
「-驕れる平家、久しからず-とは、正にこのことだな」
「夢幻会に所属しながら自分の好きなようにやってきたんだ。大陸送りは当然だろ」
憲兵隊の二人に挟まれた男は以前文部省に務めていたが、自らの理想と白系ロシア人の援助の為
文部省を辞し、亡命ロシア人子女向けの学校を東京近郊に独力で立ち上げた人物だった。
しかしいつの間にか志はゆがみ、学校の金を私物化していただけでなく、
いたいけな白人美少女を何人も慰み者にしていたとんでもない人物だった。
発覚直後、醜聞で学校の名に傷がつくと理事の一人の同じ夢幻会の有力官僚が軍に手を回し、
ひそかに始末させるべくこの男の身柄を陸軍の憲兵に引き渡したのだ。
憲兵総監はこの有力官僚に貸しが一つ作れると喜んで引き受けたが
現場としてはこの男を預けられて正直なところ始末に困っていた。
憲兵隊は軍の警察であって、このような男の始末をする機関ではない。
それに戦争が始まり憲兵隊は何かと忙しくなっていた。
こんな雑事に煩わせられてはたまらない。
ところが先ほどになって急にこの男を、横須賀に向う列車に乗せて送り出せといってきた。
横須賀から軍の輸送船に乗せられ旅順へ向かうという。
「しかしこんなおっさん、大陸にいかせてどーすんだ?」
「兵隊するには年取りすぎだしな」
二人の憲兵は口々に言う。
男は覚悟を決めているのか、じっと口をつぐみ、目を閉じたままだ。
車は東京駅に着いた。
「うー、さぶ」
「列車は9番ホームから発車だったな」
「しかしこんな深夜に横須賀行なんてあったかな?」
「午前零時発だと聞いている。時間がない行くぞ」
憲兵二人は男を連れて9番ホームに上がる。
488 :①:2010/10/09(土) 18:31:38
列車は既に入線し、ベルが鳴っていた。
「おいおい、蒸気機関車に客車かよ」
「いまどき珍しいな、貨物列車でもないのに…急げ!」
ホームには石炭の匂いがし、蒸気が立ち込めている。
車掌が最後尾の客車のデッキから
「こちらです!急いで!」
と手を振っている。
憲兵は男を連れて列車へと急ぐ。
発車ベルが鳴り止み、男がデッキに手をかけたときだった。
男が動きを止めてホームの先を見る。
ホームの先に蒸気機関車が蒸気を上げている。
その音の中からカツーンカツーンと靴音が聞こえてきた。
「…」
男がつぶやいた
「何してるんだ早く乗れ!」
憲兵が男に乗車を促すが、男は叫ぶと突然ホームの先に走り出した。
「こら、待て!逃げるな!」
憲兵は慌てて追いかけた。
男は走り続けた。
「おい、止まらんと撃つぞ」
男は機関車横のあたりまで走ると止まった。
憲兵は男に追いつこうとしたとき、男の目線の先に女が一人立っているのを見つけ
その姿に凝固してしまった。
女は長身で喪服のような黒い服を着て男を悲しい目で見下ろしていた。
長い金髪を足先近くまで垂らし、黒い毛の帽子をかぶっていた。
そして…
とてつもなくデブだった。
双葉山をはるかに超えるでっぷりとした体形、頬は脂肪で緩み二重あごになっていた。
目元が綺麗なだけに、若いころはとてつもなく美人だっただろうと想像できただけに
あまりにも哀れだった。
「元気だったか?」
男が尋ねると、その女はコクリとうなずいた。
二人の間に言葉はもうなかった。
機関車が汽笛を鳴らした。
男に旅立ちの時が来たと告げるように。
「一等展望車つきの囚人列車かよ、豪勢なもんだな…」
憲兵の目に展望車の赤いテールライトとバックサインが見えている。
女はホームの端で巨体をたたずませ、列車が走り去るのを見送っていた。
「しかしあの男と女、どんな関係なんでしょうね?」
「青春の幻影だよ」
「え」
憲兵が振り返ると、外套にソフト帽をかぶった男が立っていた。
「私の主義とは違ったが、彼も昔は自分の理想を実現しようと純粋にがんばっていた。
彼は理想とする完璧な淑女を作ろうとしたのだ。それは一時的に実現できた。
だがそれは長くは続かなかった…劣化が急すぎるのだ
彼は「永遠の美しさ」を彼女達に求めるべきではなかった。
主要テーマである「限りある命の素晴らしさ」を求めるべきだったのだ」
「あんた、何言ってんだ?」
憲兵は訳がわからず男に聞く。しかし男は無言だった。
遠くで汽笛がもう一度鳴り響く、万感の想いを込めるように。
「しかし、妙な列車だな行灯に9○9ってどんな列車だ?」
その問いに答える男はもういなかった。
ホームの先では長い金髪をたなびかせ、太った女がいつまでも立っていた―
最終更新:2012年01月14日 18:47