318: earth :2016/12/25(日) 00:29:24


 『時空の迷い子達』 
 《終幕》


「ぎ、銀河帝国宇宙軍?」

 伊丹はSFの中でしか登場しないその単語に一瞬戸惑うが、すぐに切り替えた。

(あんな化け物だっているんだ。銀河帝国があってもおかしくないだろ。それに肝心なのは、彼女たちがこの場では味方ってことだ)

 彼は割り切り、回りの警察官や民間人を宥めて追いつかせる。

「彼女たちが何者であっても、今はあの化け物と戦ってくれている。それだけで十分じゃないか」
「し、しかし」
「彼女たちに何か聞きたければ後にすればいい。幸いあちらさんは紳士的なようだし。いや女性だったから淑女的という感じかな?」
「は、はぁ」
「何はともあれ、今はパニックを起こさないことが肝心だ」

 そんなやり取りをしている最中にも、赤白のレオタードを着込んだ女性たちは飛びながら化け物(宇宙怪獣)の攻撃を捌きつつ、化け物に取りつこうとする。
 宇宙怪獣も容易にやられるつもりはない。これまでとは違うレベルの戦闘力を持つヒトの形をした物を兵隊を使って牽制しようとする。

「化け物が化け物を吐き出しやがった!」

 生き残っていた陸自、機動隊は応戦しようとする。
 しかしAH-1Sからの攻撃さえものともしない比較的小型の化け物、甲羅のついた蜘蛛のようなソレは地球人の攻撃など全く意に介さない。彼らが脅威と見做したのは銀河帝国宇宙軍を名乗る彼女たちのみだった。
 そして地で生き残った者たちは信じられない光景を目にする。

「はぁ? 嘘だろ……」

 30mはあろうかという新たな化け物は、自分たち人間と同じ程度の身長しかない長髪の女性の手刀によって一刀両断されたのだ。 
 人間離れしたその身体能力を見た騎士は彼女たちを《亜神の類》と判断すると、速やかに撤退を決意する。

『こんな国を攻めても何の得にもならない! 逃げろ!!』

 逃げ出す帝国軍。
 だが銀座に突如出現し、無差別攻撃を行った軍勢のことなど、すでに誰の眼中になかった。
 日本人の目は東京の上空に居座り、攻撃を繰り返す化け物たち、そして銀河帝国宇宙軍を名乗る彼女たちに向けられていた。
 彼女たちは小さめの化け物を次々に駆逐しつつ、母船(のようなもの)と思われる化け物に近づいていく。

「何をするつもりだ?」

 辛うじて生き残ったAH-1Sのパイロットは次の瞬間、目を疑った。
 その直後に地球人たちが見たのは、これまで一切の攻撃を受け付けてこなかった化け物が、女性たちの右手から発せられるレーザーによって切り刻まれている光景だった。

319: earth :2016/12/25(日) 00:30:03

「はぁ?」
「馬鹿な」
「WHAT?」

 高速で飛行するレオタード姿の女性が、ミサイルや砲弾を山ほど叩き込んでも平然としていた化け物を片手で切り刻む。
 あまりの現実離れした光景に、何人かが自分の頬をつねる。
 しかし夢ではないことを確認すると、笑い始める。

「「「は、ははは、ははははははは!!」」」

 笑うしかなかった。
 自衛隊も、在日米軍の攻撃も、全く通用しなかった相手が、たかだか5人程度の女性の攻撃で容易に駆逐されていくのだ。
 まるで出来の悪いSF映画を見せつけられている気分だった。しかしこの出来の悪い夢のような光景はこれで終わらない。
 ボロボロになり、もはや抵抗できる力を失った化け物を取り囲んだ彼女たちは魔法陣のようなナニカを展開する。

「ははは、おいおい、今度は何をする気だ?」

 もはや傍観者でしかないパイロットは、己の目を疑った。
 魔法陣のような何かがひと際強い光を放った後、あの巨大な化け物は跡形もなく消滅していたのだ。まるで最初から何も無かったかのように、あの巨大な物体は跡形も無くなっていた。
 そして、この光景は皇居からも見ることができた。 

「あのバカでかい化け物がいなくなったぞ……」
「おい、どうなっているんだ?」
「生き残れたってことじゃないのか?」

 あまりの急展開に置いてけぼりを食らった民間人だったが、巨大な化け物が消えたことで、何はともあれ生き残ることができたと理解すると歓声を挙げた。 
 また現場の警察官、自衛官の中にも喝さいを上げる人間もいる。しかし伊丹など一部の人間は浮かない顔だった。  

「彼女たちは何者なんだ? 味方なのか?」
「それは……彼女たちに聞いたほうが早いんじゃないですかね?」

 伊丹は年配の機動隊指揮官にそう答えると、ため息をついて空を見上げる。

「やれやれ、同人誌即売会が再開できるのはいつになることやら」

 何はともあれ、東京での出来事を合図にするかのように、世界各地で化け物は銀河帝国宇宙軍を名乗る者たちに駆逐されていった。
 まるで悪い夢だったかのように、世界各地で猛威を振るった巨大な化け物は掃滅されていく。そう、東京の時のように跡形もなく。 
 しかしその化け物が残した傷跡が、多大な被害が、これが現実であることを証明していた。
 そして人類の試練は終わった訳ではなかった。 
 事件終結後、間もなくして銀河帝国宇宙軍を名乗る宇宙艦隊(それも数千隻)が月軌道に出現。会談を申し込んだのだ。
 全世界規模の災厄に痛めつけられた人類は、自分たちを遥かに超える強大な勢力が存在を知ることになる。

320: earth :2016/12/25(日) 00:32:06
あとがき
とりあえず銀座事件と太陽系会戦の幕は閉じます。あとは後始末でしょうか。
航宙自衛隊が創設されるかも知れませんね。
それにしても特地どころじゃない気もしますが(笑)。

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最終更新:2017年02月20日 12:00