322: earth :2016/12/26(月) 23:24:17

 『時空の迷い子達』 
 《事実は小説より……》


 フォークからの報告を受けた三賢者は激怒した。
 ワールドナビゲーターが現状において異次元勢力と全面戦争を開始した場合のリスクについて指摘していなければ全面
戦争を決意していたのではないかと思われる程に。 
 彼らは何とか理性で感情を抑え込み、これまで得られた情報を検証した。科学者としての理性を総動員して冷静に分析
を行い、この回廊が異次元勢力のものと同じという分析結果を得られた後に強い口調で抗議を行った。
 「誠意ある回答が得られない場合、協定違反と見做し必要な報復を行う」と通告したのだから、銀河帝国側がどれだけ
強硬姿勢を示していたかがわかる。
 しかし返ってきた答えは多くの人間の予想の斜め上をいくものであった。

「予想の半分が当たり、半分はずれか……」

 皇帝府の小会議室の席でブローネは眉を顰める。
 ライガーは不機嫌そうな顔で手元の書類を人差し指で「コツコツ」と叩く。

「随分と無様な真似をしてくれたものだ。この後始末は容易ではないぞ」
「まぁ《原作》だと最後に盛大なネタバレをしてくれた連中ですから」
「映画館で見ていて、『そうくるか』と思ったよ……しかしその斜め上を実際にやられるとは思ってもみなかった」

 三人は顔を見合わせ、盛大なため息をついた。
 回答を目の当たりにした時、彼らは相手側の正気を疑ったが、様々な検証の結果、真実と分かると彼らは頭を抱えた。

「「「はぁ~」」」

 超大国・銀河帝国の支配者とは思えない程、彼らは憂鬱な表情であった。
 しかし異次元側から聞いた回答を考慮すると憂鬱な表情にならない人間などいないだろう。 
 ブローネ、ライガー、山田は少しでも気分を転換するために茶菓子として用意した煎餅を口にする。
 そして渋い緑茶を呑み、一息つくと口を開いた。

「宇宙怪獣に移動性ブラックホールを乗っ取られた上に、地球人類の情報や並行世界への移動技術まで奪われるとは……
異次元人は間抜け揃いなのか? いや間抜け揃いなら戦争した際に楽だからいいが」
「技術力の高いバカを相手に戦うのは、怖い物がありますな。正直、バカは何をするか分からない」
「まぁ異次元人が思っていたよりも間抜けであることが分かっただけでも収穫と思うしか。まあ連中が宇宙怪獣を自在に
操れる訳ではないことが分かっただけでも」

 そんな山田の台詞にブローネは苦い顔をする。

「最大の問題は並行世界を自在に移動できる《ブラックホール・エグゼリオ》が生まれたようなものだ。いや、宇宙怪獣を並行世界に送り付けられる分、余計に質が悪い。この無数に連なる並行世界を大量の宇宙怪獣と共に彷徨うソレを探すのは骨が折れる」
「気は進みませんが……タイムマシンを使って生まれる直前に移動して、誕生そのものを阻止するという手もあります」

 それは銀河帝国でも禁忌、奥の手とされるモノでもあった。
 しかしそれにライガーが待ったをかける。

323: earth :2016/12/26(月) 23:24:55

「……仮にそれをしたとしても、あの異次元人が同じことをしないとは限らない。いや場合によってはもっと恐ろしい事態を引き起こすかも知れん。最悪の場合、すべての並行世界を瓦解させかねない事態を引き起こすことも想定できる」

 タイムマシンで特定の悲劇を無かったことにしても、それが原因でより痛ましい悲劇が生まれる可能性がある……その
指摘に対し山田は反論することはできなかった。
 『更なる悲劇を招く危険』……それは彼がもともといた第1級秘匿世界ことドラえもん世界で、過去の改変が容易に許可されない理由の一つなのだ。

「この一件を通じて、連中の常套手段である移動性ブラックホールによる資源回収に枷をする……これが今回の落としどころとするべきだろう」

 ライガーの意見にブローネは頷くと、今後の戦略を口にする。

「うむ。しかしあのような化け物が闊歩している以上、我らの故郷を速やかに見つけなければならないということだ。故に21世紀地球のある99観測世界を出城とする。幸い、前線基地も建設済みだ」
「それに問題の門は宇宙怪獣共の最後っ屁とも言える攻撃で崩壊。あの迷惑な冥府の神の性格が《原作》と同じなら、余程のことがない限り、99観測世界に通じるゲートを短期間の間に再び設置することはないだろう……仮にまた門を開いたら封印して二度と現世に干渉できない様にしてしまいたいところだ」
「それは幾らなんでも、と言いたいですが否定できないのがアレですね」
「あのようなお騒がせな神など我々からすれば百害あって一利なしだ。まぁ我々の研究に献身的に協力するなら話は別だが」
「それは150%あり得ませんね」

 山田の断言に、異を唱える者はいない。

「まぁ問題はゲートよりも宇宙怪獣です」
「最悪の場合、因果律操作を行って宇宙怪獣を片っ端から消去する手もあるが、あまり奥の手を晒したくはないな」

 彼らがその気になれば第99観測世界で起きた惨劇を文字通り《無かった》ことにできる。
 しかしそこまでしてやる義理はないというのが三賢者の共通の見解だった。

「フォーク大将の具申通り、予知システムの配備前倒しと現地の軍需工廠の拡充を行う。必要な機材をすぐに準備させる」
「あと第99観測世界の地球諸国については……宇宙怪獣と我々銀河帝国についての最低限の情報開示を行う方向で宜しいか?」
「特に問題はないと思います」

 今回、銀河帝国は被害を受けた地球諸国に最低限の説明をするつもりだった。
 ただしそれは彼らを哀れに思ってのことではない。架空の住民と脅威が実在したときの人間の反応を見るためであった。 

「彼らが賢明な反応を示すことを期待しよう」

324: earth :2016/12/26(月) 23:26:51
あとがき
場合によっては伊丹がラスボス(ブラックホールを取り込んだ宇宙怪獣)に挑む展開に
なるかも知れません(笑)。
その場合、原作の部下たちはどうなるのだろうか……。

次回、地球側の話です。
彼らのSAN値はもつのか……。

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最終更新:2017年02月20日 12:03