495 :①:2010/10/10(日) 00:52:45
→494
意図は全くその通りです。ホントは正統派で行きたかったのですが
いいプロットが思いつかず、ぶち壊してしまいました。
ということで最後の小ネタ。ちょうど深夜ですしおやすみなさいということで
「夜間飛行」
大陸で戦争が勃発して以来、陸海軍輸送機部隊はてんやわんやの大騒ぎだった。
何しろ米中軍を撃破し、現状を維持する為に本土と大陸間では、
人や物資の往来が激しくなったからである。
物資輸送の要は輸送船だったので、急を要する物品だけ輸送機が運んでいた。
絶対的な制空権も日本が確立しているので敵に煩わされることはない。
本来なら気楽な飛行であるが、面倒くさい飛行もあった、人の輸送である。
「ん?今日もまた軍令部と参謀本部の連中がお客さんか?」
「ええ、機長。しかも
夢幻会関係者の戦場視察だそうで」
「まいったなぁ、奴らこの時代の飛行機の騒音に慣れてないからなぁ」
輸送機は元来物を運ぶものであるから防音などはあまり考慮されていない。
プロペラ機のエンジンの騒音と振動がもろに響く。だから日中は本も満足に読むこともできず、
夜は「眠れん!」と搭乗員に怒鳴り散らすものもいるほどだ。
特に夢幻会関係者は前世で静かなジャンボジェット機に慣れたものが多いので
操縦席に怒鳴り込みに来るものが多い。
「だから機長が選ばれたんでしょ?」
機長は誰にも話していないが転生者だ。だから彼は自分と同じ転生者の苦労もわかるためなだめ方がうまく、
大陸と本土を結ぶ夜間便に夢幻会関係者が乗ることになると、自然と彼が当てられるようになっていた。
「こちらの身にもなってみろよ、夜間便ばかり当てられた上にあんな連中の相手をさせられるんじゃあ、
こちらの身が持たないよ」
そうぼやきながら、彼は管制塔の指示に従い輸送機を離陸させた。
空は夜の帳がすっかり下り、星が瞬いていた。
操縦席の扉が叩かれる。
「機長、お偉いさん達がうるさくて眠れんといっています。何とかなだめてもらえませんか?」
世話役の兵曹長が拝むように彼に頼んできた。
「またか…寝酒は出してやったんだろう?」
「それが、みんなぴりぴりしていて酒ばかりおかわりで…規定量になっちまってもう出せないんです」
「戦争だからな、神経が高ぶってるからね…」
機長は困った顔をして少し考えていたが、「しょうがない、これだけはやりたくなかったが…」とつぶやくと
兵曹長にある指示を出した。
男達はいらいらしていた。開戦以来脳味噌がとろけるような激務をこなし続けているから無理もない。
彼らには休息が必要だった。
しかし、イラつくこの時代の飛行機に何時間も乗せられ、尻が痛くなるようなような飛行に
休息も取れるはずもない。寝酒で振舞われた特配も規定量に達して飲めない。
これでは、身体にはストレスがたまる一方だ。
「すみません、皆さんヘッドフォンをつけてもらえないでしょうか?」
大声で兵曹長が叫んでいる
「なんでこんな時に暑苦しいヘッドフォンををつけなきゃならんのだ!」
「機長の指示です!」
「陛下の玉音放送でもあるのか!?」
「機長の指示なのでお願いします!」
「これで騒音をやわらげろって言うのか?ふざけんな!」
男達はぶつぶつ言いながらも指示に従いヘッドフォンをつける。
496 :①:2010/10/10(日) 00:54:51
兵曹長が操縦席に全員がヘッドフォンをつけたことを言いにいく。同時に室内の非常灯まで消された
「何が始まるってんだ…いったい機長は何を考えている…」
男達が機長への不平不満を言いあおうとした時、ヘッドフォンから爆音が鳴り響き、通信する声が聞こえる。
そしてその音の向こうから、彼らが前世で受験生の頃、一度は聞いた覚えのある男の声がこだましてきた。
最後に彼らははっきりと男の声を聞き、テーマ音楽とナレーションが始まった瞬間、
懐かしさのあまり呆然とした。
「機長、何やったんです?みんな寝てますよ」
様子を見に行っていた副操縦士が驚いた様子で戻ってきた
「そりゃそうだろう、アレを聞いて眠ってもらわなくちゃお手上げだ」
「中には涙流しながら寝てるお偉いさんもいましたよ…
しかし機長がいきなりマイクを握って、ぶつぶつやり始めたときは気が狂ったのかと思いましたよ」
機長は笑って操縦桿を握っている。通信士に命じて機内放送させていた新開発の録音磁器テープが止まった。
「機長…お偉いさんが、申し訳ないがもう一度やって欲しいと、もう少しで眠れそうだと…」
しばらくして兵曹長が入ってきて言う
「しょうがないな、通信士、もう一度だ」
通信士がテープを巻き戻し再生ボタンを押す。
爆音が鳴り響き、テーマ音楽が始まると、彼は操縦桿に変えてマイクを握りしめ喋り始めた。
遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休める時、
はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は、たゆみない宇宙の営みを告げています。
満天の星をいただく、はてしない光の海をゆたかに流れゆく風に心を開けば、
きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか。
光と影の境に消えていったはるかな地平線も瞼に浮かんでまいります。
日本海軍航空輸送隊があなたにお送りする音楽の定期便ジェットストリーム
皆様の夜間飛行のお供をするパイロットは私、城●也です
到着後、彼は参謀連に拉致されるとそのまま放送局へ連れて行かれ、
録音撮りの為に缶詰にされたのは言うまでもない。
城●也、人知れず憧れのパイロットになっていた彼は、
日本海軍航空隊放送宣撫隊のDJにならされ、
パイロットを辞めさせらることなった。
「やっぱりやめときゃよかった…」
と、彼は大いに後悔したという。
最終更新:2012年01月10日 11:40