330: earth :2016/12/29(木) 23:49:39
並行世界に出没するようになった宇宙怪獣の大群。
それは様々な世界の知的生命体に多大な被害を与えていた。
「何で、何で、こんなことが」
白いパワードスーツを着込んだ少年は燃え盛る学園を丘の上から呆然と見ていた。
男でありながら女性でしか操れない特殊なパワードスーツ、彼らの世界では超兵器とされるモノを操れる……その事実は少年を世界で唯一無二の存在とした。
しかし社会秩序そのものを一変させた超兵器の抵抗さえ一顧だにしない化け物の前では、彼はただの無力な少年に過ぎなかった。
彼にできたのは、目の前で学び舎が、親しい者たちが根こそぎ滅ぼされていく光景を眺めることだけだった。
「「「……」」」
ある宇宙戦艦の第一艦橋は静まり返っている。
咄嗟の判断に難がある艦長は勿論、天才肌であり、これまで多くの戦いでその才気を発揮した艦長補の女性クルーすら起死回生の手を思いつかなかった。
祖国を侵略国家に征服された士官候補生たちは無事だった新型宇宙戦艦に資金集めと宣伝を兼ねてテレビクルーをのせて健気にも苦しい戦いを続けていた。
しかしそんな彼らの戦いは、予想できない化け物の登場で終止符を打たれた。
宇宙の彼方から億単位で押し寄せた巨大生物たちは彼らの祖国を制圧した王国をなぎ倒し、その支配下にあった祖国を容赦なく滅ぼした。化け物は民間人だろうが、軍人だろうが区別なく、すべてを焼き尽くしたのだ。
慌てた国連諸国は宇宙艦隊を動員したが大敗を喫し文字通り全滅した。もはや人類に化け物に抗う術はなかった。
「我々の兵器では勝てないのか」
宇宙空母に改造された蒼き箱舟を旗艦とした宇宙艦隊は、突如として外宇宙から押し寄せた巨大生物の手によって宇宙の塵となろうとしていた。
彼らは強かった。押し寄せた宇宙怪獣にも多少なりとも損害を与えられたのがその証左だった。
しかし数は暴力であり、何千万という数の化け物たちの津波を止めることはできなかった。
数多の並行世界で、地球人類は、あるいはその世界の知的生命体は地獄の業火に焼かれ、滅びつつあった。
勿論、化け物の撃退に成功した世界もある。
しかしそれは少数に過ぎない。全体を見れば宇宙怪獣は様々な世界に出現し、多くの知的生命体を絶滅させていた。
そして並行世界のあちこちで発生している悲劇を銀河帝国側はある程度察していた。
「……好き勝手に暴れているようだ」
科学省の大臣室で山田は報告書を読み終えると軽く眉間をもむ。
「我々が知る限りだけでも、これだけ多くの文明が滅んでいる。恐らく、実態はそれ以上なのだろう」
因果改変によるリセット。文明が滅亡したという事実の抹消。
それをすれば救われる人々は多いだろう。
しかしそれをやっても根本の宇宙怪獣を駆逐しない限り、同じことの繰り返しになる可能性が高い。
それにその手の操作を多用すれば、銀河帝国以外の勢力に情報が漏れないとも限らない。仮に異次元勢力に知られたら今まで以上に面倒なことになる。
助けることで得られる利益と、助けるために必要な労力が釣り合わないと三賢者は判断している。故に彼らは手を差し伸べない。
しかし理性でそう判断しても、何か思うところがないことはない。
「《物語》では過去を改変しようとする者は大抵悪役扱いだが……《主人公》はこの数多の惨劇を無かったことにしない我々を悪と断じるだろうか。自己の利益のために何億、何十億、何百億という人間を死んだままにする我々を……」
山田はそこまで呟いた後、目を閉じて自嘲する。
「《原作》で私は過去を改変しようとして、《主人公》に打ち倒された。今度は過去を改変しようとしないことで《主人公》に打ち倒されるかもしれない……そんなことを考えなければならないとは……いやはや、人生と言うのは皮肉にあふれている」
銀河帝国を統べる三賢者。
遥か時空の彼方にあるであろう本当の故郷に帰るために多くの力を得て、多くのことを成せる立場にいるがゆえに、彼らの悩みは尽きなかった。
331: earth :2016/12/29(木) 23:52:22
あとがき
宇宙怪獣大暴れ。
ここはスパロボのように色々な主人公が集まるのが王道か……。
ますますGATEから離れていく(笑)。
最終更新:2017年02月20日 12:08