337: earth :2017/01/02(月) 00:11:01
万国津梁館。
かつて沖縄サミットが開かれたこの建物が銀河帝国と地球を代表するとされたG20諸国との会談の場となった。
化け物を叩き潰して回ったのが地球人類の女性に類似した戦闘員(?)だったことから銀河帝国を名乗る宇宙人がヒューマノイドであると予想していたため、フォークの姿を見て驚いた者は殆どいなかった。むしろSFのような化け物が出てこなかったことに胸をなでおろす者が多かった。
尤も会場にいた嘉納太郎やTV中継を見ていた人間の中でサブカルチャーに詳しい者は「汚いアムロとそっくりで同姓同名? 銀河帝国なのに軍服がヤマト風?」と訝しんだのだが、さすがにフォークその人であると断言する人間はいない。
伊丹は「ヤマトの次は銀英伝か……実は宇宙人の社会は地球のフィクションみたいな世界なのかも」と評して再び白い眼で見られていたが……。
兎にも角にも地球側はフォークを盛大に歓待した。
これに対し、フォークも紳士的な態度で対応する。
銀河帝国を自称する圧倒的武力を持つ正体不明の勢力からどんな無理難題が突きつけられるのかと身構えていただけ、この紳士的な姿勢に安堵する者もいた。
しかし米英仏露などは紳士的な対応をする地球人そっくりのヒューマノイドが日本語、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語など地球の言語に堪能であり、意思疎通に支障がないこと、それでいて地球の事情にかなり精通している様子に複雑な感情を抱いていた。
「我々の情報はすべて筒抜けになっている……そんな想定もしなければならないということか」
交渉を行うのに手持ちのカードがすべて筒抜けというのは致命的だった。
そもそも交渉が成り立つかどうかも不明であったのだが、それでも少しでも自国の利益を得るために彼らは足掻くつもりでいた。
天と地ほど立場が離れていたとしても、話が通じれば何かしら糸口がつかめる……彼らはそう考えていた。しかし自分たちが相手のことを何一つ知らないのに対し、相手がこちらの情報をすべて掴んでいたとなれば更に不利になる。
この圧倒的不利な立場での交渉に慣れていないアメリカ合衆国政府関係者のプレッシャーはすさまじかった。
圧倒的な力を背景にして世界に君臨してきた超大国は、自分たちを容易に粉砕できる存在に戦々恐々だった。米本土においても、自分たちを滅ぼせる外宇宙からの来訪者から受けるプレッシャーによってヒステリーを起こす者が少なくない。
(あの化け物といい、銀河帝国といい、なぜ私の在任中に来襲するのだ)
米大統領ディレルは苦い思いを抱いていた。
(いずれにせよ、銀河帝国を怒らせるわけにはいかない。それにあの化け物の件もある。我が国の存続が掛かってるのだ。
心せねば)
ロシアや中国も似たようなものだった。
さすがにこの局面において「
アメリカにとって代わる」という野心を第一にはできなかった。
尤もここで全世界で団結して対応しようという考えはなく、他国を利用(生け贄に)してでも国益(特に国家の存続)を確保するかで頭を捻っている。
そしてそれらの思考はヌクヌクのESPを通じてフォークに筒抜けだった。
338: earth :2017/01/02(月) 00:11:43
(宇宙怪獣がいなければ帝国は完全な厄介者か)
ヌクヌクタイプのアンドロイドからテレパスを通じて脳裏に直接送られる情報を理解したフォークは山田と同様に「故郷は自分たちを歓迎しないかもしれない」という危惧を抱いた。
(たとえ同じ地域の出身であっても、肌の色、宗教、思想の違いで殺しあっていたからな……)
フォークはかつての故郷の歴史を思い出すが、すぐにネガティブな考えを頭の片隅に追いやる。
何しろ少しの差異で他者を排斥するのは、かつての故郷だけではないのだ。どんな世界でも大なり小なりそのような傾向は存在した。自分の故郷だけが異質という訳ではない……フォークはそう自分に言い聞かせた。
(圧倒的で、かつ異質な存在に対する恐怖、それを観察できたのだ。まずまずの結果だろう)
彼は頭を切り替え、会談に集中することにした。
様々な思惑が混じる中、会議場に到着したフォークは円卓に座る各国のVIPを見渡しつつ英語で改めて自己紹介を行い、彼らが来航した事情を告げる。
「私は銀河帝国宇宙軍第一特務次元航行艦隊司令長官アンドリュー・フォーク宇宙軍大将です」
「我々はこの銀河のオリオン椀の資源探査と現地文明についての情報収集にあたっていました」
「その際、見つけたのがこの星です」
何一つ嘘は言っていない。
そしてその位の回答は地球側も予想していたためか、冷静だった。
故にある質問が飛び出す。
「提督、次元航行艦隊とは何でしょうか?」
勇気を振り絞ったインド代表の質問に対し、フォークは鷹揚に答える。
「通常の宇宙空間だけでなく、並行世界への移動も可能にする艦艇から構成される艦隊です」
「へ、並行世界?」
「そうです。あなた方の世界ではSF、おとぎ話上の存在でしょうが、我々はそれを確認し、それらを行き来できる能力を有しています」
「「「……」」」
斜め上をいく回答に沈黙が広がる。
そんな中、日本の代表団の一人である嘉納太郎が切り出す。
「まさかと思いますが、銀河帝国とは……」
「お察しの通り、銀河はあなた方とは違う歴史をたどった世界の、23世紀の地球を中心とした国家です。もともとは地球帝国と名乗っていたのですが、銀河にあった主要国家を打ち倒し、銀河に覇を唱えたため銀河帝国と名前を変えました」
唖然とする代表団に苦笑しつつ、フォークは銀河帝国本国がある世界のあらましを説明し始める。
こうして彼らは虚構の世界が実在した事実を知ることになる。
339: earth :2017/01/02(月) 00:12:47
あとがき
次回で沖縄会談も終了……になればいいなと思います。
地球側のSAN値はどこまでもつか……。
最終更新:2017年02月20日 12:13