344: earth :2017/01/03(火) 13:35:35

  時空の迷い子達
 《沖縄会談・後編》


 銀河帝国本国がある23世紀地球が如何なる歴史をたどったかを大まかに説明されたG20諸国の代表団は、その動揺を表に出さないようにすることで精いっぱいだった。中には「冗談も大概にしろ」と叫びたい者さえいる。何しろ普段なら狂人の妄言と片づけるような内容を説明されたのだ。
 ガミラス帝国、ガトランティス帝国、デザリアム帝国との戦い、三賢者の降臨と地球帝国の勃興、銀河帝国の樹立、そして並行世界を無差別に襲うようになった宇宙怪獣との戦い……映像を交えた説明であったが、常識人を自認する人々からすれば容易に信じられるものではない。
 その反応を予期していたフォークはある提案を行った。

「ふむ、それでは波動砲をご覧になられますか?」
「波動砲?」

 米大統領ディレルの問いかけにフォークは笑顔で返す。 

「ええ。日本の方々はご存知のようですが、他の皆さまはご存知ないようなので……皆さんの目の前で決戦兵器の一種である波動砲の発射を実演しようかと。ああ、ご心配には及びません。地球に直接影響がでないようにしますので」

 フォークは各国が観測できる体制を整えたのを確認すると宇宙で待機させているエンタープライズ級戦艦アドミラル・オキタ、アドミラル・キングに命じて地球からでも容易に観測できるように波動砲を撃たせた。
 地球に直接影響がでない範囲で、かつ地球を掠るかのように宇宙をかける波動エネルギーの奔流……それを確認した人々は今度こそ納得せざるを得なかった。
 2週間前に襲来した宇宙怪獣が、そして目の前の宇宙戦艦が、宇宙に浮かぶ巨大宇宙船が、そして目の前で放たれた巨大なエネルギーの奔流が《狂人の妄言》が事実であると彼らに告げている。 
 しかし納得したとしても、すぐに冷静な、あるいは適切な反応ができる訳ではない。多くの人間が沈黙を余儀なくされた。 
 そんな中、いち早く立ち直ったのは、サブカルチャーに対し理解の深い嘉納太郎だった。

「いやはや、正直、驚きました。まさか宇宙戦艦ヤマトの世界が並行世界に実在したとは」

 フォークはこの反応に満足げに頷く。

「理解して頂けたようで幸いです」
「提督の丁寧な説明のおかげです。それで地球人類を救い、地球帝国を、いえ、銀河帝国を打ち立てた三賢者……ヤマトの世界でも我々の世界でもない全く別の世界の地球人の方々は、何をお望みなのですか?」

 一気に切り出す嘉納。
 彼が知る宇宙戦艦ヤマトがある並行世界の人類とはいえ、原作後の歴史が違い過ぎてメンタリティ、価値観は全く不明。
 それゆえに彼は取引などせず、一気に切り込むことにした。
 遅まきながら立ち直ったアメリカやイギリスなどの代表が嘉納を止めようとするが、北条が視線でそれを制止する。

「あの宇宙怪獣を駆逐していただいたことは感謝しております。ですがあの怪獣を駆逐できる程の戦闘力を持った兵士を動かしさらに火星で6000万近い宇宙怪獣を殲滅する……貴国とはいえ、それに要した費用は決して安くはなかったはずです」

 何の利益も求めず、無償で動く国家などない。
 それが地球の常識であった。
 しかしフォークの答えは実に呆気ないものであった。

「我々の目的はあくまでも調査です。調査を完全に終了する前に、調査対象を荒らされたら堪ったものではありません」
「そ、そのために?」
「ええ。より単刀直入に言えば、三賢者は《ある条件がそろった》21世紀地球を探しているのですよ。残念なことに、
この世界は探している21世紀地球ではなかったようですが」

345: earth :2017/01/03(火) 13:36:09

 フォークの発言を受けて代表団は血の気が引いた。
 銀河帝国が宇宙怪獣討伐のために動いたのは調査の為。しかしその調査結果が芳しくなかったということは、銀河帝国がこの世界に出現する宇宙怪獣から地球を守る意味がなくなることを意味するのだ。

「それでは銀河帝国はどうなさるおつもりで?」

 フランス代表の問いにフォークは首を横に振る。

「銀河帝国としては太陽系外に築いている前線基地に艦隊を引き上げようと思っています」
「た、太陽系については?」
「太陽系の資源については興味深いですが、基本的に太陽系の資源はこの世界の人類の共有財産と認識しています。故に我々がどうこうする立場ではありません。太陽系の管理はこちらの人類にお任せします」

 フォークが言外に「今回のようにお前らを助け続ける気はない」と言っていることを理解した面々は顔を真っ青にする。

「まぁ宇宙怪獣が増殖しすぎると困るので、ある程度間引きは行っていきますが……地球の防衛は基本的にそちらで行っていただきたい。今回、会談を申し込んだのはあなた方に現状を自覚してもらうためでもあります」

 これに北条首相が申し訳なさそうな顔で口を開く。

「しかし相手は光速を超える術を持ち、核兵器すら通用しない相手。これに対し、我々は今回の襲撃で深手を負っています」 

 言外に籠めた「自分たちだけでは太刀打ちできない」とのメッセージを感じられないほどフォークは鈍感ではない。

「ええ。そのあたりは考慮しております。銀河帝国本国にも相応の支援をするべきだと小官が提案するつもりです。並行世界とはいえ同じ地球人類が苦境に立たされているのを黙って見過ごすのは心苦しいので」

 銀河帝国から何かしらの支援が得られるかもしれない……その希望は代表団の顔をやや明るくする。
 何しろ「このままでは銀河帝国に身売りするしかないのでは?」との考えが脳裏によぎっていただけ、希望が見えたのは大きい。
 欧米の代表団などはこの場に来た艦隊司令官が地球側に配慮してくれる人物であったことを神に感謝した。
 そんな代表団に、フォークは爆弾を投下する。

「ただ支援をするにせよ、交渉ルートは一本化して頂く必要があるでしょう。銀河帝国本国も地球諸国全てと個別に折衝するとなれば二の足を踏みます。そのような例外を認めれば、銀河帝国本国がある世界においても色々と問題になりますので」

 この意味を理解した米大統領ディレルは恐る恐る口を開く。

「つまり全権代表を決めておけ、と?」
「ええ。ここに集まったG20諸国は21世紀地球における有力国。あなた方の決定なら問題ありますまい」

 嘉納は悟った。
 会談後の地球諸国による国際会議は荒れる、と。 
 何はともあれ、地球と銀河帝国の会談は無事に終わった。

346: earth :2017/01/03(火) 13:37:14
あとがき
沖縄会談終了です。
かなり飛ばした話になりましたが、長々と続けるのも冗長になりそうなのでこうなりました。
さて地球は纏まれるか……まぁ難しいでしょうね(汗)。

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最終更新:2017年02月20日 12:17