348: earth :2017/01/03(火) 22:54:51

  時空の迷い子達
 《支援への道》


 銀河帝国を率いる三賢者はフォークからの提案・21世紀地球支援について特に反対はしなかった。
 ブローネ、ライガー、山田はいつも使う小会議室に集まってワールドナビゲーターに検討させた案をたたき台にして検討に入った。

「この戦いで発生した深刻な環境汚染への対応としてコスモクリーナーによる環境浄化。続けて必要な観測機器、亜光速航宙艦、反物質機雷、光子魚雷の有償供与、ただ有償と言ってもあちらの経済状況などを考慮して、太陽系の資源の最低限の採掘権で済ませようと思うのだが?」

 ブローネの発言を聞いたライガーと山田は同意するようにうなずく。

「我々が《人類共有の資産》である太陽系の資源と引き換えに兵器や技術を《売却》する形をとれば向こうも無駄に疑心暗鬼に陥らずに済むだろう。まぁ人類がその足を踏み入れたことのない星を含め、太陽系の領有を認めたこと自体が大幅な譲歩だと理解してもらいたいものだが」

 人類がその足跡を刻んだことのない星々を含め、太陽系全ての領有を認めたということ自体が大幅な譲歩と言えた。
 実際には「直接統治すると防衛範囲が広がり過ぎる」という切実な理由もある。
 まず殴り込み艦隊主力をいつまでもかの世界に置き続けられるとも限らない。しかし宇宙怪獣に目をつけられている以上、第二波の襲来に備える必要がある。そのためには別の有力な艦隊を配置しなければならない。
 銀河帝国は宇宙怪獣の脅威を受けて無人艦やロボット兵などの大量生産を進めているが、これらはまず重要拠点に配備される。 
仮に第99観測世界の地球を優先すると、他に手薄な場所が生まれる。それは現状において容認できなかった。

「一応、バリア衛星があれば、宙対地爆撃を受けてもシェルターに退避する時間は稼げます。その間に我々が救援に駆けつけるのもありでしょう」
「うむ、山田博士のいうことも道理だな」

 かくして支援プランの概要は決定され、どの程度支援するのかを更につめていくことになる。
 しかし山田はある懸念も覚えていた。

「地球側、全権代表など決められますか?」  

 これにブローネとライガーは一様に「「難しい」」と答えた。

「少なくとも1国に絞ることは無理だろう」
「他国の奴隷になって生き延びるくらいなら、道連れで死んでやるという国もあるだろうな。特にプライドが高い国には」
「フォーク提督はそれを理解していなかったのですか?」

 怪訝そうに問う山田に、ブローネは苦笑する。

349: earth :2017/01/03(火) 22:55:24

「理解はしていただろう。だからこそ、交渉の席で代表は決めろと言ったが、どこかの国を代表にしろとまでは言わなかった」
「つまり新たな国際機関を作らせる、或いは国連に窓口を一本化させると?」
「前者なら現状の国連よりは強制力のある組織。それでいて地球連邦未満といったところだろう。後者なら安保理がその役割を担うか……まぁそれでもハードルはかなり高いだろう」
「正直、かなり無茶な気がしますが。この世界で地球連邦が作れたのも、もとはガミラスの攻撃で人類の大半が死んだおかげとも言えますし」

 山田の意見にブローネは異を唱えない。
 彼らが本拠とする世界でさえ、ガミラス戦役以前は人類統一政府は存在しなかった。
 地球連邦が出来たのもガミラス戦役で人類の多くが遊星爆弾で死亡し、話し合いが通じない人類共通の脅威(ガミラス残党含む)があった為だ。
 そしてその地球連邦と地球防衛軍、連邦構成国の国軍がデザリアム戦役でガタガタになったため、余所者であった三賢者が主導する地球帝国が建国できたと言える。まぁ三賢者からすれば面倒ごとを押し付けられた気分でもあったが。

「しかし交渉ルートが一本化されてないとこちらも困る。地球諸国すべてと個別に交渉してくれなどとフォーク提督から要請があったらあの世界の地球のことなど無視して太陽系で勝手に戦った方がまだ良いと返すところだ」

 ライガーもすかさず頷く。

「彼は銀河帝国宇宙軍の軍人だ。それゆえに銀河帝国の国益を優先せざるを得ない。しかし地球をこのまま見捨てることもできない。だからこそ、あの提案を行ったのだろう」  
「……もし地球が取りまとめることが出来なかったら?」
「地球側への支援は無しだ。まぁ改良型コスモクリーナーの実地試験の場には丁度いいから、あの地球でデータどりをするのもありだろう」
「なんだかんだ言って、支援はしてやる気じゃないですか」
「支援ではなく試験だ」

 ライガーはそう断言するが、いつもより口調が柔らかかったため、それが建前であると山田も理解した。
 ブローネも満足げにほほ笑む。

「確かに試験、ですね」
「そう試験だ。支援などではない」
「うむ、試験だ。新技術ではどんなトラブルが起きるかわからない」

 旧ボラー連邦の人間からすれば砂糖菓子よりも甘い対応だった。

「21世紀地球諸国が我々の努力を無駄にしない賢明な決断を下すことを祈りましょう」   

 兎にも角にも、銀河帝国は支援計画を策定した。
 すべては地球諸国の決断に委ねられることになる。

350: earth :2017/01/03(火) 22:56:40
あとがき
銀河帝国はかなり甘い模様です。
故郷に似た世界に絆されたと言えるかも知れません。
尤も地球側がその厚意にこたえられるかは不明ですが。

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最終更新:2017年02月20日 12:19