352: earth :2017/01/04(水) 23:48:45

  時空の迷い子達
 《地球諸国、沖縄にて斯く踊れり》

 圧倒的な強者であるはずの銀河帝国が地球の賢明な判断を願っていることなど露も知らない地球諸国は銀河帝国との
会談後、地球全権代表設置の件について話し合いをもったが……結論がでる気配はなかった。
 何しろ並行世界の銀河を支配し、圧倒的な科学力、軍事力を誇る銀河帝国との交渉役(それも全権代表)をもぎ取る
ことができれば、その国家の国際的地位は一気に急上昇する。銀河帝国の力を上手く借りれればアメリカ合衆国にとって
代わる覇権国家にさえなれる可能性がある。その誘惑に勝てる国などそうはいない。
 中国の代表団は露骨に地球代表には自国が相応しいと主張して憚らず、アメリカと衝突した。
 宇宙怪獣と銀河帝国が地球に来るまで覇権国家であったアメリカ合衆国は自国こそがその地位にふさわしいと考えて譲らない。

「宇宙怪獣どもが襲来するまで、世界の秩序を維持してきたのは我々合衆国だ。ならば地球の代表を名乗っても問題ない」

 米大統領ディレルはそう断言するが、露大統領ジェガノフはそれに疑問を呈する。

「しかしその宇宙怪獣の襲来で貴国も大打撃を受けた。世界の秩序を維持する力が今もあるのかね?」
「確かに打撃は受けた。だがすぐに回復する」
「その割には国内が騒がしいようだが?」

 フランス、中国の代表団が露の意見に同意するように頷く。
 実際、米国は宇宙怪獣襲来によって本土に多大な損害を被っており、混乱のドサクサに紛れ暴動が多発しているのだ。   
 それを突いたジェガノフの皮肉にディレルは皮肉で言い返す。

「そういうあなた方も人のことを言えるのかね?」

 ディレルの指摘通り、ロシア、中国、欧州も宇宙怪獣によって深手を負わされ混乱の最中だった。
 武力で不満を抑え込んでいた中国は当然ながら、欧州でもこれまで色々なお題目で抑圧されてきた不満が爆発して各地で暴動が発生している。
 より深刻なのが中東やアフリカなどの国々だった。 
 中東ではアメリカ軍が大損害を被ってプレゼンスが低下。これに付け込むような動きをする国、勢力が増えている。このためイスラエルなどは殺気立っており、第5次中東戦争勃発の可能性さえ囁かれている。 
 アフリカではすでに紛争が多発しており、政府が崩壊した国も存在する。

「確かに大きな打撃を受けたが、我が国はまだ十分な力を持っている」

 ディレルは強気一辺倒だった。
 そんな彼の態度に呆れた者たちが妥協案に見える案を示す。

「新たな国際機関を作り、そこで窓口を一本化するのはどうだろうか?」
「国連を再建して、そこで一本化するというのは?」

 その提案に対しディレルは苦い顔をする。

「多数の国を参加させたとして、それで意見を纏めることが出来るのかね? 宇宙怪獣という脅威がせまっている以上、
悠長な話し合いができるとは限らないのだぞ」

353: earth :2017/01/04(水) 23:49:17

 ディレルの答えは道理にかなうように見えなくともなかったが、彼としては『自国の安全保障と直結する銀河帝国との交渉を他国にかき乱してほしくない』というのが本音だった。

(数に物を言わせて、我が国を封じ込めようとする魂胆だろうが……)

 実際、提案した者たちの魂胆はそこにあった。 
 ジェガノフはその魂胆を理解しつつも「それはどうか?」と擁護する姿勢を示す。

「その点は否定できない。ただ、《指導的な役割を果たす国》に《相応の権利》が与えらえるのなら一考の余地があるだろう」
「ほう? 具体的には?」
「宇宙怪獣は世界の安全保障に直結する問題だ。それならば安全保障理事会のやり方に倣うのが妥当だろう」  

 常任理事国・五大国による指導体制を強調するジェガノフ。
 しかしG20の国々の中には、五大国に地球を牛耳られるとの懸念が生じ、これに反対する意見が相次いだ。

「今回の会談からわかるように銀河帝国はG20を重視している。五大国だけを特別視している訳ではない」

 インド代表の物言いに米中露の面々は少し苛立ったような顔をする。
 片やイギリス、フランス、ドイツはどうするべきかと小言で話し合う。 
 このあとも会議は踊るを地でいくような展開が続いたため、列席していた嘉納は気分転換のため、急いで手配させたDVDを見ることを提案した。

「相手を知るためにも、銀河帝国が存在する世界にそっくりな《宇宙戦艦ヤマト》を見てはどうでしょうか? それに宇宙怪獣が出てくる『トップを狙え』という作品もあります」

 嘉納の提案は受け入れられ、会議は一時中断され休憩となった。 

「やれやれ、こりゃあ、纏めるのが一苦労だ。いやそもそも纏まるのかね?」

 そんな嘉納に北条が声をかける。

「しかし纏められなければ、銀河帝国は我々を見捨てるかも知れない。やるしかないだろう」
「ですが総理、どこの国も簡単には譲りませんよ。文字通り国運が掛かっています。それに国民の期待も大きい」

 全権代表を決める国際会議が紛糾していたが、銀河帝国が並行世界の23世紀地球を中心とした国家であることを公表することに反対する国は存在せず、沖縄に駆けつけていたマスコミに公表されていた。
 ただし公開されたのは銀河帝国は並行世界の23世紀の地球を頂点とした巨大な星間国家であり、彼らは今回襲来した宇宙怪獣と戦っているという情報だけであり、ヤマト世界云々については混乱の元になるのではないかとの声もあり、公開は見送られている。
 それでも同じ人類が助けてくれたとの情報は多くの人間を安堵させた。
 また同じ人類だからこそ共闘できるという期待、いや声が挙がっている。帝国との交渉が始まるとの報道を聞いた者の中には、都合のよい期待をする者さえいた。
 某国では銀河帝国にいるであろう同胞と手を携えて、自民族を宇宙の覇者になどと正気を疑うことを公言する者さえいる。

「やれやれ……ヤマトや宇宙怪獣が実在する。前者については嬉しい、嬉しいが……できれば両方とも遠い隣人であったほうが面倒がなかっただろうな」 

 嘉納はそう言ってため息をついた。

354: earth :2017/01/04(水) 23:51:03
あとがき
会議は踊るでした。
果たして決まるのやら……。

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最終更新:2017年02月20日 12:22