368: earth :2017/01/11(水) 22:15:52

  時空の迷い子達
 《妥協》


 某国の情報漏えいにより、銀河帝国との交渉のテーブルに着くことが出来る地球全権代表の座を賭けた争いが世界各地で続いていた。
 それは銀河帝国艦隊が異世界から帰還した後も変わらない。いや銀河帝国艦隊が戻ってきて、「本国はそちらの代表さえ決まれば支援について話し合いたいと言っている。答えはまだか?(意訳)」と返答を促したことから21世紀地球諸国の争いはより過熱していた。
 沖縄会談に呼ばれた無かった国々の間ではG20諸国の専断は許されない、全世界の意見を集約するべきだなどとの意見が噴出した。
また地球代表を自称する者以外に、正規とは別の裏口の交渉ルートを築こうと接触を試みる者さえ現れる始末だった。銀河帝国側はこれらを一切無視したが、それで諦めてくれるほど諦めが良い人間など存在しなかった。
 おまけにこの手の動きにG20も便乗していたため、裏口のルートを巡る駆け引きも過熱する一方だった。 
 その状態で宇宙怪獣の攻撃によって損なわれた富、各国の軍事力、自然環境の影響が出始めたのだから、世界情勢が悪化しないわけがない。
 世界各国は宇宙怪獣から受けた損害から立ち直るどころか、その傷口に塩を塗りあう行為を繰り返している……それを目の当たりにしている嘉納はホテルの部屋に置かれた丸テーブルに肘をつけて頭を抱えた。

「……銀河帝国が本当に異星人の国家だったら、もう少し別の動きがあったんだろうが」

 銀河帝国が並行世界とはいえ23世紀の地球を頂点とした国家であったこと、現れた指揮官が紳士的であり、銀河帝国側も支援も人類支援に前向きであること、そして宇宙怪獣という23世紀地球と21世紀地球の共通の敵がいたことが今の事態を招いたとも言える。 

「いがみ合っている場合じゃないだろうに」

 地球諸国は足の引っ張り合いをしているせいで、宇宙怪獣から受けた被害から協力して立ち直ろうとする動きなど全く現れなかった。
おかげで事態は悪化の一途をたどっている。
 ニューヨーク、ロンドン、東京の壊滅によって金融は大打撃を受け、更に中東が派手に炎上しているために日本を含め多くの国が石油の輸入に支障をきたしている。おかげで世界経済はガタガタ。当然ながら日本経済も非常に厳しい状況に置かれていた。
 そんな状況だからこそ、地球諸国は一発逆転をかけて銀河帝国から様々な便宜を図ってもらえるであろう地球全権代表の座を巡って駆け引きを繰り返しているとも言えるのだが……。  
 勿論、そのことを銀河帝国側(特に三賢者)も認識していた。 
 このため三賢者も如何に穏便に事態を収拾するかに腐心していた。勿論、それは純粋に21世紀地球を思って……ということではない。
 彼らが最も恐れていたのは青狸とその愉快な仲間たち(あるいは春日部出身の恐るべき五歳児)がこの21世紀地球諸国の惨状を見て銀河帝国に不信感を抱く、或いは21世紀の地球に同情した結果、銀河帝国に何かしら不利益になる行動を取ることなのだ。
 三賢者の面々が冷徹な判断を下すのなら、「死人に口なし」となるのだが、さすがに現状でそのような判断を下せなかった。
 このため銀河帝国を統べる3人の科学者は更に妥協することにした。

369: earth :2017/01/11(水) 22:16:25

「《ヤマト》、《トップをねらえ》などの創作作品と我々の世界の状況の類似性、関連性を調査する……それを口実に日本に大使館を設置する」

 ブローネの決断に山田が目を見張る。

「陛下、個別交渉に応じと?」
「やむをえまい。まぁ創作作品と類似した並行世界の関連性の調査となれば地球諸国も黙るだろう」

 ライガーはやや渋い顔で頷いた後、気になった点を尋ねる。

「こちらに大使館は?」
「置く必要はなかろう。惑星統一政府がない以上、銀河帝国本国に大使館を置かせる必要はない。それに今の地球の状況では銀河帝国本国の情報を政治利用するだけだ。場合によっては地球諸国が銀河帝国と敵対する勢力、或いは23世紀の地球諸国に接触を図ることも考えられる。
まぁ我々の監視を掻い潜ることなど出来はしないだろうが、帝都でそのような策動をされるのは不愉快極まる」
「こちらでナショナリズムを煽られて地球内戦になったら目も当てられませんからな」
「ガミラス戦役で宗教、民族間対立を乗り越えられなかった連中が死滅したおかげで、そうそうバカな真似をする人間はいないだろうがね」 

 ガミラス戦役において地球人類は地下都市への避難を余儀なくされた。
 逆を言えば地下都市を持てなかった国々は遊星爆弾で全滅していたし、地下都市に逃げれても宗教、民族対立を乗り越えられなかった都市は内輪もめで崩壊した。戦争末期には耐え忍ぶことに定評のある日本人の地下都市でも物資不足や自暴自棄による暴動が起きた程なのだ。モラルが低い地域の地下都市が生き延びれるはずがない。
 まぁその手の人間が間引かれたおかげで地球連邦が出来、更にガトランティス、デザリアム戦役で疲弊したために三賢者が地球帝国をスムーズに建国できたとも言えるのだが……。

「兎にも角にも、我々が一惑星に群雄割拠する勢力と話し合うだけでも、稀に見る大幅な譲歩と思ってもらわなければ困る」

 これ以上は譲歩してやる必要はないとブローネは断じた。
 今の銀河帝国からすれば21世紀の地球に割拠する勢力など、町どころか村、それも原始人が住む村程度でしかないのだ。

「しかし大使館を設置するとなると、かの世界の太陽系を完全に無防備にするわけにもいかないのでは?」
「宇宙怪獣を撃退できるだけの戦力を常時はりつかせることは出来ないだろう。だが宇宙怪獣の侵攻が遅ければ何とかなる」
「限られた戦力で遅滞戦術を行う、と」
「当然、現地の人間にも協力してもらう。国連宇宙軍でも編成させて、時間稼ぎ程度はしてもらう」
「役に立ちますかな?」
「役に立ってもらう。できなければ滅ぶだけだ。ごく潰しを養う気はない。それで二人の意見は?」

 特に反対意見はなかった。 
 かくして銀河帝国は三賢者の決定の下、動き出した。

370: earth :2017/01/11(水) 22:18:35
あとがき
かくして日本に大使館が設置されることになります。
特地に繋がる門の代わりに異世界の銀河帝国との交渉口になる大使館……
これもある意味で『門』と言えるかもしれませんね、異世界と繋がるという意味で。

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最終更新:2017年02月20日 12:31