384: earth :2017/01/18(水) 01:17:34
「あ~どうしてこなったのやら」
伊丹耀司陸上自衛隊二尉はフェリーの甲板から見える巨大な構造物……沖縄近海に設置された軌道エレベーターを見つめてため息をつきそうになった。
そんな伊丹をインテリ風の男が嗜める。
「いい加減、諦めろって。お前は適性試験で合格したんだ。逃げ出す真似なんてできないぜ。それに見てみたいんだろう?
アニメの宇宙戦艦ヤマトにそっくりな世界を」
「そりゃあ、見てみたいですけどね……しかし、柳田さん、何で俺が通るんです?」
「それは俺も聞きたいよ」
沖縄に残っていた各国首脳に対し、フォーク提督から銀河帝国政府がG20諸国に対して行った地球全権代表選出の要求を取り下げ、日本に大使館を設置して個別交渉に応じる方針に転換したことを告げられると世界に激震が走った。
銀河帝国首都に大使館を設置したいという声もあがったが、フォークはこれを拒否した。
「惑星統一政府が創設されたら、本国も認めるでしょう」
尚も不満を言い立てる人間がいたが、フォークは無視して続けた。
「銀河帝国は地球防衛に貢献する意思と能力を持つ国家に対して《相応》の支援を行う準備を進めています」
「日本に大使館を置くのは、こちらの世界の日本で発表されている創作作品と我々の世界の状況の類似性に銀河帝国政府が強い関心を寄せているためです」
「地球防衛に寄与しない国家に飴を与えるつもりはない」と断言したために一部の国からは不満が出たが、銀河帝国側が「宇宙での戦闘に必要な装備、物資を供給する用意がある」と答えたことで不満の声は収まった。
そして銀河帝国側が供給を検討している装備の一覧を見せると、誰もが目の色を変えた。
「宇宙怪獣との戦いで必要な観測機器、亜光速航宙艦、反物質機雷、光子魚雷、バリア衛星の供与、それも実質は無償に近い……」
今の地球では到底用意できない超兵器の数々に北条首相は思わず喉を鳴らした。
兵器の概要について記された書類を読み進めていくうちに、G20諸国の代表の目も血走ったものになっていく。
地球側から見ればそれほどまでの大盤振る舞いだった。
「よろしいので?」
嘉納の問いかけにフォークは頷く。
「21世紀世界の人類が存続するために必要だろうと帝国政府が判断したようです」
「しかしこれほどの便宜を図っていただけるとは」
「政府はこれらの支援とは別に《宇宙怪獣の攻撃》で汚染された地球環境の回復にも協力したいと考えています。これも個別の交渉になると思いますが」
実際、銀河帝国側からすればそこまで大した支援ではなかったのだが、地球諸国からすればその提案は魅力的過ぎた。
それゆえに今後交渉の窓口となる大使館が日本に置かれることを懸念し、何とか自国に招致できないかと試みる国も現れた。
385: earth :2017/01/18(水) 01:18:09
特に某国は「日本の創作作品は後追いでオリジナルは自分の国の作品だ」と主張したが、それが聞き入れられることはなかった。
尚も諦めきれない国がいるのを見たフォークはため息をつきそうになるのを我慢して、追い打ちをかける。
「今回の交渉が不首尾に終わるのなら、我々は太陽系から艦隊を引き上げ、宇宙怪獣と独自に戦うだけです」
それは21世紀地球を見捨てることもあり得るというサインであった。
そんな中、宇宙怪獣が太陽を直接攻撃し、恒星表面爆発を誘発しようとしたのだ。
フォークの指揮で地球人類は事なきを得たが、この状況で銀河帝国艦隊が引き上げれば地球人類の滅亡は避けられなくなることを理解できない人間はいなかった。
かくして日本への大使館設置と各国との個別交渉は受け入れられた。
尤もそれは終わりではなく、武器を用いない戦いの始まりでしかなかった。
銀河帝国が地球各地にコスモクリーナーを搭載したエンタープライズ級戦艦を送り込み、汚染された地球環境の修復を公衆の面前で行ったことも、それに拍車をかけた。
21世紀世界の技術はどうすることもできない各種汚染を瞬く間に消し去った光景は、それだけで地球人類に対して銀河帝国の力を改めて 見せつける形となった。
科学について大して造詣が深くない人間でさえ、銀河帝国が如何に隔絶した科学力を持っているかを理解できたのだ。技術の価値が良く判っている者たちがとる行動は決まっていた。
「銀河帝国の技術を是が非でも獲得するのだ!」
かくして米露中の三大国、そしてEUはこぞって東京に設置された大使館に押しかけ、交渉を持ち掛けることになった。
この交渉の際、彼らは宇宙怪獣と言う知的生命体の天敵から地球を守るという大義名分の下に創設する国連宇宙軍に協力的な姿勢を打ち出すことで自国が責任ある大国であるとのアピールも欠かさなかった。
世界で唯一大使館が設置された日本も例外ではない。
いや、大使館が設置されたからこそ、その環境に胡坐をかいている訳ではないことを示すべく日本政府は動いた。
憲法9条や集団的自衛権を盾に反対する者(ごく少数)もいたが、日本政府は「宇宙怪獣との戦いは国家間の戦争とは違うから憲法違反ではない」として国連宇宙軍への参加に速やかに踏み切った。
勿論、宇宙空間での本格的な戦闘(それも亜光速以上で)など米国を含め、どの国もやったことがないため、銀河帝国軍が各国から国連宇宙軍に派遣された将兵を訓練することになった。
言うまでもなく志願者が多いことから第一次適性検査は世界各地で行われ、それに合格した者が軌道エレベーターが設置された沖縄に招かれることになっている。
そして伊丹は第一次適性検査に晴れてパスしたため、ここにいる。
「次は二次検査か……」
「無様な真似をするなよ。ここでの結果は銀河帝国上層部にも報告される。銀河帝国との交渉にも影響があるかも知れないことを忘れるな」
「……判っていますよ」
世界各地から集められた軍人たち。
直接戦いはしないものの、互いの祖国の興亡をかけた戦いが始まろうとしていた。
386: earth :2017/01/18(水) 01:19:59
あとがき
国連宇宙軍が創設されます。
自衛隊でも航宙自衛隊が作られるでしょう。
何故か《武闘小姐 パワフルチャイナ》という作品を思い出しました。
この作品、知っているヒト、どれだけいることか。
最終更新:2017年02月20日 12:40