538: 第三帝国 :2017/03/17(金) 00:59:31
「こんな形で歴史に名を残すとは、な・・・」
「・・・・・・閣下」
「いや、ケナン君。
君が心を痛める必要はない。
あのロングを止めねば合衆国は本当に終わってしまう。
だか私は引き受けたのだ、祖国を分割したという悪名を。
・・・何よりも私が倒れなければこんな事にはならなかった、その責任を果たそう」
アメリカ海軍最後の反撃は失敗に終わった。
太平洋に残る軍艦は僅かな駆逐艦と戦艦『ミズーリ』を残し壊滅し制海権は完全に日本の物となった。
加えて大西洋でも英国が積極的に通商破壊を仕掛けており、海を介した物流は壊滅を通り越して死滅の域に入りつつあった。
それでも国内に張り巡らされた鉄道網で強引に必要な物資を運んでいるとはいえ、効率という点においては費用効果が悪く、アメリカの戦争経済にジワジワと打撃を与えつつあった。
またそれ以上に精神的に両洋から殴られている、という圧力はアメリカ国民の士気を著しく下げていた。
それでもアメリカという国力を以て防戦に徹するならば日本と英国を相手してもなお勝機を有しており、アメリカの生産力が完全に稼働し、戦力が整った暁には世界征服も夢ではない。
が、今ではそれは絵に描いた餅に過ぎない。
海軍はもはや壊滅状態で、海を渡って攻勢など到底不可能である。
陸軍もアラスカ奪還どころか大損害を被り次の攻勢は最低でも3か月後であった。
そしてそれ以上に問題なのはいよいよアメリカ国民の士気が限界に達しつつあった。
日本が投下した原子爆弾の被害については報道管制を敷いても噂という形で国民の間に広がりつつあり、それでもなお戦争を継続する政府に対し国民の反発、特に原爆を投下された地域ではその動きが顕著であった。
ロング大統領は議会の承認を得ることなく行政権を直接行使する大統領令の乱発で抑えて来たが、限界が来た。
6月14日。
首都ワシントンで数十万の市民が戦争の停止と大統領の辞任を求める大規模なデモが勃発。
この日は1777年に議会がアメリカ国旗を制定した記念すべき日であり、参加者は星条旗を掲げアメリカの理性と理想の回復を訴えた。
しかし、ロング大統領はこれを共産主義者ならびに日英の陰謀と断定した上で当初から軍を派遣し弾圧を決定。
星条旗を掲げた市民に対する回答は機銃掃射と戦車の突入であり、ワシントン記念塔広場を市民の血で染め上げ後の歴史書に「ワシントン記念塔事件」として記録される。
539: 第三帝国 :2017/03/17(金) 01:00:07
参加した市民に関する犠牲者は今なお確たる判断はできないが、数万規模の死者とその倍に匹敵する負傷者を出したのは間違えようのない事実である。
この事件後、アメリカ国民。
否、市民は大統領を市民の敵として認識。
全米で戦争の停止と民主主義の回復を訴えるデモと暴動が続発。
対するロング大統領はこれを力で押さえつけるが、さらに市民の反発を呼び込む悪循環へと入る。
そして一連のアメリカ国内の動揺に日本と英国は戦争を終わらせる機会が来たと判断。
6月25日に日本と英国の連名で声明を発表、曰く戦争を終わらせるための用意がある。
賠償金、領土割譲などの条件は交渉で決めるとして先にアメリカには名誉ある「停戦」を提案すると。
夢幻会としては後に復讐される可能性を憂慮し、アメリカという国家を消滅させてしまうことも考えていた。
とはいえ、アメリカを完全に消滅させてしまうのは骨が折れる作業な上にそれはそれで将来に禍根を残すことになる。
物理的に占領しようにも、太平洋と大西洋の両側からアメリカを締め上げているとはいえ、ワシントンに日章旗とユニオンジャックを掲げる、という所まで進むことができない「持たざる国」であるがゆえに不可能である。
が、同時にもしもこちらの問いに応じなければさらなる原爆の投下を用意している。
と脅しもしており、選択肢を与えられたアメリカの反応に世界が注目した。
しかしアメリカ側の回答は論ずるに値せずと一蹴。
むしろ逆に英国が無条件降伏する日まで徹底抗戦を継続するとの大統領声明を発表。
そして、日本に対しては・・・。
「弧状列島に住む猿は必ず最終的解決で浄化する。
ジャップという名の自然物は自然物らしく人間に駆除されろ」
この回答に対し日本というより夢幻会は即座にアラスカ、一部は英国軍が立てこもるニューファンドランド島から五大湖と東海岸へ向けて発射。
デトロイト、トレド、クリーブランドといった工業都市に続々と弾道弾が降り注ぎ戦車の代わりに10万単位の死者を生産する。
これに対しアメリカは弾道弾の発射拠点であるアラスカとニューファンドランド島に対し、B17による大規模な爆撃と陸軍による限定攻勢を開始するがアラスカでは先の「あ号作戦」での打撃を回復しきれておらず、攻勢は頓挫した上にB17はできる限りアラスカに近い臨時飛行場から飛び立ったがそれでもなお横たわる広大な航続距離。
戦闘機の護衛がない状態での進軍はジェット戦闘機「疾風」を前に大打撃を受けて失敗に終わった。
1000機単位で押し寄せればもっと話は違ったかもしれないが、それらを賄うために必要とする膨大な燃料、弾薬を陸上輸送だけでは限界があり、机上の空論に過ぎない。
そういう意味でアラスカはアメリカ本土から遠すぎた場所であり、夢幻会の戦略の正しさが証明された。
またニューファンドランド島での戦いは上陸を試みるアメリカ軍。
それを阻止する英国軍との間で一進一退の攻防が繰り広げられたが海軍が壊滅状態のアメリカの敗北に終わった。
初期の空挺と奇襲上陸こそ成功したが、制海権は常に多数の戦艦、巡洋艦を有するイギリス側にあり、海路を通じて後続を送り届けることができず、増援は基本空輸だのみと非常に効率の悪い戦いを強いられ、先にアメリカが損害に耐え切れず息切れを起こしてしまったのだ。
かくして7月4日のアメリカ独立記念日に合わせての始まったアラスカ、ニューファンドランド島を巡る一連のアメリカの反撃は1か月に渡って続きアメリカの敗北で幕は閉じた。
そしてアメリカの攻勢が止まったのを見計らい日本は再び原爆を投下、目標はアメリカの古都ボストン。
絶対国防圏と称されたアメリカの防空網も高高度を飛行する富嶽を捕捉することは困難でアメリカ人にとって建国の町は一夜に壊滅。
この事実にこれまでの被害の積み重なりと合わさって市民の戦意は敵愾心よりも諦めの感情が上回り、一部の政治家たちは動く時が来たと判断しついに行動に移った。
8月15日、カリフォルニア州を中心とした西海岸の州が「各州が保有する主権の維持」を根拠に連邦と袂を分かち独自の外交を開始すると宣言し「アメリカ共和国」の成立と暫定大統領としてルーズベルト元大統領が就任に声明を発表。
540: 第三帝国 :2017/03/17(金) 01:00:41
「平和の実現を妨げる壁はロング大統領にあり、我々が日本に抱いていた偏見であり、臆病にある。
だからこそ我々は今こそ勇気を以て和平交渉に参加する」
日本が望んで止まなかった和平の言葉がついに出た。
ロング大統領は軍による即座鎮圧を命令するが連邦からの離脱が相次ぎアメリカ共和国への合流が相次ぎ、
海軍に至ってはハルゼー傘下の太平洋艦隊がそのままそっくり連邦から共和国へ合流するなど事実上の叛乱にワシントンは混乱の窮地に至る。
だがそれでも内戦覚悟で軍を西部に差し向けようとするが、さらなる悲報が舞い込む。
今度はテキサス州を中心とした南部の州が同じく連邦からの離脱を宣言し「アメリカ連合」の成立を宣言。
初代大統領にジョン・N・ガーナーが就任し、無益な戦争を続ける連邦政府に価値はなく即座に日本との講和を開始するとの声明を発表。
対し日本と英国はアメリカ共和国とアメリカ連合国の動向に歓迎すると共に国として扱うことを約束。
平和を乱す勢力がもしも両国に対し武力を行使した暁には支援を惜しまないと政府談話を発表する。
続けてドイツも同じく北米における平和の到来を歓迎し、それを乱す勢力は許さない。
と声明発表をし、アメリカという国は北部、西部、南部の3つに分割される方向になりつつあり、ロング大統領にこの流れは止めることはできなかった。
分割された上にそれを阻止する能力はもはや連邦政府になく北部単体での戦争遂行は不可能であり、もうどうにもならなかった。
アメリカが誇る巨大な生産能力もこれまでの原爆、弾道弾による爆撃、そして国家の分裂でその能力を発揮することはできず戦争継続など夢のまた夢。
ロング大統領に残された選択肢はアメリカを敗北に追いやった上に国を割ることになった元凶であり、弾圧者で虐殺者とし延々と罵倒されるのみ。
だからこそロング大統領は別の選択肢を選んだ。
それは自らに対し拳銃を突き立て引き金を引くことで己の人生を終わらせるという物であった。
8月25日。
日米戦争の元凶を生んだ人物がこの世を去り、世界は和平へ向けて動きを加速させてゆく。
おわり
541: 第三帝国 :2017/03/17(金) 01:08:25
以上です。
もう何年振りかは自分でも忘れましたけど、
相変わらず突っ込み処満載ですが楽しんで頂けると幸いです。
では
誤字脱字修正
最終更新:2017年03月20日 10:47