908: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:10:45
大陸SEED MS戦記

15―――反抗(後編その二)


『命令が下りた。我が連隊は敵機甲部隊を突破! 本命…敵MS部隊を狙う! 麻薬でイッちまった連中は適当にいなして他に任せろ! 各機行くぞ!』
「了解!」

シュバリエ大尉の指示に応え、フットペダルを踏みこんで機体を前進させ。ホバー機動をもって戦車を中心とした味方機甲部隊の合間をすり抜けるように移動する。
モニターの正面…やや遠い戦場では派手な爆炎が上がっているのが見える。艦砲射撃によるものだ。この攻撃で肉弾攻撃を敢行する厄介な連中は停滞する筈だ。
我がMS部隊が突入するまで艦砲射撃は続く予定だが……短く警告音が響き、モニターにも赤い表示がなされる。

「…!」

それを見て思わず機体のセンサー…カメラを上向ける。
視界に味方の艦砲射撃の軌跡に交じり、その真逆の方向へ飛翔する光弾が見えた。
アレクサンドリアでは見なかったタイプ、恐らくは対地支援強化型の新型ザウートによる砲撃だ。前に出たこちらの陸上艦隊を狙ったものだろう。
しかし、目立った報告がないという事はこちらに大きな被害はないようだ。

にしても―――

「…嫌な事をしてくれる」

先程まで聞こえていた敵からの通信を思い返して呟く。
味方を捨て駒のように使うのは良い。戦争である以上はそのように戦力を…兵士を切り捨てて〝効率的に損耗〟させるべき時がある事は理解しているし、僕も兵士である以上は幾分かはそういった事を課せられる覚悟はある。或いは何時かはそういった指示を出す立場になる事もあるかも知れない。
だからそれは良い。しかし麻薬や薬を使ってまで強制し、人間を人間として扱わず、ただ盾として消耗させるというのは……しかもブリーフィングで聞いた話を思うに大多数が無理やり徴兵された碌に訓練を受けていない一般市民・民間人だという―――吐き気がした。

「准尉、大丈夫か?」

思わずギリッと歯を噛みしめ、先程青い顔を見せていたマイヤー准尉の様子が気に掛かって通信越しに声を掛ける。

『…大丈夫です、少尉』

モニターに映る准尉の顔はやや暗いが青くはない。表情は険しく何時になく戦意が高いように思える。

『先程は心配をお掛けしましたが戦えます。…ええ、あんな風に人を、人間を壊し、殺させる奴らの意図に乗せられる積りはありません』

静かに准尉は答え、その声には明らかな怒りが込められていた。
その怒りの矛先は外道を行った敵に対してか、それとも不甲斐なく取り乱しかけた先程までの自分に対してか……その両方か。

「そうか、大丈夫なら良いんだ」

怒りを見せ、普段とは違うやる気に満ちた准尉の様子に彼女自身が申告したように戦えると判断し、僕は取り合えず頷いた。
ただそれでも気に掛ける必要はあるだろう。取り乱す不安はないが変に意気込んでいるようにも見えるからだ。
いや、それは僕にも言えることか。あんな手段をとった敵に怒りを抱かずには居られない。

『連隊各機、十秒後に砲撃が止む。これに合わせて全速で前進する!』

シュバリエ大尉が再び指示を下し……大尉の言う通りこちらの砲撃が10秒後にピタリと止んだ。

『よし! 行くぞ! 全機突貫!』




連合のMS部隊の突撃によって狂気に侵された鋼鉄の軍馬の群は大きく乱れた。
MS部隊自体は、進路の障害になりそうな最低限の敵車両群を相手にして進んだだけであったが、目の前を突き進む鋼の巨人達の姿に敵車両群は気を取られ、その進路を妨げようと、或いはすれ違った巨人を追走しようとして急ハンドルを切り、右へ左へ、もしくは反転逆走し―――結果、北アフリカ軍の肉弾攻撃部隊は各々が進路を乱し、その進撃も停滞。
更に整然と陣形を組んで進んでいた訳でもなく、その為に隊列は乱れに乱れてあちらこちらで味方車両同士が衝突・激突し。悪い事に進む連合のMSを無理に狙わんと攻撃した為、同士討ちまで発生した。
加えて麻薬によって見境を失っていた事から多くが同士討ちに気付けず、撃ち続け、非道な肉弾攻撃をも味方に行った。

「何ということだ…」

そのあまりの有様に連合の兵士の誰かがそう呟いた。肉弾攻撃を互いに味方同士で行うという凄惨さからか? それとも流石に哀れに感じた為か?
しかし何であれ、連合は敵の肉弾攻撃に晒される危機から脱した。

909: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:11:58


「こちらウォーリー01、敵MS部隊を確認! バクゥ9 ディン4と接敵! 戦闘に入る! …私はディンを叩く! 他は任せる!」

地雷原を抜けた直後、視界に敵機を収めたウォーリー01は後方の味方と部下に告げ、グッとフットペダルを踏み込んだ。
ディンは高度300m以上、だがこちらは余り高度は取れない。この戦場においてトップクラスの性能を持つ大洋製のMSマラサイであるが、地上では基本的に陸戦機だ。また下手に高度を取れば対空ザウートの的となる可能性もある。

「先ずは…!」

足裏のスラスターを使った疑似的なホバー機動の加速を殺さずに背中のスラスターを噴かし、軽く機体を跳ばす。高度は僅か80m程度に留める。距離が縮まったのを見て、マシンの腕が握るビームライフルを敵機…編隊を組む4機のディンに向け―――3連射!

「…一機落とせた!?」

射撃直後、モニターに映った一つの火球に思わず呟く。
狙いは付けたものの牽制とした攻撃が命中した為だ。だが驚きは僅かに抑え、回避行動で敵編隊がバラつき、味方が落とされた為か動揺が見える隙を見逃さずに左へと回避を行ったディンの軌道先を素早く読んでトリガーを引く!

「ビンゴ…!」

ライフルから伸びた光線が見事ディンの胴体を貫くのを見て短く喝采を上げる。直後に視界の端、全周囲を見渡せるモニターの右に映るディン2機が胸部の装甲を開くのを捉え―――警報!

「ミサイル! でも!」

警報がコックピットに鳴り響くよりも早く、ウォーリー01は機体を滞空させて距離を取る為に左へと滑らせながら右旋回し敵機を正面に捉える。
敵機からミサイルを放たれるのを見…一瞬頭部60㎜バルカンのトリガーを引くか迷い、トリガーを引かずに右へとスラスターの軸をズラして最大に噴かし―――噴炎を上げて高速で正面から左へと通り過ぎるミサイルを見た。

「やっぱりMSの機動に対応できていないかっ…!」

赤外線シーカーを働かせたものの、回避機動を取る自機を碌に追尾できずに通り過ぎた事から未だにザフトは対MS戦を想定した誘導兵器を有していないと確信する。AAMなら追尾できるだろうがそれではMSを破壊する事は出来ない。だが、

「チッ…」

ミサイルが有効でないことは敵も良く分かっていたらしい。牽制だったのだろう。回避先に2機のディンから放たれる火線が飛び込み、装甲に火花が散り、コックピットが揺れる。しかし―――強固な装甲に覆われた彼の機体に損害はなく、ダメージ表示もモニターに浮かぶ事は無い。

「―――そんな火器でこの機体…マラサイの装甲が貫けるか!」

叫んだ。言葉に反して苛立ち気に。
幾ら頑丈なルナチタニウム装甲とはいえ、センサーや関節部に当たっては厄介なダメージとなるからだ。
その為、ウォーリー01は銃撃を貰った事を忌々し気に感じ、これがビームであったらという恐怖も僅かにあった。同時に思いのほか鋭い銃撃と読みの良さにザフトにもデキるのがいるか、という称賛も脳裏に浮かぶ。

「こいつはお返しだ!」

苛立った怒りをぶつけ、微かに抱いた恐怖を振り払わんと…またデキる敵への返礼として、ウォーリー01は火線を避けながらマシンの左腕を素早く腰裏に回して新たに火器を…対ディン用に携行していた197㎜ショットガン…ヤクトゲヴェールを持たせて、続けて手早く照準―――発砲!
放たれた二つの197㎜砲弾は空中でバラけ、ルナチタニウムコーティングを施されたより小さな弾丸を高速で撒き散らす。

「よし!」

バレルロール機動で回避を行いながら接近をしようとしたディンがまともに直撃を受けて装甲共々全身をバラバラに空中で爆ぜ。右へと大きく回避しようとしたもう一機も機体左半分が吹っ飛んで地上へと墜ちる。

「下も片付いたか」

墜ちる敵機に合わせたようにマラサイを地上へ降ろし、部下の乗る11機のドムがバクゥをスクラップに変えたのを確認。

「敵は…来ない、か?」

周囲に動く敵機が見えずレーダーの反応も見るも彼が率いる隊へ迫る敵はない。他の味方に手を取られており、戦力で不利を強いられて積極的な攻勢に出られない為だろう―――彼はそう判断した。

「なら……中隊各機、前進する。このまま敵を押し込む!」

ウォーリー01は指示を出して預けられた部隊…ドムタイプを中心とした隊の役割を果たすべく敵陣へと踏み込む。

910: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:14:05



ザフト・北アフリカ合同軍は重厚な防御陣を引いていた。
かつてブラウン達が〝砂鼠〟を退治した時に見た物と同様の擱座した陸上戦艦の外郭や地上に降ろされたローレシア級の格納庫兼降下ポッドを解体して利用した防壁を戦域に無数設置し、それを盾にし、遮蔽物として銃撃を加え、身を隠して不意を突こうとしてくる。
加えて、自動砲台に同じく機関砲やAI制御の大型トラックを利用した自走爆弾、赤外線感知型のトラップなどを仕掛けてゲリラ的な戦術まで展開する。

しかし、

「隠れようが無駄だ!」

自動砲台と機関砲と連携しつつ固い元艦船の装甲を遮蔽物にして銃撃を加えてこようとするジンを、一機のマラサイが砲撃と銃撃を避け、或いはシールドではながらビームで遮蔽物ごと撃ち抜き、トリガーを引くと共に軽く横に振った為、遮蔽物をも切り裂くように溶断し、狙いをつけたジンとは別に隠れていた僚機…もう一機のジンもビームの熱に撃ち抜かれ、派手に爆発する。

「狙いが甘いぜ!」

また高速のホバー機動で爆弾と化した無人トラックを振り切り、狙いを付けさせずに銃撃や砲撃をも切り抜け、遮蔽物を迂回し隠れるジンやザウートの背後や側面に素早く回ったドムが、バズーカでそれら敵機を爆散させる。

さらに、

「こちらチャリオット01、データ送る支援を頼む」
『了解、位置確認。測距データ受信、砲撃を開始。……弾着! 今!』

他のものより一際…いや、二際以上大きく厚い遮蔽物を確認した前線のドムが、進撃しつつ戦場にばら撒かれた幾つかの中継アンテナを経由して後方にデータを送り、受け取った重砲撃部隊―――ザメルが680㎜にも達する大口径砲を展開し火を噴かせ。
その数秒後、チャリオット01の前方にあった陸上戦艦の装甲を繋ぎ合わせた遮蔽物が凄まじい爆炎と共にひしゃげて吹き飛び、無数の鋼鉄の腕やら脚やら…隠れていた敵MSのパーツも宙にバラバラと高く舞った。

そんな光景は大洋が攻め込んだ戦域のあちらこちらで見られた。
ただ一応巧妙に隠されたトラップは効果は示したものの、基本重装甲のドムタイプとルナチタニウム装甲を持つマラサイが先鋒を務めたが為、大きな損害は生じず。大洋の進撃を止めるには至らなかった。


一方、ユーラシアが攻め込んだ戦域もまた似たようにザフト・北アフリカ合同軍は不利を強いられていた。
切り込み役・楔役というべきドムタイプを中心としたブラウンが所属するシュバリエ大尉率いる第一連隊は、大洋と同じく早々に前面に展開していたバクゥ及びディン改で構成されていたザフトのMS部隊を撃破し、敵の防御陣地に飛び込んでいた。



『少尉、正面…右遮蔽物に脅威3、左に2』
「了解、03《マイヤー》は左を頼む!」

最少編成単位であるエレメントを組むマイヤー准尉の〝勘〟を乗せた言葉を受け、右へと大きく進路を切り…直後、遮蔽物の影からジンが姿を見せて銃を向けてくるが、

「させるか!」

銃撃されるよりも早く、左腕のマシンガンをオートのままに射撃。向こうは高速で動くこちらに狙いを付けるにはマニュアルで対応しなくてならない。その分こちらの射撃のほうが早い。
無論、オートではこちらも狙いは荒くなる。しかしそれで十分だ。銃撃は向けられたジンは慌てて遮蔽物に身を隠す。
その狙い通りの動きに思わずほそく笑む。銃撃に晒されない為に身を隠し動けない敵の隙をついてドムを最大速で駆けさせ、遮蔽物を迂回しながらホバー機動を殺さずに機体を左旋回。

「ロックオン!」

遮蔽物の側面、後ろへと流れるように回りジン2、ザウート1を補足。
敵はこちらが回り込んだことに気付き、振り向き、或いは回避行動を取ろうとするが―――遅い! 右操縦桿のトリガーを引く!
右腕のラケーテンバズから放たれたロケット弾は、違わず3機の敵MSを爆炎に飲み込んだ。

「01、敵MSを3機撃墜!」
『03、敵MSを2機撃墜しました、少尉』

僕の報告とほぼ同時に准尉からも報告が入る。
その間にも動きを止めず、周囲に見える自動砲台と機関砲をマシンガンで排除しつつ准尉の方へと合流し中隊各機に警戒を促す。

「各機注意しろ! 遮蔽物を迂闊に飛び越そうとするな! ザウートが隠れていた! 飛び上がった瞬間に撃たれるぞ! 特にMSが丸々直立して隠れられる遮蔽物には警戒しろ!」

911: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:15:30

先程ジンと共に撃破したザウートを姿を思い浮かべてそう告げた。
恐らくあちこちにある艦船の装甲・外装を利用した遮蔽物は、ただ盾や身を隠す為の物ではない。
遮蔽物を飛び越えようと…ジャンプを誘う為でもあるのだ。見えないザウートの砲撃でこちらを撃破するのが狙いに思える。
その証拠と言うか、ディンどころかアジャイルの姿すらなく、空からこちらを抑えようとする様子がない。
反抗作戦開始から十日以上、敵…あの砂漠の虎も我が方の戦力、MSなどの情報はある程度掴んでいる筈。
このドムや大洋の新型MSの装甲が並みでないと考え、ザウートの…200㎜レールガンぐらいでないとダメージが望めないと考えていても可笑しくはない。実際、アレは脅威だ。

「そうなると、如何にしてザウートの補足範囲や射線にこちらを収めるかが重要となる…か。それも気づかれないように」

そう考えたのは自分だけではなかった。直ぐに司令部から全軍に迂闊な跳躍・滞空機動を控えるようにとの指示が飛んだ。




はぁ、はぁ、と耳元に荒く息を吐く声が聞こえる。額に…いや、全身から汗が噴き出しているのを今更ながらに自覚する。
パイロットスーツの空調システムが追い付かないのか?…とても不快に思うが、

『死にたくない…死にたくない…』
『うう…母さん』
『ぐう…ヒック…こんな、こんな…こんな所にいたくない…』

それ以上に気に障るのは通信から聞こえる声だ。鬱陶しく苛立たしく感じる。だが同時に哀れにも思う。
皆、若く15~17歳程度の子供だ。我がプラントでは成人などとのたまってはいるがそれでも十代半ばの少年、少女達に過ぎない。
そんな事を本国に人間に聞かれれば、成熟した精神を持つコーディネーターうんたらかんたらとナチュラルの基準にどうとか、ああだとか下らない事をうるさく言われるだろうが……子供は子供だ。ナチュラルとそう違いがあるとは思えなかった。

ああ―――だから、くそ! こんなことは言いたくないが、

「どうした貴様ら! 日頃の勇ましさはどうした! ナチュラルなど遅るに足りない、簡単に捻り潰してやる、などと言っていたのは嘘か! 死にたくなければ戦え! 泣いてばかりいても母親に会えないぞ! 逃げたくば涙を止めて今は戦うしかない! でなければホントに死ぬぞ!」

泣きじゃくる哀れな〝成人〟どもを怒鳴りつけて、モニター先でうつむく奴らの顔を上向かせる。
しかし、子供達の顔は絶望したままだ。涙が止まり、顔を上げた分マシだと思いたいが―――そう思う間もなかった。

「!…来るぞ!」

リンクしていた近場のセンサートラップに反応。
微かに遮蔽物から頭部を覗かせると、砂上から僅かに出ている赤外線センサーに引っ掛かり、地面下の爆薬の炸裂に飲まれ、左右の遮蔽物と砂丘の中に隠していたトラップから飛び出す散弾を浴びる十字目が複数見える。だが、

「く…やはり止まらない!」

爆薬の炸裂の中心にいた奴は脚部に損傷が出たようで僅かに動きは鈍いが戦闘に余り支障はなさそうだ。その他、散弾を受けた奴らはダメージらしいものがない。細かな引っ掻きような傷があるだけで若干塗装が剥げたぐらいだ。
焦燥と絶望感が胸を…心臓を掴み、押し潰すかのように委縮するのを自覚する。

912: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:17:10

「…どうする」

フラッシュもスモークももうない。このまま遮蔽物に身を隠して連中をやり過ごし、その背後を襲うべきかと考え―――

「―――しまっ…!」

敵機とカメラ…視線が合ってしまった。しかも悪い事に、

「〝兜付き〟」

ビーム持ちの新型と、

「拙い! 移動しろ! 別の場所に身をうつ―――」




『拙い! 移動しろ! 別の場所に身をうつ―――』

怒鳴っていた上官の機体が目の前で一本の光線に貫かれた。

「ヒ…ッ」

情けない声が漏れる。
やったのはきっとあの兜付きだ。今も隠れているこの艦船の装甲を使った遮蔽物を容易く貫いてくる強力なビーム兵器を持つ機体。
ついさっき…数分前の事なのにもう何時間も前に感じるけど、遮蔽物を切り裂くようにして2機のジンを落としているのを見た。

『やだ…やだ…』
『くぅ…』

上官…隊長の死を見て通信から同僚…友達の声が聞こえる。
恐怖から来るどうしようもない声。私もそんな声を聞くと涙が零れそうになる。けど、

「ナツメ、リラ 泣いてばかりいても何にもならない! 戦わないと!」
『…カリンちゃん』

リラが答える。
そう、戦わないと…もう逃げる事も出来ない。でも怖い、死にたくない……けど、けど、もうどうにもならない!
隊長だけじゃない。他の皆も死んでいった。そうなるだなんて本当に…本当に思ってもみなかった。

「くぅ…」

隊長達が言ってたようにナチュラルが強くて侮れない敵だなんて信じなくて、簡単に追い散らせる、倒せる、殺せるって思い込んで……隊長や上官達の制止する声を聞かずにナチュラルのMSを見るなり、勇んで…ううん、無謀に突撃し、悲鳴を上げて死んでいった。
私もそうなる筈だった。でも隊長の指示に従うべきだとギリギリ踏み止まって死なずに済んだ。

「…ぅ」

思い出して身体が震えた。抑えた涙がまだ零れそうになった。
あっという間だった。信じられない事にナチュラルのMSは圧倒的だった。ジンもザウートもバクゥもあの十字目の機動性に追い付けず、幾ら撃っても撃っても当たらなくて…なのに向こうの攻撃は当たってしまう。
そうして悲鳴ばかりが通信に聞こえ、私も気が付いたら恐怖の余りに悲鳴を上げていた。

913: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:18:30
隊長達が言っていた事は本当だったのだ。認められないけど、強くて侮ってはいけない敵だった。

正直、そのあと…ううん、今の今までどうしてここに居られ、隠れられているのかは余り覚えていない。

十字目のバズーカの爆炎に飲まれ、赤い剣で切り裂かれるジンやバクゥ、兜付きのビームで撃ち抜かれて真っ二つにされる僚機。遠くに、近くに凄まじい爆風と衝撃を来て頑丈な遮蔽物ごと吹き飛ぶ味方のMS。

そんな光景を見て来ている筈なのに、自分がどうして生きているのか分からなかった。
今さっきビームで貫かれた隊長が必死に何かをして、怒鳴り、それに言われるままに自分も銃撃したり、グレネードを投げたり、他にも色々として気がするけど、ハッキリとは覚えていない。
でも分かる。分かってしまう。足のソナーが感知した動態反応。徐々に近づくそれに。

―――ああ、今度は自分の番なのだと、私は死ぬのだと、ナチュラルに殺されるのだと。

そう思った瞬間、怖くてどうしようもないのに、

「うわぁぁああああーーッ!!!」

叫んで身を隠している遮蔽物から飛び出した。
仇を、仇を、一人でも良い! ナチュラルを…! お父さんとお母さんを殺した憎いナチュラルを殺してやるんだ! 死んでも絶対に―――!




『な、何とか…無事です!』

ウォーリー01は部下の声に思わず安堵の息を漏らす。
今のは本当に危うかった。潜んでいたジンを遮蔽物ごと貫いた場所にまだ3機のジンが潜んでいて、そこを通り抜けようとしたドムの眼前、至近に立ち塞がり、銃撃、斬撃、砲撃と部下がそれらに集中的に晒された。
大抵は一機やられた直後は残りも飛び出すか、直ぐに反撃をしてくるのだが、ギリギリまでジッと身を潜めるとは、

「中々に肝が据わっている」

少し関心した。敵がバッテリー機という事もあって動力反応が捉え難いというのもあるが、

「やっぱり油断はできない」

決してした積もりはないが、より慎重に動くべきだろう。そう思い、

「遮蔽物に接近する時は各機警戒を減に! トラップや自爆トラックの事もある、注意を怠らないように!」

ウォーリー01は改めて警戒を高めると、銃創に胴体を穿たれ、ビームの直撃で上半身を失い、ヒートサーベルで腰を溶断された三機のジンを一顧だにせずに前進する。

914: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:19:30



「…!」

目の前の敵…遮蔽物から飛び出したバクゥを銃撃を向けようとしたした途端、センサーに反応! 足元…砂の下から小さな人型が飛び出す。
それは一機だけでない。周囲に無数だ。

「やっぱり潜んでいたか!」

先程、准尉が「地中に潜む者がいる」と警告した通りだった。
PS…パワードスーツに分類される全高3.5mほど人型兵器。グティが砂中に姿を隠していた。
火力が小さく、MSとって脅威でないと思える兵器だが……それも使いようだ。

「当たるか!」

至近、周囲のグティがPS用の大型RPG…使い捨ての220㎜対戦車ロケット弾でセンサー部や関節部を中心に狙い撃ってくるのを回避。
しかし、これまでの手順通りならこれで終わらない。ロケット弾がそばを通過した直後、幾つかのPSからスモークが打ち上げられ、視界が塞がれる。
全高20m前後のMSの視界とセンサー部を覆う高さに一時的に煙りが立ち込め、PSが這い回る位置まで煙が覆うまでの僅かな時間に連中は動く。

「各機! 動きを止めるな! 脚を狙ってくるぞ!」

直ぐに警告する。
〝ジョイントブレイカー〟というザフトが開発したというPS用の長槍―――何でも大西洋のMSが持つ〝アーマーシュナイダー〟なる武装を参考にした物らしい―――を持って足元で蠢動されるので煙で周囲が見えなくとも迂闊に止まるは出来ない。
と言っても、これまでその武器やPSによる戦法が大きな戦果を挙げてきた訳ではない。

そう、これまでこのPSによる奇襲は反抗作戦にて幾度か仕掛けられたが、MSが撃破されたという報告はない。
各軍とも初見でもセンサーや関節部に損傷を負う程度で済み。逆に敵PSは一方的に撃破されるだけで終わっている。二度目、三度目以降は戦術手順が全軍に通達されて完全に対応できていた。

―――ただ、

「MSと連携されるのは初めてだが」

MSとPS、この状況でどちらか片方に気を取られるのは危険だ。
周囲で動き回るPSに注意を向けてMSの攻撃を受けるのもそうだが、MSに注意を向けすぎてPSに関節やセンサーをやられては、敵MSへの対応に支障が出る。しかし、

「…各機、こちらも手順通りだソニッカーを使え!」

手早く視界を確保する為、そして足元で動くPSを牽制する為に無色・無害の高圧縮ガスが込められた衝撃弾を使う。
元よりソニッカーは、スモークを噴き散らす物ではなく、対人用の非殺傷兵器として開発された物だ。瞬間的に風速100m/s以上の爆風を一帯に生むそれは、人を昏倒させるだけでなく、下手をすれば容易く命を奪いかねない物だ。PSではそこまではいかないが―――

「―――そちらから仕掛けてきたんだ恨むなよ!」

高圧縮ガスが連続して解放されて煙が晴れ、生じた爆風に煽られて動きが鈍るグティを捉え、補足した先から90㎜弾を叩き込む。或いは近場にいた奴を容赦なく踏み付け、蹴り飛ばす。
PSの装甲では90㎜弾を受けては原型を留められる筈もなく、5~6倍ほどの体格差を持つ巨人の足をぶつけられても同様だ。中の人間ごと一瞬でバラバラになる。
そんな圧倒的な戦力差に敵PSパイロットは理不尽、不公平な思いを抱くかも知れないが……容赦は出来ない。

―――とはいえ、

『03、敵MSを2機撃破!』
「良くやった。こちらも周囲に見えるPSは掃討した」

こちらとしても気分が良いと言えない。生身の人間を撃った時と似たような感覚がある。
だからエレメントを組む准尉には予めPSが出た時は自分に任せ、他を当たるように言っていた。
…そう、この戦場でMSと連携を図ることは予期されていたのだ。

『………』
「ん、どうした?」
『…いえ』

モニターに映った彼女の顔が何か言いたげにしていたので尋ねたのだが、准尉は首を静かに振った。
しかし、何となくだが准尉が言いたい事は分かっていた。PSの相手を僕が請け負ったのを余計な気遣いだと不満を言いたかったのだろう。
…ただ、それでも言いたい事は遠慮なく言う彼女が何も言わなかったのは、どうしてか分からなかったが。

915: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:20:52



ザフトが主に担当している戦域が大洋とユーラシアの両軍に大きく食い込まれているように北アフリカ軍が主力を務める戦域も同様だった。
彼らの前方から押し寄せているのは、積年に亘って国境の線引きを巡り相争ってきた宿敵…南アフリカ軍だ。
ユーラシア同様にザクとドムを主力にする南アフリカのMS部隊に北アフリカ軍は劣勢を強いられていた。
バクゥとディンの混成部隊を前面に立てたザフトと異なり、肉弾攻撃に投じなかった正規の戦車部隊を前面に立てた北アフリカ軍だが、ドム編成の隊を楔に打ち込んだ南アフリカ軍のMS部隊を止める事は出来ず、

『くそっ、速い! バクゥの奴らは何をやってる! あの十字目を止めろ!』
『っ…やってる! けど―――わぁぁあ!』
『! く…バクゥでも追いつけない! 無理だ!』

ジャンク屋から流れ、傭兵部隊を使って編成した虎の子のバクゥもドムに次々と撃墜され、前線部隊は既に崩壊しつつあった。
元よりMSの数も少なければ練度も低くその事情はお寒い限りなのだ。
その稚拙なMSの機動と連携の拙さは、大洋の指導で鍛えられ、実戦で更にそれを磨いた南アフリカのMSパイロットにとっては、非常にノロノロとしたもの感じられ、敵とはいえ苛立ちさえ覚えるものだった。

「そんな動きで実戦に出てくるんじゃねぇ! わざわざ死にに来たのか!」

ドムを駆る一人のパイロットが、ヒートサーベルで一機のジンを切り裂きながら思わずそう叱咤するように叫ばずいられなかったのだから、それほどまでに酷かったのだろう。

そうしてMSの性能のみならず、パイロットの圧倒的質の差からザフト以上にぶつかる先から溶ける北アフリカ軍のMS部隊だが、そこに更なる凶報が入る。

『緊急事態です。大洋のMS部隊が後方に奇襲をかけてきました! 戦車部隊のみでは防衛は不可能です。増援を…うわぁ!』

前線を任されていた北アフリカ軍の指揮官にそのような通信が届いた。

北アフリカ軍の後方に現れたのは、〝青の部隊〟と呼ばれる元・北アフリカ軍所属の精鋭を中心とした亡命部隊だ。

「父と母…親愛なる家族の仇を討たせてもらうぞ!」
「マリー、クリフ、お前たちが味わった苦しみを奴らにも…!」
「兄弟の無念、晴らさせて貰う!」

民族主義を掲げた現政権の被害者・犠牲者となった彼らは、南アフリカに逃れた後に大洋にスカウトされ、差別される事なく適性の高い者にはMSが与えられていた。

ただ、後方への迂回攻撃という下手をすれば、地雷原の真っ只中を突っ切る事になりかねない危険な任務を指示された所を見ると、亡命部隊なりの扱いはされているとも言えるが……そこは彼等自身も納得している。
亡命者…それも敵国の軍人を受け入れてくれた国や軍に対して、それ相応の誠意や忠義を示す必要があるからだ。
また上層部としてもそれを確かめ、周囲に対しても信頼できる者であると知らしめる為にもそのような多少ダーティな任務を与え、熟して貰う必要があった。

しかしながら地雷などのトラップが危惧されたのに反して、後方は以外にも手薄であり、亡命部隊は何にも阻まれる事は無く、北アフリカ軍の奇襲に成功する。

凡そ40機程度…一個大隊程度でしかないMSによる奇襲であったが、北アフリカ現政権への怒りや憎悪もあってその士気は高く、攻勢は苛烈を極め。前線が崩壊しつつあったタイミングも重なり、亡命部隊の攻撃が決め手となって北アフリカ軍は壊滅した。



916: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:21:54



「隊長、先ほどの攻撃でアフリカ共同体が防衛していたエリアが陥落しました。此れで敵の砲撃がレセップスにも届いてくる可能性があります。ご判断を…」
「…評議会の御曹司でも有るから、余り矢面に立たせたくは無かったんだけど、此処にきたら避けられないか…。ジャスティスとフリーダム、そしてラゴウを出してくれ、こちらもMSで出る。ダコスタ君、指揮は任せたぞ」
「解かりました。御武運を…」

北アフリカ軍の主だった戦力が壊滅に追い込まれ、同時に空での戦いもほぼ決着が付き、分が悪くなった事からバルドフェルドは遅蒔きながら切り札を切る事を決断。
また自らもMSに乗り込んで出陣する……が、

「いや、クライスラーに後の事は頼むと伝えておいてくれ。武運を祈るなら彼にだよ、ダコスタ君」
「…隊長」
「そんな顔をするな。ここに至ってはやむを得ないさ。あと…例の手を切る。本当は整然と下がってから上手いこと仕掛けたかったが…」

バルドフェルドは悔やむように首を振る。

(敵MSの手強さは分かっていた積りだったが、こうも押し込まれ、早々前線が大きく下がるとは……こうなると北アフリカが予定以上に早く崩れたのが幸いか、お陰で逃げる口実が出来たのだから)

北アフリカ軍の壊滅。戦力の過半近い喪失は撤退の口実としては十分だ。
見捨てたようにも見えるが…そこはMSの提供を融通し、ジャンク屋と傭兵と繋ぎを付けた事と、そこまで支援しながらああも援護する間もなく溶けた北アフリカの不甲斐なさを理由すれば―――まあ…如何とでもなる。

(それにこちらとしても既に航空戦力は壊滅に近く、地上も見えている部分では3割の損失が出ている。逃げに入る言い訳としては十分だ……が、やれやれ僕達も北アフリカの連中を笑えないな、まったく…)

自嘲した笑みが零れる。
北アフリカよりもマシだとは言いたいが、半人前の新兵以下の〝成人という少年〟などという未熟で矛盾したものを戦力として頼みにしなくてはならないのだ。
麻薬と肉弾攻撃は兎も角、それ以外では北アフリカ軍の不甲斐なさを笑う事は出来なかった。

「取り合えずタイミングは任せる。もう勝ちは…いや、端から勝ちは望めない戦いだったが、それで何とか全滅せずに逃げる算段は付けられるだろう」

一頻り笑うと、バルドフェルドは信頼する副官に向き直り、もう一手残された策をダコスタに委ねた。




「敵航空部隊は粗方片付いたな。流石はアッシマー、TMS隊は良くやってくれた。連中を下げさせてやってくれ、あとは交代で来る通常の戦闘機で十分だろう。補給も必要だしな」
「了解しました」

敵の航空部隊はもう僅か、直に制空権は完全に連合の物となる。
地上も悪質な肉弾攻撃部隊は自滅も加わって直に排除でき、北アフリカ軍も壊滅に追い込まれ、ザフトも3割近い損害を受けている。あとは無理せず、ゆっくりと包囲を敷き、空からの爆撃と合わせて一挙攻勢に出ればこの戦闘は終わる。

林はそう考えた。しかしそう考えるのはまだ早かった。
アッシマーを下げるのを見透かしたかのようにソレが姿を見せた。

917: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:23:44

「―――ガンダム!?」

マラサイを駆って最前線で戦うウォーリー01は、ソレを…その2機を目にした直後に驚愕と共にそう叫んだ。
同時に強く緊張を覚えて身体が強張り、空を舞う2機のガンダムがウォーリー01のいる部隊へライフルと砲口を向けたというのに指示を出すのが遅れてしまった。

「………っ、さんか―――!」

ガンダムの持つライフルと背負う砲がビームを打ち出す光を視認し、ようやく散開を命じたが余りにも遅かった。

『うわぁああ!』
『ぎゃっ!』
『あ…』

周囲に数多の光線と電光が降り注ぐのがモニターに映り、ノイズ交じりの悲鳴が幾つも聞こえ、レーダーから部下達の反応が消える。

「なっ!?…くっ!」

11機居た麾下のドムが半数が撃墜され、もう半数が大破判定を受けていた。
自身も回避反応は遅れたがシールドでの防御は間に合って損害は無い。だが、ウォーリー01にとってそれは何の慰めにもならない。
部下が一瞬にしてやれらたのだ。指示が遅れた自分のミスもある。

『こちらリッパー01! 敵の新手…新型MSによって被害甚大! 至急援護を―――ぐぁっ!』
『スマッシュ03 隊長がやられた! う、ああ…なんだ、なんだアイツは!? がぁああ』
『…ス、スマッシュ中隊、もう自分だけです! 援護を! 援護を…――――ッ!?』

通信から聞こえる悲痛な声。ウォーリー01が所属する大隊の仲間だ。切り込み役としたドムを中心にした部隊。
リッパー01……上官もマラサイに乗っていたが、

「くそぉ!」

操縦桿を握る手が自然と強くなる。歯も強く噛みしめ、宙を舞うソレを睨んだ。

「…ガンダム!!!」

その名、その特徴的な頭部を持つ機体は彼にとって…宇宙世紀を生きた人々にとってはある意味、崇拝の対象である。
幾つもの戦いの中で信じがたいほどの荒唐無稽な噂が囁かれ、それを裏付ける確かな記録が成され、古の伝説のように語られる、まさに信仰が失われた世界に誕生した神話の主役。その代名詞。現代に築かれた最も新しき神像。

だからそれを知っていたウォーリー01はソレを見た瞬間、戦場で決してあってはならないほど緊張し、思考を漂白させてしまった。
いや、戦場であったからこそとも言える。戦場で〝ガンダム〟と対峙するなど宇宙世紀で戦歴を重ねた彼にとってはとても恐ろしい事であった。

―――そして同時に恥ずべき事だった。

(情けない。ここは私の知る宇宙世紀じゃないってのに! 大西洋のGって奴がザフトに奪取された事だって知ってるのに! だいたい大洋《ウチ》だってガンダムを作ってる!)

異なる世界に生きているという自覚がありながら、過去に引きずられて自失し部下を死なせ、仲間に危機を招いたことに彼は強い憤りを覚える。
この戦場であのガンダムに真っ先に気付いたのは自分だと、…だというのに牽制すらも儘ならず、多くの仲間に被害を招いてしまったという思いがあった。

「これ以上はさせない! ガンダム!」

高度500mほどで地上と空を薙ぎ払うように射撃し砲撃を続ける敵機を見て、ウォーリー01は機体を加速させてスラスターを一気に噴かせた。

918: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:25:23

「うぁぁぁああッ!」

高度300m、敵の左側面、全く似てないが白と黒…あの〝伝説のニュータイプ〟が最後に搭乗した〝RX-93〟と同じツートンカラーの機体に照準―――発砲! 牽制と本命を入れ混ぜて2連射! しかし、

(気付いた!?)

トリガー引く直前、ツートンカラーの〝羽根付き〟は頭部をマラサイの方へ向けていた。
羽根付きは、僅かに機体を後退させて牽制の一射目を避け、その回避先に飛び込む本命の2射目を瞬時に羽を器用に動かして空中でバク転するようにして躱す。秒間にして1.5秒ほど流れるような見事は回避機動だった。
そして同時にライフルをウォーリー01の方へ向け―――

「―――くっ!」

向けられるライフルの射線から逃れるように回避機動。背部と脚部のスラスターを使って宙でステップを踏むようにして左右に動いて羽根付きからビームを避け、

「…!」

反撃に反撃を返そうとトリガーを引こうとしたが…警報! 上を指し示すアイコンが表示され―――左右への回避機動を続けながら機体を大きく後退させた。

「くそっ!」

先ほど居た位置…目の前に上から注ぐビームを見、視線を上げて赤いガンダムの姿を捉える。
ビームを撃ちながら迫る〝赤い奴〟に、後退時の勢いを乗せて機体を素早く上向かせてウォーリー01はライフルで応戦するが、

「当たらないっ!」

MSでありながら戦闘機のようなバレルロール機動を行い狙いを定めさせない。まるで無重力下で見るような動きに思わず驚愕の声を漏らすが、数秒もなく至近まで迫られて敵機の左腕にビームの刃が伸びるのを見て、

「―――!」

自身もビームサーベルにマシンの腕を伸ばさせるが、間に合わないと感じて機体を左に大きくスライドさせる。
一瞬の合間、視界がスローモーションになったような感覚。敵機が振るうビーム刃の軌道を読み、機体を掠める事もなく敵機ごと通り過ぎると確信。

(貰った!)

そのまま落下するように通り過ぎるであろう敵の背中を狙おうと、空を見上げて宙で上向き姿勢にある機体をうつ伏せにしようと180度旋回させ―――

「何っ!?」

―――ようとして、赤い奴もまた180度機体を旋回させながらビームサーベルを横薙ぎに振るうのを見た。
避けるのを見越してのものか、それとも回避されてから対応して制動・旋回・斬撃へと繋げたのか。前者であれば読みが鋭く油断がない事が窺え、後者であれば恐ろしい反応速度・操縦技量だと言える。どちらにしても敵パイロットは並ではないと一瞬で理解する。

919: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:26:19

「――――…!」

旋回機動を半ば中止、脚部のスラスターを使い不安定な姿勢なまま熱いビーム刃の間合いから逃れ……警報が鳴り、小爆発!

「―――しまった!」

躱し切れず、右腕に握るビームライフルがマニピュレータごと敵のビーム刃に持っていかれた。
しかし驚愕も僅かに彼はサーベルに伸ばしていた左腕でビームサーベルのトリガーを入れ、ライフルを失った以上は距離を取られるのは拙いと判断して斬り掛かろうし……それは敵機が振り抜いた直後だから十分に間に合う筈だったが、

「うぁっ!?」

赤い奴が振り抜いた姿勢のまま、背部フライトユニットの旋回機関砲を向けてサーベルの間合いという至近で発射。
至近故に回避も儘ならずマラサイはカメラ・センサー部に直撃。視界が失われてウォーリー01は怯み、それでも勘任せでサーベルを振るうが、

(!? 手応えなし…不味い!)

機関砲の直撃による視界の喪失と機体を揺らす衝撃、そして怯んだが為に避けられてしまったらしい。機を逃した事を悔やみそうになるが、それを堪えて急ぎその場から離れて回避機動。

(不味い!…不味い!)

ライフルを失い、メインカメラがやられ、死を予感して焦燥に駆られる。

「だ―――!」

サブカメラが機能してようやく視界が戻るが―――ダメかっ!と悲鳴のように叫ぶ。
赤い奴がライフルでこちらを完全に捉えていた。視界がない時に拙い回避を行ってしまったのだろう。
サーベルで切り掛かられた時のように視界がゆっくりとしたスローモーションになる。赤い奴の背後…その遠くで羽根付きは空と地上へ砲撃を行っているのが見える。どうりで横槍が入らない訳だ…と死の予感とやられる悔しさの中でそんな考えがウォーリー01の脳裏にボンヤリと過った―――が、

「え?」

こちらを完全に捉えていた赤い奴のライフルが逸れ、ウォーリー01から大きく距離を取り―――直後、敵機のいた位置にビームが通り過ぎた。

『大丈夫か! ウォーリー01!』

聞き覚えのある通信《こえ》が聞こえた。

「リッパー01…少佐!」

上官の声に驚きつつも、先程のビームの射線を追って自分とは別のマラサイを地上に確認した。
マシンの〝左腕〟で射撃を続け、赤い奴を牽制している。

『無事だな! 下がるぞ! 飛び道具を失った状態であの2機とやりあうのは不利だ! それに敵は自在に飛べるが、こっちは地上じゃ陸戦機だしな!』

上官たるリッパー01の言葉を示すかのように赤い奴は高度を上げて、リッパー01へ砲撃。これを砂の上を滑るようにしてリッパー01は避けるがその動きは鈍い。〝失った〟右腕だけでなく、右の脚部も損傷しているのがウォーリー01から見て取れた。

「援護助かりました!」

動きの悪い上官を見て、長く負担を掛けるのは不味いと考えて地上に下がりつつ一挙に後退。
同時に上手い具合に近くにあった…先程やられたドムの物だろう。マシンガンを拾って上官の牽制射撃に加わり、

『―――よし! 後退する!』
「了解!」

悔しさはあった、部下の仇を取れない事に。しかしここは逃げるしかなかった。
周囲に味方はなく、羽根付きの砲撃の凄まじさに迂闊に近づけず、機体はメイン火器を失い、マニピュレータの破損で拾った武器の弾倉交換も儘ならない。上官も俄かに損傷し、同様に弾倉交換も出来ず、動きも悪い。

逃げるしかなかった。

920: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:27:40



ザフトの切り札の投入によって攻勢が鈍った大洋であるが、更なる凶報が彼等の下に入った。
後方へと回り、北アフリカ軍の壊滅に決め手を指した。青の部隊を中心とした亡命部隊とそれと合流し、ザフトの側面を突かんとした南アフリカ軍のMS部隊に多大な損害が生じ始めたからだ。

「悪いがこれ以上は進ませない。…行くぞアイシャ!」
「ええ、アンディ!」

その原因は、このアフリカで勇名を刻んだザフトの指揮官にしてエースパイロットであるバルドフェルド率いる部隊にあった。
彼の駆るラゴウ・ハイマニューバを中心に無数のノーマルのラゴウとバクゥとディンの部隊。これによって、特に北アフリカ軍に続いてザフトの後方を突かんとした連合の部隊に損害が発生した。

『…!? こいつら今までと動きが違う!』
『さ、砂漠の虎か! 気を付け―――がぁ!』
『クイン! くっ! 散開! 散開しろ! 数はこちらの方が多いんだ! 包囲さえすれば!』
『ドムの機動性を活かせ、新型だろうが砂漠の虎だろうが、こいつに―――ぎゃ!?』
『…っ 油断するな! 敵のエースだぞ! 教官殿を相手にする積もりで掛かれ! でなければ死ぬぞ! 他の奴らにもだ! 動きも連携も良い! ベテランの精鋭揃いだぞコイツら!』

これもまたザフトの最新鋭機にも勝るとも劣らない切り札と言えた。
砂漠の虎というエースとその指揮下にあるアフリカ方面軍の最精鋭部隊。その猛虎達の鋭い牙と爪は容赦なく連合の部隊を切り裂く。




そしてユーラシア軍の居る戦域もまた、


それはグゥルでの高度200m以下の低空飛行でそいつらは現れた。
グゥルから飛び降りて前方、距離凡そ4000にて展開。遮蔽物を盾にしつつ接近して来る。

『何、この感じ? シュバリエ大尉とは違う…暗い淀んだ気配…これは……何をそんなに…?』
「准尉? …! 来るぞ! 各機注意しろ! 今降りた連中は何か違うぞ!」

マイヤー准尉が何か上の空のように呟くのを聞き、それに触発された訳ではないが前方の敵にこの戦場ではこれまで相対した敵とは異なる気配を覚えた。その数秒後、遮蔽物から躍り出た機体…砂漠には似合わない濃緑色のMSから光線が伸びた。

「!―――…ビーム兵器!?」

距離3000、こちらとしては有効射程距離と言い難い位置からの射撃。敵機の姿を認めた途端、嫌な感じを覚えて回避機動を取ったが、

『ぐわっ!』
『ぎ―――!』
『…ぁぁあ!』

ノイズの混じった声と共にレーダーから味方機の反応が幾つか消えた。

『ぐっ…新型!? ビーム兵器持ちの!』
「各機注意しろ! データに無い機体だ! ジン、シグーの後継機と思われるが四足機…バクゥ…いや、ラゴウタイプを相手にする気で掛かれ! 手強いぞ!」

921: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:29:09

ブリックの動揺する声を聴き。3000ほどの距離から一方的に射撃を加えてくる敵機達の攻撃を避け、距離を詰めながら部下に警告する。
新型機というのもあるが動きが良い。一か所に留まらず絶えず位置を変え、遮蔽物から遮蔽物を移動する僅かの合間にこちらを狙い撃って来る。その射撃は中々に鋭い。
それもほぼ間断なく、誰かが身を隠せば別の誰かが姿を見せて撃ち、撃っては直ぐに身を隠し、その間にまた別の誰かが異なる位置から姿を見せて撃つ。
それらを繰り返し、狙いを定めさせずこちらを撹乱するように有機的に動く…全体的に。つまり練度が高いという事でもある。

「こちらも遮蔽物を利用しろ! ただし留まるな! 向こうはビーム持ちだ! 遮蔽物ごと撃ち抜かれかねない!」

大洋の新型やウチのビーム兵器ほどではないと思うが、それなりに威力があると見ての判断だった。余程厚みのある遮蔽物でないと敵のビームは防げないだろう。
一応、ラゴウタイプの出現に合わせてシールドには特殊積層フッ素コーティングによる対ビーム処理が施されているが…所詮間に合わせだ。同箇所への防御は1、2発が限度。頼みには出来ない。

「03《マイヤー》と僕で敵の中央に突っ込む! 02《ブリック》、04《パウロ》は残りを率いて左右に展開しろ! だが直に後続も来る無理はするなよ!」
『少尉と准尉こそ無理をしない下さいよ!』
「大丈夫だ!」
『……ええ、気を付けます』

ブリックの心配げの声に頷き、強気な准尉としては珍しく慎重な様子で応えている。それを訝しげに思ったが……考えている暇はなかった。
傍を掠めるように通り過ぎ、或いは砂上を穿つ光線。ホントに鋭い射撃だ。ドムのホバーによる快足を理解し、その機動を読まんとして撃って来る。
スモークを使うか?と一瞬そんな考えが過ったが却下する。これほどの練度だ。即ソニッカーで対応されるだろう。フラッシュバンも同様だ。
一方的に射撃に晒されるじれったい時間を遮蔽物を使わずに突っ込み……十数秒。距離1500を切り、

「おおっ―――!」

自分を狙い伸びた三条の閃光を避け、その内の一条…それを放った正面僅か左の一機を、敵が遮蔽物から姿を見せて撃ち、次の遮蔽物へと移動する合間、その一秒程度僅かの間に、

「―――そこっ!」

マニュアルで照準、発砲!
左のマシンガンから伸びた火線が濃緑色の敵機へと突き刺さり、装甲のあちこちが弾けて爆散するが、それを確認する前にトリガー引いて直ぐに僕は―――

「―――次!」

続けてくる閃光を避け、射撃して数秒もなく姿を隠さんとする敵機を逃さずにカウンターとして90mm弾を叩き込む。
敵の半包囲の中、一つ間違えば敵機のビームに撃ち抜かれかねないが、絶えず動き、遮蔽物と遮蔽物を移動する僅かの合間に狙い撃って来る敵を撃破するにはそれしかなかった。
或いは、幾ら練度が高かろうとも癖やパターンはあり、それを読めばこんな無理をする必要はないかも知れないが、それを読み、分析する時間はない。
さらにもしくは…視界の端に准尉が敵機を撃破したと思われる反応がセンサーが捉えるのを見る。
彼女のようにただ〝勘〟に任せて敵が姿を見せるよりも早く銃口を向け、姿を見せた瞬間に撃たれる前に撃つという事が出来れば良いが―――

922: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:30:09

「―――無理だっ、な!」

カウンターで更に一機撃墜しながら脳裏過った考えを否定する。
厳しい訓練と戦いの中で勘を磨いて来たとはいえ、そこまでの反則めいた予知的な勘は僕には持てない。彼女のようなエスパーではないのだ。
……口に出してそう言ったら准尉は怒るだろうが。

『少尉ッ!!』
「!!―――」

准尉の鋭い声が聞こえ…瞬間、心が読まれたかと思い―――チリッとした感覚が背筋に奔り、その感覚が訴えるままにシールドを構え…衝撃。

「くっ!?」
『―――させないっ!』

シールドにビームが当たったのを感じ…防ぎ、回避機動を優先したというのに続くチリチリとした感覚に拙いと思ったが、准尉の叫びと共にその感覚が消えた。

「なんだ!?」

回避機動を取りつつシールドで覆われていた視界を戻し、見慣れぬ機体を視認。

「こいつは…確か」

初めて見た敵機にコンピュータが自動でデータ照合を行い、モニターにそれが表示される。

「大西洋のMS…ザフトに奪取された奴か!」

上空数十mで滞空し准尉の狙撃を躱す赤い機体―――〝GAT-X-303 イージス〟。それに…、

「…チッ!」

警報と共に迫るミサイルを避け、回避先に伸びる2つの光条と火線と電光を左右両足のホバー出力を交互に入れ替え、バランスの悪い独楽のような動き…敢えて不規則にした旋回機動で躱す。

「さらに2機、追加か!」

ミサイルとビームと電光と火線元に正面を向けて呟いた。重装甲の機体と支援型と思われる機体。
〝GAT-X102 デュエル〟に〝GAT-X103 バスター〟……まさか奪取した機体を実戦投入してくるとは。

「正気とは思えないが…」

貴重なサンプルを前線に投じるという暴挙に信じ難い思いが強くあったが、戦場の中で感じていた緊張が僅かに高まるのを自覚した。

「データ通りなら敵はフェイズシフト装甲……」

ザフトの事情は分からないし、信じ難い暴挙だが厄介な敵が出て来てくれたのは確かだった。
オマケに先の新型と所属を同じくする部隊の一員であれば、練度は低くない筈。貴重な機体を任されるのであれば尚更だ。
赤い機体…イージスは准尉の相手で、コイツらは僕か。そして、

「……03を除いた各機、繰り返すが無理をするな! 直に後続が来る!」

そして新型が対峙するのはブリックとパウロ達だ。彼等なら大丈夫だと思うが念を押すようにそう皆に告げた。

923: 蒼猫 ささら :2017/03/22(水) 23:31:43
以上です。

肉弾攻撃部隊は狂っているが故にほぼ自滅。MS部隊はスルーして敵陣へ攻勢に。
防御陣地を構築するザフトであるもMSの性能差もあって僅かな足止めにしかならず。若い成人もベテランも分け隔てなく損耗。
PSとMSの連携を図るも失敗。ただこれは北アフリカ軍が先走ってこれ以前の戦場でPSによるゲリラ戦を行い、対策を立てられた事と対MS戦での検証データの不足と練度不足も原因です。
ジョイントブレイカーは∀のウァッドが持っていた物の柄をより伸ばしたイメージです。アーマーシュナイダーと同様に高周波(振動)の刃を持ち、関節部に突き刺して電撃で機器をショートさせる機能を持ってます。

北アフリカ軍の背後への警戒の緩さは実はワザとな部分もあったり……ある程度は持って欲しいという思いがありながら、ザフトが逃げる口実を作る為に早々壊滅して欲しいという意図もあったという感じです。
ただ、虎さん的には色々と想定からズレていますが、結果としては悪くないタイミングで壊滅しました。

マラサイと正義の戦いですが、ほぼ同性能でありながら圧倒されて敗退したのは、滞空性能も高い第二世代機であるも、自在に空を飛べる分、重力下では正義の方がやはり優位である事。そして何よりも中身がモブと主役級エースパイロットという差が大きい為です。
一応UCからの転生者であり、ベテランパイロットであるもエースにはなれない程度の実力といった感じです。
戦歴は一年戦争から数年後に連邦軍に任官。エゥーゴ、ティターンズに加わってはいなかったのだけど、グリプス戦役にて所属部隊が小競り合い巻き込まれる形で初陣を経験。その後、なし崩し的にカラバへ所属。
第一次ネオジオン紛争にも参加するも大規模な実戦に出る事もなかったお陰で無事生き延び。その後は連邦軍に復帰したものの戦争に関わる事無く過ごし、第二次ネオジオン紛争から暫くして、民間交流でのイベント…基地祭のMSパフォーマンスにて整備不良のMSに乗り込んで事故死、殉職。
ちなみに前世も今世も女性としてます。なおアニメ声のロリ巨乳というキャラだったり……恋人募集中。

虎さんの乗機をハイマニューバにしたのは、ノーマルでは三連星の乗るガルスJとやり合うのは厳しい事と連合のMSへの警戒が強かった為、彼なりに対策を練った結果としてます。
他にも虎さん率いる最精鋭部隊にはノーマルのラゴウを複数加え、バクゥなども現地改修型や仕様変更した機体があります。

そしてジンとシグーの後継機たる新型…まあ、ゲイツなのですが、ナイ神父氏の本編では5月30日に出てるので、5月に入る前後には試作機や評価試験器や先行型などが複数あると考え、地上での稼働データの収集を目的を含め、クルーゼ隊に実戦配備されたとしました。総数は16機。
ただ虎さん的には胡散臭い仮面男への疑念に加え、実質、評議会の御曹司達のお守り役部隊であった為に有力であるも当てにしていませんでした。
戦局が悪くなったのでそうも言ってられなくなりましたが…。

新型ザウートやバクゥなどの改修機とゲイツの地上仕様は次回以降に設定を投下しようと思ってます。
あとカリン、ナツメ、リラの3人のザフトモブ兵の設定なども。

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最終更新:2017年03月27日 12:41