338: 時風 :2017/03/25(土) 00:32:04
大陸SEED ネタ支援SS Zの咆哮 ー第三話ー 「青い稲妻」

––––––––視界に、白い天井が広がっている。知っているようで、知らない天井。

「––––––––––」

直ぐに、自分が医務室に居て、ベッドに横になっているのだと気付いた。おそらく、ナスカ級か、ローラシア級の。
……こういう時は確か、知らない天井だと言えば良いのだろうかと彼–––––––ジノ・ヴァインベルグは思考しながら、何故自分がここにいるのか、記憶を辿ることにした。
わかる限りの最新の記憶。
それは沈んでいく艦船。
護るべき新人パイロットが為すすべなく、閃光に呑まれた一瞬。
稲妻のような動きをした機体と、それに追従するように突っ込んで来た緑の機体。
あらゆる方向から襲い来る一撃に、機体の手足を捥がれた親友の姿。
そして……

「…………ッッ!!」

右腕を振り下ろす。衝撃と、ベットが軋むような音と共に、痛みが走る。
が、この痛みすら生温いものだとジノは知っていた。ビームの熱に焼かれ、遺体すら残らぬ、年端のいかない彼らが味わった痛みに比べれば!
不甲斐なさや生き残ったことに安堵した自分に対する憤りの方が、ジノの心中を占めていた。

「情けない……!」

まるで動きを読まれているかのような動きだからと。性能も、練度も違うのだからと。それだけで敗北の言い訳をするなど、ジノの矜持に反していた。
敗北が即座に死へ繋がるMSパイロットの世界で今こうやって運良く生き残った自分が、浅ましく虚飾をするなどあってはならないのだと。
それは、今までの犠牲や仲間達の挺身に、そして戦友と親友との誓いを反故にすることなのだから。
自身の至らなさが、そして無力感が、どこまでも自分を苛立たせて。

「ジノ……?起きた?」

医務室のドアの外から、声がした。副官、というよりも、親友と言ったほうが良い人物の声だった。

「ハヤテか……」
「ちょっと荒れてたみたいだからね。入らないようにしてたけど……大丈夫かな?」
「……君に気を遣われるとは、な。問題ない、少しばかり、我が身の不甲斐なさに苛立っていただけさ」

こちらを気遣ってくれた彼に感謝すれば良いのか、どうなのか。気恥ずかしさを感じながらも、ジノは彼に大丈夫だと告げて。

「なら良かった。少し話もしたかったし」

ハヤテが入って来た。水色に近い髪を持つ、あどけなさを残した我が部隊の古女房。

「ん。問題はないって医者から聞いたけど、本当に大丈夫そうだね」
「まぁ、な。ところで私のゲイツはどうなってる?」
「酷いよ?ホントに。コックピットから上が捥ぎ取られてる」

……なんだそれはと言いたくなった。確かに自分は大洋のGに撃たれた瞬間から記憶がないが、そんな状態でよく生き残れたというか……なんという豪運なのだろうかと、ジノはしばらく言葉を失って。

「ハヤテは、どうだった?」
「僕?腕に脚にと吹き飛ばされてデブリに激突、殆どダルマにされて放置」

どうやら、彼も彼で酷かったようだ。とはいえパトロール艦隊が来るとしても、ろくに動けないままは恐ろしいもの故に、あっけらかんという彼に対して若干の驚きがジノにはあったが。

「あの緑の機体……他に落とすべき敵を見てたんだろうね。こっちが闘えないこと、パトロール艦隊が救助に来ることも考えての放置だったんじゃないかな?」
「つまり……?」
「まぁ、相手にされなかったってことかな?後者の予想は完全に希望的観測だし」

さっぱりと言い切る彼の姿は、やはり自分には図太く見えるようだとジノは思う。ここまで割り切ることができる人間はあまりいないとも、同じように考えて。

「……二度目の襲撃は、ないだろうな?」

思い出したように、ジノはそのことを懸念する。
もう一度、あの大洋のGが来たら……不甲斐ないことだが、時間稼ぎしかできることはないだろうとも思って。

「ない、と思いたいね」

339: 時風 :2017/03/25(土) 00:32:57
答えたハヤテも同じなのか、どこか祈るような声色だった。
同意を得られたことに安堵したのか、ジノは脱力したようにベッドに体を預けて、息を吐く。

「アルも、同じ気分だったのだろうか……?」

思うのは、上層部ではなく自分に戦闘––––––大洋のGと、特務部隊と交戦したという–––––––の報告をして来た、自分の戦友。
彼––––––––アルフレッドに並ぶほどのパイロットなど、かのクルーゼ以外に考えられなかった自分にとって彼の寄越してきた報告は、およそ自分の目を疑うモノだったのだ。
フリーダムと互角に戦うことのできる試作運用中の量産機。単体で艦船以上の火力を持ったMS。そして、大洋のG。どれとこれもが恐ろしく、彼が自分を通して伝えて欲しいといった理由がすぐに分かった。
これは危険だと。それこそ、上層部の握り潰しを彼が恐れるのが解るほどに。

「パトロール艦隊の者達は、私とハヤテの戦闘データを見たのか?」
「ん。見たみたいだよ?……思考は止まってるだろうけど」
「まぁ、そうだろうな……」

自身もそうだったのだからさもありなんと、小さく頷く。
結局の所、アルフレッドの寄越した戦闘報告は自分のモノとして上層部に送る手筈だった所で起きた今回の戦闘だ。得られた収穫は……その報告をより鮮明にしてくれることだろう。自身も、彼の戦闘データがなければ翻弄の果てに殺されていただろうから。
まぁ上層部は気分が沈むを通り越すだろうが、必要な犠牲だとジノは割り切ることにする。
この報告を見て見ぬ振りをして、さらなる苦境に自身を追い込む程ザフトの上層部は愚かではない……はずなのだから。

「まったく、アルが孤立してしまう理由がよく分かるよ……見たくもないモノを、無理矢理見せることになるのだからね」

憂鬱そうに、ジノは嘆息する。
悪い言いかたになるが……上層部に睨まれ、白眼視されてるアルフレッドよりも、自分の方が悪印象は少ないのだ。

「だが、目を瞑り耳を塞いでも状況は変わりなどしないのだから……やれることをやるしかない」

そう。それこそが、自分達が生き残るために、これから来る新米たちを生き残らせる為に何よりも必要なことなのだから。
できることが少ないからこそ、やらなければならないことがある。
それは、ジノがこの戦争を通して見つけた持論だった。故に。

「付き合ってくれるか?ハヤテ」

彼は問う。自身の友に対して。

「勿論。ジノがやるなら、どこまでも」

彼は答える。どこまでも穏やかに。
……それはきっと、歴史において、たった数行で片付けられるだろう闘い。だが、それは誰かがやらねばならぬ闘い。

「まずは、同じ派閥である中道派の人達にそれとなく伝えていこうか。いきなり上層部に持っていけばパニック間違いなしだからね」

言って、ジノは己の拳を天井の照明に翳し、握りしめる。まるで小さな光明を掴むかのように。
それが、乗機を失い、しばし戦場から離れることになるだろう今の己の役目に違いないと信じているから。
そう、この時をもって。彼らのもう一つの戦いが、始まろうとしていた。

340: 時風 :2017/03/25(土) 00:33:32

「––––––––––そういえば、ミズキ」
「ん、なんだ?レイチェル」

食堂。あの戦闘が終わってから始めての食事を、俺たちは取っていた時だったか。

「狙撃を当てるコツって、何かあるの?」

レイチェルが、そんな疑問を水希に投げかけているのを、俺はトーストをかじりながら隣で見ていた。
首を傾げながら聞く彼女に、水希も鏡であるかのように首を傾げ、唸るように考え込みながら。

「コツらしいものは、特に……ないな」

どこか迷うように、言葉を絞り出してきた。

「ホントにないの?」
「ない、のか……?ない……と言えるのか疑問だが……」

首をひねるどころか、水希は腕組みまでしてうんうん言い出す。何かが喉に引っかかっているような表情だと、俺は紅茶を飲みながら思って。

「そこまで疑問に思うなら、口に出してみたらどうだ?俺もレイチェルも、なんか変な理由言ったって笑うほど薄情じゃないし、むしろ納得する」
「うん。ミズキの狙撃は外れる方が珍しいから」

飲み干した後、言ってみる。骨があるなら、取り除いた方が良い。そういった燻りが残ると実戦にまで影響が出るかもしれない。レイチェルも同意見なのか、頷きを返しているし。
そう思いながら、彼女が口を開くのを待って。

「……線が、見えるんだ」

唇が、動いた。

「線?」
「ああ。狙撃をする為に集中していると、線が見える。それでな、その……敵は大体、その線に追いつくように動くのだが……」

……どういうことなのだろうかと思ってレイチェルの方を見るが、彼女も首を横に振っている。
ニュータイプの先輩が知らないということは……どちらかと言うと、ゾーンに近いか?
前々々世……平成の世では、ゾーンと言われる言葉があった。極限にまで高まった集中状態を指す言葉、と言えば良いのだろうか。何もかもが手に取るように把握できたり、動きがとてもスローになったり、自分が手に持っている物や乗っているものと一体になるような感覚だったり。
別の言葉で言うなら……無我の境地、というやつだろう。

「話を続けるぞ。その線は常に動いて、端が光っていて……時折、機体がその線に追いつく時がある」
「……その時に撃つと?」
「必ず当たる。それで外したのは明人やレイチェル、そしてあの時のフリーダムだけだ」
「あの時のフリーダム?」

断言、とも言うべき口調で水希が言う中、レイチェルが疑問を呈してきた。
……確かにアイツと戦ったのはレイチェルが来る前だから、彼女の疑問は間違っていない。

「レイチェルが来る前に俺たちが戦った敵のエースだ。『443』ってマーキングを機体の肩につけたフリーダムで……途轍もなく、強かった」

その疑問に答えながら、思い出す。一瞬の接触回線で交わした会話と、今も目に焼き付いているフリーダムの機影を。強さを、プレッシャーを。
–––––––どうやら自分は相当、あのパイロットを意識しているようだと、小さく苦笑して。

「とにかくまぁ、そういうことなのだが……どうだ?変か?」
「いや、全然」

取り敢えず、彼女の迷いを吹っ切らせることにした。

「集中しすぎて景色がスローになるとか、そういうのは良くあるしな。というか水希は空間認識能力あったか?」
「半信半疑、という所だ。インコム系は動かせるが、どうにも動きが悪くてな……私のドーベン・ウルフにインコムがないのもそれが理由さ」

自嘲するように、水希が小さく、皮肉気味に笑う。

「けど、あそこまで正確な狙撃ができるのは凄いよ。ね、アキト」
「ああ。線ってやつがなんなのかは分からないけど……水希が後ろにいるってのは凄く安心する」

言いながら湯飲みに手を伸ばして、飲み干したことに気づく。

「そう言って貰えると、私も安心するよ。だが……二人とはたった数日しか共にいないのになぜか、かなり昔から共にいた気がするな」
「だね」
「ああ」

341: 時風 :2017/03/25(土) 00:34:02
どこか面白いように、三人で笑う。
戦争という異常の中での日常。前世や前々世において経験したことが、またこうやって再現されている。
けど、誰もが兵士になってる訳ではない。銃後の人々が脅威に晒されているわけでもない。
それはきっと、途轍もなく尊いものだと俺は知っているから––––––。

「ムンゾに行けるのは何時になるのかなぁ」
「なんだなんだ?今になって後方が恋しくなってきたか?」
「違う違う……俺達が護ってるものを噛みしめたいなぁって」

無性に、それが確かめたくなってきたのだといつもの笑みを浮かべた水希に伝える。

「なんというか、アレだな。そんなことを言う時の明人は……戦争に疲れた老兵のような感じがするな」
「う……」

図星を突かれたような感じがして、喉が詰まる。口に運ぼうとした緑茶の湯呑みを止めて。

「生きる理由が薄れていったら捨て鉢になるだろ?それに……どんな些細なことでも良いから理由作らないと、死に場所求める羽目になるからなぁ……」

繰り返される戦闘で憔悴して、捨て鉢で闘いに赴いていた仲間を過去に見たせいか、どうもそこらへんはかなり気にするようになってきたとは思う。
まぁ……死人に足を引っ張られたくないから、いちいち理由を求めていると言われたらそれまでなんだろうけど。

「取り敢えず今日生きようとか、そう思うだけでも違うんだよ、色々と」
「……疲れないの?そういう生き方」
「疲れないって言ったら嘘になるけどな」

レイチェルの意見に苦笑しながら、軽く言う。
物事の本質を見切る故なのか、それが常に気を張り詰める行為だというのが分かってるのだろう。
……それが、戦争だということも。

「まぁ、気を緩める機会なんて幾らでもあるからな。で、またこの時を過ごそうって思うだけでも、人によってはかなり違うのさ」

なんて、少し良いことを言った気分になりながら飲み物を注ぎに行こうと俺は席を立ち。

「……そろそろ哨戒の交代時間じゃないか?」
「……確かに」

現実とは儘ならないことも思い知って、ため息をつく。

「そんなに嫌か?」
「嫌じゃないが……あー良いこと言ったんだからもう少し待っててくれよ神様!」

締まらないのは、話が滑るよりもムシャクシャする!なんて言いながら、ガシガシと後頭部を掻いて。気づく。

「………お前らもだろうが」
「フ、バレたか」
「そりゃバレるよ、ミズキ」
「水希。そんな如何にもなこと言ってもこの状況じゃ締まらないぞ、分かってんのか?」

はいはい、なんて言いながら水希とレイチェルも立って、三人で格納庫に向かう。俺が一番前で、レイチェルが真ん中、水希が一番後ろ。自然と、そんな風に列ができる。
それはやっぱり、ほんの少し前に会ったばかりな癖に、ずっと前からそうだったかの様で。
––––––––悪くはないな。
そう思いながら、俺達は自らの愛機に乗り込んで、いつものように––––––––どこまでも自由な宇宙(ソラ)を駆けていくのだ。

342: 時風 :2017/03/25(土) 00:35:08

《あー、あー……こちら福田から笹原へ。聞こえてるか?》
「こちら笹原。無線感度良好……なんだ?」

いつも以上に調子の良い通信感度に若干の違和を感じながら、どことなくそわそわしている福田の通信に答える。
今の哨戒員はニカーヤから俺、水希、レイチェル、福田の四人。そして『筑波』のガ・ゾウム四機が出ている。
で……俺たちは、通商破壊戦をしてアルテミスに帰港予定のユーラシア所属の小艦隊とすれ違い、接触する–––––––大尉曰くお披露目––––––ことになるのだが……。

《お前が出てきて大丈夫だったのか?》
「ガンダムが出てた方が宣伝になるんだってさ」
《正確に言えば、ザフトに対する威圧だな》

呆れ気味に言った俺に、水希が言葉を被せてくる。
意図は二つ。警戒網が接しているユーラシア連邦に対してガンダムタイプを要する部隊が協力して警戒に当たるという状況を利用した宣伝と、ザフトに対する威圧だ。
あっちがこちらをどう思ってるかなんて分からないが、少なくともガンダムタイプに対する警戒は見て取れたから、俺とZを出して敵が襲ってくるのを思い留まらせるということらしい。
俺たちだって十数時間前に大立ち回りをしたばかりなのだから、無用な戦闘を避けたいと思うのは当然だ。
連戦連勝でも、休みなしに戦えばいつかは負けるのだから。

《専用色を塗られたガンダムタイプ––––––彼らが言うにGだったか?それに乗っている敵がいる。余程の阿呆でもない限り仕掛けては来ないさ》
《けどよ、ふざけた色しやがって!とか言って突っ込んでくるかもしれねぇぞ?》
「俺はそこが心配なんだよ……」

言って、ため息をつく。
大抵、専用色に塗られたエース機をパイロット達が畏れるのは実績ゆえだ。あの白の機体に狙われたらヤバイ。あいつと戦場で会えば絶対に死ぬ等と言われるのも、その機体に乗ったパイロットが強いから。
例えば毒を持ったカエルや虫は、派手な色合いで己を存在を誇示することで近づけさせぬようにする。
これは警戒色というやつで、二つ名持ちや専用色持ちにもそれが当てはまる。なら実力、実績のない奴がそんなことをしていたら?当然、福田が言った通りに敵が我先にと突っ込んできてお陀仏だ。
当然、俺なんてまだZに乗り始めたばかりだから、敵に名が知られるなんて夢のまた夢な訳で。

「青と白だぞ?今の俺のZ!これが戦闘中なら良いが、今哨戒だからな!?この意味分かるか!?というかおやっさん達の仕事早すぎるわ!!」
《アキトが塗るの許可した瞬間に始めたからね……》
《まぁ、気持ちは分かるよ。なぁ?》
《うん。カッコいいもんね、アキトのZ》

こっちが恥ずかしさやらなにやらで頭を抱えてるのと対照的に、あっちは和気藹々というか、レイチェルは自分のことであるかのように笑顔になっているというか……カッコいい、かぁ。
……うん。確かにZはカッコいい。それだけは間違いない。二次創作で主人公機にしたかったけどグリプス戦役時代は泣く泣くZプラスで妥協したくらいにはかっこいいし、大好きだ。

「ただなぁ、ユーラシアの連中がどう思うか……」
《アキトのこと馬鹿にしたら、私がインコム……ファンネルで牽制してあげるから!》
《正直に言うがよ、お前は二つ名ついたって文句無い技量だと思うんだが。あれか、威厳が足りないのか?年齢か?》
「おい福田、なんて言ったかもう一回言ってみろ、ん?」

さっきまで納得しかけたのにお前の一言で軽く台無しになりそうなんだが。というかレイチェルはドーベンのインコ……ファンネルを飛ばすな、怖い。

《まぁ、ユーラシアのパイロット達は専用色を見て笑うほど節穴ではないだろうさ。一回戦闘になって、彼らの眼前で派手に活躍すれば新聞にも載れるぞ?》
「あー……」

そういえば、彼らはこっち(大洋)のエースも派手に宣伝してたなぁと、笑みを浮かべた水希の顔を見ながら、頭の隅で思い出す。
まぁ、とにかく。

「馬鹿にされなければ良いかな……」

こっちにだって、Z乗りとしての誇りはあるのだから。そんなことを思いながら、メインカメラで周りを見て。

「レイチェル、何か感じるか?」
《ううん。こっちは何も》
「ん。俺も感じないし、こっちのレーダーも反応はない…今の所は問題なし、か」

彼女が感じないなら、近くに敵はいないのだろう。そんなことを考えながら、時間を見る。
……1350。か––––––––。

「あと二十分くらいで見えてくるか……?」
《たしか、ユーラシアの戦力は……》
《こちらの言語で言うと、須磨型二隻、和泉型一隻の小艦隊だな。パトロール艦隊、って言っても良いが》
「……少ないな」

343: 時風 :2017/03/25(土) 00:38:38
小さく、呟く。合計で十二機。
パトロール艦隊とすればこの程度なのかもしれないが、不安が残る。自分達の目と鼻の先で盟友の艦隊が沈むのだけは避けたいという気持ちがあった。
もし、もしも––––––––––。

《こちら筑波の哨戒部隊の指揮を執っている高木中尉だ。ニカーヤ隊、そっちは問題ないか?》
《こちら福田。問題はありません》
《分かった。ユーラシアの方で万一があった場合、俺たちだけでも救援に向かって時間を稼ぐようにとの命令があることもあるが、あまり張り詰めないほうが良いぞ。特に笹原少尉はな》
「はい。分かってます」
《ああそれと》
「?」

言いながら、高木中尉のガ・ゾウムがこちらを向く。通信映像に映る中尉の顔も、どことなく念を押すかのように笑っていて。

《俺たちの部隊、第十六広域特務部隊は今日を以って第二特務艦隊に名前が変わったから、間違えないようにな》
「はい。分かってます」

–––––––戦時特有かつ稀によくある事象の一つとして、部隊名の混乱がある。我が第十六広域特務部隊は不運なことに––––––男の子にとっては厨二心をくすぐる名称だから幸運か?––––––––その只中に巻き込まれ、第一、第三特務艦隊の編成や再編が済んだ後も、旧来の特務部隊の名称でやらざるを得なかった。
そして本日未明。我が隊はその混乱からようやく抜け出し、本来の名称……《第二特務艦隊》への改名が済んだのだ。
個人としては、ようやく落ち着いて安心したのやら、聞き慣れ、そして言い慣れ、親しみを持てるようになってきた名称で呼べなくなって悲しいやら、よく分からないものだと複雑で、苦笑を浮かべるしかないのだけれど。

「まぁこっちの名前も、いつかは慣れるか」

そんなことを思いながら哨戒を続けて。あと五分で接触圏内。ユーラシア艦隊の光が朧気に見え始めるだろうとレーダーの探知範囲を広げようとした瞬間。

《……!》
「この感じ……!」

感覚が走る。背筋から眉間、そしてこめかみへと電流が走るような感覚。それが何なのか、直感で理解できた。或いは、彼女も感じたからかもしれないけれど。
–––––––––何かが、来る。
そう、理解して。

「高木中尉!ユーラシアの哨戒部隊に通信を!!」
《どういうことだ?》
《敵が来てます!ユーラシアの部隊に!》

回線を繋いで、叫ぶ。根拠のないように見えてレーダー以上に信用できる。そんな、確信に近い直感を伝える為に。
困惑する中尉に意味を伝えようと、レイチェルが言葉を継ぐように言った瞬間。

「っ!光が走った!」

集中故の幻視か、それともNTとしての直感がそうさせたのか。蒼に染まった宇宙に、曳光弾と光が走ったのが鮮明に見えた。まだ、彼らの光は朧気な筈なのに。

《っ!こちらのレーダーでも確認した!こちら高木!ニカーヤのオペレーターへ!現在ユーラシアの哨戒部隊がザフトと交戦中!!今すぐ大尉に通信を……》
《こちら近藤。高木中尉、許可する!お前が指揮を取れ!》

映像に映る光が一気に動く。その様を見た高木中尉はオペレーターから大尉に繋ぎ。状況が見えていたのか、それとも福田が伝えていたのか、大尉の即答が回線に乗る。それは一秒を争う事態において、もっとも最善に近い判断でもあり。

《……高木だ。各機は2機連携を組み、変形。MA、あるいはウェイブライダーのままユーラシア哨戒部隊の元に急行するぞ!》

俺達にとっても、最速の決断だった。

《よっしゃあ!待ってましたよ高木中尉!》
《こちら坂川、了解した》
《指揮は俺、高木孝一中尉が取る!笹原、ランサム両少尉は先鋒だ!良いな?》
「了解!」
《分かりました!》

言いながら、機体を操作。MSからWR形態に移行。福田や高木中尉も続いて変形し、レイチェルのドーベン・ウルフが上に乗っかるのを確認して、スロットルを開ける。
加速。景色を置いていくように、速度が上がる。

《フォローは俺たちがする。後ろは気にするなよ!》

高木中尉の声に、頷くことで答えて、前を見る。
殺意と闘気がないまぜになった戦場。たどり着くまで、どれくらいなのか。
おそらく数分はかかるだろうと見込み、それが命取りにならないだろうかと考えて。

「持ってくれよ……!」

344: 時風 :2017/03/25(土) 00:45:47

知らず呟いた声。握る手の力が自然と強くなっていたことに俺は気づいて、息を吐く。焦りは自分を殺す。だからこそ落ち着いて、周りを見るように心がけて。

「……水希、レイチェル」
《なんだ?》
《なに?》

ほぼ同時に声を返してきた二人の阿吽っぷりに少し笑いながら、言う。言わなければ伝わらないのが、人間だから。

「–––––––––背中は任せた」
《……任せて!》
《もちろん》

言って、加速を早める。少しでも速く辿り着くために。
––––––––目の前に映る光は、まだ戦闘中であることを示していた。


《アルチョム!左に避けろ!!》
「っ–––––––ッッ!!」

戦友の声に突き動かされるように、機を左に跳ばす。ドムというこの機体は、鈍重そうな外見とは裏腹にシッカリとこちらの要求に応え、動いてくれる。
つい先ほどまでいた位置を、緑の光弾が走る。

「この––––––––っ!」

流れる視界の中で、アルチョムは敵を捉える。
ゲイツとかいう、最近チラホラと現れるようになったザフトの新型。ビーム兵器を備え、動きも早く、ジン以上の機体性能はこのドムをもってしても脅威となりうることは、これまでの戦闘で実感している。故に。

「っ!」

戦い方は回避重視。機体を左右に振ることで一発二発と放たれる光弾を回避。予測をずらし、手を持つマシンガンで牽制をかける。
集弾性は二の次。回避位置へばら撒くように撃ち込みながら、狙いをつける時間を与えない。動きは良いが、機動性で言えば–––––––このリック・ドムでも戦える!

「往くぞ、ヴォイテク……!」

叫び、フェイントに引っかかった敵が左に撃ったビームを横目に右へ跳ぶ。相対速度、そして左に合わせた目の焦点を考えれば、消えたように見えるだろうと考えながらゲイツの側面を超え、斜め後ろにつく。スラスターとバックパックを捉え、照準を合わせて。

「もらったっ!」

オート操作にマニュアルを組み合わせ、シールドのカバー範囲外に撃ち込む。
銃声。反動を細やかな動作で押さえ込み、撃ちながらゲイツの斜め後ろから背後に回る。
着弾。弾痕を刻みながら火花が散って。

「……!」

爆発。背中から、包み込むような爆炎がゲイツを覆う。一つの命が消える。けど、アルチョムはそれに頓着する余裕などないままに、寒気にしたがって機体のスラスターを噴かす。後方に跳んだ直後、横から来た光弾が二つ、機体の装甲を擦過する。真横から、ゲイツが来る。

「……!」

当たれば、死。その事実に身体を強張らせながらも、彼は基本に沿い距離を取ろうとして。
瞬間、これまでのビームとは明らかに違うそれがゲイツを貫き、火球へ変わる。黄色のそれが、アルチョムに近づいていたジン・ハイマニューバの進路を阻む。

《アルチョム、無事か!?》
「大尉……!」

メリニコフ大尉のゲルググだった。スラスターを噴かしながらこちらに来て、接触回線が繋がる。

《損傷はなさそうだな。ジェーニカは?》
「生きてます」
《なんとかって所ですけどね!》

ジェーニカのリック・ドムがスラスターで鎧付きのジンの射線を抜けながらこちらに戻って来た。何発か被弾はしているようだが、問題になるほどではない。他の部隊も良くやっている。上手くいけば撃退は出来るだろう。
だが–––––––––。

《!警告!?右からだ!》
「っづ––––––––!?」
《どわあああ!?》

光条が走る。赤と緑と黄。散らばるように回避して、Gに耐える。
–––––––––後少しでも回避が遅れていたら。
思って、震えが走る。感情があまり顔に出ない人間だったことを、アルチョムは今になって感謝して。

「……大尉!」
《こっちは無事だ!ジェーニカは?!》
《左肩をやられました!くそぉあの羽根つきが……!こっちが近づけないからって一方的にビーム撃ちまくりやがって!!》

青い顔をしながらジェーニカが叫ぶのを聞きながら、アルチョムは一瞬レーダーに視線を落とす。
–––––––こちらの射程外。誰も手が出せない距離に光点が二つ。付き従うようにいくつか。
–––––––まずい、か。
手詰まりだと、彼は思う。PS装甲による実弾無視から、自分達ではあのGタイプ……羽根付きと赤トサカ相手には戦えないのだ。牽制が関の山だろう。
……メリニコフ大尉のゲルググなら、闘える?

345: 時風 :2017/03/25(土) 00:48:25

思って、首を振る。確かに大尉の技量なら行けるだろう。だけど辿り着くまでに、射程外から来る羽根付きの火力が邪魔をする。
あれをくぐり抜けていくのは至難としか言いようがない。ただのビームですら脅威なのに、エネルギー切れなど知らんとばかりに撃ち込まれて、回避しきれるかどうかも分からないのだ。弾幕を大尉と共に抜けきれるかも怪しい。
……リスクの高い博打で、大尉は死なせられない。けど自分やジェーニカじゃ倒せないし、あの
堂々巡りになる思考に割り込むように警告が走る。

「ぐっ、この–––––––!!」

目の前に曳光弾が走って、何発かが機体に当たる。
小石が叩くような気味の悪い音が耳に入って、咄嗟に機体を飛ばす。射線を外して、射手であろうシグーを捕捉する。
思考に気をとられるからこうなる……!自身の悪い癖に舌を打ちながら、マシンガンを構える。
敵の回避行動。こっちの射線を読んだステップ機動は確かに速い。が。

「遅い!」

予測ならこちらが一つ上。叫んで、トリガーを引こうとした瞬間、衝撃が背後から来た。

「がっ––––––––!?」

……何が!?
思って、アルチョムは己の背後を見る。
ジン・ハイマニューバだ。それが、自機の背中に組みついている。

「舐めた真似を……!」

このドムに組み付くなど!
思って、肘で打ち付ける。一回目で拘束を緩め、二回目で引き剥がす。装甲と機体の出力の違いがそれを成し遂げた芸当。

「邪魔!」

追い討ちをかけるように蹴り飛ばし、銃弾を浴びせようと、距離を取った瞬間。
警告より一瞬早く、寒気がアルチョムの背筋を走り抜ける。これまでの経験が、それを告げて。

「ッッ––––––––!!?」

彼が背後を振り向けたのは、文字通りの奇跡だった。

《崩れ墜ちろ!十字目ェ––––––––!!!》
「……!!」

自身の目とモニターに映るのはオープン回線で叫び、重斬刀を突き出しながら突っ込んでくるシグー。それは、ほんの少し前に墜とし損ねた機体で。

「ぐああッッ!!!」
《アルチョム–––––––!!?》

衝撃、異音。何かがナニカを貫くような摩擦音。
視界が前へと流されて行く。自分が後ろに押されているのだと、すぐに分かる。
咄嗟に左腕を盾にしなければこう思考することすらできなかったと考えると、なんて自分は運が良いのか。
–––––––だからこそ!

「こ、の……っ!!」
《ナチュラルが!!往生際の悪い……!》
「何をっ!ナチュラルだなんだと!それだけで……っ!」

拮抗する。ブースターを噴かし、左腕を外側に払うように動かして、突き刺さった敵の重斬刀をシグーの手から引き剥がす。
力と動きの関係で、シグーの胴体をガラ空きにして。

《なっ……!?》

マシンガンを銃剣のように突き出して、シグーのコックピットに突き刺すようにぶつける。これでもう、逃げられない!

「そんな考えで!俺たちに勝てると思うなァ-––––––––!!!」

銃爪(引き鉄)を引く。轟音、マズルフラッシュ。吐き出される銃弾。フルオート。上がる火花。装甲を削り、抉り、砕き、穿ち、破壊する。踊るように、抵抗するように、シグーが震え。
それが、止まる。

「っ……!」

生きていようが死んでいようが、もう無力化した敵に構っている暇はない。射撃の反動で距離を取りながら周りを見る。前後左右。敵はいない。けど。

「上ッ!」

そういう時こそ上下に気を払う。上方から被さるように、クローを展開したゲイツが襲ってくる。
すぐさま射撃。牽制で進路をずらし、短噴射で反撃のビームを躱す。その間にも、距離は詰まるが。

《うおぉぉらあぁァ!!!》

横槍を入れるように、ジェーニカのリック・ドムが敵の真横から突っ込んで蹴り飛ばした。射撃を加えながら、速度を持った鉄塊がゲイツを踏み台にするように押し込み、彼方へと吹き飛ばす。
その間にリロードをする。弾切れだけは避けるようにして、周りを見る。

「ジェーニカ、ナイスフォロー」
《おうともよ!》
「大尉は?」
《今こっちに……!くそ、まだ来るのかよ!!》
「……っ」

背中を合わせながら聞いて、構える。更に三機、ジン・アサルトシュラウドとジン・ハイマニューバの編隊が来る。前から二機。そして–––––––後ろから一機。

346: 時風 :2017/03/25(土) 00:49:05

–––––––––さて、どう捌く?
決して有利とは言えない状況にアルチョムは息を吐き、呼吸を整えながら思案を巡らせるように操縦桿を握った瞬間。

「……!?」

黄色の閃光が、宇宙を裂いて。
前から来る敵を消し飛ばした。

《な、大尉か?!》
「いや、違う……」

それは、大尉のゲルググが持っていたビームライフルの閃光よりも遥かに大きく、恐ろしいもので。
数瞬後に、今度は桜色の光弾がジン・ハイマニューバの胴体を引き裂き、華を作り出して。

「……!」
《おわっ!なんだぁ!?》

何かが、とてつもない速度で自分達とすれ違う。速度の圧がコックピットを揺らして、アルチョムはそれに耐えながら視線を向ける。
––––––––––戦闘機? 彼が一瞬思った時には、ジェーニカがそれを言っていて。

《おい!無茶だ!?》

そのまま、敵に突っ込んで行く。シグーとゲイツ。
こちらの制止を聞く前に、その機体はシグーをライフルで落として、ロールを打つように回避して、ゲイツを横を通過。
AMBACでゲイツが向く前にそれは上昇、宙返りをするように直上を位置どって、一撃で沈め、通り過ぎる。
青い機首、白銀と見紛うような白い主翼と縁取りの青を持ったそれが、爆発の光で輝いて。
自分達の目の前に位置取り、変形する–––––––––––。

「……な」
《G、タイプ……?》
「いや、違う……」

瞬間、戦慄というものを、アルチョムは今知ったような感覚に陥った。V字のアンテナ、ツインアイ。ライフルにシールド。雄々しく、強く。力の象徴とも言うべきそれは色こそ違うけど、アフリカの反攻作戦で活躍した、我らが盟友たる国家の象徴とも言うべき機体で。

「ガンダム……?」

絞り出した声に応えるように、かの機体の目が光る。

《––––––––ドムのパイロット、無事か?》
「あ、ああ。問題はない」

男の声。これに掛けられたことに動揺しながらの返事だったから、少しばかり言葉が詰まって。
そのすぐ後に、レーダーが反応する。いくつかあった光点の内二つを除いて、全てがこちらに向かって来ていた。その数、およそ十。
けど、ガンダム–––––––Zガンダムはまるで臆する気配もなしに、こちらの前に出て、背を見せて。

「……な!?」
《援護できるならフォローを頼む。無理なら後退を》
《お、おい!どういう事だよ、ガンダムのパイロット!!》
《そのままの意味さ!!》

突っ込んでいく。スラスターを噴かして。

「な、おい……!」

自殺行為という言葉が浮かんで、アルチョムは止めようと機体を動かした瞬間。敵から見て横から、いくつもの閃光が敵に襲いかかり、追うように一つの巨大な閃光が裂いていく。
それに飲み込まれる二機を除いた八機は散開するが。

《遅い!》
《邪魔だよ!》

開いた亀裂は、戻らない。
入り込むように切り込んだ青のZと、いつの間にか、それに従うように突っ込んだ緑の機体がかき回し、亀裂を拡げていく。そこに何機かのMSが援護するように動いて、乱戦に。大洋連合のMS。墜とされていくのは、ザフトの側で、特に墜としているのが。

「な、ぁ……!?」

……目の前で動いているZだ。
本当に同じMSなのかと目を疑うほどに、その動きは奇妙で、同時に合理的だった。
ゲイツの射撃を躱した刹那に死角……上方へ位置取り反撃し、続け様にもう一機のコックピットを撃ち抜いていく。それはまるで、自分から当たりに行くようにも見えて。

「……!」

敵機と敵機の間を縫うような鋭角起動。スラスターにAMBACの組み合わせで巧みに躱し、死角に入って。撃ち抜き、切り裂き、墜としていく。
撹乱して、止まらず行く。ザフトのGへ。障害などないかのように。
放たれるフルバーストを回避する。
それはまるで–––––––––。

「青い……稲妻……」

アルチョムは半ば呆然とそれを見て、我に返ったように機体の計器を操作する。
ジェーニカが動こうとしていて、それに従うように。
なにより。
–––––––––––あれだけの動きを見て心が奮い立たぬ程、自分は薄情な人間ではないのだ。

《……大尉と、大洋連合の援護に行こうぜ。アルチョム》
「ああ、行こうか」

言葉は短く。けど意志を込めて。
機体を飛ばす。尊敬する上官と盟友たる国家に、自分達の力を見せつける為に––––––––––。

347: 時風 :2017/03/25(土) 00:49:35

「っと–––––––––!」

スラスターを噴かして、ステップをするように右へ跳んだ数瞬前の位置をビーム砲が薙いでいく。
バラエーナから放たれた一撃。ドーベン・ウルフなど、俺たち大洋連合の持つ砲戦用MSには及ばぬものの、侮れぬ一撃。
それが分かるゆえに、距離を詰める。
機体を飛ばす。シートに押し付けられる程の圧力がかかって、視界が一瞬狭くなる。その一瞬で、弾丸のように加速する。

「く–––––––––っ!」

上がった口角はGによるものか、それとも戦闘への高揚感か。
……どちらにしても。

「視えている攻撃が当たるかよ!!」

殺意の糸を躱す。左右に上下。絶えず機動を繰り返して、鋭角を描くように突進する。時折、前の位置を電光が掻き消すように空を切るが、それでも掠めるような一撃はない。
あのフリーダムなら、何発かは掠めてきただろうと思って。

「近距離……!」

瞬間、上に跳ぶ。レールガンが足の裏を擦過するようなスレスレを掠めて。
AMBACを利用した姿勢変更と共に、真上を取る。

「……!」

トリガーを引く。
桜色の光弾が宇宙を裂くように突き進み、空を切る。右に避けたフリーダムを中心にそのまま下へと飛んで。

「–––––––––––来る!」

機体を捻る。殺意の糸を躱して、一つ二つと、光弾が機体の側面や背後を通り過ぎる。
反撃は二発。牽制と誘導。まるで焦っているかのように、フリーダムが左へ跳ぶ。

「……っ!」

その、回避行動で生まれた一瞬の間隙。姿勢制御。相対、そして。

「–––––––––––!!」

突進。左手にサーベルを抜き放ちながら。苦し紛れに放たれた一撃を躱し、斬り払う。
上下に両断せんと振るったそれが、シールドに激突する。
閃光、熱波。スパークが疾る。すれ違うように位置が交錯する。AMBACと短噴射。振り向きながら、トリガーを引く。
桜色の光弾がフリーダムの左肩を貫いて、体勢を崩した。
––––––––––行ける?

「っと!なかなか、良い射撃してくるな」

崩れた体勢でよくもまぁ撃てるものだと、バラエーナを回避しながら思いつつ、別の方角に意識を向ける。もちろん、フリーダムへの警戒は忘れない。
ジャスティスに対しているのは、レイチェル、福田、高木中尉に……

「あのゲルググと、ドム二機か」

良い動きをしている。狙いにつけさせずに、味方の射線に敵を誘導させる技量もある。
ドムの方は若干動きが固いが、筋が良い。要所要所でマシンガンを当ててジャスティスの突進を押しとどめているし、何発は関節に当てているようで、心なしジャスティスの動きが悪くなっているようにも見える。
勿論、敵も落とさせまいと何機かはフォローか援護が来るだろうが––––––––あの調子で行けばあっちは大丈夫だろうと思いながら、何発か来た射撃を躱し続けて。

「動きは良いけど……!」

言って、撃つ。牽制。躱し、フリーダムが右に跳ぶ。
その姿に、何かが被る。
同じ機体。
だけど、動作一つ一つが速く、鋭くて。
目の前の敵が右にもったライフルで狙いをつけた時には、その影は既に射撃していて。
––––––––––ああ。そうだ。
機体が同じでも–––––––––––!!

「あのフリーダムは–––––––––もっと速かったっ!!」

機を沈める。姿勢を低くするように、前に出ながらも少し下に。滑るように、下へ進路をずらす。
緑の光弾が右肩を掠めるように通り過ぎて。

「––––––––––ああぁ!!」

フルスロットル。弾丸のように、稲妻のように機体を飛ばす。ゼロになるまでの距離の間に、まだ何発か光弾が来る。それが解るから。

348: 時風 :2017/03/25(土) 00:50:52
「……っっ!!」

鋭角起動。右に、左へ、上へ、下に。時折反撃を挟みながら撹乱。
俺は距離を詰めようとして、フリーダムは距離を離そうとする。
バラエーナ、レールガン、ビームライフル。
雨のように。襲い来る閃光を躱して、射線をずらす。

「––––––––––視えた!!」

突破口。弾幕と言えるほどの連続した砲撃に存在する綻び。
きっと撃っている本人にも分からぬほど小さなそれは、俺とZだからこそ見えるもので。

「……っ!」

だから、穴を広げる。
牽制のための一撃。あの影が動き、それに数瞬遅れてフリーダムが動く。
合わせて、撃つ。連射としか言えない短い時間に本命を。
けど。

「当たる」

あのフリーダムなら躱せても、目の前のパイロットには躱せない。そんな直感。
裏付けるように、桜色の光弾が緑、赤、黄の雨の中を抜けて–––––––––フリーダムの左胴を小さく抉る。本来なら気にするほどでもないそれが、どこまでも–––––––––広がった綻びを露わにする。
掠めたという衝撃で、砲撃が止まる––––––––––––––。

「––––––––––––!!!」

ウイングバインダー、テールスラスター、脚部、アポジモーター。
ありとあらゆる箇所のスラスターを、前進のために利用する。開いた綻びに突き進む。
右、左、回避にフェイントを混ぜながら銃口と殺意の糸をぶらせて、フルバーストは鋭角に躱すか、牽制射撃で機会を潰す。
躱して、進んで、撃って。距離が一気に詰まる。
–––––––––おそらく目の前の敵は、フリーダムの性能を過信していたのだろうか。サーベルも抜かず、縮まった距離を離そうと動いているが、伝わってくる動揺が、一瞬動きを止める。
たった一瞬の停滞。たった一瞬の思考の停止。
そこを、見逃す理由はない–––––––––––––!!

「…………らぁあ!!」

サーベルを振るう。右から左へ。すれ違うように、切り上げ気味に放った一閃が、フリーダムの右胴体に隠し切れぬ裂傷を刻んで。

「MSの四肢は––––––––––こう使うッッ!!」

叫び、右脚を裂傷へと蹴り込む。装甲の破壊ではない。衝撃の伝播と、内部の配線へとダメージを目的にした一撃。
まるで槍が振り払われるようにぶつかって、紫電が奔り。

《き、サマぁ……!》

直感が疾る。
蹴りの反動を利用しながら斜め下へ跳んで、赤が擦過する。
光弾を放つ。コックピット。
フリーダムが後ろに下がり、それを躱す。裂傷にビームを掠めながら。
––––––––––––瞬間。

《な……!?》

フリーダムの左胴が、小爆発を起こす。墜ちはしないほどの、小さな。
けど、動きが止まって、驚愕を含んだ声が混線したであろう回線から聞こえてくる。
口角が上がる。狙ったそれが、起きたのだから。
その一瞬に。

《––––––––––汚名返上と行こうか、羽根付き!》

水希の放った稲光のような閃光が、凛とした声と共にやってきて。
さながら狼が喰い千切るように、フリーダムの象徴と言える蒼翼、その片側を吹き飛ばす。バランスを崩し、目に分かるほどに動きが乱れたそれは隙としか言いようがないほどに大きくて。

「……!!」

その一瞬。距離を詰める。
悪足掻きをするかのように放たれたバラエーナを左に躱し、すれ違いざまにサーベルを振り抜く。
フリーダムが、左腕を盾にしようとして。

「–––––––––堕ちろ」

位置をずらす。腹部を横から切り裂く。メガ粒子の刃が、呆気なく上下を両断して。

《これが…ビス……ツの、…チュラルのうごきだと––––––!?》

両断されたフリーダム。裂かれた場所は火花と熱が散って。
衝撃でイカレたのだろう敵の通信。
ノイズに塗れたそれは、まるでどこかで聞いた言葉を恐怖と一緒に告げているようで。
瞬間。

––––––––––じゃあ、俺はなんだ!?

咲いた華と共に、そんな言葉が飛んでくる。
光。散った命。断末魔。
それはやっぱり、『この』戦争での敵の当たり前で。

「粗製だから、じゃないのか?」

349: 時風 :2017/03/25(土) 00:52:40

答えぬ声に言いながら、周りを見て。一つ、大輪が咲くのを見る。どうやら、レイチェル達の方も決着がついたらしい。
幾つのかの気配が下がっていくのが分かる。けどそれは、規則だったものにはとても見えないほどにバラバラで。

「Gタイプ……ガンダムを墜とされた時点でお前達の負けだよ」

ヘルメットを外しながら、言う。潰走としか言いようのない下がり方をする敵に、呆れながらそう言い切る以外に俺は持つべき感想がなく。

《アキト!そっちは終わった?》
「ああ。レイチェル達も、上手くやれたみたいだし……誰が撃墜(おと)した?」
《ユーラシアのメリニコフ大尉だよ。私と福田さんで動きを止めた瞬間に》
「メリニコフ大尉、か……」
《知ってるの?》
「まぁ、少し」

言いながら俺は息を吐いて、なるほどという言葉を口に含む。
メリニコフ隊と言えば、緒戦から生き残り続けたベテラン揃いの部隊だ。世界樹での戦闘ではかのデラーズ艦隊に所属していたし、MSを受領してからの活躍もある。
……戦闘が始まった直後、それも直感で掴んだ気配での計算にはなるが、彼ら十二機を相手にたった六機多いだけで攻め切れるはずがない。
彼らの練度はもう既に、ザフトMS部隊のそれを遥かに上回っているのだから。
–––––––とはいえ、流石に、フリーダムとジャスティスがいたら押し込まれるか。

《高木だ。笹原少尉、少し良いか?》

そんなことを考えている間に、高木中尉から通信が来て。

「はい。なんです?」
《メリニコフ大尉から通信が来てな。どうもZガンダムのパイロット、お前と話がしたいらしい》
「はぁ……お互い、戦闘が終わった直後ですけど、良いんですか?」
《礼を言いたいらしくてね。それくらいは構わんよ》
「了解。回線はこっちから開くと伝えてください」
《分かった》

高木中尉の映像が切れて、『Sound Only』と一瞬書かれた後に、映像が映る。

「はい。こちら第二特務艦隊旗艦『ニカーヤ』MS隊所属、笹原明人少尉です。メリニコフ大尉ですか?」
《ああ。ユーラシア小艦隊所属MS中隊隊長、メリニコフだ……君がGタイプ、いや……Zガンダムのパイロットかね?》
「はい」
《そうか……いや、随分と若いなと》

言いながら、大尉がこちらをまじまじと見てくるような感覚がする。少しばかり遠く、ゲルググから、こちらへの視線が来て。

「これでも二十二なんですけどね……どうにも、ウチは祖父の代から童顔でして」
《二十二!?いや、まさか……アルテミスの守護天使と同い年とは……》
「アルテミスの……ローゼマリア・フォン・リハルトブルク中尉とでありますか?」
《知っているのかね?》
「はい、世界樹での戦闘時に彼女のメビウス・ゼロと」

言いながら、世界樹でユーラシア所属のメビウス・ゼロとすれ違った時を思い出す。味方の援護、救出を最優先としていたあの機体は確かに『味方を、誰かを救う』という意志に溢れていた。
どこまでも、輝いていたのだ。
……そうか。同い年だったのか。
そんな感慨のようなものを、少し思って。

《まぁともかく。救援感謝する!君達大洋連合が来なかったら我々はさらに被害を受けていただろうからな》
「被撃破は、ザク二機にドムが一機、でしたか」

それが、この戦闘で被ったユーラシア部隊の損害。小破中破も何機かいるが、それは除いても良いだろう。幸いと言うべきか、その三機のパイロットも機体を放棄したことでギリギリ助かったようだし、救助もされている。

《恥ずかしいことにな……いやはや。ただの哨戒任務の筈がまさかザフトのGと接触してしまうとは思わなかった》

増援にガンダムタイプがいたのも予想外だったがな。
そう言う大尉はどこか照れ臭そうに笑っていて。

《ここで命を救ってもらった恩は忘れんよ。Zガンダムのパイロット。それと、緑のMS二機にもな》
「はい。坂川少尉とランサム少尉には自分から伝えておきます」
《頼む》

そんなことを話している間に、艦の光が見えてきていて。

《そろそろ艦が見えて来た、か。では、そろそろ別れることになりそうだ––––––––君のようなエースパイロットに出会えたことを、神に感謝しよう》
「こちらこそ。大尉もそうですけど……他の人達も、良い動きしてましたよ」

ほう、と。大尉が気にするようなそぶりを見せてくる。

「特に良かったのは、重斬刀の刺突を腕で防御したパイロットと、そのカバーに入ったドムです。並みのパイロットではあそこまでやれません……大事にしてやってください。彼らは、磨けばまだまだ光ります」
《アルチョムと、ジェーニカか。目をかけてはいたが、そうか……それとなく伝えておこう》
「ありがとうございます」

そんなことを言いあって、最後の会話を終えたと思ったところに。

350: 時風 :2017/03/25(土) 00:53:10
《ああ、そうだ》
「なんです?」
《こちらもアルテミスに帰った時に報告で君達のことを言わなければならないのだが、その……》
「あー……」

……そういうことか。
思い立った事実というか、今気づいたことに対して、俺は軽く頭を押さえて。

「……あまり言いふらさないでくれると嬉しいのですが……」
《残念だがそれは無理だろう。というより、私は大丈夫でも、兵士や従軍記者というのは噂を好むものだよ?》
「……良い笑顔ですね、メリニコフ大尉」

言いながら、自分の頬が引き攣るような感覚と、声が乾いているのを感じる。

《一つだけ言うなら……君のような撃墜王が無名で終わるのは、我々にとって癪だと言うことだ》

いかにも楽しげな様子で言われても、こっちとしては困惑しかないが……まぁ、そういうものなのだろう。
撃墜王とはなるものではなく、いつの間にかなっているものだと戦友も言っていたし。

「では、ここで」
《ああ。貴官と部隊の武運を祈る》

短く、そして呆気なく通信が終わる。
ゲルググ等ユーラシアのMS部隊が、ニカーヤに並走していた小艦隊に戻っていく。

「ふぅ。なんとかなったか……」

ようやく見えた艦影のお陰だろうか。
一気に緊張の糸が切れるような感覚を感じながら、脱力するようにシートにもたれかかる。
敵意も殺意もなし。余程のことがないなら安心しても良い状況だと、自分の直感が言っているからこそできることだった。
あくまで比喩だが……これがガダルカナルからラバウルへの帰路の途中だったなら、こんな風に気を緩めることはなかっただろうし、『あの作戦』の後ならば……。

「……!」

首を振る。今もなおこびり付いている光景を振り払うように。
燃える街、爆撃で吹き飛ばされていく人、母の亡骸を揺らしながら泣く子供。瓦礫に潰された老人。
……死んでいく、無辜の民。
まぶたの裏に焼きついたそれが、生々しさを持って語りかけてくるようで––––––––––。

「ああ、くそっ……!」

苛立って、コンソールを叩いてしまう。
夢で見た時も酷いが、軽く思い出すだけでこれだ。
いま思えばあの時ほど、ニュータイプでなかったことを……なれるわけがないのだが……良かったと思ったことはない。
––––––––ニュータイプだったら、あの膨大な死を見て耐え切れるとは思えなかったから。
あんな光景を見るのは二度とごめんだ。
命令で殺すか殺される様を見るなら少年兵のほうが何倍も良いとすら思うほどに、精神が削られた地獄は今でも–––––––––嫌いだ。

「割り切ったほうが良いんだけどな……」

前世は前世。そう思えればどれだけ気が楽になるのか。
生死の感覚が麻痺するきっかけとなった光景があの頃の自分を強く掴んで、まだ離そうとしてくれない。
……こうやって、ふとした時に思い出してしまうのがその証拠で。

《アキト。そろそろ帰艦の時間だよ?》
「え?ああ、悪い」

レイチェルに引き戻されるあたり、自分もまだまだ未熟というわけだ。

「じゃ、そろそろ戻るか」
《うん。ミズキは一通り警戒したあと着艦したから、こっちも大丈夫だって》
「ん」

回線を開いていなくて良かったと思いながら、機体を帰還進路につける。
……一回、ユウトあたりにチャットで愚痴でも吐いてみようかと思うくらいには、色々と言いたいことが増えていて。

《……辛いことがあるなら、吐き出した方がいいよ?》

やっぱり、気づかれていた。

《苦しいこととか、そういうのは全部吐き出して、空っぽにした方が良いよ。アキトが苦しんでいるのを見るのは……嫌だよ……?》

絞り出すような、辛い声。
今の俺が彼女にどう見えているのかは分からないけど、何かを抱えているということだけは直感しているのだろうと当たりをつけて。

「……分かってる。どうしてもキツくなったら、相談するよ」
《うん……ミズキも心配してるし……そうなる前に、話してね?》

通信が閉じて、静寂が来る。
ひんやりとしたコンソールに手を触れて。

「なぁ、ゼータ」

物言わぬ、けど確かに力を持つ愛機に問いかけてみて。

「俺、そんなに抱え込んでるように見えるか?」

静かな駆動音だけが、答えを返して来る。

「ま、答えてくれるわけないか」

ちょっとだけそのことを残念に思いながら、少し笑って。操縦桿を握る。
–––––––––帰ろうか、俺たちの艦(家)に。
目を瞑って、それだけを愛機に伝え。

「こちら笹原明人、ニカーヤへ!––––––––これより帰艦します!」

351: 時風 :2017/03/25(土) 00:53:40

「……明人のやつ、頑張ってんなぁ」

–––––––––––呟く。
手に持っている新聞、それもユーラシアの物を流し読みしながら、彼は妻が作ったお茶を味わっていた。
程よい苦みと美味しさ。やはり妻の緑茶は最高だと、他の仲間が聞けばご馳走様か、末長く爆発しろと言いたくなるほどの惚気を言う。
新聞の内容は戦時らしく、軍の戦果だとかそういうものが多い。その中にある記事の一つを、彼––––––––綱木ユウトは注視していた。
『大洋連合のエース部隊、窮地に陥った我がユーラシアMS部隊を颯爽救援!!』
そんな、よくある記事の見出しみたいな単語。そこに踊っている単語と、写真。
––––––––––青い稲妻。ガンダムタイプ。
それを肯定するかのように、メインカメラの映像を写真化したものに写っているのは、鋭角に動くスラスターの軌跡。
ユウトは、その軌跡を描くような機動を取るパイロットを嫌という程知っている。知っているからこそ、仲間が持ってきた記事が『誰』のことを指しているのかもすぐに分かった。
笹原明人。
自分の同類で、戦友で、友人。
転生者の中では“比較的”マトモな感性を持っている同僚だ。
で、そんな彼をユウトがどう思っているかといえば––––––––––。

「大洋の青い稲妻––––––––うん、あいつにピッタリな二つ名じゃないか」

その言葉に尽きた。
そもそも目立たないようになど、あんな機動特性で出来る筈がない。
Zガンダムに乗って、特務隊に転属すればそれこそだ。
実力もある。機体も良い。それに相応の戦果も、たった数日で挙げている。
エース……二つ名を戴くに相応しい戦果をだ。知名度?今回のユーラシア部隊の救援があるじゃないか。青と白に塗装されたZガンダム。『女帝』でも『白い流星』でも、『白狼』でもないのだから。

「従軍記者からすれば格好のネタだよなぁ……」

傍からみれば黒いと言われるような笑顔を浮かべながら、友人が悶えているだろう様を思い浮かべる。特務隊の仲間にからかわれているのだろう彼の姿はきっと、前世の頃から変わっていないだろうから。
–––––––C.E71年、五月二十七日。ここに新たな撃墜王が誕生したって感じで言われてるんだろうなぁ。
それを自分が見ることができないのが残念だと思いながら、背後に来た優しい感覚を捉える。

「メグルか。どうした?」

振り向かずに聞く。自分が彼女の感覚を間違えるはずがないから。

「機体の整備が終わったから、少し話がしたいな、って思ったんや」

その言葉を、ユウトはすぐに椅子を回転させながら振り抜いて。

「……ッッ!!」

悶えた。メガネを外して、笑顔を浮かべる我が妻に。
何度目かも覚えていない撃墜判定を喰らってしまったのだ。
……うちの嫁が可愛すぎて生きるのがつらい。
もはや恒例と言えるような台詞を内心で呟いているうちに、メグルはユウトが手に持っている新聞を覗き込んでいて。

「あ……ユーラシアの言葉やな、これ」
「ああ。俺の友人がとうとう名を上げたらしいから、その記事を見てやろうと思ってね」

言い、妻と一緒に軽く新聞を見る。これもまた乙なものだと思いながら、今度チャットであいつをからかってやろうかと意味のない決意をして。
……模擬戦もしてみてぇなぁ。
Zに乗った彼と戦ってみたいとも、ユウトは同時に思う。
ハイザックに乗っていて、枷があった状態よりも遥かに鋭く、いい動きをするだろうから。例え劣勢になったとしても、本気で、かつ全力を出せるようになった彼と、戦友として戦ってみたいのだ。

「ふふ……」
「どうしたんだい?」
「いんや、あなたが凄く楽しそうな顔をしてたから、うちも嬉しくなってんねん」
「そうか?」
「そうや」

言って、肩を寄せる。体温を感じる。
……やっぱり、身体が触れ合った方が安心するよなぁ。
感覚で感じるよりもこうやって、確かな熱を感じられるから生きていられるのだ。

「お前も、それくらい分かってるだろう?明人–––––––––」

天井を見上げて、問いかける。明人に対して。
ニュータイプという存在に夢と期待と、不安を感じているだろう戦友に、言いたくなったのだ。
ニュータイプだって人間だ、と。
……まぁ、それくらい彼も分かってるだろうが。
そう思いながら静かに目を閉じて、妻と肩を寄せながら笑いあう。
どこまでも暖かくて、かけがえのない存在。
それが、綱木ユウトの戦う理由なのだから。

352: 時風 :2017/03/25(土) 00:55:37
以上で投下終了となります。wiki掲載は自由です。
トゥ!ヘァ!氏のアナザーseedからアルチョムらを、霧の咆哮氏からジノと綱木夫妻をお借りしました。
話としては、笹原の二つ名や専用色ですね。今回の話を作るにあたって専用色を青と白とし、二つ名を『大洋の青い稲妻』としました。青は蒼でも良いですが。
多分敵からは戦闘機動から『雷光の死神』だの『青(蒼)の雷光』だの言われて恐れられることになるでしょうか?
後、さらっと書きましたが、水希はNTにしようかどうかで決めかねている感じです。なったとしても低レベルでしょうか。
多分、ささら氏の南米編かその少し前くらいには有名になってるという想定です。宇宙はあまり動く気配がないので、ユーラシアは派手に宣伝するでしょうし。
色の配色は……描写しておいて何をですが、正直自分はセンスがないので、皆さんが思い浮かんだ感じでどうぞ(苦笑)
一話や二話に比べ、多少強引な話の作りになってしまったと思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
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最終更新:2023年09月08日 23:35