ユフィルートしげちーSS ネタ:血は争えない
「ふぁあ…んなっ!」
ある日、嶋田が目覚めるとそこは見覚えのないホテルの一室だった。しかも…
「すぅ…すぅ…」
隣で寝息を立てているのは金髪の美女。しかも全裸である。
(何がどうなっているんだ!?)
どうもシャルル関係で見たことがあるような気がするが、どうにも思い出せない。
というか、この状況下ではこの女性がどこの誰かというのはあまり問題ではない。
(と、とにかくここを離れなければ)
見知らぬ女性と同衾している姿を誰かに見られるのは非常に不味い。色んな意味で。
慌てて廊下に飛び出し、階段を目指そうとした嶋田だったが、
その為に開いたドアの向こう側に立つ人間に気付くのが遅れた。
バァン!
「がっ…!?」
突然の銃声。背後から胸を撃ち抜かれた嶋田は体勢を崩し、壁に寄り掛かるようにして崩れ落ちる。
「どうして…ですか…?」
コツコツ、とこちらへ歩み寄ってくる足音。そして聞きなれた声。
わたくしより…あの女を選ぶというのですか…?」
首を持ち上げる余力もない嶋田には顔を確認することもできないが、それでも銃撃犯の正体を見抜くのは簡単だった。
(ユ、ユフィ!?何故こんなことを!?)
「…!…!」
動転しつつもなんとか問い質そうとする嶋田だったが、血で喉がふさがり上手く話すことができない。
「かわいそうなシゲタロウ。きっとあの女に騙されてしまったのですね」
嶋田に合わせるように屈みこみ、愛おしげに嶋田の顔に手を添えるユフィ。そのことで二人の目と目が合う。
いつものような温かい光のない、感情の死んだ目。虚ろな眼差しが嶋田の恐怖心を掻きたてる。
「…でも大丈夫です。あの泥棒猫の手が決して届かない場所へと送ってさしあげますから」
ゆっくりとユフィの持つ拳銃が近づけられ、銃口が嶋田の額に押しつけられる。
「これで…シゲタロウの心も命も魂もわたくしだけのもの…」
(ま、待ッ……!)
パァン!
「…っ!」
ガバッ、と身を起こす嶋田。
「…夢か…?」
周囲は見慣れた離宮の一室だし、胸に手を当ててみても弾痕はない。
そういえば書斎でまどろんでいたところだったな、と思い返す。
(そうだとしても、心臓に悪い…)
かつてコーネリアに忠告された通り、ユフィの大き過ぎる愛については嶋田も身をもって感じている。
政治家として相応の修羅場を潜っている嶋田ではあるが、この手のものはどうにも苦手だ。
ちなみに、当のユフィはナナリーに会いに行っており不在である。
「…気分転換にカズシゲのところにでも行ってくるか」
たしかカズシゲは
夢幻会構成員に色々と吹き込まれてレトロゲームに手を出したらしい。薦められたソフトもいくつか買ったと言っていたように思う。
(俺にも分かるゲームだったら、一緒にプレイするのもいいかもしれないな)
ガン! ガン! ガン!
(…おいおい)
というわけでカズシゲの部屋に向かった嶋田だったが、半開きになったドアの向こうからはどうにも不穏な音が聞こえてくる。
ガン! ガン! ガン!
(…とりあえず覗いてみるか)
ただ廊下に立っていても仕方がないので、ドアの隙間から部屋の中を覗いてみる。
ガン! ガン! ガン!
(……?)
カズシゲはデスクに座り、机の上の何かを金槌で打ち据えているようだ。
「…カズシゲ?」
嶋田が声をかけると、振り上げられた右腕が止まる。そしてゆっくりとカズシゲの首が動き、こちらを振り返る。
(……!)
嶋田を見つめるのはユフィと同じ色、そして――夢と同じ、光の無い瞳。
「…ああ、父上ですか。何か御用ですか?」
口元は愛想の良い頬笑みを作るが、虚ろな目は笑っていない。
「い、いや、どんなゲームをしているのか気になってな…」
「…あまり好きになれそうもないものでしたので。それよりお茶でもいかかです?ちょうど飲もうと思っていたのですけど」
嶋田の言葉にピクリ、と一瞬眉を動かしたが、カズシゲは何事もなかったかのようにお茶を勧めてきた。
「ああ、貰おうかな」
「では少々お待ちください」
どこか違和感のある口調のまま、お茶の準備を始めるカズシゲ。その隙に嶋田は先ほどまで打ち据えられていた物を確認する。
(これは…さてはあの言葉に従ってしまったのか…)
破損して分かりにくいものの、『バハムー』『ラグー』などと言ったタイトルの破片が見て取れるゲームソフト。
神崎博之として生きた世界にもあったある意味有名なゲームであろうと嶋田は見当をつけた。
「…茶葉はいつもと同じものでよろしいでしょうか?」
「それで頼む」
「では…」
茶器を扱う手際はいつもと変わらないように見えるが、どこか乱暴に扱いたいのを自制しているようにも感じる。
「…大丈夫か?」
「…いえ、少々不愉快なことがあっただけですので。父上に心配されるようなことは、何も」
カズシゲはこともなげに言うが、話題に出すなという無言の圧力が強まったのを嶋田は感じ取った。
「まあ、気にする必要はないだろ。現実にソフィーちゃんが寝取られたわけでも…」
それを和ませようと軽い口調でそこまで言って、嶋田は自分の失言に気がついた。
「………………」
カズシゲは、瞳の奥底でドス黒いものを蠢かせながら硬直している。
(…『最悪の事態』が脳内で繰り広げられているところか?こうなっては、もう俺の手には負えん)
とりあえず、嶋田は自分に被害が及ぶ前に部屋から逃げ出した。
『慈愛の皇女』と称される母親と同様に温和で心が広く、滅多なことでは怒らないカズシゲ。
しかし『愛が重い』という特徴までも受け継いでしまった為に、特定の分野の話題は地雷となる。
尚、カズシゲのSAN値はソフィーが身体を張って回復させました。
あとがき
以上です。
作りかけで放置されているSSたちの内、一番完成に近かったものを引っ張り出してみました。
ヤンデレの気がある人間にNTRゲーさせるとか完全に地雷原でタップダンスですよね。
ちなみに私もNTRは大嫌いで重い愛は大好物です。共依存っていいよね…
社会人になって以降創作意欲も時間もあまり出ずに投稿していませんでしたが、完全失踪はしていませんのでまたSSを投下するかもしれません。
最終更新:2017年04月02日 18:52