766: 弥次郎 :2017/06/20(火) 20:04:16
発生する余地があるならば、それはいつか必ず現実化する
少し、昔話をしようか。
僕が見た、人間の狂気について。
うん、少し怖いかもしれないね。でも、とても大事な話なんだ。
何しろ、これは伝えていかなくちゃいけないことだからね。
奇妙なザク(ストレンジ・ザク)に乗せられた、人間の恐ろしさを。
昔話と言っても、そんなに昔の話じゃない。
僕が軍人として、MSパイロットとして初めて大規模な戦闘を、それこそ歴史に残るような決戦を経験した時の話だ。
そう、プラント争乱。その最終決戦となったヤキン・ドゥーエ攻防戦だよ。
当時僕は、新兵に毛が生えた程度のパイロットだった。
勿論、ちゃんと訓練を受けて、ちゃんと軍人となってからの配属だったよ。当時の階級は曹長だった。
僕に割り当てられたのは、ハイザックだったね。訓練用とは違う、本当の、戦闘用のMSだった。
それまではザクⅡに乗っていたんだけど、最前線配置ってことで新しいMSを割り当てられたんだ。
操縦とか癖はザクと似ていたから、機種転換も短く済んだよ。
けど、その配置は戦場から離れた後方、前線で消耗したMS隊が補給を行う宇宙艦艇の護衛役だった。
最前線ではあるけど、「最前線の後方」というべきかな?でも、最前線なんだ。気のゆるみは許されなかった。
だって、補給中のMSやMAはとても無防備になるからね。その間、前線を突破してきたMSがいつどこに現れるのかは全くわからないんだから。
ほら、最近機密指定が一部解除になったMAがいるじゃないか。あれも、通商破壊以外では前線を高速で突破して、
後方の補給艦艇を叩くっていう任務で使われたらしいんだ。同じようなことを相手がしてくる可能性は十分あるからね。
当時、僕は戦々恐々としていたよ。
何しろ、先任のパイロット達から恐ろしいザフトの兵器のことを聞かされていたから。
そう、ザフトの用いていた、MS搭載型戦闘モジュール「ミーティア」のことを聞かされていたんだ。
圧倒的な速力と、バカみたいな火力。全身火薬庫ってまさにあれのことを言うんじゃないかな?
アレが突っ込んできたら流石に止められない。だから、出来る限りの整備士とパイロットを救い出せるようにしておけって厳命されていたんだ。
多分、僕だけじゃなくて、整備士も、作業員も、補給中のパイロットも、艦艇の搭乗員たちも怖かったと思う。
MSパイロットなら、まだ生存の可能性はある。けど、作業をしていたり、艦艇に乗っている人たちはそうもいかない。
艦がやられてしまえば、よほどの幸運が無いと死んじゃうから。うん、艦艇は懐に飛び込まれたらおしまいだから。
あ、少し話がそれたね。
僕は他の人以上にMS戦闘が上手いわけじゃなかったんだ。
勿論、ちゃんと訓練を積んだから戦えたよ。ただ、一般的なレベルにとどまったんだ。
プラント争乱でたくさんのエースパイロットが生まれていたけど、僕は彼らの足元にも及ばないよ。
ともかく、戦闘が始まって、僕は同じ任務を命じられた小隊と一緒に警戒を行ったんだ。
激しさを増すにつれて、たくさんのMSが行ったり来たりを繰り返していたよ。
ハイザックは、ザク……ああ、ザクⅡよりも頑丈に設計されていたから、機体が激しく損傷しているというのはあんまり多くなかったね。
でも、たまに当たり所が悪くてパイロットが危険な状態というのもあった。手足がもげたり、コクピットが丸出しになったり、
あるいは頭部がやられていたりしていた。帰ってこれただけ儲けものなんだよ。そこを失っても、後方に退避することはできるんだからね。
防衛担当の僕たちも、時々離脱してきたMSの回収に駆り出されていたよ。
僕たちの小隊は、丁度艦隊からみて前方、丁度ヤキン・ドゥーエ要塞がある方角が担当だったから一番忙しかった。
護衛付きで撤退することが多かったけど、損害の程度によっては単独で離脱することもあった。離脱中にも周りは戦闘をしているから、
結構気が気ではなかったのかもしれないね。僕もそういう訓練を受けたこともあるんだけど、あれは怖かったよ。
767: 弥次郎 :2017/06/20(火) 20:05:21
そして、交代で休憩を取りながらも僕たちは防衛を続けたよ。
正直、その時の僕は気が抜けていたんだ。順調に戦線は押し上げられて、ザフトの特機が撃墜されたって情報も聞いていたからね。
小隊の仲間も、戦闘の光が徐々に収まっていくのを見てほっとしていた。
そう、ふざけて、撃墜スコアは伸びなかったな、とか言ったりしてた。
僕たちが前線に配置されたときには、すでにザフトの戦線はかなり縮小していて、おまけに戦力が減っていてね。
ザフトが積極的な攻勢に出れなくなっていて、戦闘経験は何度かあっても、撃墜となると専ら共同撃墜ばかりになっていたんだ。
でも、一応「童貞」は捨てていたよ……あ、ちょっとわかりにくいかな?まあ、軍隊なりの言い方だよ。
この決戦でスコアを上げれば、有名になれるのかな、とかそんなことを言い合っていたんだよ。
僕たちも、ほとんど冗談で言っていたよ。
最前線とはいっても後方。僕たちまでも投じられるっていうことは、それだけこっちの戦力が消耗したってことだから。
それはほとんどないと思っていたし、僕の上官もそういっていたよ。彼我の戦力比もそうだし、そもそも、MSの性能差もあったからね。
うん、戦後の出版物を見てもらえばわかるけど、ザフトの主力だったジンはもちろん、新型だったゲイツも碌に叶わなかったとあるからね。
歴戦のパイロットにネームドエースまで集中投入されていて、おまけに艦艇の数もMSの数も圧倒している。
実際、補給とか交代のために後方に下がってきたパイロットと話をした限りだと、特機以外は苦労しなかったっていってたからね。
そして、いよいよ艦隊が前進というころになった。
要塞砲とか宇宙艦艇も順次撃沈されるか破壊されたから、陸戦隊を送り込む段階に入ったんだよね。
ザフトも、ほとんど組織的な抵抗を続けられないほど戦力を消耗させていたし、何より「ジェネシス」も破壊されていたし。
その時だったよ、MSが僕たちの艦艇に近づいてきたのは。
見るからに激戦を潜り抜けたのか、あちこちにダメージを受けていたのがわかったね。
辛うじてハイザックだとわかったくらいで、殆どMSの形を失いかけていたよ。
僕たちはそれを見つけて、また来たかと思って収容準備に入ったんだ。
だから、それを止めろという指示が届いたときはびっくりしたよ
今にも崩壊しそうなそれを止めろって、一体どういうことなのかってね。
でも、僕も観察したらなんだか変だとわかったよ。
ボロボロなのに護衛機が一機もいないし、熱反応も似ているけど少し違う。
おまけに、こちらの通信に何も返答してこないんだ。繋がっているはずなのにね。
そして、近距離でIFF(敵味方識別装置)を使用したら、見事に反応がなかった。敵(エネミー)だったんだよ。
故障?それならそういうはずなんだよ。でも、通信に一切答えないのは多分理由があっての事。
戸惑う小隊の仲間をみて、僕は覚悟を決めてそのハイザック……いや、ハイザックに似たMSに近づいた。
そのハイザックモドキは慌てて振り切ろうとしたんだ。でも、僕はそれを許さなかった。
近づいて、武器を突きつけて、接触回線で脅した。
「投降しなければ撃墜する」ってね。
勿論振りほどこうとしたけど、ハイザックのガワだけを真似たMSはバッテリー駆動みたいでね。
あっけなく動きを止めることが出来たよ。というか、簡単に破壊できたんだ。こう、武器をつかもうとする腕をひねったら、ねじ切れたんだ。
それをみて、中のパイロットも諦めたみたいだった。武装を解除して、コクピットハッチを開かせて中を見たら、驚いたよ。
ギリギリ10代じゃないかって子供がコクピットの中で怯えて泣いていたんだから。
768: 弥次郎 :2017/06/20(火) 20:06:18
あとから教えられたけど、そのハイザックモドキは、ハイザックの形を真似てザフトが作ったMSなんだって。
哨戒網をそっくりな形でごまかして抜けて、偵察して情報を集めたり、破壊工作をしたり、対艦攻撃をするのが目的だろうって。
実際、僕たちが護衛していた艦艇以外でも形状を偽装したMSによる攻撃を受けた艦艇がいたらしいんだ。
でも、被害はそこまで大きくなかったそうだよ。形を誤認させることは出来ても、中身までは真似できないからね。
直前で撃墜されたり、捕縛されたりしたらしい。乗っていたパイロットが殆ど軍人として訓練を積んでいなかったらしくてね。
それでボロが出たからすぐにわかったみたいだった。
それ以上はあまり教えてもらえなかったね。
噂で聞いた限りだと、子供たちに命じた上官の大人は誰なのか、よくわからなかったらしい。
戦後の調査だと子供たちの証言で得られた上官の名前はプラント内の記録には存在しない人間だった。
おまけに、子供たちの証言から作られた上官のモンタージュも該当者がいなかったんだってさ。
MSパイロットだった少年少女たちは、そのまま身柄を拘束されたあと、DDR(武装解除・動員解除・社会復帰)のプログラムを受けたそうだよ。
身寄りのないコーディネーターというのにも驚いたね。その後の報道で色々分かったけど、プラントの大人たちは志願兵という形で根こそぎ動員され、
コロニーには子供たちや兵役に耐えられない人たちばかりが残されていたんだ。当然、管理も行き届かなくてね。
そこから連れ出されてパイロットに仕立て上げられても、表にはなりにくかったんだろうね。
戦後、コーディネーターへの同情論が沸き上がったのも、ある意味仕方がないことだと思う。僕も同情を禁じえなかった。
コーディネーターがどれだけ身勝手な理論で独立を叫んだとはいっても、NJの散布で多くの被害をもたらしたと言っても、
こんなにも弱った相手を打ち据えるなんて、それこそ人道に反するからね。
正直、僕自身もショックだったよ。自殺まがいの攻撃を命じた大人がいたことも、それを子供にやらせたことも。
そして、一歩間違えば、ぼくが彼らを殺してしまっていたことも、ね。
うん、自分の言った言葉をこれほど後悔したのは、後にも先にもないことだと思う。
冗談であっても、それが本当になりかけたんだからね。それがどれだけ恐ろしい内容なのか、身に染みたよ。
軍を抜けることにしたのも、この出来事もあってのことだよ。
プラントのような真似を他の国はしないと信じてはいるけど、どうしても怖くてね。
上官も、僕の理由を察してくれて、一筆したためてくれてね。おかげでスムーズに退役出来たよ。
僕以外にも、PTSDで軍を抜けた人が多くてね。それは、君もよく知っていると思うけど。
今はこうして、民間用のプチモビのオペレーターで糊口をしのいでいるよ。
ドンパチやらなくていいから、とても平和でいいね。
さて、僕の話は、これで終わりだよ。
戦争なんて悲劇にしかならないから、できる限り避けてほしいね。こんな証言でも役立つなら、嬉しいよ。
あんな狂気の塊がまた世の中に出るかもしれないと考えるだけで、とても怖いからね。
うん?戦争そのものには反対しないのかって?
大衆の感情は戦争でしか解決できないこともあるからね。
それにね、武器が無ければ平和ではなくて、武器を使わないように振る舞い続けることで平和になるんだよ。
努力を重ねて、戦争がどれだけの被害をもたらすのかを理解したうえで、平和を作ろうとしなくちゃいけない。
そうしなければ、平和のありがたみは分からないから。
これ、どっちも僕の上官の受け売りなんだけどね。
……さて、もういいかな?また何か縁があれば会おうね。
- C.E.73 某日 とある退役軍人へのインタビューより
769: 弥次郎 :2017/06/20(火) 20:08:16
〇ストレンジ・ザク
形式番号:(データとして残っておらず不明)
全高:ザクⅡ及びハイザックに準じる
全重量:87.8t(装備および偽装装甲の有無により変化)
装甲材:ザフト汎用装甲材(仮) 発砲金属など
動力源:バッテリー
武装:
鹵獲120mmザクマシンガン
75mm重突撃銃D型(ザクマシンガンタイプ)/75mm重突撃銃D2型(90mmマシンガンタイプ)
MA-M01 ラケルタビームサーベル改
鹵獲ヒートホーク
対艦収束ハンドグレネード
熱源反応欺瞞装置
概要:
ザフトが大洋連合の主力であったハイザックを、戦場で改修された部品や写真などからジン及び研究中だった次期主力機をベースに模倣したMS。
当時ザフトは次期主力機として核動力を搭載したMS(正史ならばZGMF-1000
シリーズ)の計画を推進していたが、
戦局悪化および核分裂炉製造に必須の資源の確保のめどが立たなくなったことから、事実上中断に追い込まれていた。
間に合うかどうかも怪しいMSを開発するよりも、現場では短期間で間に合う可能性の高い既存のMSの性能向上を求めていたためである。
しかし、そんな中で狂気ともいえる計画が提示され、ZGMF-1000シリーズのフレームは利用されることになる。
NJの散布によって有視界戦闘が強いられるようになったことで、外見を偽装すれば高い確率で敵の目を潜り抜けることができる状況が生まれており、
外見を連合のMSに限りなく近づけることで後方へと潜入、破壊工作及び無防備な艦艇への攻撃を行うというものであった。
当然の如く、国籍や所属を示すマーキングなどは偽装されているか、あるいは意図的に隠匿されている。
勿論これは戦時法への抵触が考えられるのが常であるが、残念ながらもザフトはそういった方面への認識が甘く、
また、戦局悪化でなりふり構っていられない状況に陥ったことからそのままになっている。
ベースとなっているのは、ザフトのMSである「ジン」あるいは余計な付属品がなかった「プロトジン」であり、
これにザフトの次期主力機のパーツとジンのパーツを加工して被せることでザクに近い外見を獲得している。
また、バッテリー機故に熱源反応が異なることから、機体には装甲などを削ってバッテリーを増設し、機体の熱反応を増幅させる装置を積み込んだ。
武装についても戦場から回収されたザクマシンガンや、重突撃銃を120mmザクマシンガンあるいは90mmマシンガンへと似せた物を使用。
その他オプションなども可能な限り再現されており、パッと見にはザクと非常に似通っている。
ザクが偽装の対象として選択されたのは、やはり大洋連合のMSの脅威がプラント本国にも情報として届けられており、
大洋連合の戦力を可能な限り削ぐべきだという意見があったようである。
また、奇しくもザフトが研究していたMSと似通っていたこともこれの後押しになったとされている。
770: 弥次郎 :2017/06/20(火) 20:09:00
しかしながら、この計画はザフト側の楽観と製造能力の限界によって頓挫しかけることになる。
ザクⅡは確かに大洋連合において主力機として運用されていたが、ジンを最後まで使わざるを得なかったザフトと異なり、
大洋連合はハイザックやマラサイへと順調に更新を進めていたのである。よって、オーブ攻略戦が終結した前後に、
モデルを変更しての製造を求められてしまった。ボアズ攻防戦に辛うじて間に合ったのはザクと形状が似ていたハイザックモデルのモノで、
マラサイをモデルとした本機は間に合わなかった。ザフトの常識では、配備したMSが急速に二線級に追いやられ、
順調に更新されていくというのはあり得ないことであった。ここにはコーディネーター故のナチュラルに対する侮りや、
自分達こそが基準であり最良という視野の狭さが関係していたと思われる。
また、工作精度の限界を迎えつつあったプラントにおいては、マニュアルに乗っ取ったパーツの製造ならばともかく、
外見から推測された寸法を元に新規設計をして新規に製造、あるいは既存パーツの改良を行うというのは非常に困難であった。
そもそも、このMSの開発そのものが表に出されることなく実行に移されていた為か、正規の手順や工員を用いて製造されなかったようである。
よって、被弾にとても弱く武装も貧弱であり、おまけに戦闘中の不具合や故障なども頻発したと思われ、性能は総合的に見ると、
ジンにも劣る物まで落ちてしまった。おまけに、偽装効果を高めるために「ダメージド」と呼ばれる偽装形態では、
意図的に損傷が与えられたフレームや装甲材などを用いており一発の被弾でも危険な状態であった。
バッテリーは増設されたが熱源偽装装置もお世辞にも燃費が良いとはいえず、ただでさえ短い活動限界時間をさらに削るものとなっている。
総じてみれば、MSの形こそとっているがMSとしては使えたものではなかった。
以上の情報は、プラント争乱後に製造が行われたと思われる工廠が制圧され、情報収集がなされたあとにもたらされた。
分析を行った技術者は「これを戦闘に投じるのは、安全性や国際法上の問題を鑑みれば、狂気の沙汰としか思えない」と断言している。
このMSの正式な名称についても不明で、便宜上「ジン・バット」「ストレンジ・ザク」などと呼称されている。
771: 弥次郎 :2017/06/20(火) 20:11:38
以上、wiki転載はご自由に。
ゲム・カモフを思い出して書いてみました。
MS Iglooはファーストガンダム同様に、戦争という面をえぐり取ってくれるので、怖いながらも割と好きですね。
想像できるならば、実現してしまう。
人間の恐ろしさでもありますな。
一応修正
767
× ハイザックとハイザックのガワだけを真似たMSはバッテリー駆動みたい
〇 ハイザックのガワだけを真似たMSはバッテリー駆動みたい
769
× ZGMF-2000
〇 ZGMF-1000
最終更新:2024年03月05日 21:11