555 :名無しさん:2011/12/09(金) 21:04:14
「感無量の光景だな……」
一人の老人が眼前の光景を前に呟いた。

「守りたかった光景」

誰かがそれを聞けば、首を傾げたかもしれない。
そこにあったのはごく普通の漁村の光景だったからだ。
新鮮な魚介類があがり、子供が元気に走り回る。そんなごく当り前の光景を見て、老人は涙をこらえていた。
ここに至るまでに夢幻会の権力をどれだけ活用する事になったか分からない。
強権を振るうのに眉をしかめる事の多い夢幻会がそれでも力を貸してくれたのは、彼らが逆行者ならではだろう。
結果として、この地の名前が用いられる事はなかったが、別の地でそれは起きた。
その事には忸怩たる思いがある。
だが、仕方あるまい。自分達の手は日本国内に届かせるので精一杯だった。
その恐ろしさを実際に目にするまではどれだけ利益を追求する企業と戦う事になった事か……。
老人はかつて公害病の原告だった。
無念の思いの内に亡くなった彼はこの憂鬱世界へと転生した後、二度と同じ事を起こらせてはならぬと懸命に勉強し、学者として様々な重金属の恐ろしさを研究し、その脅威を発表し続けた。
その活動が夢幻会の目にとまり、彼はその組織へと属する事になった。

彼の眼前に広がる、彼の故郷。
その都市の名を水俣市という。

※水俣病、イタイイタイ病や四日市喘息……
高度発展期に起きた様々な公害病が発生した訳ですが、転生者がいたら、さすがに同じ事は起こさせないだろうと
まあ、杉の木をむやみやたらと植えさせるのも絶対にさせないと思いますがw

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最終更新:2012年01月12日 12:41