367: 蓬莱人形 :2017/07/10(月) 21:46:37
試製・惑星日本ゲート版導入

――壇ノ浦で潜る者は、平家に魅入られ、連れ去られる。
その世界の関門海峡には、そのような言い伝えがあった。
常識的に解釈すれば、壇ノ浦の海は関門海峡の最狭部である早鞆の瀬戸であり、
源平の戦いの結果をも左右した潮の流れに流されれば生きて帰れないから潜るなという戒めということになる。
だが、この世界では違った。
壇ノ浦のすぐ西の海底、それも海岸からすぐ近くに地球と異世界をつなぐ門、いわゆるゲートがあったのである。
いや、正確には異世界ではない。
その世界の太陽系第四惑星は、我々が知る火星のような地球よりずっと小さい赤い星ではなかった。
その星は、地球と同程度の大きさを持ち、地球と同様の大気と海、そして地球と同様の生命(※1)による生態系が存在した。
そしてその世界ではその星は火星/マーズではなく、水星/ディオネという名前を持っていた。
ゲートの行き先はその水星。異世界ではなく同じ世界の同じ太陽系の惑星であったのだが、
人類がそれを証明するまでにはゲートを認知して水星に進出してからもそれなりに長い時間を要した。

人類が本格的にゲートを認知したのは、西暦でいう1619年。現地国家である日本を当時統治していた江戸幕府によってである。
1619年(元和5年)の、後に元和早鞆地震と呼ばれることになる地震は、偶然にも当代の幕府将軍徳川秀忠の目の前で発生した。
肥前長崎と筑前博多の貿易港を将軍が視察することで、幕府の期待感を示して当地の士気を鼓舞するために訪れた帰りであった。
将軍の一行は開けた土地にいたため人的被害を受けることはなく、地震によって地形が変わる様を将軍自身が目撃した。
なぜか地形変化の大きさの割に揺れによる被害は少なかった(※2)。
本州長門と九州豊前の間にあった関門海峡は多少押し広げられ、さらに赤間神宮付近の海底が隆起して陸地が広がる。
そしてその陸化した元海底に、下半分が土に埋もれ、南半分が水没するような形でゲートが存在した。
将軍に同行していた視察団の面々(夢幻衆と呼ばれる転生者集団が同行していた)は慎重に周辺を調査し、
夢幻衆の一部が決死隊となってゲートに突入した。
恐らくは史上初めて、故意に地球からゲートを抜けた者たちが見た光景は、抜ける前とは全く異なる海岸。
太陽は今までより一回り小さく見え、周囲に人工物は見当たらず、山林も人の手が入った気配が全く感じられない。
一旦後戻りして報告した決死隊は、さらに周辺の探検を行ったところ人がいた痕跡を発見する。
長い間放置されていたとひと目で分かる廃墟の残骸。発見された遺物から、住んでいたのは日本人と推測された。
決死隊はこれを発見したところで一度帰還し、報告とともに腰を据えた調査が必要であると具申する。
将軍秀忠はこれを受け入れ、駆けつけた長府藩家老に目の前で起こったこととして地震復興のため藩を通して援助を行うと通達。
引き換えに周辺の調査を預けて欲しいと同行していた格の高い幕臣(※3)に頭を下げられては、国家老も断れなかった。
将軍は視察団の一部を赤間神宮に残し、本格調査の準備を行うよう命じて江戸に帰る(※4)。

368: 蓬莱人形 :2017/07/10(月) 21:47:40
本格的な探検隊が廃墟を調査したところ、近辺の崖の岩壁に文字が刻まれているのが発見される。
解読した結果、そこに住んでいたのは壇ノ浦で入水したと思われていた平家の郎党であり、
一度は住み着いたが他に人がいない地で生き残れず全滅したということが判明(※5)。
刻まれていた文字は末期の数少ない生き残りが身の上を語った遺言であり、命尽きるまで君の墓を守るという内容から
この地に上陸はしたが間もなく病を得て崩御したと記された安徳天皇の墓所の可能性がある土盛が確認される。
その土盛はそれと知った探検隊の手で可能な限りの丁重さで整えられ、清められた。
そして―――神を祀っていた跡と思われる場所から一振りの剣が発見されたことで、朝廷も騒ぎに巻き込まれることになる。
なお、この平家落人の廃村以外には川沿いの耕作適地や天然の良港を巡っても人類の痕跡は一切発見されなかった。

報告を受けた夢幻衆は、当地が無人の地であるのなら日本が進出して領有すべきであるとの結論に達し幕府中枢に報告。
さらに開拓のためには諸藩を弱体化させる余裕などなく、諸藩を優遇してでも力を借りるべきであると付け加えた。
これを受け、幕府はゲート自体は統制下に置くが協力的な藩から逐次開拓に参加させ、
諸藩が開拓によって得た利益は保証するという方針を決定。
名目上の幕府領となった赤間関(下関)に、開拓の地球側の拠点が築かれることになる。

また、幕府は後に俗に「鎖国」と呼ばれることになる、対外交易の強い統制を行う。
九州の貿易港は大きく拡張されたが、外国船が入港できる港は長崎と博多のみに限定。
特に博多湾より東の玄界灘と瀬戸内海への侵入は強く制限されることになる。
日本が得た新たな世界は広すぎた。無主の地は百年かけてもなくせないほどあり、
外国にこの新世界の存在を知られてしまっては強い干渉を招くことになる。
開拓のために国力を傾注するためいちいち諸外国と争っている余裕などないこともあり、
鎖国した上で壇ノ浦のゲートの存在は諸外国に強く隠されることになる。

※1 ゲート自体は億年単位の過去から存在していたものであり、水星の生態系は地球から流入した生物によるものである。
   ただし恐竜は地球と同様に(鳥類を除き)絶滅。もしかしたら氷河期の生物くらいは残ってるかも?
   人類が日本列島に到達した頃からはずっと水没していたが、それ以前は陸上にあった時期もあった。

※2 程度問題であり、地形変化の規模の割には小さかったとはいえ十分大地震の範疇に入る揺れ相応の被害は生じていた。

※3 流石に将軍自身が頭を下げるわけにはいかなかった。

※4 このとき将軍秀忠は、自分が門を越えるわけにはいかない立場であることを残念がる言葉を残している。

※5 平家以外にも偶発的に漂着して水星で命を終えた者はある程度いたが、この調査の時点では発見されなかった。

369: 蓬莱人形 :2017/07/10(月) 21:48:13
以上、荒削りですが導入。
ゲートのあり方は、半分埋もれているとはいえ大陸スレ日仏世界のゲートに近いものを想定しています。
ここがいかんここが駄目ここはこうすべきという議論は大歓迎。
なおこの後ゲート付近を幕府領にするための話を作ったら毛利藩の領地が倍以上になってしまったり。
こじらせた防長っ子として毛利家にいい目を見させたい習性にしても
流石にやり過ぎではないかと思われるので上げて良いものか思案中。
場合によってはこの設定を破棄し、ゲートの場所を適切に変更するのも大いに有りでしょう。

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最終更新:2017年07月13日 19:10