475: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:26:04
大陸SEED支援ネタ 短編集


part.1 南米戦線異状なし


暗い目をしている。
メリル・オクトーバーが上官となったロナルド・ヴィルターに対して抱いた第一印象はそれだった。
体の線が細く、やつれているという印象も同時にあったが、目の方がより印象的だった。
ともすれば、痩せすぎとも取れる肉体だ。疲労の色が濃くでているのも、病人のような風貌に拍車をかけている。
辛うじて制服を着崩さずにきちんと来ているのが辛うじて病人ではなく軍人であるという証左に見えるほど。

ともあれ、地上戦線に着任して早々にそれを咎める必要はない。
自分は目の前の人物の部下となるのだ。風紀を取り締まるためではない。
そんなことを初対面からいきなり指摘するのも無粋というものだ。

(やっぱり、地上戦線は激務なのかしら……?)

メリルは地上戦線への配属を自ら望み、それが認められて南米に配属された。
それまでは宇宙での訓練や輸送艦隊の護衛などを行っていたが、より前線での兵力を求める声があり、それに志願した。
地上戦線から撤退してきたパイロット達の話を聞いた限りでも、やはり忙しいというのは聞かされた。
ともあれ、こうして着任したからには全力を尽くすまでだ。その覚悟で、ここにやってきたのだから。

「メリル・オクトーバーです。本日付でヴィルター隊に配属となりました」

「ヴィルター隊隊長のロナルド・ヴィルターだ。楽にしてくれ。どうせ、今くらいしか楽は出来んからな」

「ハッ!」

言われるが、その姿勢は崩さない。
敬礼を解くが、背筋を伸ばしたままだ。

「さて、オクトーバー。この基地がどういう基地か、知っているかな?」

「はっ。前線哨戒基地と聞いております」

「その通りだ。哨戒基地とは言うが、その実態としては便利屋に近い。ゲリラ戦を展開している連合の部隊への対処、
 宇宙から投下されてくる物資の確保、定期的な哨戒、偵察、物資の輸送などが仕事だ。はっきり言えば、地味だ」

その断言は、重みがある。
長らく、それこそメリルの想像する以上の長い期間、この地上戦線において戦い続けていたのだから。

「激務になる。基地司令兼部隊長として命じることはただ一つ。任務を遂行し、尚且つ自らを保全しろ。
 ザフトは人材を使い潰さずに生かすことが求められている。アフリカ戦線から撤…アフリカ戦線からの転進以来、それは徹底されている」

そんな真剣な様子のメリルをじっと見ながらも、ヴィルターは淡々と言葉を紡ぐ。
途中、言葉を改めてしまった。転進。そう、一応は転進ということになっている。
アフリカの失陥については事実上情報操作によってぼかされている状況だ。何時迄もは無理だとしても、期間をおいて報道し、
混乱やショックを受けさせないように気を遣うしかない。ザフトも、それが徹底するように指示されている。
勿論現場にとってみればくそくらえなのだが、曲がりなりにも軍事組織である以上、従うしかない。
ヴィルターの言い回しを察したのか、メリルも少し表情を曇らせる。追求しようとし、しかし、堪えた。
反発するわけにもいかない。大人なら、堪えなくてはならない。目の前の人間を攻めても、その事実はどうにもならないのだから。

「それは……つまり、死んではならないと?」

「ああ、そうなる。MSの数で劣っている以上、脱落者が出ればそこから食い破られる。
 また、連合は通常戦力を積極的に運用することでこちらに消耗を強いている。次から次へと襲い掛かって来るんだ」

思い当たるものがあるのか、目の前の少女の表情が若干こわばる。
よく勉強しているようだ。研究を現場ではないにしろ知っておけば、少なからず適応しようという余力が生まれる。
南米戦線で連合はパワードスーツや戦闘車両を駆使し、自然環境そのものを武器としてトラップやゲリラ戦を仕掛けてくる。
如何に踏破能力の高いMSと雖も、万能ではない。むしろ、この南米ではその無力さをあらわとしていた。
地面に足をとられ、低木に視界を遮られ、NJではないネガティブ要素によってレーダーをくらまされる。
さらに、ザフト兵士がこの南米に対して不慣れすぎるというのもネガティブ要素だ。密林に迷い込めば、
よほどの運か技術が無ければ外に出てこれなくなる。方向を見失い、MS12機がMIAとなったのは記憶に新しいし、
コーディネート内容と環境が合致しなかったのか、伝染病に感染して後方の病院送りになった兵士も多数いる。
そう、他国へと土足で足を踏み入れたザフトは、そのすべてを以て「反撃」を受けていたのだ。

476: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:27:54
「だからこそ、南米戦線では独自のMSが使われている。
 貴様の受領したMSも、その対策の一環として開発されたものだというのは知っての通りだ。
 だが、そんな対策をしてもなお厳しい戦いであるのは事実。故に、簡単に死なれては困るわけだ」

「了解しました」

「よろしい」

メリルの返答に大きく頷いたヴィルターは、隣に控えていた部下を紹介する。

「彼女はアリア・アートネン。貴様の上官であり、貴様に地上戦線での戦い方を教える教官だ」

「初めまして~」

にこやかに、ゆったりと喋る彼女、アリア・アートネン。長い白髪に、目じりのさがった優し気な顔立ち。
肌がきれいな小麦色になっているのは、南米の陽に焼けたためだろうか。
少し、安心した。少なくとも、とっつきにくい人ではないとメリルは理解できる。

「初めまして、アートネンさん。メリル・オクトーバーです」

「彼女はアフリカ戦線からのベテランだ。貴様の先任となるだろう。
 この基地の案内や今後の訓練については彼女から聞いてくれ。出来れば、30時間でこの基地について把握するように」

ふぅ、と一息を入れ、精一杯の祈りと願いを込めて、激励した。

「南米戦線の帰結は、貴様の双肩にもかかっている。それに殉じろとは言わん。ただ、全力を尽くせ」

「はっ!では、失礼いたします!」

「アートネン、あまり無茶はするな?」

「はぁい」

釘を刺された彼女は、朗らかに、しかし、どことなく危うさの漂う笑みを浮かべて新任の兵を連れていく。
あれでも彼女は優秀な人間だ。おそらく、メリル・オクトーバーという少女を兵士へと変えてくれるだろう。
一応あれでも宇宙での戦闘経験があるというが、地上戦線のひどさは宇宙とはまた違うもの。
アートネンを見本として、アートネンのようにならないことを祈るしかない。

部下たちを送り出したヴィルダーは上層部からの書類に目を通しながら、深いため息をつく。
最新鋭機 国防に身を投じる少女 志願兵 苦境の南米戦線。ここまでくると、一周回って清々しささえ感じる。

(プロパガンダか、この後に及んで……!)

どう考えても、「うまい」話に転がる。
死のうが、戦果を挙げようがどちらでもいい。吐き捨てるが、どうにもならない。
南米で悪態をついたところで、宇宙のプラント本国に影響など出るはずもない。

「そういえば、もうすぐ物資の定期投下か……」

メリル・オクトーバーの着任と同時に届けられた予定表。
それは、南米戦線を支える物資の軍需物資の投下の期日やポイントをまとめたものだ。
好意的に見てだいぶ入念な予定を立てた、悪く言えば届くかどうか不安になりそうな計画書だ。
開戦から、ここに降下してきた当初と比較すれば、だいぶ様変わりしている。
投下予定がきっちり守られているとはいえなくなっているのだ。その投下ペースも、投下される物資の量も、かなり減っている。

(通商破壊……か)

ふぅ、とため息をついてコーヒーを胃に流し込み、その原因を心中で呟く。
苦みと香りで塗りつぶそうとするが、それもできない。
宇宙に本拠のあるプラント/ザフトにとって、制宙権を握るのはまさに国家としての生死に関わる。
一応、序盤戦においては連合の宇宙艦隊を撃破し、NJの散布を行うなど、宇宙を意のままに動くことが出来た。
しかし、それはあくまで序盤まで。定期的な補給艦隊は何度も通商破壊艦隊に襲撃を受け、少なくはない損害を重ねている。

そして、現在の所、物資の収支は、労力に見合う状況かと言われると、マイナスだ。
連合もすでに勢力を立て直しつつあり、MSやそれを補助する航空機や歩兵などを積極投入して地道にこちらの兵力をすりつぶしてきている。
弾は使えば無くなり、MSを動かせばパーツを損耗させ、電力を消費する。それは絶対に避け得ない。
このまま徒に消耗するのが悪手とは理解している。だが、打破するだけの余力もない。

「一体、評議会は何を考えているんだ……」

乾坤一擲の作戦を展開すれば、あるいは大西洋連邦を陥落させることができる、かもしれない。
正直なところ、すぐに攻勢限界に突き当たるだろうという予想はある。だが、それでも。少しでもいいから希望を見たいというのは間違いなのだろうか。
そういった希望に縋りつかなければ、どうしてもやっていられない。41人。41人だ。自分の率いているヴィルター隊は、
ここにきてからそれだけ入れ替わっている。後方へ下げられた部下もいれば、命を落とした部下だっている。
それでもなお形を維持しているが、どこまで待つだろうか。このまま、故郷からはるかに遠い地ですり潰されるのだろうか。

「どうなんだ、なぁ、おい」

そんな声は、むなしく南米のジャングルへと消えていった。

477: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:29:32
Part.2 四騎士、結集


「ふ、はぁ……」

大洋連合 派遣南米方面軍 セイレーン機動艦隊所属のビリー・アッカム少尉はゆらりと立ち昇る紫煙を眺めている。
まがい物ではない、本物の煙草だ。軍からの支給品ということで味は良いとは言えないが、吸えるだけましというもの。
宇宙生まれだが、宇宙暮らしはかなり苦労が多い。特に自由にタバコが吸えない。そう、吸えないのだ。全くふざけている。
宇宙生まれは酸素に固執するとはよく言うが、それはビリーには当てはまらない。
体を生かすのに酸素は必要と理解しているし、体にとって紫煙は良くないとは分かっている。
だが、それはそれ、これはこれ。「命の洗濯」をしていなければ、心の方が不健康になって病気になる。
ふぅと吐き出す紫煙は、ゆらりと揺れていく。

(ああ、いい天気だ……)

夏場の環境を再現したコロニーよりも、こう、染みつくような暑さを感じる。
同じムンゾ出身の兵には地球での勤務を嫌う兵もいるのだが、こうしてタバコが吸えるならば別に苦とならない。
多少空気を汚しても構わないのだ。それを許すだけ、この地球という星はコロニーよりも慈悲深いのかもしれない。
いや、人の手で地球を再現しようという方が傲慢なのかもしれない。それだけこの地球という星は優しい。優しすぎるというべきか。

「ふぁあー…」

夜間の長期作戦行動に備え昼寝をしていたのだが、どうにも眠気が抜けきらない。
煙草を吸っても、まだ駄目だ。
体はまだ、眠っている。
新しく受領したMSの完熟訓練を行い、ジンや宇宙で確認されたザフトの新型MSへの対処訓練をシミュレーターで何度もやったことで、
気がつかないうちに疲労が蓄積していたのだろう、と自己分析する。それだけ苦労が多いMSを任されたという自覚はある。
性能自体は素晴らしいものだ。自分の反応にきちんと追従し、自分を振り回さない。

これではいけない、とも思う。
せっかく友軍が苦労しているのだから、もっと有意義に過ごすべきではと、軍人としては思う。
まあ、ここは最前線からはある程度離れ、安全が確保されているのだから緩んでもいいのかもしれないと言い訳も浮かぶ。

「ふぅ……」

最後の灰を灰皿に落とし、ついでに煙草も落としてしまう。
いずれにせよ、大洋には、そして連合軍には余裕がある。
それを多少は有効活用してもいいだろうと思う程度には、寛大さがあった方が良いだろう。
そう思い、椅子に寄りかからせた体勢から身を起こそうとし。

「---!?」

ビリーは走った「感覚」に従い即座に身を屈ませる。
反応してから、敵意はないと遅れて理解する。こちらに攻撃を意図した「意思」を感じ取った時の、鋭さが無い。
そして、この「感覚」には覚えがある。気配と言ってもいい。

「よっと……」

だから、勘の導くままに、体を引っ込めながらも、手を前へ伸ばす。
感じ取った軌道で投じられた物体は、綺麗にビリーの手のひらの上に納まる。
それは、フルーツだ。濃い赤、あるいは紅色のそれはどこかで見たような。
振り返ってみる。そこには、想像通りの、感じ取った波長のままの仲間がいた。

「なんだ、シャニスか……」

セイレーン機動艦隊の偵察機部隊に属するシャニスが、籠を小脇に抱えて立っている。
いつかと同じように、こちらにフルーツを投げたのだ。

「パッションフルーツ、信頼できる所から手に入ったって。これからいよいよシーズンらしいわ」

「そうか、ありがとうな」

礼を言って、差し出されたスプーンを手に取る。
既に切込みの入っていたパッションフルーツは手で簡単に真っ二つに出来た。
ふわっと、酸味と甘みが入り混じった芳醇な香りが潮風の中でもうかび上がるのを感じる。
天然モノらしい。ムンゾでも少々値は張るが農業コロニーで作られた果物などを手に入れることができる。
だが、農業コロニーで作れるとは言っても、あまり出回らない果物があることも確かだ。
このパッションフルーツにしても、聞いたことや写真で見たことはあっても、こうして口にするのは地球に来てからが初めてだ。

「これ、南米で買ってきた奴?」

「ええ。偵察任務って一言で言っても、航空機での偵察や民間人に紛れ込んでの偵察もあるから、その時にね。
 艦の皆には配り切れるほどは買えなかったから、希望者に配られる程度だと思うわ」

「へぇ……」

478: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:30:46
礼を言いつつも、中身を掬って口に入れてみる。
甘いが、酸っぱい。しかし癖になりそうだ。熱帯や亜熱帯ではキワモノなフルーツが多いと聞いたことがあるが、
これはどうやらまだ食べても楽しめるフルーツのようだ。口がわびしかったのもあって、ビリーのスプーンの動きは自然と速くなった。

「そういえば、南米戦線は激戦だって言ってたけど今どんな情勢なんだ?」

「偵察に何度も出てるけど、大西洋連邦とザフトの戦線はまさしく一進一退ね」

シャニスはパッションフルーツを切り分けながらも、ここ数日の偵察の結果を静かに語り始める。

「MSでも視界やレーダーが不明瞭になるアマゾンの熱帯雨林。
 ゲリラ戦やトラップを味方に被害が出ることも覚悟で何重にも仕掛けた遅滞戦術……ま、MSの配備までの時間稼ぎね。
 配備そのものは出てきても全軍への充足と慣れを生むのは時間を食うみたいだし」

「なるほどな…」

「聞いた話だと、大西洋連邦の新型のMS搭載強襲揚陸艦と思われる大型船が配備されたらしいわ。
 私も見たわけじゃないけど、上からの情報だと、宇宙からはるばる逃げてきた歴戦の艦艇だそうよ。
 多分、現地の軍との打ち合わせが完了したら大々的に打って出るつもりかも」

ほら、この冊子とシャニスが差し出した雑誌を手に取る。ブルーフロンティアと書かれている。
察するに、ブルーコスモスの系列だろうかとビリーは想像した。あまり詳しくはないが、反プラントの政治的な派閥と聞いている。
それがなぜ?と思いながらも、ぺらぺらとめくって伏せんが付けられたページを開く。
載っているのは、線が細く、未だ子供のような風貌を残した軍人の写真。敬礼の様子も、どことなく硬い。

「この子、明らかにコーディネーターよ。
 この雑誌に載っている人は大体そうだし、インタビューの内容も激戦を潜り抜けて、最新鋭戦艦のMSパイロットとして、
 最前線で“連合のために”戦っているって協調されているしね。十中八九、この子がその戦艦に乗っているわ」

「ヘぇ……」

大西洋連邦の最新鋭戦艦。
宇宙から逃げてきて、そのまま大気圏内で運用できるということは、高雄級かアーガマ級か、それと同じような艦艇なのかもしれない。
なるほど、確かに最新鋭戦艦に相応しい能力なのだろう。それを投じるということは、それだけこの南米戦線の膠着を打ち破りたいということ。
あるいは、膠着を打ち破るだけの戦力となりうるのであると評価していることになる。

479: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:31:44
大洋連合より遅れているとしても、MS開発は順調に進んでいるであろうし、反抗に出るということは何らかの勝機があるということ。
それがいったいなんであるか。ビリーの興味はそちらに移っていった。
しかし、そんなことを考えるビリーに対してシャニスは徐々に眉間にしわを寄せていく。

「私が言いたいのはそうじゃなくってね……」

「え?」

「大西洋連邦も、結構手段を選んでないってことよ。
 こんな年端もいかない子供を戦地に送るなんて、いくらコーディネーターでも酷な話。
 いったい何でこんな繊細そうな子が軍に入って戦っているのか、理解に苦しむわ」

そっちなのか、とビリーはようやくシャニスの不機嫌の理由を悟った。
この物憂げな表情のコーディネーターの少年が、彼女の言うところの繊細な子供が戦地に送られている。
曲がりなりにも正規軍人、しかもきちんと訓練を受けた兵士を前線に送り出している大洋連合からすれば、
こんな年端もいかないような少年を送るのは問題だ。とはいえ、それが他国である上に現状ではザフトとの戦線を共同で張る国なので、
表立って批判することが出来ない。それを理解した上での、憤りだ。

「そういうものなのか……?」

「呆れた……鈍いわね、色々と」

「敵意を感じ取るのは得意なんだけどな……というか、シャニスはこの記事の内容をきちんと読んだうえで、判断したんだろ?
 俺はこれをはじめてみたんだけど……」

「敵意を感じ取れても、写真とはいえ目の前の人の気持ちを察することが出来ないなんて、問題外よ」

断言口調のシャニスに、流石のビリーも口をつぐむしかない。
意外に頑固というか強情なところもあるのがシャニスだ。いつも斜に構えているようにも見えるが、割と感情的だ。
これは長い説教を受けるかな、とビリーは諦め顔で次の煙草を取り出し、火をつける。
穏やかな風が、その紫煙をさらっていく。

480: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:32:19
「ハンフリー参謀、やはりいると思われますか?」

「ええ、確定情報でしょう。既に宇宙では核動力を前提とするMS用のパーツが鹵獲されています。
 アフリカ戦線で確認されたGタイプのMS。あれだけの高火力と推力を実現するには、やはりそれだけの動力源が必須です。
 戦闘継続時間から考えても、核動力なのはほぼ間違いないでしょう。アフリカの大反抗作戦が終わった以上、ザフトが戦力を展開できるのは南米のみ。
 そのMSが撃破されたという報告もありませんし、恐らくこの南米に配備されているのは間違いない。
 なにしろ、南米(ここ)を失えば地上との出入り口を完全に失い、地上戦線から完全に叩き出されますからね」

「それは何としても避けたい、と?」

「ザフトの権威もかなり下がっていることも追い打ちでしょう。何しろ、アフリカが陥落したのですから。
 それが間違いだったと言い訳するには是が非でもこの南米戦線を維持しなくてはなりません。
 いえ、ここを失えばザフトは連合の一角を占める大西洋連邦を打ち負かすチャンスさえも失う。
 MSの大気圏外からの投下が厳しいとなれば、必ず地上に下ろし、そこから複数のルートで投入するしかありません」

「となればやはり南米は死守すべき場所であるわけですな」

「ええ。しかし、序盤戦のようなアドバンテージは既に失われています。
 既にMSの配備は連合内部でも進行。MSの性能差も埋まり、あとは個々のパイロットの能力程度しか優位性はありません。
 恐らく、慎重に慎重を期してくるでしょうね。そうなれば、ズルズルと消耗戦になるので、こちらはそのように対応しますが」

「ですが……ザフトがそれを理解していないはずがありません」

「ええ。戦線膠着は避けねばならない。ザフトも徒に消耗させるはずもない。何か決定打を用意している。
 ならば、こちらもぶつけてやればいいのですよ。性能差で圧倒し、一般兵の操る戦力では太刀打ちできないものを。
 戦線を動かさざるを得ないような、そんな戦力を」

「釣り出しにかかる、というわけですかな?」

「そういうことです。削り合いになればこちらの物です。奪えば奪うほど、ザフトは余力を失います。
 どうにも目先の勝利にこだわり過ぎる節がありますから、そこに付け込んでみる価値はあります」

「その為の新型ということで?」

「ええ。踊っているのか、踊らされているのか、余裕のない彼らには分からないでしょう。
 ともあれ、彼等にはもう少し踊ってもらって疲れてもらわなくては」


        • セイレーン機動艦隊 水上旗艦ビックトレー級“ビックベース”にて

481: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:32:49
Part.3 流星の如く



ローラシア級アントニオ・スカルパの艦長 ケイン・メルダースは苛立ちを隠さずに貧乏ゆすりをしていた。
彼に限ったことではなく、ブリッチに配置されている誰もが顔をしかめているか、あるいは露骨にイライラしていた。
その原因は様々。地球とプラントを結ぶ輸送艦隊は連合の艦隊による妨害に合う可能性があり、神経を張り詰める必要がある事も関係する。
しかし、その一番の理由はアントニオ・スカルパの隣を並走する宇宙船舶マルセイユⅢ世級、現在はジャンク屋の船だが、それにあるのだ。

マルセイユⅢ世級。それはもともと連合の保有していた宇宙船舶だ。
円を潰したような形のそれは、元々は戦艦としても運用されていたが、現在は民間やジャンク屋などで幅広く使われている。
そう、ジャンク屋だ。おもわず、メルダースはアームレストを強く握りしめてしまう。

「艦長……」

それを見て取ったか、副長が心配げに声をかけてくる。
言わんとすることは分かる、と返答しておく。少し声がとがっていただろうか。
艦内のストレスを高めないように注意は払うべきだ。ましてや艦長なのだから、それはさらに求められる。
だが、それでも。沸き上がる言いようのない不快感は抑えられない。それが伝播しているのか、それとも元からそうだったのか、
ブリッジ要員にも苛立ちを隠せずにいる者もいるのが分かる。

(クソ……情けない)

プラント本国は地球と月のL5宙域に存在するため、必然的に地球との間に補給線を構築する必要がある。
その輸送路は、本来ならば制宙権をほぼ握っているために安全なはずだった。
しかし、この世界においてザフトの補給線はかなりギリギリだ。それもそのはず、大洋連合を主体とする通商破壊艦隊が跋扈し、
ザフトにかなりの出血を強いているのだ。そのためザフトは兵力を割いて防衛に努めるか、あるいはジャンク屋や
傭兵を利用するなどして地球戦線に物資を送り、あるいは地球から確保した食料や資源を本国に持ち帰っていた。
正規ルートにはない、ジャンク屋や傭兵独自のルートを経由することで、補給線は完全には寸断されていない。
とはいえ、被害が0というわけではない。

(ジャンク屋どもめ……こちらの足元を見ているつもりか!)

そして目下の悩み事はジャンク屋の横柄な態度だ。物資の上前を跳ねたり、支払い段階で契約時以上の額を要求したりするなどがある。
無論これらは報告に挙げられてはいるが、事実上黙殺されていた。ジャンク屋に兵站の一翼を担わせているザフトは、断り切れないというわけだ。
ジャンク屋連合がジンを多数保有して運用しているのも、それを報酬として求められたがためだった。無論ぼかしたり、
ブラックボックスとして提供したのだが、どうやら自力で運用ノウハウを導き出しつつあるらしい。
無論ジャンク屋や傭兵によっては律儀に契約を守ってくれる場合もあるのだが、そうではないジャンク屋が混じっているのもまた事実。

ケインにとってみれば、如何に国家としての弱点とは言え悪く言えば風見鶏の連中に、おまけにナチュラルも混じっているジャンク屋や
傭兵に委ねるというのは心理的な抵抗感があった。その抵抗感はジャンク屋の態度や振る舞いを見聞きしてさらに積もっている。
だからこそ、今回のような仕事は信用できるジャンク屋を指定したかったのだが、それもかなわなかった。
この後の交渉は紛糾するだろうという、半ば確信めいたものもある。

「時間か……」

「艦長、どうやら本隊は……」

482: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:33:22
合流予定ポイントで予定時刻ギリギリまで待っていたが、本隊の影も形も見当たらない。
恐らく輸送艦隊は襲撃を受け、全滅したか、あるいは本国へと引き換えしたのだろう。
正直、落胆はあった。今回の輸送はかなりの大規模な輸送艦隊が編成され、複数のルートに分けての派遣だったのだ。
護衛もかなり割かれていたし、ダミー情報を流すなどの準備したが、それでも足りなかったらしい。
とは言え、それを認めたところでもマイナスにしかならない。務めて事務的に応じる。

「そういうことだろうな。やむを得ない。物資を降下開始しろ」

「了解」

出来ることは、こちらに分割して載せていた物資だけでも地上に送り届けてやることだけだ。
こちらにはシャングリラ級4隻と輸送艦として仕立て上げたローラシア級、さらにマルセイユⅢ級を根幹としており、
本隊ほどではないが、かなりの量の物資を運んできた。10の物資を投下できない。しかし、0よりは3か4の方がましだ。

「軌道計算終了、各艦に異常なし。ピケットMSからも敵発見の報はありません」

「よろしい、今回も幸運を拾えたようだ。各艦、指定の軌道で投下を開始せよ」

合図とともに、ローラシア級とシャングリラ級に懸架されていた大気突入ポットが重力の井戸の底へと落ちていく。
全部で20余り。それらが順次投下され、大気との摩擦熱を受けて真っ赤に染まり、さながら流星のように見える。
これまでも何度か見た光景だ。しかし、戦争が長引くにつれて見る機会が減っていることも確かだ。
通商破壊の艦隊に付け狙われたり、あるいは投下が終わってほっとしたところを奇襲されたりと、散々な目に合っている。
時には通り魔的に、一撃を浴びせた後にすたこらさっさと逃げ出してしまうこともあるため、全滅するということはそこまで多くない。
現在のザフトの補給線を担うのは、そういう「幸運」を拾えたか、あるいは努力を重ねて攻撃を回避できた人間達だ。
戦って生き残れた、というのはほとんどない。凌ぐことは出来ても、相手を破ることはできないのだ。

「やれやれ……無事に届いてくれればいいのだがな」

この後にあるジャンク屋とのやり取りを思ってげんなりしながらも、ケインは無事を祈るしかない。
予定通りの軌道で投下が出来た。しかし、それを受け取ることが無事にできるとは限らない。
混戦の南米戦線。なんとか状況を打破できないものか。

(補給部隊が、偉そうなことは言えないんだがなぁ)

ケインは副長に指揮を任せると、ため息をつきながら艦橋を出る。
ああ、憂鬱だ。あんなジャンク屋に、守銭奴などに頼らなければならないのか。
重い足取りで、ブリッジから出る。胃がじくりと痛むような感じがする。
憂鬱だ。何故、一仕事終えたというのにこんなにも気が沈むのか。

いつ終わるだろう、と自問してみる。
それは、この戦争が終わったら、と答えが理性から返って来る。
だが、それはいつだ?本能のような、衝動じみた質問が自分の中に生まれる。
救いを求めるかのような問いに、理性は沈黙を返した。

「ちくしょうが……」

向けられる先のない怒りを殺し、自らの職務を全うすべく、床を蹴った。

483: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:34:23
登場人物紹介


ロナルド・ヴィルター
人種:第一世代コーディネーター 階級:- 制服:白服
年齢:32歳 性別:男性

南米戦線の一角を担当するヴィルター隊の隊長。
開戦後に宇宙を舞台に転戦。降下作戦において南米へと降り、大西洋連邦との戦線へと参戦した。
エースパイロットではないが指揮官としての能力に優れている。全てを自分で決めることはせずに、
他の隊員と話し合い、決定を下すことで部隊内の不和を抑えている。趣味はビリヤード。



メリル・オクトーバー
人種:第二世代コーディネーター 階級:- 制服:赤
年齢:17歳 性別:女性

南米戦線に派遣された赤服の一人。
ギリギリ繰り上げ卒業を免れたグループに属し、宇宙での任務の後に南米戦線へと派遣された。
生真面目な性格で、風紀や規律にうるさいタイプ。しかし、それでも腕前に関してはかなり良い部類。
搭乗機となるのはシグー・ロングアームズ。



アリア・アートネン
人種:第二世代コーディネーター 階級:- 制服:緑
年齢:21 性別:女性

アフリカ戦線を戦い抜いた歴戦パイロット。
貴重な実戦経験の長いパイロットであるが、仲間たちを眼前で失ったことによるショックからPTSDの兆候が見られている。
アフリカ戦線での敗北を隠匿するために、本国への帰還を拒否され、南米戦線に止め置かれている。

のんびりとした口調と性格だが、時折、情緒不安定になる。
その為、新兵への指導役という地位を与えられ、静かなデスクワークを中心に仕事をしながら治療を行っている。
トラウマを緩和させるために認知療法を行いつつ、医師であるシェーパーが時間をかけて戦訓を聞きだし、
ヴィルダーがそれを部隊内部に教訓として広めるというシステムが構築されている。
新兵の指導役というのも治療の一種であり、徐々に慣らしていくことで落ち着いて教導ができるようになった。

20歳を超えたばかりではあるが、「大人」が急速に減っていたプラントの中では相対的に年上の部類にあたる。
趣味は編み物。教え子には自分で編んだハンカチなどを送っている。


フランクリン・シェーパー
人種:第一世代コーディネーター 階級:- 制服:緑
年齢:34歳 性別:男性

ヴィルター隊に属する医師。専門は循環器系だが、精神科や心療内科など幅広い分野の治療も担当している、というか、担当せざるを得ない。
隊員のメンタルケアや体調管理に日々苦心しており、南米の土着病への対処には力を注いでいる。


ケイン・メルダース
人種:第二世代コーディネーター 階級:- 制服:白
年齢:27歳 性別:男性

ザフトの輸送艦隊の指令を務める男性。
サンダーボルト師団が襲撃を掛けた大規模輸送艦隊の別動隊を率いて物資投下に成功した。
長らく補給線の維持に関わっており、独自の経験則と勘で襲撃を回避したり、あるいは引き返すなどして損害を抑えてきた。

金次第で何でもやるというジャンク屋や傭兵などを毛嫌いしており、あまり信用していない。
報酬などを上乗せ要求がされたり、こちらに対して横柄な態度をとるためにそういった組織への評価は底値を割っている模様。
とは言え、ザフトの方針ということもあって堪えている。

484: 弥次郎 :2017/07/30(日) 00:34:59

以上。wiki転載ご自由に。
短めのものを3つまとめて放出です。
これ、ペイルライダーの登場するSSで使う予定だったんですが、書ききれそうにないのでこのような形で供養です。
旨くまとめられなかったので、表現などが荒いですなぁ…

というか、そろそろネタに突っ走りたい衝動がががが!蕁麻疹が!
しかし、あんま無理もできないのでかける時に書けるネタを書いていきたいですね。

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最終更新:2024年03月07日 00:23