463 :名無しさん:2011/12/17(土) 14:54:52
おやつ代わりに即興ネタをば。
異世界と繋がり続ける憂鬱世界の最前線のお話。



 ―――西暦二○XX(昭和XX)年五月 大日本帝国 神奈川県 横浜市 横浜国際新港


 海外への旅行の主役が船舶から飛行機に移って久しい今日。
 この横浜に近年、新たに築かれた横浜国際新港の活況だけはそんな世界の流れからは例外に位置していると言えるだろう。

「おい、佐藤。それは何だ?」

「例の神祇院から出向してきた方が回収してくれたものです。何でも魔法の杖だとか」

「うへぇ……ついにこっちにも銀座みたいにファンタジーな代物を持ち込む奴が出始めたか」

 深い溜息を吐きながら、この道十五年の入国管理官の男は
奇妙な装飾が施された杖を受け取り、頑丈な金庫へと仕舞う。
 一見すると交響楽団の指揮者が使う指揮棒に見えなくもないが、
これが下手な拳銃より厄介な代物だと言うから困り者だ。
 その手の品物に詳しい神祇院からの出向者達がいなければ、見過ごしていたに違いない。


 既存の価値観が次々にごみ箱に放り込まれていく仕事場。
 現代の出島と囁かれる、横浜国際新港に属する入国管理官達は皆、そう口を揃える。

『間もなく七番埠頭より、<第一平行世界>平成日本国お台場港行きの高速旅客船<第八平成丸>が出港致します』

『一番埠頭に<第三平行世界>イタリア王国ナポリ港発の高速旅客船<第二なぽり丸>が入港致します。該船は折り返し、十三時二○分発、<第三平行世界>イタリア王国ナポリ行きの船となります』

『五番埠頭より<第二異世界>黎明日本国横浜港行きの高速旅客船<第一はるけぎにあ丸>が出港致します』

 だが、それも致し方ない。
 何せここは海上に出現したゲートを通り、異世界や平行世界へと向かう航路を一手に担う港なのだ。
 世界の垣根を越えれば、自分達の居る世界の常識が通る方が珍しい。

「佐藤! 田中! イタリアからの船が着く! 一番の応援に行ってくれ!」

「了解!」

 故に今日も彼らは戦い続ける。
 流れ込む異世界の常識から、憂鬱世界を護るために。

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最終更新:2012年01月16日 19:11