590: パトラッシュ :2014/03/29(土) 10:52:01

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART49

篠ノ之箒SIDE(5)

 わ、私はISに関してまだまだ未熟者だ。それはわかっている。紅椿を知り尽くしているとはお世辞にもいえない。だ、だが一夏にはっきり「足手まといだ」と断言されてしまった。茫然としたまま宿の庭を歩いていると、背後から「篠ノ之さん」と声をかけられた。一目見たら忘れられない白銀の髪に緋眼の戦士。
「山本少佐……」
「大作戦なのに一夏と一緒に出撃できなくてがっくりきているようね。まあ鬼教官である彼にすれば、当然の判断だわ」
「は、今、何と……」
「地球防衛軍では織斑一夏のしごきに耐え抜いたら、一人前のパイロットになれるとされてるのよ。宇宙戦士訓練学校を卒業したてのひよっ子なんて、彼の下についたら毎日泣き暮らすほどだから。あなたが彼の訓練についていけるとは思えないし」
「あ、あいつがそんな……」
「なぜだと思う? 一夏はパイロットとしての初陣で乗っていた艦を撃沈され、艦長以下九百人を超える仲間を一度に失ったの。そんな経験をさせたくないとの思いが、厳しい訓練につながっている」
「九、百人……」
 想像できない数だ。私がそんな目に遭ったら、間違いなくその場で壊れていただろう。だが一夏は耐え抜き、エースパイロットと呼ばれるまでに成長した。ラウラの言っていた「高い壁」とは、このことだったのか。

「もうひとつ聞くけど、あなたは敵を殺す覚悟があるの?」
「敵を……殺す?」
「一夏の話だと、あなたは彼が戦場で敵を殺したと知ってショックを受けたそうじゃない。そんなあなたが一夏の隣で戦えるのかしら。血を見るのは嫌だと逃げ出すのが関の山でしょうね」
「な、なら少佐はどうなのですか?」
「私も最初は怖かったけど、殺さなければ殺されるという現実の前にすぐ慣れたわ。今度の『銀の福音』は、迎撃した日本やアメリカの部隊を簡単に追い払ったとか。そんな相手を倒すには、搭乗者を殺さねばならない可能性もある。あなたにできるの?」
 で、できるわけがない。ISの実戦をスポーツと勘違いして一夏に張り倒された私などに。なぜ、なぜ私はこうも愚かで惨めなのだ。血が出るほど唇を噛む私に、少佐は追い討ちをかけた。
「それで篠ノ之さん、あなたの紅椿だったかしら、そのISは返上しないの?」
 予想外の言葉に私は息がとまった。
「へ、返上ですって?」
「あなたじゃ宝の持ち腐れでしょう。もっとふさわしい人――たとえば私でも使ったほうがマシじゃない? IS適性試験ではSランクだし、実戦なら一夏と同じほど慣れているわ」
「……いいえ、返上しません。もしそうしたら私は敵前逃亡した卑怯者になってしまう。それくらいなら死んだほうがいい。石にしがみついてでも、私は紅椿を使いこなしてみせる!」
「そう、なら死ぬ気で人を殺せるようになりなさい。意地や強がりでないと証明するために」
 踵を返した少佐に、私は思わず声をかけた。
「待って下さい! 少佐はその一夏と……つ、付き合っているのですか? 随分と親しそうなのですが」
精一杯さりげなく聞いたが、声と心臓が連動して震える。二人が実は恋人同士だなどと想像しただけで気が狂いそうだ。そんな私に少佐は微笑した。
「私は同僚のパイロットだった恋人を目の前で失ったわ。敵宇宙要塞の攻撃を受けた仲間をかばって撃たれ、要塞に激突したの。思わず錯乱して彼が散った場所へ突っ込もうとしたのを、一夏が私の機体を傷つけて動けなくしたから助かったわ。最初は彼を恨んで殴ったけど、大切な人が命を賭けて守った世界で生きるのが残った者の義務だと返されて反論できなかった。つまり私は一夏に生かされたようなものなのよ。あなたにその気持ちがわかるとは思えないけど」

 立ち去る少佐を追えなかった。想像を絶する経験をしてきた一夏たちに比べ、救いようのない甘ちゃんの私ごときが。だ、だが私がこのままで終わるか否か、今が分かれ目だ。負けてたまるか!

 ※教養小説としてのISは見果てぬ夢なので、私なりに要素を加えてみました。Wiki掲載は自由です。

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最終更新:2017年08月22日 12:36