602: パトラッシュ :2014/04/12(土) 10:08:11

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART51

山本玲SIDE(4)

「山本です、よろしいですか」
「……どうぞ」

 臨時の指令本部になった旅館の大広間には、何台もの大型スクリーンやパソコンが運び込まれ、IS学園の教師たちが電線を引っ張って設置に苦労しているカオスな情況だ。IS学園を視察した際にも感じたが、やはり二百年近い過去の世界の技術水準は低い。各国は地球防衛軍の軍事技術を何としても欲しがっているが、とても使いこなせるとは思えないわね。

「先刻はうちの生徒が世話になった」
「どういたしましてと言いたいところですが、昔の自分を見ているようで恥ずかしかったですね」
「ほう、少佐にもあんな未熟な頃がありましたか」
「私はガミラスに家族を皆殺しにされ、復讐のためパイロットを志願しました。願いがかなってからも荒れて乱暴な戦いぶりを上官にたしなめられるほどでしたが、敵を殺し味方を殺される経験を重ねて戦争とは何かを理解しました」
「弟から向こうの世界の戦争について聞いてはいたが、凄まじい限りだな……しかし篠ノ之は束の妹として、本人が嫌がってもISとは無関係ではいられない。きつい言い方だが、生きるために鍛えねばならないのだ」
「だから紅椿を与えたと?」
「ああ、束のバカがいきなり第四世代型をくれてやろうとしたのを弟が止めた。未熟者に過ぎたものは破滅に一直線だと。まるで考えてなかった束は、一夏はかわいくなくなったと電話で散々ぼやいていたぞ」
「当然ですね。一夏は地球防衛軍ではパイロット候補生から鬼教官と恐れられていますから。篠ノ之さんみたいな新兵が彼にしごかれたら、間違いなく血を吐きますよ。失礼ですが千冬さんを見たとき、よく似た姉弟だなと感心したほどです」
「それこそ信じがたい話だが。とにかく篠ノ之は錬度の向上にあわせて紅椿の能力を少しずつ上げていき、卒業時に三・五世代か第四世代型まで扱えるよう持っていくのが弟の考えだ。束も仕方なく了承している」

 だから今回は厳しい言葉で篠ノ之さんを拒絶して、試練を与えようというわけか。言葉と行動で硬軟織り交ぜて成長を促して鍛えるのは、土方教官直伝かしら。考えているところへ、千冬さんが声をひそめて問いかけた。

「ところで少佐、聞いておきたいのだが……弟とはどういう関係なのだ? 単なる上官と部下とは思えないのだが」
「ご想像の通りです。私が少し強引に迫った結果ですけれど」
「ほう、すると少佐は私の義理の妹になるわけか。まあ弟が選んだ相手なら文句はない。あんな奴だが、よろしく頼む」
「篠ノ之さんたちも何となく察しているようですが、真実を確かめるのが怖いらしくて」
「ふ、尻の青い未熟者のくせに独占欲ばかり強い小娘どもなぞ放っておけばいい。互いに牽制しあうだけで、殺し殺される戦争を生き抜いてきた弟の心情を理解しようともしない。生徒だけでなく山田先生も、弟を眺めては妄想に浸っている始末だ。実戦を知らぬ平和ボケなど、一度は酷い目に遭ったほうが人間として成長できるさ」
「けれど、一夏がいかにモテているかは日々ご覧の通りでしょう。うちの軍医なんか虫みたいにフェロモンを出して女を惹き寄せていると言うほどで、魔性の男呼ばわりする向きもあって」
「は? しかし現に弟は少佐と」
「残念ながら、私は独占できませんでした」
「何だと――」

 眉を寄せた千冬さんに、モニターを覗いていた教員が声をかけた。「織斑先生、ケイシー、サファイア両名が一年生と合流しました。もう間もなく『銀の福音』と遭遇します」「わかった。少佐、話は後で」スクリーンに八機のISが白、赤、青、黒などに色分けされて光るところへ、銀色の光点が急速接近してきた。白い光点の「白式」が交錯したのを合図に戦闘が始まった。最新型ISと聞いていた福音だが、さすがに一対八の集中攻撃には苦しんでいる。案外簡単に終わるかと思っていたところへ突然、福音がその異形の力をあらわにしたのだ。

 ※大人の女同士の会話は、書いていて気持ちがいいですね。wiki掲載は自由です。

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最終更新:2017年08月22日 12:40