852: パトラッシュ :2014/05/24(土) 10:56:33
シャルロット・デュノアSIDE(6)
「いい一夏め、よよよくも私の気持ちを無視しおって……」
「あの二人が愛しあっていると思うと……」
「やめてやめてセシリア、考えたくもないわ!」
「なかったことにできる話じゃないよ……」
「嫁としての自覚が足りぬ奴だ……」
IS学園に戻った最初の週末。いつもなら一夏を交えて実戦形式の訓練を終日行うのだが、今日は地球連邦代表部で重要な会議だとかで来ていない。
臨海学校で発覚した一夏と山本さんの関係についての疑惑で頭がいっぱいな僕たちだけでやる気も起こらず、箒とセシリア、鈴の三人は僕とラウラの部屋に集まって愚痴をこぼすしかなかった。
「く、悔しいが私では少佐に勝てるとは思えない。女としても武士としても……」
「同性から見ても、魅力的で強い方ですから……」
「何年も一緒に戦ってきた仲間だしね……」
「僕たちなんか最初から視界になかったのかも……」
「軍人としての自信をなくすな……」
そう、僕たちからしても一夏と山本さんが、あまりにもお似合いだと思えてしまうのが問題なのだ。しかも五人とも女の直感で二人の関係を察してはいたが、一夏に確かめたわけではない。下手に確認したら絶望しか残っていないと思うと、怖くて聞けるわけがなかった。昨日の昼休みも例によって食堂の隅で全員が顔を見合わせていると、ついに一番短気な箒がキレた。
「一夏に直接聞く! これ以上、ぶつぶつ話しているよりマシだ!」
勇気というより蛮勇か無鉄砲じゃないかと思ったけど、箒は大股で一夏に詰め寄った。
「いい一夏、はは話があるのだが」
「ちょうどよかった箒、俺もお前に言っておくことがある」
「そ、そうか、ならお前から話せ」
「福音事件のとき、最後まで戦闘に加わらず救出役に徹したのはよかった。もし勝手に乱入して戦っていたら、問答無用でお前を退学にするよう千冬姉に進言するつもりだったからな」
「わわ私を退学だと?」
「当然だろう。お前はこれまで命令や作戦を無視するばかりか、戦いになれば暴力に身をゆだね、相手の力を知ろうともせず正面から突っ込んでいったろう。剣道の試合なら許されても、ISという大きな力を使う者としては不適格の烙印を押されても仕方ない行動ばかりだ。多少は自制を覚えたようだが、また同じ真似をすればIS委員会でも問題になるぞ。次はないと覚悟しておけ――ところで、箒の話は何だ?」
「い、いや、いい。また今度な……」
一夏の戦士としての厳しさを見せつけられ、怖いもの知らずの箒も何も言えなかった。
「くく、一夏め、なぜ七つも年長になってしまったのだ! 本来なら私より年下だったのに……」
「なぜ異世界に転生したのかという話になってしまいますけど……」
「中学の頃は平気でバカ話できたのにさあ……」
「ただでさえ能力差が大きいのにキツイね……」
「七歳差の夫婦など珍しくないのだが……」
結局また愚痴に戻ってしまう。溜め息をついてテレビに視線を移すと、ちょうどバラエティ番組が中断され報道センターに切り替わっていた。
≪ハワイのアメリカ太平洋軍司令部は先ほど、国連総会出席のためニューヨークへ向かっていた韓国大統領一行を乗せた政府専用機が、西太平洋上空で消息を絶ったと発表しました。日本時間の午前九時過ぎ、突然レーダーから消失したとのことです。不審な通信やメーデー信号も受信しておらず、太平洋軍報道官は空中爆発した可能性が高いとして、現地に空軍機を派遣して調査にあたると語りました……≫
ふうん、韓国は大変なことになってるみたいだけど、どうでもいい話だな。それより一夏との関係がくすぶったままだと、最悪の夏休みになってしまう。一体どうしたら……あれ、何だか急に部屋が冷えてきたような。
「ほう、五人とも暇そうな。私も時間があるから、たっぷり鍛えてやる。第三アリーナへ集合しろ!」
あ、あのう織斑先生、僕たちまだ死にたくないんですけど……。
※さて、韓国大統領一行に何が起こったのでしょうか、皆さんで推理してみてください。Wiki掲載は自由です。
最終更新:2017年08月22日 13:28