153: パトラッシュ :2014/07/05(土) 09:15:59
凰鈴音SIDE(4)
「甲龍」の操縦席でコスモリバースシステムの能力に呆けていると、突然スクリーンに紫色のサインが点灯した。げっ、これって本国からの最高極秘連絡回線じゃない! こんなのを使う日が来るなんて。慌ててロックを解除すると、神経質そうな表情を蒼白にした楊麗々管理官が現れた。
「凰鈴音候補生、緊急命令です。何としてもヤマト艦内に入り込み、ワープ航法かコスモリバースシステムに関する技術を入手しなさい」
「はあ? あたしたちは、そのヤマトを護衛しているんですよ。それがいきなりスパイしろなんて、何言ってるんですか」
楊管理官は、こめかみの血管を脈打たせた。
「……わかっている。しかしこれは党中央の特別命令なのだ。反論は許されない」
「何ですって?」
つまり中国国家主席兼共産党総書記が下した最高の政治決断なのだ。ヤマトの威容とコスモリバースシステムの驚異の技術力を目の当たりにして、中国政府首脳は暴走してしまったわけか。
「だ、だけど、あの武装だらけの大きな艦に喧嘩を売れっての? ISで体当たりしたって無理よ」
「それは……」
管理官も言葉が続かない。まともな軍人なら少し考えればわかる。管理官とヤマトを眺めて唸っているところへ一夏から通信が入った。
<古代艦長から連絡があった。任務も終わったので、皆をヤマトでお茶に招きたいそうだ。俺が誘導するから一緒に来てくれないか>
ヤマトの後部甲板から中に招き入れられたあたしたちは、そこで用意されていた地球防衛軍の制服を着た――なぜか全員サイズはぴったりだったが、更衣室から出ると納得できる理由が待っていた。
「あなたは確か……」
「はい、ヤマト航空隊長山本玲少佐です。どうぞこちらへ」
未確認だけど一夏との恋人疑惑が浮上している白髪に緋眼の女性が、ヤマトの航空隊長だったなんて。とすると部下である一夏も、この艦に勤務しているわけか。以前、彼女が学園へ一夏を訪ねたのは旧交を温めるためなんかじゃない。今回の福島第一原発浄化作戦を打ち合わせ、かつあたしたちのサイズを知る目的があったのだ。
一瞬驚いたけど、楊管理官の言葉を思い出して艦内通路を見回す。前に乗った海軍艦艇と似ているか……そこで気付いてしまった。千冬さんと更識会長、箒以外の全員が、同じように視線をさまよわせている。ラウラと目がぶつかると、きまり悪げにそらした。どうやらあたし同様、ヤマトやコスモリバースシステムの技術を盗むか探るよう本国に命令されたらしい。けど見つかったら学園を追放されて、一夏とも会えなくなってしまう。冗談じゃないわ。国は大事だけど、政治のために一夏をあきらめるわけにいかない。
山本少佐に案内されたのは、窓から無害化された福島第一原発を見下ろす大食堂だった。待っていた一夏と古代艦長が、ヤマト食堂名物「マゼランパフェ」を振る舞ってくれた――千冬さんはコーヒーを頼んでいたが。珍しい味を堪能していると、ラウラがスプーンを置いて生真面目に話しかけた。
「古代艦長。今回示されたコスモリバースシステムの能力には感嘆した。そこでぜひ、あなたがたの力をお貸し願いたい。地球ではウクライナのチェルノブイリ原発の事故による放射能汚染が、ヨーロッパ諸国の深刻な脅威になっている。地球環境浄化のためにも協力してもらえないだろうか」
さすがラウラは軍人だけあって、政治的な交渉もうまいわね。あ、それならあたしは中国国内で深刻化している公害問題解決に助力してくれないか頼んでみようかと思ったけど、古代艦長は首を横に振った。
「残念ながらウクライナ政府はチェルノブイリの放射能汚染除去を認める条件として、同国にコスモリバースシステムの技術を無償供与し、かつ地球上での永久独占使用権を認めるよう要求してきたのです。わが軍にとっても最高機密であるコスモリバースシステムを、政治の道具にはできません」
※プライベートが忙しくなるため、次回以降の掲載は不定期になります。wiki掲載は自由です。
最終更新:2017年08月27日 09:41