69: 名無しさん :2016/12/25(日) 02:08:41
昨日エリトリアのSSを投稿した者です。深夜ですが、今日はせっかくなのでXマスのssを書いてみました。まあ 多少 雑かもしれませんが。

提督たちの憂鬱支援SS Xマスの海

1941年3月 ギリシャのとある島

ギリシャ本土でドイツ軍の侵攻が始まる前、エーゲ海に浮かぶその島はまだ平和だった。
…港にイギリスの軍艦が駐留しているような状況が平和といえるのかはともかく、未だにそこは枢軸の攻撃を受けていなかったのだ・・・その日までは。


      • さて、多くの人が就寝した深夜のことである。

突然、停泊中の軍艦の真下から 大きな水柱が立った。
静かだった港に轟音が響き渡り、直後,海に呑み込まれるように船が沈んでいく。多くの船員を巻き込んで。


「てっ、敵襲ーーー‼-」
真夜中だったにも関わらず、あっという間に港は,いや 島中がパニックに陥った。

「何だ!何が起きた!?」

「港に潜水艦が侵入して魚雷を撃ったんだ!」
「俺は裏切り者が爆弾を仕掛けたって聞いたぞ。」
「いいやドイツ空軍の爆撃だね!」

水中爆発の犯人について,現地の民間人の間では様々なデマが飛び交っている。
しかし生き残った水兵たちは既に敵の正体を見破っていた。


「では船底でリムペットマイン(吸着機雷)が爆発したと?」
運良く生還した艦長が部下に尋ねると、その部下は頷いて,こう答えた。

「おそらくフロッグマン(潜水工作員)が仕掛けたものかと。」

「…そうか。やはり,この手口は『X MAS(デチマ・マス)』の仕業だ!」

70: 名無しさん :2016/12/25(日) 02:09:34
      • その頃、混乱する島から少し離れた海上にアドゥア級潜水艦『シーレ』が浮上していた。人間魚雷『マイアーレ』に乗った潜水工作員を回収しているのだ。


「上手くいったのか?」

「はい。港に潜入できたのは三隻中一隻ですが その一隻は爆薬の設置に成功しましたし、未帰還の者はいません。」

「なら良い。見つかる前に,すぐに逃げるぞ。」
この潜水艦の艦長であり,部隊の指揮官も務める男、ユニオ・ヴァレリオ・ボルゲーゼがそう言うと、部下たちは撤退準備を始める。

…少しすると、工作員らを回収し終えた潜水艦は暗い海に潜航していった。



彼らこそが、第10MAS戦隊『デチマ・マス』である。
史実において,人間魚雷でアレクサンドリア港の戦艦を大破させた部隊といった方がわかりやすいかもしれない。

71: 名無しさん :2016/12/25(日) 02:10:18
ところで マイアーレは人間魚雷と呼ばれているが、イタリアのそれは 回天のようにそれ自体が突撃するのではなく,それに乗った工作員が爆薬を仕掛ける特殊潜航艇である。
第一次世界大戦での初使用から研究されてきたこの兵器。これに加え、イタリア版震洋こと『MTM型爆装ボート』(一応 乗員は脱出できる)などで敵港の船を攻撃することが 前身部隊の頃からのXマスの任務だった。


だが、彼らも当初から活躍できたわけではない。

まだ練度不足だったのか 英海軍に苦戦。さらにしばらくすると 日本から敵の援軍がやって来た。
元から敵艦に肉薄する戦術故に死傷者は多かったが、史実知識で彼らの対策をした日本海軍のせいで被害が増加。

そしてあるとき、とうとう当時の隊長らが戦死してしまう。

72: 名無しさん :2016/12/25(日) 02:10:53
しかし、その生き残りをボルゲーゼを中心として再編成したことが転機となった。

再編されたXマスはまずエーゲ海へ送られた。当時,イタリアはギリシャとの戦いに苦戦していたうえ、イギリス軍がイタリア領ドデカネス諸島を攻撃しようとしていた。

現地でボルゲーゼらは 様々な戦術…例えば,防潜網を切らずに港に侵入する方法などを編み出した。また、各地のスパイから情報を入手し、出来れば面倒な日本の軍艦がいないところを狙っている。
これらの努力により、彼らはクレタ島のスダ湾をはじめとする多くの泊地への襲撃を見事成功させた。


ただ、これらの襲撃に爆装ボートはあまり参加していない。爆装ボートは人間魚雷よりも発見されやすかったからである。

もっとも,それらに活躍の場がなかったわけでもない。魚雷艇(本来のMAS)と同じく エーゲ海が多島海であることを利用した、島影に隠れて待ち伏せ攻撃する戦術は多少の成果を上げている。

73: 名無しさん :2016/12/25(日) 02:11:34
これらの活躍から、デチマ・マスはイタリア軍の中で もっともギリシャ陥落に貢献したと賞賛された。
しかし、その活躍こそが 彼らにある意味災いをもたらす。


某国のせいで悪化した世界恐慌により、イタリア軍も 大戦前半までは史実より弱体化していた。その分 精鋭部隊であるXマスの負担が増え、危険な任務をたびたび命令されるようになったのだ。

ギリシャ陥落後は警備の厳重なマルタやエジプトへの攻撃を。
独ソ戦のときも、史実通り援軍として,陸路で特殊船舶ごと黒海に派遣された。


その多忙かつ過酷な任務は、敵であった日本海軍の某提督が
「過労死しそうだな、デチ公だけに。」と同情したほどである。

74: 名無しさん :2016/12/25(日) 02:12:18
また 彼らの活躍は、戦時中の交戦国…日本,イギリス,ソ連の軍事に影響を与えた。


まず 三国ともに行っているのが水中工作員の研究や対策である。
これは日本よりも他二国が熱心で、イギリスは特殊潜航艇『チャリオット』を開発し、ソ連は少ない予算の中,水中銃の開発をしている。


一方で、Xマスの肉薄攻撃から得た戦訓はそれぞれ異なっている。

日本はこの危険な攻撃から 特攻の類いの厄介さを再認識し、ありとあらゆる特攻の対処法を考えた。
アメリカが特攻機を使用していたとしても パイロットの命に釣り合う戦果は出なかっただろう,と言われるのはそのためであり、現在も自爆テロの対策を研究している。

イギリスは肉薄攻撃の有効性を知った。
特殊潜航艇と潜水工作員をイタリアから真似ており、MTM型のように,爆薬を積んで敵艦に突撃する爆装ボート(一応脱出可能)も考案された。


ところが ソ連は爆装ボートをコピーしたところで終わらず、肉薄攻撃を『特別攻撃』まで『改良』してしまった。
命中率を上げるため,最後の瞬間まで操縦する訓練を受けた部隊が、今でも黒海には存在するという…

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最終更新:2017年09月10日 16:56