249: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 18:58:57
十分待ったが反応はほぼ無し。
投下してササッと逃げよう。

と言うわけで第十話を投稿しようと思います。
強くてニューゲームというネタの関係上、最強物になる可能性があります。
苦手な方はご注意ください。

250: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:00:15
横須賀にある喫茶店「fantasy party」。
元海軍軍人が始めた身内向けの小さな喫茶店の店内には今、店の外から見てもわかるほどの冷たく軋んだ空気が充満していた。
その中心にいるのは二人の人物。
一人は泣く子も黙る帝国情報局、その国内防諜を担当する第一部の部長、堀辺孝吉。
対するは芸能界に君臨するトップアイドル「魔人シンデレラ」渋谷凛。
テーブルを挟んで対峙する二人を神崎は興味深そうに眺め、新堂は壁際に黙して控え、そして『ナナさん』はお盆を抱えてアワアワとうろたえていた。



【ネタ】渋谷凛は平行世界で二週目に挑むようです【その10】



「……で、私に何をしろと?」
「善良な国民としての義務を果たして貰いたいだけだが?公序良俗に反する犯罪者を放置する事など出来ない」
「…………私に、ライバルを、売れと」
「それが必要ならば」
「……………………」

凛は猛烈な敵意と嫌悪感を込めて堀辺を睨み付けるが、堀辺は冷めた視線で真っ正面からその視線を受け止める。
その均衡が破れたのは、カウンターの奥のドアが開いてこの店の店主が姿を見せたときだった。
店主は店内の惨状に顔をしかめて小さくため息をつくと、冷凍庫からバニラアイスをとりだし半分に切ったイチゴとビスケットをのせたものを二つ用意して、その一つを『ナナさん』に押し付け、そしてカウンターを出た。

「…………あの、これは」
「お代は結構です、堀辺閣下にツケておきます。食べて頭を冷やしなさい」
「…………はい、ありがとうございます」
「…………堀辺閣下、良い年して八十も下の相手にケンカを吹っ掛けてどうするのですか。せめて他所でやっていただきたい」
「……ムッ……」
「神崎閣下も見ていたのなら止めてくださいよ。珍しいものが見れたとか面白がってないで」
「フム、善処しましょう」

251: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:00:51
店主に突っ込まれて沈黙する堀辺と、棒読み口調で返す神崎を横目に少し頭の冷えた凛は、堀辺に話の続きを促した。
凛がアイスを食べている間に堀辺は、自分のコーヒーを一口啜り、そして三人の名前が書かれた紙ナプキンを灰皿に置いて、懐から取り出したマッチで火を着けた。
紙ナプキンが完全に灰になり、何が書いてあったか完全にわからなくなった事を確認してから堀辺は改めて切り出した。

「上の二人についてはもう容疑が固まっている。あとは警察なり麻取なりが適当な理由で引っ張ればそれで仕舞いだ。早ければ明後日、遅くても来週中に方がつくだろう。だが……三人目については現状出ている情報ではシロとしか言えない」
「……………」
「そもそも最初の情報そのものがメモ用紙の走り書きという信憑性の低い……いや、極めて低いものだった。しかしこうして二人、逮捕されるに足るだけの情報が出ている以上は何かある、と考えねばならない。ここまでは良いかね?」

堀辺の問いに凛は黙って頷いた。
客観的に見ればこの状況で千早がシロであるとは言えないだろう。
しかも同時に名前の出てきた二人は逮捕されるに足る情報が出てきているのである。
千早が完全に無関係であると言い切ることが出来るのはそれこそ神様ぐらいであろう。

「そして調査上、三人目の家庭環境は不安定であるという結論が出ている。……これは良くない兆候だ」

視界の端で「ナナさん」が無表情になっていくのを見ながら、凛は前の世界の千早の家庭環境を記憶から探しだした。
弟が事故死したことに単を発する家庭内不和で両親が離婚していることを思い出した凛は眉間にシワがよっていくのを感じた。
どうやらこちらの彼女も同様だったらしい。

「我々は決定的な証拠となる情報を探している。すでに三人目の家屋、事務所の秘密捜査は実施した。結果はシロだ」
「じゃあシロなのでは?」
「まあシロだろうな。実際のところはこれから狙う標的だったのだろうと私は推測している。だが、シロでしょうハイそうですか、では終わらせられないのがこの仕事だ」
「……疑り深いんですね」
「疑うのが仕事だからね」

飄々と嘯く堀部に複雑な視線を向けながら、凛は尋ねた。

「で、私に何をしろと?」
「……さて、問題だ。我々が君に何を望んでいると思う?回答時間は十五分、回数は無制限。思い付いたことを言ってみなさい」

252: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:01:44
堀部はコーヒーを一口啜ってからどこかの特務機関司令のように机の上で手を組み、凛にそう問いかけた。
凛は少し考えて最初の答えをいった。

「三人目への調査、ですか?」
「ハズレだ」
「じゃあ、警告?」
「ハズレ」
「………………」

黙って考え込んでしまった凛にそれまで成り行きを静観していた神崎が助け船を出した。

「既に堀部さん達は三人目の情報を調査しきっている。同じ特殊な業界の中にいるというのを加味しても、君から聞ける程度の情報は彼は既に知っているよ」
「…………」
「そして何かを望んでいる、といっても必ずしも何かをしてほしい、というわけでは無い。…………ヒントとして言い過ぎないのはこの辺かな?」

三つ目の答えを凛はたっぷり考えてから発言した。

「……特になにもせずに成り行きを見守る?」
「……75……いや、70点かな?まあ合格点は出そう。だがもう一言ほしいね」
「…………私の周りに警告を出して、成り行きを注意して見守る、ですか?」
「95点。時間が掛かったけどまあ合格で良いだろう」

当然といえば当然である。
堀部としても何ら実績の無い民間人の女子高生にそんな重要かつ危険な案件に関与させる気は全く無いだろう。
自分の手勢にやらせた方が数倍早いし確実、何より後々面倒が無い。
というか、そもそも凛にこの話をする必要が無いのだ。
それに気がついた凛は、堀部にそれについて質問することにした。

253: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:02:22
「…………あの、何でこの話を私に話したんですか?この話、私が知っている必要があるとは思えないんですけど」
「必要はあるよ。少なくとも私達は、君が、君の住んでいる世界の裏で、このような事態が起きている、という事を知っている必要があると判断しているから話している」

その言葉に凛は返す言葉が見つからなかった。
しかし彼らが今の凛とは大きく異なる視点から物事を見ている、と言うことは理解できた。

「…………そもそも貴方達は私に何をさせたいのですか?」
「前にも言ったと思うが、この国と世界の破滅を……」

そういう答えがほしかった訳ではない凛は神崎の発言を遮って質問した。

「その答えはもう聞きました。……貴方達はなぜ私にそれをさせようという結論に至ったのですか?」
「………………」

神崎はだまって机の上で口許を隠すように手を組んだ。
しかしその眼はほとんど瞬きせずに凛を見つめている。
数分そうしていたかと思うと、神崎はチラリと堀部に目配せを送った。
堀部が小さく頷くのを見て神崎は口を開いた。

254: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:03:01
「まず大前提として、我々夢幻会は1960年代をピークに年々減少を続けている。このままのペースが維持されるならば、2060年代頃には組織としての夢幻会はほぼ消滅する、と我々は予測している。そしてその事について我々の中にも幾つかの派閥がある。その派閥の中にも無数の派閥があるのだがそれは置いておこうか」

神崎はそう言うと万年筆を取りだし紙ナプキンになにか書き始めた。

「さて、今回の話に大きく関わる派閥、というよりも考え方のグループと言うべきかな?は三つだ。一つは今回が初めての憑依となる派閥、二週目とでもしようか、その中でも比較的過激な一派だ。勇ましくて声がでかい」
「あくまで私個人の意見だが、通算年齢、二週目の年齢共に比較的若い者が多いな」
「二つ目は同じく二週目の中でも穏健派と言える一派。そこの堀部さんや川端兵部大臣なんかだな。二週目の年齢はともかく通算年齢が高めで、前世でもそれなりの地位にいたものが多い」

神崎はここまで話すとコーヒーを一口啜ろうとしてコップが空だったことに気がつきマスターにお代わりを注文をした。

「三つ目は今回が二回目の憑依、つまり三回目の人生になる一派。私や東雲さん、辻堂蔵相辺りだな。三週目だけあって通算年齢が高い者が多いが、他の派閥に比べて圧倒的に数が少ない」

ナナさんが持ってきたコーヒーを一口すすって神崎は話を続ける。

「まず最初に三番目の考えから話そうか。まず前提として我々三週目の人間はもし仮に四週目があったとしても一切関わらない方針でいる。理由は幾つか有るが一番大きな理由は我々三週目の人間の内面の劣化だ。三週目の人間の平均通算年齢は150歳、もっとも短い者でも130歳を越えている」
「ちなみに最高通算年齢は223歳、本来の人間の最高寿命は120歳弱だそうだ。彼に世界がどう見えているのかは私には想像できないな」
「本来私が政権を担っていることそのものが我々三週目としては異常事態だ。我々が前週でやって来たことのほぼ全てが無駄になったといっても過言では無い。私とて、陛下がどうしてもと仰られなければ、この話は断っていただろうな」
「………………」
「話がそれたな。我々三週目は前週において…………君は二十一世紀の人間が十九世紀に行ったらどういう感想を持つと思う?」
「…………ものすごく不便だと思います」
「そう、ものすごく不便だった。上下水道もガスも未整備だし、トイレは汲み取り式が殆ど。二十一世紀の味になれた舌からすれば大体の食事は味気ないものが多い。夏の冷房等満足に存在しないし、冬の暖房は火鉢と厚着。そもそも最初期の我々はそういった不便を改善したい、という個人の理想、または欲望を満たすために個々人で動いていた」
「君たちの歴史では暗殺されている坂本龍馬を助ける事が日本の将来に繋がると考えて坂本龍馬を助けた者や、航空機技術を発展させ日本を航空技術大国にするべく資金を集めて会社を作った者、お嬢様学校を増やすべく国の経済を底上げして中産階級を増やす、という奴も居たな」
「しかし国の予算と人的資源には限界がある。そこでそういった連中が憑依者という条件で集まって、効率的な国の発展のためには何を優先するべきかという相談を始めた。これが発展していってできたのが夢幻会だ」
「言い方を変えれば夢幻会とは国の根底まで根を張った巨大な談合組織だな」
「そして個人差はあるが三週目が二週目を生きていた時期はおおよそ幕末から日清、日露、第一次、第二次の両大戦、太平洋戦争、そして日英対枢軸の冷戦構造の構築までだ。この時期は文字通り一手のミスがこの国を世界ごと滅ぼす、少なくとも当時の我々は本気でそう考え、そしてそれを前提に行動していた」
「………………」
「事実当時の世界情勢と周辺国の指導者達の思想を鑑みれば、もし敗戦していたら今頃日本人という人種は存在しなかっただろう。当時の判断が間違っていたとは思わない。だが…………今こうして見ると、我々のしたことは瀕死の重病人に依存性の強い劇薬を投与したようなものだった」
「やらないよりはずっとマシだっただろうがね」
「そして今、この国は夢幻会という劇薬の依存症に苦しんでいる。というのが我々三週目、そして二週目穏健派の認識だ」
「良くも悪くも権力を持ちすぎた、と言うところだな。当時はそれが必要だった。しかしそれが必要なくなった次の世代、その時の夢幻会上層部は権力を手放せなかった」
「そして、その手放せなかった上層部の系譜の一部が先ほど言った一つ目、二週目過激派だ」
「言い換えれば二週目穏健派と過激派はそれぞれ、『親三週目派』と『それ以外』に分けられるな」

255: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:03:33
そこまで話して神崎と堀辺は揃ってコーヒーを啜った。

「さて、前置きが長くなったが、我々が君に求めていることは、まず第一に君が二週目過激派に取り込まれる事を阻止したい。二週目過激派は方向性はバラバラだが総じて過激な意見の持ち主が多い。一部方向性が違う者もいるがね」
「そもそもこういった連中は出世できないし、させないのだが何分我々二週目穏健派と三週目を会わせたのに比べても数が多くてな」
「そういった連中を相手にするに当たって、君には二つのとても大きな優位が存在する。なにかわかるかね?」

神崎の問い掛けに凛は少し考えて首を横に降った。

「一つは君の年齢だ。君は今15歳だったね?現在確認できている憑依者の中で最も今後の寿命に関する期待値が長いのは君だ。もし君がこの先も我々に協力してくれるなら、我々三週目としては君に後半世紀近く夢幻会の中枢近くに位置し、二週目過激派を間接的に牽制、あるいは排除できる位置に座ってほしい。そして我々が三週目を終えたあと夢幻会と言う組織を看取ってほしい、と考えている。」
「………………」
「そしてもう一つは君の年齢に見合わない世間への影響力の強さだ。どこかの馬鹿が後先も考えずに選挙権の年齢を18歳に下げてくれたお陰で我々の半世紀を台無しに…………仮定の話だが恐らく前の世界での君は形振り構わなければ政権を一つひっくり返せたと思うよ。…………まあ、あの党の連中の同類と見られる事になるだろうが」
「……………………」
「少なくともこの世界ではできないだろうしさせる等毛頭無いが、それでもその辺の腐敗官僚を社会的なり物理的なりで抹殺して省内浄化をさせるには十分な影響力があるだろう。そしてそれが此方を向いた場合、大きな影響が出ることは無いだろうが鬱陶しいのは確かだ」
「…………………………」

続け様に彼女の理解を越える話をされて、理解が追い付かなくなっている凛に今まで沈黙してカウンターに逃げ込んでいた『ナナさん』が話しかけてきた。

「あの、凛ちゃん?理解は追い付いてますか?」
「………………………………何とか…………」
「えーと、分かりやすくゲームで例えるとですね、自分で持っているとそこそこは使えるレアアイテムだけど、それ以上に敵が持ってるウザいので敵より先に確保しておこう、って感じです」
「…………なるほど、なんとなく、わかった?」
「…………ダメ見たいですね。とりあえず今日はもうお開きにした方が良いと思います。そろそろ18時ですし」
「…………そうだな。渋谷さん、話はまた後日にしよう。とりあえず我々がこう考えていると言うことだけは覚えておいてほしい。……我々もお暇しようか。ずいぶんと長居してしまった」

時計を見ると確かに18時に近づいていた。
あわただしく荷物をまとめる凛を見ながらマスターが『ナナさん』に声をかけた。

「ナナ、車使って駅まで送ってってやれ。そのまま上がって良いぞ」
「わかりました」

そう言って『ナナさん』が車を出しに行く。
程無く店の前につけられた店のロゴ付きの青い軽ワゴンに乗せられて凛は横須賀駅に向かった。
その道中凛はどうしても気になってた事を『ナナさん』に聞いて見ることにした。

「…………あの、菜々さん」
「……………………チョッとだけ時間を下さい。凛ちゃんが今度来るときまでに話したいことを纏めておきます」
「…………わかりました。待ちます。でも待つからにはちゃんと話して下さいよ?」
「もちろんですよ」

そう言ってふにゃっと微笑んだ『ナナさん』の顔は凛の知っている安部菜々のものと同じだった。

256: 四〇艦隊の人 :2017/08/19(土) 19:06:23
以上ここまで。
正直今回は説明不足が過ぎると思うので後程補足に来ると思います。

E-3を乙でかちわったので自分はこれからE-4乙に挑みます。
では後程。

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最終更新:2017年09月16日 13:04