30: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 22:56:02
大陸SEED支援ネタ 短編集2
Part.4 走為上
三十六計逃げるに如かず。
簡単に意味を要約すれば「勝てないときはさっさと逃げる方が良い」である。
降伏しても相手に好き勝手にされるし、一時的に停戦してもいずれは戦闘が再開される。
だとするならば、さっさと逃げを打って有利な状況でのみ戦えば勝てるという理論である。
「というわけで、現在の所通商破壊に対する手立てはとにかく逃げること、偵察のための戦力を多く配備することしかないですね」
「そうか……」
ザフト特務隊FAITHの隊長レイ・ユウキは、戦技・戦術研究を担うジョナサン・スミスの報告に落胆を隠さなかった。
目の前に置かれたパソコンには、作成された報告書が表示されている。既に概略には目を通してあるが、ジョナサンの個人の意見を、ユウキは直接聞いておきたかった。そのくらい、この黒服の軍人を信頼していた。
「連合の通商破壊艦隊は恐らく複数配置されています。
戦力についてもナンバーズフリートレベルとまでは言いませんが、その分発見も難しく、ユニウスセブンのまき散らしたデブリ帯に潜んでいることもあって、どこを中心としているかも不明です。
だとするならば、こちらは敵のキルゾーンを可能な限り避け、多少強引でも突破すること。
あるいは、輸送艦隊で採用されていたように逃げを打って損害を抑えることを優先すること。それしかありません」
「戦力の増強の余地は?余剰の戦力をいくらか割けば…」
「ありません。本土防衛隊は一定以上残さねばなりませんし、各戦線も手一杯。
訓練校には各戦線からの増援要請が山のように寄せられていて卒業前から兵士の取り合いが勃発。
そして、現在さらなる繰り上げ卒業も検討されていますが、それでもなお需要は満たせません」
「しかし、このままやられているというのも示しがつかんぞ」
「ユウキ隊長。相手はプロです。通商破壊を行うことに特化した猛者ばかりでしょう。
訓練校を出たばかりのひよっこをぶつけたところで、有象無象として蹴散らされるがオチです。
先月までの通商護衛艦隊の損耗率について報告はなされているかと思いますが、
その断定に、唇をかみしめるしかない。
損耗率は確かにひどい。完全に途絶えるほどではないにしても、頻度としてはそれなりだ。
一回発見されればほぼ確実に大打撃、運よく逃げ出せても別動隊や追撃によりダメージを受けて撤退を選ぶこともある。
そして、現在プラントにあるドックはフル稼働で損傷した艦艇の修復に明け暮れているのだ。意図的に逃がされたと思われる艦艇もいるほどで、少なからずザフトの艦艇の建造能力にも影響を及ぼしていた。
ザフトが利用するジャンク屋や傭兵にしても、発見されれば臨検を受けたり、場合によっては戦闘の末に撃破乃至拿捕されることもある。
既にジャンク屋や傭兵というのは敵対勢力に準ずる勢力とみなされつつあり、顔パスとはいかなくなっている。
まあ、発見されなければいいと言えばそれまでなのだが。
それらを踏まえて、と前置きし、ジョナサンは報告書にもあった結論を述べた。
「遠回りルートでの物資輸送も検討されていますが、コストのつり合いが取れていません。
現状、シャングリラ級のエンジンの改良による速力の向上や既存艦艇の改良プランの策定も行っていますが……」
「みなまで言うな、分かっている」
端的に言えば、手詰まりに近い。
艦艇の修復で手一杯で、尚且つ新型艦艇用の建造ドックは常に圧迫されている。
そしてそれを打破することはできず、着々と戦力が削られている。
どうしても認めたくはないが、然れども真実であった。
黙考にはいったユウキに対し、ジョナサンは慎重に提案する。
「……ユウキ隊長、やはり、エターナル級の動員も検討すべきです。
戦闘力と速力を備えたあれならば、確率はいくらかマシになるかと」
「エターナル級は……その、決戦戦力だ。わざわざ輸送には割けない」
「……残念です」
その程度は想定済みだった。核動力MSのための高速艦艇。建造コストも高いが、その性能は優れている。
だからほいほいと違う用途に、決戦用以外に使うことはないと思っていた。だが、落胆はあった。
ジョナサンは、独自の情報網でエターナル級が何隻か改装のためにドック入りしていることをつかんでいた。
その内容については知りえない。ただ、決戦戦力であるエターナル級が自分にも知らされず改装されるということは、何らかの事情があってということは理解している。その何か。少なくとも常識的に考えて打破できる手などあるとは思えなかった。
何か取り返しのつかないことをやろうとしているのではないか。ジョナサンの頭脳は、それを導き出していた。
理屈はあまりないが、その理屈をこねてきた自分の脳が導き出した、直感だ。
31: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 22:56:32
それをおくびにも出さず、ジョナサンはあらかじめ用意しておいたものを懐から出して差し出す。
「とりあえずですが、この報告書は最高評議会に提出をお願いします。
それと……」
「?」
「辞表です。まあ、何というか抗議の意味も込めて、ついでに前線での指揮官がいないようなので」
迷うことなく差し出されたのは、確かに辞表だ。
彼の言うところの指揮官、つまり白服の数は減っている。
前線では一般兵が減っていることも確かであるが、それと同じくして指揮官も減っている。
「確かに私は君の能力は買っているが……指揮官などできるのかね?」
デスクワーカーとしては有能であるが、実際に指揮をするのとは話が違う。
単純な分析とは違い、即座に判断し、即座に決定し、実行に移すセンスが問われる。
どちらかといえば慎重に物事を進める彼がそれに適しているとは、正直なところ思えなかった。
その指摘に、ジョナサンは肩をすくめるしかない。
「指揮官についての知識をとりあえず覚えた程度です。
これからいくらか訓練はつみますが……お飾り程度になれば御の字でしょう。ま、いた方がいくらかは増しでしょう。それでは」
「おい、待て……!」
この冷静な分析官が、アフリカ戦線での大敗とその後の報告を眉一つ動かすことなく分析し、南米戦線での戦略についていくつもの提言を行ったこの武官がこう言い切ったということは、つまりそういうことなのだ。
自分さえも客観視するこの男が、自分に不向きと分かっている事柄に挑むとは、尋常な理由ではない。
思わず、身をひるがえして去ろうとする肩をつかみ、引き留めた。
「何があった?」
声が、自然と強く出た。
だがそれにジョナサンは物おじしない。
「それはご命令ですか、ユウキ隊長?」
逆に皮肉気に問われると、言葉に詰まる。
その目は、何処までも迷いがなかった。
自棄になったというわけではなさそうだと、ユウキはひとまず落ち着きを得た。
「もう、逃げられるところなどないのですよ。
逃げるのが一番ではある。しかし、それを選べないほどに、切羽詰まっている」
「そうだな」
「上からの意見も、現場に通さなければならない。
現場の意識を変え、同時に上層部にも意識を変えてもらう。
その為には、誰かが自ら動かねばならない」
その言葉にも、迷いがない。
むしろ、確信じみたものを感じる。
この状況でも、彼は諦めてなどいない。むしろ、ザフトを変えようとしている。
「勝算は、あるのか?」
問いかけてみた。
いつもこの男は計算をしていた。
ならば、その行動に理論がある筈だ。
「勿論。ただ、確率としてはかなり低いです」
ですが、とジョナサンは言葉を続けた。
朗らかに、あるいは、自身に満ち溢れたような。
「その成果は無限大に拡大し得るものです。故に、期待値は無限大です。
ならば、座して死ぬよりもパスカルの如く賭けてみましょう」
「その賭けは、何が手に入る?」
その問いに、ジョナサンはにこやかに笑って言い切った。
「プラントの、コーディネーターの未来ですよ」
そして、ジョナサンは退出した。
止める言葉も、権利も、ユウキにはなかった。
それは卑怯だろうと言おうとして、何も言えなかった。
何故であろうか。日頃耳に入るプロパガンダと同じ文言でありながらも、何かが決定的に違うからだろうか?
手元には、彼のレポートと辞表。
この内、辞表一枚であっけなくそれまでの地位を捨ててまで、彼は動くべきだと判断した。
あまりにも、あまりにもあっけなさすぎる。あるいは、自分のすべてを惜しげもなく捨ててしまった。
献身、忠、殉ずる、滅私。さて、彼を語るとすればどのような言葉がふさわしいだろうか?場違いにも、そんなことを思ってしまう。
彼がどれだけのことをなして、コーディネーターの未来というものを勝ち取るのか。それについては、想像するしかない。
だが、想像し、その為に動きたいと思ってしまうのは、プラントのために戦うザフトとして、間違っているだろうか。
「幸運を、ジョナサン……」
感傷に浸るのはこれまで。
ならば自分は、彼の意志を汲んでやるしかない。
彼には負けていられない。そう思い、彼の意志が込められた報告書へと再び目を通し始めた。
32: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 22:57:07
Part.5 南米戦線異状なし2
カメラが闇夜の中でとらえたのは、MSの頭部だった。
まるで、人の生首のようにも見えるし、実際にそれを連想してしまう。
モノアイで、人とは違う物質で構成され、鶏冠のような通信アンテナやブレードアンテナがついているために人とは少し離れた形状のそれは、無機質さがかえって不気味さを増長させていた。人の生首が転がっているのとは別なベクトルで恐ろしい。
一歩間違えば、自分がああなっている。
その恐怖は、否応なく身を蝕んでくる。
喉までせり上がって来た悲鳴を押し殺し、周囲を確認する。
不審な機影無し、温度センサー、音響センサーにも異常なし。
ブービートラップの可能性もなし。地雷などもセンサーには引っかかっていない。
僚機に問い合わせてみれば、同じ結果となったようだ。クロスチェックが済めば、より安心できる。
ふっと吐息を漏らし、しかし、慎重に頭部を持ち上げる。
やはり、ジンの頭部パーツ。軽量化とブレードアンテナがみられることから、ジン・アマゾネスのものと判別できる。
MSの手の中で裏返してみれば、切断面は熱による融解部分と、鋭利な刃物で切ったかのような切断面の両方が存在していた。
(やはり、MSの武装……ヒート系武装)
アフリカ戦線や宇宙において確認されたことであるが、連合のMSの内、大洋連合のMSはヒート系、即ち高熱によってMSを破壊する武装が用いられている。鋭利な切断力を発揮する一方で、その熱量で装甲材が一部融解することもあるのが特徴で、それによって破壊された場合には、ビーム兵器とやや紛らわしいが、少なくとも実体剣などと比較すれば判別がつく。
この南アメリカ戦線に身を置けば、こんなことは嫌でも理解できる。
慎重にそれを持ち上げ、ハンドサインで頭部の回収を伝える。
発光信号は使わない。どこから監視されているのかわからないし、辺りが暗い中で使えば酷い自己主張になる。
迂闊に使った結果、どこから攻撃を仕掛けられるか分かったものではない。
(よし、回収……)
腰部のグレネードケースに、用意しておいた高硬度ワイヤーで縛り付ける。
これを持ち替えれば、どこの誰のMSなのかが判明する公算が高い。
どこで、どの程度の損耗が発生しているのかを把握する。それは、この戦場に限らず、各戦線では必須ともいえる事項であった。
同時に、このMSのパイロットを襲ったであろう恐怖を想起し、身震いをしてしまう。
首狩り。
南米戦線でいつの頃からか見受けられるようになった現象だ。
連合のMSの、特に大洋連合のMSによるものということはほぼ特定されている。
まるで、旧世紀におけるサムライだ、誰かが噂をしていた。サムライというのは戦闘において首を持ち帰ることで、その報奨がきちんとしたものであると認められていたという。証明書の代替品、というわけだ。
実際に、頭部パーツとパイロットだけを器用に奪っていった例も多数報告に上がっている。
一方で、この首狩りは逆のパターン、即ち、今目の前にあるように頭部だけを晒すように置いておくパターンもある。
これだけのMSを狩ったと、こちらに対して誇示するかのように。同時にそれは、パイロット達に悲惨な末路をイメージさせていた。
しかもそれがザフトや南アメリカ軍の哨戒ルートや輸送ルートなど、目につきやすいところを狙って置かれているのだからたまらない。
次にこうなるのは自分ではないのか---それは、ただでさえストレスのかかる南米戦線のザフト将兵に少なくはないプレッシャーを与えていた。
「帰投しましょう。時間としても潮時です」
震えを抑え、事務的に伝えた。
自分は、一応とはいえ小隊を率いる身なのだ。
指揮官は恐れや動揺を示さないように振る舞い、部下を鼓舞する必要があるのだ。
少なくとも自分は頼られる側。短い期間とは言え、体調に頼っていた自分とは違うのだ。
言い終えてから、ずんと体が重くなったような錯覚を覚える。しかし、それをぐっと歯を食いしばる。
「機体の照合は私の方からヴィルター隊長を通して行います。二人は状況報告をお願いします」
『そうだな。そろそろやばいかもしれない……なんだかざわざわする』
『了解しました。レコードと位置情報の保存は完了しました。翌朝にも改めて捜索を依頼しましょう』
僚機と確認を取り合い、静かに撤収していく。
殿として撤収する間際に、闇夜を見透かそうとして見た。
これまでも繰り返したように、何人ものザフト軍人と、MSや通常兵器を飲み込んでいったジャングルを。
33: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 22:57:49
基地が見えてきても、まだ安心はしなかった。
慎重に後方を索敵し、追跡者などがいないかを確認する必要がある。また、知らずのうちに付けられた追跡装置などを外す必要もある。
夜間の行軍は避けるべきではあるのだが、かと言って、夜間の間に準備を整えられて朝駆けを喰らうのも御免である。
その為、夜間パトロールというのも重要な業務なのだ。遮蔽物だらけのこの南米で、少しの暗がりでも油断できないのは常識であった。
そして、現在基地を目の前にして待機をしながら安全確保の連絡を待っている最中だ。
既に30分ほどだろうか。備え付けのクーラーボックスから残しておいたスポーツドリンクを取り出して飲みながら、ゆっくりと管制塔の指示を待つ。一応帰投途中でも互いに確認し合ったので、おそらくは問題ないはずだ。
(けど、油断はしない)
こういう時こそ、一番危ないのだ。ゆっくりと喉の渇きを潤しながらも、自分を戒める。
ほどなく点検を行っていた兵士や追撃が無いか確認に向かった武装ヘリたちが戻り始めた。
『安全確認完了。機体に異常なし。オクトーバー機、マルティネス機、ウォーカー機、侵入を許可する。よく無事だった』
「了解。オクトーバー小隊は定時哨戒任務を終了する」
管制の声に出迎えられ、メリルのMS「シグー・ロングアームズ」はゆっくりと歩み始める。
きびきびと答えてはいるが、メリルの声に張りはなかった。むしろ、疲れを色濃くにじませていた。
夜間の哨戒任務は、それだけで襲撃のターゲットにされやすい。静かな夜に動くものがあれば、否が応でも目を引き付けてしまう。MSの駆動音というのは案外馬鹿にならないのだ。
襲撃を受ける側も、仕掛ける側も地形の認識が甘くなり思わぬ事故などが起こるのであるが、逆に言えばジャイアントキリングが起こりやすいということでもある。
それゆえ、神経は常に張りつめている状態を強いられる。
三機構成なので僚機との連携が取れていれば警戒を担当する範囲は狭くて済むが、気休め程度だ。
単独でやるよりははるかにマシであるし、生存性も高い。
MSを使うのは無駄が大きいように見えるが、武装ヘリなどの方がよほど危険だ。
少なくとも敵MSと会敵した際に生存性が高いのはMSの方である。最悪逃げだしてもいい、というのは、この哨戒基地のトップであるヴィルダーのお墨付きである。故に、時にメリルは逃走という選択を選んでいた。
(あーあ……着任した時の私が見たら、飽きれているかもしれないわね……)
そう自嘲する。
意気揚々とこの南米戦線に来た時の自分が懐かしい。
即座に南米戦線の泥沼ぶりの洗礼を受け、暫く安定剤を服用していたのも今となっては懐かしいほど。
着任してからそう長くもない。だが、自分がそれだけ現実を見せつけられたのだという認識はある。
進入口からシグー・ロングアームズは格納庫の方へと歩みを進め、固定ハンガーに機体を預ける。
すぐさま整備士たちがMSに取りつき、整備作業を開始した。防水処置などを施したMSではあるが、それはあくまでもメンテナンスをきちんとした上でようやく機能を発揮する。
あとで少しばかりでも手伝おうか、と思いながらも、MSのシャットダウン作業を続ける。
身体を固定するベルトを外し、狭いコクピット内で大きく伸びをすると肩や肘の関節が良い音を立てた。
コクピットから出てみれば、夜の熱帯の空気が体を包んだ。
空調のある程度効いていたコクピットとは違う、容赦のない天然のもの。
しかし、この南米で幾度となく味わい、すでにすっかり慣れた空気だ。
「お疲れさまでした、小隊長」
タラップから地面に降りると、小隊を構成する二名のパイロット、ジョン・マルティネスとオーレリア・ウォーカーが敬礼で出迎える。
どちらも年上の部下。そして、この南米戦線においては先達。そんな彼らを指揮するというのは、非常に気まずいというか、自分が指揮してよいのだろうかという不安が先にあった。今では、慣れているが、最初はそれこそ彼らあっての自分だ。
「お疲れさま、二人とも」
今日は無事に帰ってこれた。
敬礼を返しながら、ようやくメリルは安堵の笑みを漏らした。
そんな彼らを見守りながら、ヴィルター隊の基地を包み込む夜は、さらに深みを増していった。
34: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 22:58:35
Part.6 ジョニーは戦場から……
(貧乏くじ引いたなぁ……)
ジョニー曹長は目の前のモニターに映るキャビンの光景を見ながら、そう胸中で呟く。
マルセイユ三世級を改装して用意されたクロッカス級輸送船は、地上で捕虜となったザフト兵士で満たされていた。
地上戦線。泥沼の戦いが繰り広げられたがために連合・ザフト双方が一定程度の捕虜を得た戦線だった。
そしてその地上戦線は、戦場以外でも凄惨な動きが見られた戦線でもあった。
戦時協定というのは、実際のところ存在していないも同然だった。
連合の言い分としては、プラントという国家は存在せず、ザフトはプラントの労働者が集まった民兵組織であり、即ち慣例として守られてきた戦時法の適用外となる非正規戦闘員の集まりということになる。それ故に、捕縛されると射殺されようが拷問に賭けられようが暴力を振るわれようが、何ら文句が言えないのである。
一方で、ザフトの言い分としてはプラントはコーディネーター達による国家であり、軍は志願制の義勇軍であるとはいえ、国家に属する軍隊であるという。軍服を着ており、階級制度もあり、指揮系統なども存在する、と。
この時点で、両者の主張はずれている。よって、連合ではザフト兵に対して行う行動を明文化された規則で束縛できない。
そして、ザフトもその軍事組織としての歴史の浅さ、またコーディネーターのナチュラルに対する意識故に、連合軍の捕虜に対して行う行動を法的に束縛することが出来ないのである。
もともと、ナチュラルとコーディネーターとの間に生まれている憎悪や価値観の違いは戦時中であることも手伝い、とてもではないが埋められるものでもないのだ。戦時協定など、守れるはずもない。
ましてや、地上戦線での泥沼の戦いは両軍の兵士にストレスを与え、報復心を植え付け、それのはけ口を求めさせていた。
規則の無さ、そして捕虜を執った側の感情的な枷のゆるみは、必然的な結果を生み出すことになるのである。
とはいえ、必ずしも捕虜が横暴な扱いを受けるというわけでもない。
捕虜から情報を聞き出したりするのは当然であるし、捕虜同士の扱いに差を設けて反乱などを抑止したりと、適切な対応をすることで単純に殺害したり、はけ口とするよりも価値のある利用方法があるのだ。
まして、ザフト兵士は、元々プラントの労働従事者、理事国から見れば契約労働者なのだ。
簡単に殺してしまっては意味がない。コーディネーターも、ただでは生まれてこないので、殺すのは非効率だ。
戦局が良くなったこと、また、連合内におけるコーディネーターの声も手伝って、大西洋連邦や東アジア共和国では徐々に捕虜に対する扱いが変わっていった。その指導を行ったのがブルーコスモスなのだから、笑うに笑えない。
そして、今ジョニーの目の前のモニターに映る光景は、彼らにとっては半信半疑ではあるだろうが、連合が、ブルーコスモスがコーディネーターに対して与えた温情の結果生まれたものだ。
それは彼らにとって受け入れがたいことかもしれない。ただ、それでも帰れるというのはそれだけで大きなことではとおもう。
そして、自分は地球から月を経由し、プラントコロニーに向かう航路での監視員の任務を言い渡され、こうして武器を手に警備をしている。
とはいえ、殺傷武器は持っていない。持っているのは鎮圧用のゴム弾を発射するショットガンと閃光・スモークグレネードなどだ。
元々、彼らのいるキャビンには仕掛けがいくつかなされていて、その気になれば催眠ガスや催涙ガスを流し込めるので、半ばポーズのようなものだ。通路には監視カメラもあるし、隔壁なども多数用意されている。スイッチ一つで、彼等はあっけなく無力化できるのだ。
それを理解してなのか、それとも敗戦という結末のショックが抜けないのか、彼らは大人しいものだ。
数回監視員としてプラントと地球を往復しているが、そういった人物ばかりだ。
恐らく捕虜収容所で色々と現実を突きつけられたのも、その要因となっているに違いない。
「んー……ググ……!?また、か……!」
のんびりとモニターを切り替えながら監視をしていたが、不意に腹に痛みが走る。
腹の調子が悪くなった。これは自分の父親に限らず、一族揃ってみんな胃腸が弱い。
一応おむつもしてあるのだが、トイレで済ませておいた方が色々と楽なのだ。
「うー、やばいやばい……」
大急ぎで、慣れたトイレまでの道を突っ走る。
急いで、しかし冷静に体は泳いでいく。
しなやかに、そして無駄のない動きで彼の体はトイレを目指す。
下半身に力を入れ、必死にこらえ、進む。ひたすらに、愚直に。
「ぬおおおおおおぉぉぉぉ!?間に合えええええええええ!」
ジョニーの切実な声が、湿った空気の蔓延していた輸送艦の通路に響いた。
36: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 22:59:28
〇人物紹介
ジョナサン・スミス
人種:第一世代コーディネーター 年齢:27歳 階級:- 制服:黒
イメージCV:三木眞一郎
ザフト特務隊「FAITH」に属する黒服、即ち副官級の軍人。
主に戦闘詳報や戦訓の分析を担当するデスクワーカー。
優秀な経営者となるべくそれに必要と思われたコーディネートを受けたが、家庭の事情や性格などからプラントへ移住した。
本職はプラントの工業における検品や品質検査を担当する分析官だった。
戦局の悪化と指揮官の不足から役職を辞して前線に赴くことになる。
オーレリア・ウォーカー
性別:女性 年齢:19 人種:第一世代コーディネーター 階級:- 制服:緑
ヴィルター隊のMSパイロット。
金髪碧眼の典型的な白人の外見を持つが、生粋の欧州系ではなく、中南米の血が混じっている。
コーディネーターの製造が禁止された後に生まれた。
容姿は非常に優れていたのであるが、父親からは人形的すぎる外見から不気味がられ、またコーディネートを発案した母親からはその美しさと若さに嫉妬さられてしまい、両親から拒絶された過去を持つ。
その後、プラントに移住するコーディネーター一家に引き取られてプラントに移住した。
外見と身体能力の向上処置を受けているが、基本体質はラテン系の人間のそれであり、南米戦線でも体調を崩したり病気に罹患することなく従軍している。
ジョン・マルティネス
性別:男性 年齢:20 人種:第二世代コーディネーター 階級:- 制服:緑
ヴィルター隊所属のMSパイロット。
オーレリア同様に親から南米系の遺伝子を受け継いでいるため、南米戦線での貴重な実働戦力である。
一般的な感覚では年齢は若いが、南米戦線で過ごした期間は意外と長く、医者を志していたために医学系の知識もある。
その為、南米の気候や病気に苦労する同じ隊の兵からは頼られている。
オーレリアと共にメリルの指揮下に入っており、プロパガンダに駆り出されている。
ジョニー
人種:ナチュラル 年齢:32歳 所属:大西洋連邦 階級:軍曹
MG
シリーズに登場していたジョニー一族の同位体。
彼の父親はジョニーであり、生まれたばかりの彼の子供もまたジョニーである。
一族の伝統に倣い、彼もまた胃腸が弱い。とりあえず、トイレには間に合っている。
〇メカニック紹介
大洋連合がMS向けに開発したヒート系武装の一種。
ランサーとか言いつつ、実際にはMS用のポールウェポン(ハルバードや戦斧)にちかい。
普段は折り畳まれているが、伸ばせば最大で25mを超えるほどまで長くすることもできる。
格闘武器としてはかなりのリーチを誇るが、長さやバランスをとる関係上、扱いは難しいところがある。
タグ・シュナイドは愛機のブラックライダーにこれを装備している。
南米戦線において、アフリカ戦線での戦訓から配備が始まった装備。
腰に装着し、炸裂・閃光・チャフ・煙幕などの各種グレネードを携行することができる。
パイロットによっては予備のマガジンを入れて携行することがある。
マルセイユ三世級を改装した輸送船。
捕虜となっていたザフト兵士がプラントへと復員する際に利用された。
プラントの再稼働を目論む大西洋連邦および東アジア共和国が主導で用意した。
船内での暴動などを考慮し、ちょっとした仕掛けが複数用意されているが、あまり出番はなかった模様。
37: 弥次郎@外部 :2017/09/30(土) 23:00:09
以上、wiki転載はご自由に。
短編集第二弾です。
暗い話ばかり書いても気が滅入るのですこし明るさを混ぜてみました。
45: 弥次郎@外部 :2017/10/01(日) 00:10:45
さて、誤字脱字等の修正をば…
30
×戦力についてもナンバーズフリートレベルとまでは言いませんが、その分発見も難しく、
ユニウスセブンのまき散らしたデブリ帯に潜んでいることもあって、
〇 戦力についてもナンバーズフリートレベルとまでは言いませんが、その分発見も難しく、
ユニウスセブンのまき散らしたデブリ帯に潜んでいることもあって、どこを中心としているかも不明です。
31
× 前線では一般兵が減っていることも確かであるが、
〇 前線では一般兵が減っていることも確かであるが、それと同じくして指揮官も減っている。
36
オーレリアの解説
×養子 〇容姿
ヒートランサーの解説
× 長さやバランスをとる関係上同時に扱いは難しいところがある
〇 長さやバランスをとる関係上、扱いは難しいところがある
転載時に修正をお願いします…
修正
最終更新:2024年03月07日 00:23