359: 弥次郎 :2017/10/28(土) 19:31:28
アフリカ戦線からのザフトの撤退。
それは、地球を舞台とする地球連合とザフトの戦線の一角がついに崩れ、パワーバランスがついに動いたということであった。
戦線が膠着状態に入ってからというもの、連合・ザフトはともに血を血で洗い、泥と硝煙に塗れた消耗戦・総力戦を繰り広げてきた。
双方にとっては、長く苦しい消耗であった。そう、双方が膨大な人命と物資を投じて、支配権を奪い合ったのだ。
連合各国は大洋連合からの支援があったとはいえNJの散布に伴う電力不足や生産能力の減退、さらには国力の全体的な低下と宇宙における消耗を立て直しながらの地上戦を強いられていた。
地上圏においてもMSは脅威であり、既存の戦力ではかなりの損耗を覚悟しなければならず、またNJによる妨害は既存兵器の多くが足かせをはめられることとなり、本来の戦術から急遽変更をしなければならなかった。
他方、ザフトも慣れぬ地上での軍事行動を強いられていた。
そも、プラントにいるコーディネーターは地上を知らぬ宇宙暮らしなのである。
地球圏外に設置されたバイオスフィアの中で、徹底した管理のなされているコロニーで暮らす彼らは地球のように理不尽な変化を起こす環境になれていない。また、地球で今なお蔓延る疫病や感染症は、そのコーディネート内容によって大きく差のある耐性を持つコーディネーターたちに牙をむいていた。
勿論遺伝子段階で対策をしてあるコーディネーターは、あるいはその遺伝子や体質が適応している場合には問題とならないが、そうでないコーディネーターの方が多数を占めている。不偏的に身体能力が高いコーディネーターであろうとも、きちんとした対策を打たねば連合軍と戦う前に地球という環境に殺されてしまうのだ。
さらにプラント本国から頂戴な補給線を維持しなければならず、その補給線は度重なる襲撃で損耗を重ねていた。
宇宙艦隊が温存されていた大洋連合が積極的に攻撃を繰り返すことで、ザフトは出血を重ね、最終的に多くを失っていた。
そしてこれは、アフリカにおける、ちょっとした風景の切り取りである。
大陸SEED支援ネタSS 灼熱の空を漂うように
ティルトローターの回転する音と振動が体を揺らしている。
MSを一個小隊、さらに簡易のメンテナンス設備と武器弾薬のケースなどが収められているため、
この70式大型輸送回転翼機はかなりの巨体であり、それを飛ばすために機体の左右に付けられているローターはかなりデカい。
さらに追い打ちをかけるように、この回転翼機は側面のドアが開かれていて、ビームスナイパーライフルを構えたドアガンナーがいる。
それはもちろん人間ではない。既に二線級に身を引きつつある「ハイザック」だ。大洋連合の量産型MSの祖とも言われる「ザク」からバージョンアップしたそのMSは、ピンク色に輝くモノアイをドアの外の世界へと、アフリカの大地と空へと注いでいる。
既にこのアフリカの空域における制空権は連合のものになっている。
けど、未だに残党がいる可能性があり、さらにこの回転翼機が低空に侵入する必要があるということもあって、
こうして警戒がされているという。ドアガンナーの傍らには90mmガトリングガンがデンと据えられていて、いつでも使える状態にしてある。そんなわけで、本来ならば遮蔽するドアが開かれているので、私はそれに苛まれているわけである。
それの音と振動になれたのは既にこの機体に乗り込んでから2時間余りが経つからだ。
アフリカ。
それが、私の配属となった地域だ。
既に戦線が終結した地域にこそ、私の働く場はあった。
なにしろ、南アフリカでの戦闘は、ザフトが撤退してからもまだまだ続いていたのだ。
北アフリカ各地に、MSや指揮系統を失いながらも抵抗を続けるザフト兵とザフトに雇われ、報復心を滾らせたジャンク屋とも傭兵とも判別のつかない、中間の卑怯者(バーテスorマーテス)達が抵抗し、あるいは自らが生きるために民間人や町を襲って略奪などを繰り返しているという。アフリカーンス語においてコウモリを意味するその言葉は、状況に応じて都合よく身分を偽り、闇から闇へと移ろって利益をかっさらう無法者たちの在り方を指してる。
現地の協力が無いゲリラ戦は絶望的だ。とはいえ、現地の勢力だけで撃退できるかと言われると微妙である。
MS相手に戦うにはやはりMSが必要になる。戦車やヘリを持ち出してもまとまった数と戦術が無ければ一方的にやられてしまう。
少々腕があればできることなのでザフト残党にとっては「手軽な」仕事なのだろう。
360: 弥次郎 :2017/10/28(土) 19:34:12
でも、南アフリカ政府も、連合もいつまでものさばらせるつもりはない。
むしろ安定化をこれを契機にしてしまうべく、宇宙に上げられない戦力を積極的にアフリカに投じている。
大洋連合がアフリカ奪還を行うためにアフリカ入りした際にも、南アフリカ統一機構政府と、現地勢力との折衝が必要だった。
ザフトの統治政策の不徹底やナチュラルを見下すザフトの兵士たちの振る舞いもあって、概ね好意的に受け入れられてはいたけれど、それで信頼関係が出来たかといえば、そうでもない。互いが腹を割って話し合い、不審を信頼に変える努力が必要だった。
私はアフリカについては、事前の資料以上のことはあまり知らない。
だって、全てを知りえないほどに複雑だから。
リアルはクソゲーというコピペの中に、世界観が絶望的という一説があるが、激しく同意するしかない。
アフリカの禍根は、それこそ、旧世紀の、そのまた一つの時代の統治が原因で始まっている。
CEの始まる前後に奇跡的な統合と発展が起こったけれど、本当に奇跡なのかもしれない。
そんな私はといえば、整備士として、目的地目指して飛行を続ける輸送機の格納庫の中を歩いている。
この輸送機は、補充のMSとその整備部品や消耗品を拠点から拠点へと輸送している最中だ。
整備士の仕事は、それこそ戦闘中でも忙しく続けられる。ましてや安定飛行しているならば、その時間も使われる。
大洋連合がMSを大量に配備しているということは、それだけ我々整備士に仕事が割り当てられるってこと。
それをあまり知らない人が呑気にMSを増やそうとかほざいているけど、それは私に給料以上の仕事をしろってこと!冗談じゃないわ!
それに、この揺れる機内で動き回るのは意外と危険だったりする。
うっかり転んだら、そして体を固定している安全帯が外れたら、解放されている扉から数百メートル下まで落っこちてしまう。
だからこそ、こうして重たい装備で、手すりにつかまって移動しているわけなんだけど、これもまた楽じゃない。
勿論、耳が逝かれるレベルの音を直接聞くよりもはるかにマシだし、空の空気で冷えるよりもまだいい。
「ぬぐぐ……おもぉい……!」
乙女らしからぬ声を出して私が運搬しているのが、MS用武装に付ける交換部品だ。
MSでは掴みにくい、しかし人間が持つには重たい部品。専用の重機やクレーンで持ち上げることもあるけど、今はそのクレーンの所まで運ぶという重労働を強いられている。
「がんばれぇー…!」
「もうちょっと、もうちょっとぉー…!」
「んぐぐぐぐぐぅ!」
あと数メートル。
その絶望的に遠い数メートルを、同じ部品を抱えた仲間たちと一緒に歩いていく。アシスト機能は安全基準ぎりぎりまで開放して、複数人でやっているけど、これがまた重い。MSの武装が大型化したり複雑化すれば、その分整備士たちも苦労するのだ。
こんなものをポンポン作る技術者たちには是非とも後学のために同じものを持ってもらいたい。
特に、ムンゾの技術者は宇宙と違って地上では重力があることを考えてほしい。
「せーの……よいしょ!」
そして、漸くパレットへと下すことが出来た。
へたりかけたけど、何とかそれを我慢。備え付けのベルトで固定していく。
玉掛けなんてのは整備士にとっては当たり前の資格。というか、持っていないと邪魔にしかならない。
MSの配備は、整備士に求められる技能水準をかなり高くしたと思う。私だって、MSの整備を習うのに時間がかかった。
けど、ガザ
シリーズですでに知見があったからだいぶ楽は出来ていると思う。整備を習う際にも、ちゃんとしたテキストがあって大助かりだったし。
そう思うと、いきなりMSの配備が始まった他国はものすごい苦労しているんじゃないかしら?と思うことが増えている。
ユーラシアのメカニック班と知り合ったのがきっかけで、ようやく自分たちの恵まれた環境が把握できた。
361: 弥次郎 :2017/10/28(土) 19:35:02
「ふぅ……いいかしら?」
そんなことを現実逃避気味に考えながらも、固定された部品を点検し、クロスチェックする。
激しい運動をするMSに使われることもあって頑丈に作られてはいるけれども、油断はできない。
何より、整備士がMSの部品を壊すなど我慢ならない、壊すのは無茶をするパイロットだけで十分だ。
「OK おろしていいよ!」
合図をすると、独特の音と共に上からクレーンが降りてきて、パレットを持ち上げ始めた。
ここから先は私の手を離れる。クレーンのオペレーターと引き継ぐ整備士たちが上手くやってくれるはず。
「あとはこっちでやっとくよー。お疲れー」
「お疲れさまー!」
一つの作業は終わる。けど、仕事はとはまだまだ続く。
一日が終わって無事補給基地につけたら、おいしい料理を是非とも食べたい。
アフリカの料理は、私たちから見ればオリエンタルというか、欧州の料理がアフリカのたどった歴史によってアレンジされた物ばかり。
水が体に合うか不安だけれど、楽しみたいなぁ。そう思う私は、うっかりでもひっくり返らないように手すりへと手を伸ばした。
しっかりとした手ごたえに安堵を覚えながらも、私は次の仕事に取り掛かるべく一歩踏み出すことにした。
メカニック紹介
〇70式大型輸送回転翼機
我らがファットアンクル(小太りおじさん)。
今作においてはコンバットボックスを形成してアフリカの御空を物資を山積みにして飛行中。
敵を見つけたらドアガンナーとして控えるMSが攻撃を加えるし、アッシマーの護衛もいるので安全。
側面には90mmガトリングガンとドアガンナーMSの係留ベルト、ドアガンナー用のフットレストが増設されている。
〇ハイザック
大洋連合の金字塔的地位のMS「ザク」のバージョンアップ機。
より正確には、アフリカに配備することを前提に各所に調整が施されたディザートハイザック。
技術的段階を踏んだら、アフリカにも供与乃至払い下げが行われることは間違いない。
そもそもハイザックがマラサイによって徐々に下げられ、そのマラサイさえも地方配備になる大洋が魔境すぎるだけ。
〇90mmガトリングガン
〇120mmガトリングガン
MSの使うドアガンとして70式大型輸送回転翼機に装備されている固定式銃火器。
アフリカの環境での使用を前提に空冷フィンを兼ねた保護ジャケットが装着されている。
弾薬には90mmマシンガン及び120mmザクマシンガンの弾薬がそのまま流用できる。
ただしマシンガン用のそれと同じ弾薬ではあってもベルト給弾式なので弾帯にセットする必要がある。
主に弾幕形成や対地攻撃に使用される。戦闘機はもちろんのこと、ザフトのディンに対する効果は言うまでもない。
362: 弥次郎 :2017/10/28(土) 19:35:34
以上、wiki転載はご自由に。
時間を喰ってしまってすいませんでした。
アフリカ戦線の後の後始末の風景を少し切り取ってみました。
実際はドアガンナーということで「ホント戦場は(ry」とやりたかった…
最終更新:2017年10月31日 20:09