900: 弥次郎 :2017/12/18(月) 20:40:02
大陸SEEDネタ
支援SS アームチェア・メンタリスト
んふー、おばさんの年齢に近づいた私にも話が聞きたがるなんて、珍しーわね。
MSとかMAとか、エースパイロットの話を聞きたがる人が多いから、医者なんてあんまり目立たないじゃない?
貴方、そういうニッチなのを追いかけてるわけ?同じような記事ばかりじゃ受けない?
んふー、いい考えね。奇をてらうとか、誰もやったことがないことにーとか、華々しさを求める人がいるのに、それに流されたりしないのは美徳よ。いいセンスだわ。
MSパイロットも人の子、悩みもすれば、身体を壊すし、動けばお腹も空く、人間よ。
メディアだとまるで超人みたいに書き称えているけど、それはあくまでも偶像。作られたイメージ。
そんな人たちが活躍しているのは本人の努力もまるけど、その人の十倍はいるサポートスタッフのおかげなの。
私もそんな一人なのよ。地味というか、裏方ね。黒子といってもいいわ。
プラント争乱のこと、だったかしら?
プラント争乱時、私は軍に属する医者として従軍していたわ。
これでも、ちゃんと軍人だったのよ。今も現役の軍人なんだけどね、んふ。
でも、実際に銃をとるなんてことはしなかったわ。
医者が拳銃をぶっ放すなんて、私の勤務地が地上だったならともかく、宇宙の艦艇だったから銃なんて訓練程度だったからありえないわ。
一応従軍する程度の体力はあるし訓練は積んであるけどね。
あ、ごめんなさいね。仕事の内容だったかしら?
私は宇宙艦艇専属の医師だったわ。
専門は精神科とか臨床心理とか……要するにメンタルケア担当ね。
宇宙艦艇って充実した医療体制もあるんだけど、それ以外にもメンタル面でのケアを行える人が必要なのよね。
宇宙って案外ストレスを受ける環境なの。居住空間は狭いし、移動は何かと不便だし、食事にも縛りがある。
太陽光で起きるわけでもなくて、艦内は常に昼間みたいなものだし、自然な太陽光を浴びる機会は少ない。
さらに軍としての規律も守らなくちゃいけない……とても、人の健康にいい環境じゃないわ。
ストレスがたまるか、不規則な生活になれば、人は簡単に体調を崩してしまうの。
宇宙生まれの……スペースノイドという括りの人たちって、ちょっと老け顔の人が多かったりするでしょう?
それにコロニーだと医療体制がとても充実しているんだけど、それもコロニー暮らし、宇宙暮らしが関係しているわ。
長く暮らしている間に、人間の体はそんな過酷な環境にも耐性を作って適応するという報告もあるわね。
でも、それはなんら対価の無いものではないわ。どこかに異常を伴うものよ。
元々人間の体は地球で暮らすことを前提に、それこそ何千年とかけて作られたもの。
宇宙に飛び出せば、必ずどこかしらに弊害が出る物なの。本来ありえない変化は、予想もしえない影響を人に与える。
これ、ムンゾの学会では割と有名な話なのよ。
んふ、ちょっと、蘊蓄垂れ流しにしちゃったわね。
ともかく、宇宙ってのは体調を崩しやすいのよ。
え?真剣な表情は良かった?褒めてもお茶くらいしか出ないわよ?
んふふー、ありがとうね。
901: 弥次郎 :2017/12/18(月) 20:41:05
…私が何処に配属になっていたか?
そうねぇ。特務艦隊、第十六広域特務部隊というところね。
一応情報は開示されていると思うけど、アーガマ級ニカーヤを旗艦とする便利屋ね。
そうそう、「青い稲妻」の二つ名を持つZドライバー「笹原明人」のいた部隊よ。
知ってるでしょ?彼、撃墜数だとランキング上位に食い込んでいるし、露出もそれなりにしている有名人だもの。
そんな彼も含めて、ニカーヤの乗員やMSパイロットは、長期任務になる上に重要な通商破壊任務をこなすものだから、とてもストレスに晒される、とても大変な環境だったわ。
どうすればわかるかって?所作とか仕草をよーくみると、なんとなーく、こう、伝わってくるのよね。
女性だと露骨に肌が荒れてくるし、髪の艶とか落ちてくるのよ。んふふ、ここら辺は経験とか勘って奴よ。
コツは掴めば誰でもできるけど、結構主観的だから教えるのは難しいことねぇ。
で、私はそんな乗員たちやパイロット達と定期的に面談して、話をしているのよ。
愚痴を聞いたり、趣味の話を聞いたり、家族は何処で暮らしているのかとか、色々とね。
何気の無い会話って思うでしょ?でも、これは重要なのよ。
戦場に長いこといると、日常を忘れちゃうの。7日に1回の30分程度の面談をセッティングして、曜日感覚と時間の感覚を忘れさせないようにする。ニカーヤでも他の艦艇でもそうだけど、
メニューの決まった食事とかミーティングを一定間隔で行っているのと同じ取り組みね。
ついでに、その間だけは軍の地位を忘れることを赦すの。
防音の部屋で面談するんだけど、そこだとプライベートが保たれているから、愚痴とか普段人前で言えないことを吐き出してもらって、すっきりして帰ってもらう。
意外と苦労が多いのよ?それはもう、言葉ではちょっと表せないほどにね。
あとはそうね、面談の最中には、乗員たちの要望を聞いていたわね。
運んできてもらう嗜好品がどんなのがいいかを決めるためでもあるの。
それとなく聞き出すのよ。上手く本音を引き出してやるのも、カウンセラーのお仕事ってところかしら。
補給物資は艦艇という閉鎖環境に供給される貴重な物よ。
武器弾薬やMSの部品だけじゃない、食料や水、衣服、薬。艦を構成する幾多の消耗品などなど……
自力で生産できない以上、外から持ち込むしかないわ。
逆に排泄物や艦内で処分できないものは外に持っていってもらうしかない。
排泄物もそうだけど、ディスポーザブルな製品や薬品が多くあるわ。
消毒液とか、注射器とか…あとは検査に使う試薬とか薬品なんてのも含まれているわね。
勿論、宇宙に捨てるという手もあるけれど、それはそれで問題があるわ。
ん?なぜかって?排泄物って、情報が大量に詰まっているのよ?知らなかったかしら?
その排泄物を出したのが、一体どこのだれで、どんな体質・体格で、どんなものを食べて、どんな生活を送っているのか…
きちんとした分析装置と技能者がいれば一発で分かるのよ?
んふー、ちょっと信じてないって顔ね。旧世紀だと、発見した敵兵士の排泄物の臭いを軍用犬に覚えさせて、その敵兵士の侵入ルートや敵基地の捜索にも使ったことがあるそうよ。今でも、宇宙でもその手法は現役らしいわ。
そうでなくても、排泄物の容器が何処にあるかで艦隊の足取りを追うこともできるらしいしね。
さて、話を戻そうかしら。
そう、私は基本的にカウンセラーとして活動していたところまでだったわね。
エースパイロットからごく普通のパイロット、艦長からクルーまで……沢山の人がいたわね。
勿論私一人で裁いていたわけじゃないわ。他のカウンセラーもいたから、分担していたのよ。
902: 弥次郎 :2017/12/18(月) 20:42:53
勿論面談だけじゃなく、医者として診察をすることもあったわねぇ。
診察して、処方箋を書いて、その人に合わせた薬を投与して……結構時間がかかる、気の長い治療だったわ。
プラント争乱の後半……特に終盤は、パイロット達も不調をきたすことが増えたわね。
貴方もしっているでしょ?プラントの、ザフトの行っていた学徒動員のこと。
ただでさえ人と殺し合うという一般的に倫理に反する行為をしているのに、追い打ちをかけてきたのね。
元々、プラントの制度上…ええっと、そう、慣習というかプラントの規律上では成人の定義がかなり低いでしょ?
成人していると言っても、その実態が少年兵と何も変わらなければ、それはもう辛いものになるわね……
おかげで、MSパイロットを中心に被害が出ていたわね。
MSパイロットって、相手のMSの挙動についてとても敏感になるの。
だからこそ、相手がどんなパイロットなのかを直感的に理解できるのよ。経験則的に、かしら?
私も映像を見せてもらったことがあるけど、動きが全然違うわ。貴方も見たことあるかしら?
戦闘機だと相対速度が100km/h違うだけで止まって見えるとか言うらしいけど、MSだともっとひどいわね。
MSは機動兵器、止まっていたらただの的。5秒直進したら死ぬ、何ていわれているけど、素人目にもそれは明らかね。
MSパイロット達はそれを感じ取って、それでもトリガーを引くしかない。
それがどんなに素人な動きでも、敵として現れたならば、ためらいなくね。
あ、もちろん、反戦運動をしてくれなんて言わないわよ?
私も倫理としては抵抗を覚えるけど、それが戦争というものなんだから。
文句を言うべきは、そんな子供を「大人」にして放り込んでいたプラントの大人たちの方かしらね。
MSパイロット達も、自らの仕事をきちんとこなしていただけだし、その結果として精神にダメージを受けた。
地上で水が上から下に流れるように、物が上から下に落ちるように、宇宙ではものが自由に漂うように。
それは必然よ。
第一、軍事行動で精神的なダメージなんてのは想定の範疇のことなのよ。
そうじゃなければ、メンタルケアの人員を予め増員しておくなんてことをするはずがないじゃない。
終盤に連合各国が精神科医をかき集めたというのは有名な話だし、戦後にPTSDを理由とした名誉除隊も広く受けていたのも通説よ。
パイロット達のこと?
あまり言えないわねー。こればっかりは個人の情報何だし、具体的には言えないわ。
発言に責任を持てないことしか言えない。
でも、雑感を言えば……そうね、大変だったわ。
とてもとても、大変だったわ。パイロット達に限ったことではないけれど、とても、ね……
んふ、やっぱりシリアスなんて好きじゃないわね。
私、あんまり真面目になりすぎると肩がこるタイプだから。
さて、今日のところはこんな感じでいいかしら?
ああ、そうそう。貴方は色々と考え込むタイプみたいね。
責任感が強いのは結構だけど、その分体と心には負荷がかかっているわよ。
多分、食欲が落ちやすいと思うの。だから、根を詰めないできちんと有給は消化しなさい。
趣味に費やすのもいいけど、きちんと眠ること、いいわね?
お姉さんとの約束よ?
なんで知っているか?
んふー、それは内緒よ。内緒。
ちゃんと健康を維持しなさいよ、いい?
- C.E.74 某日 大洋連合宇宙軍所属 椎原京大尉へのインタビューより
903: 弥次郎 :2017/12/18(月) 20:44:54
〇人物紹介
椎原京(ミヤコ・シイバ)
年齢:32歳(主観年齢:183歳)
客観性別:女性
人種:ナチュラル
職業:ニカーヤ専属精神科医 臨床心理士
階級:大尉(医官として)
身長:156センチ
体重:(禁則事項☆)
ニカーヤに配属された医師。
精神科 臨床心理などを学んでおり、専門の資格を多数有している。
主に精神・メンタル面でのケアを担当している医官(コメディカルスタッフ)。
宇宙艦艇という閉鎖環境で軍事行動をするうえで精神面でのケアは必須と呼べるものであり、NTが配属されるということもあって専属の医師の需要が生まれ、ニカーヤへと配属となった。
ニカーヤの任務が始まったころからの古参であり、多くのパイロットやニカーヤの船員のケアにあたっている。
「んふ」「んふふー」と短く笑ったり、時に真面目に、時にユーモアにとコロコロ変わる。
つかみどころがないといえばそれまでだが、人の心理に寄り添う術をよく心得ている。
観察眼や何気ない所作からの推測もかなり得意で、本人曰く安楽椅子探偵もできるとのこと。
人種はナチュラル。日本人系の名前と外見だが、インド系の血が先祖で混じっているのか、やや日本人らしくない外見的な特徴を持っている。
彼女もまた転生者である。主観年齢で183歳とあるように、かなり転生を繰り返している。
また、客観的には性別は女性であるが、前世において、あるいはそれ以前においてどうであったかは不明。
そんなことからかなり人生経験豊富であり、人の心理については経験則的に深い理解がある。
その為なのか包容力という点ではかなりのもので、バブみを感じたり年上女性に甘えたがる患者(特に男性)が多い。
MS適性はほぼなし。一応最低限の軍人としての訓練を積んでいるが、医官なので相応である。
904: 弥次郎 :2017/12/18(月) 20:46:16
以上、wiki転載はご自由に。
笹原君をちょろっとしか出せず…!名前だけ!ニカーヤもほとんど名前と舞台としてのみ…!
大変恐縮です…orz(先行土下座
これで時風氏の創作が進んでくれればいいなぁという、ある種の支援SSでありまして、
無理のない範疇で書けたことの方がよりいいのではという(以下言い訳省略
とまあ、宇宙艦艇での長期任務とかこういう軍人も必須かと思われます。
閉鎖環境ほど精神的に影響を与える場もないと思います。
鉄血のオルフェンズでは、権威への服従と枷の外れた支配者と被支配者が宇宙艦艇という中に存在していましたが、あれはまさにスタンフォードの監獄実験と同じだなと思いました。
最後までヒューマンデブリという枷に縛られ、あまつさえ、食事や待遇の悪さにもかかわらずに「ヒューマンデブリという存在であろうとする」昌弘・アルトランドはまさに象徴的と言えるかもしれません。
軍隊も、本質的には人に役職を与え、縛るものであることに代わりはないでしょう。
史実において海軍の艦艇で起こっていたことは、本質的には同じなのかも…と思います。
一歩間違えば、長期任務を行う艦隊というのはそれ自体が監獄となりかねない…書いていて、少し背筋が冷えました、はい。
ここにこそ、定期的な空気の入れ替え、人員の交代、さらにメンタルケアが必要なのでしょうね。
ちょっと暗い話ではありましたが、楽しんでいただければ幸いです。
最終更新:2017年12月19日 08:26