415: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:42:11
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「Triumph&Survive」





      • C.E71年7月9日 太平洋上 大西洋連邦海軍 タラワ級揚陸艦「D・D・ポーター」 格納庫



どうにも空母というものにはなれない、とウィリアム・ハンターは不規則に揺れる艦内で悪態をつく。
船自体は嫌いではないし、この手の輸送艦に乗ることも慣れている。
だが、こう狭い空間に押し込まれているのは些か拒否感が体に湧いてくる。
航空機の格納庫と似たようなもの、と言われればそれまでだが、何というか、浮かべるために無理やり押し込んでいる、という印象が強い。
それはこの既存艦艇を改装して生み出されたタラワ級も同じだった。もっと航空機を自由にとどまらせてやれないものかと、そんな我儘を言い出したくなる。

格納庫内部のキャットウォークを歩くハンターは、眼下で続けられる整備作業を眺めることで気晴らしとしていた。
メカニック班の動きだけは、やはり地上の基地と同じだ。どことなく安心感を覚える。格納庫内に満ちる声と作業の音は、自分が過ごしていた空間を想起させてくれるので何より落ち着く。

「よーし、そっちのパーツはこっちに回せ!」

「オーライ。搬入機通ります!」

「あぶねぇ!気を付けろ!」

「ビームライフルの担当呼べ!こっちの機器がまだ未調整だぞ!」

メカニック班の数は、かなり多い。
それだけMSの整備箇所が多いことの証左であるし、直近に迫る「期限」に向けて入念な準備が必要と判断されているからだ。

(オーブ、か)

大西洋連邦海軍の主戦力がジャンク屋が占拠しているギガフロートの奪還に向かう一方で、別動隊はオーブへの侵攻を大洋連合と合同で行うことになっていた。
目的はずばり、オーブの国営企業「モルゲンレーテ」の本社および生産工廠の破壊である。
大西洋連邦が有していた技術をMSの共同開発、ということで明かしていたのであるが、それが大洋連合の手に渡ることを恐れているのである。

また、ザフトにモルゲンレーテを介して技術がさらに流出することも恐れている。
なぜかオーブはザフト残党軍を受け入れて、引き渡しの拒否を一方的に通告してきた。
挙句に、マスドライバーを用いて宇宙に打ち上げているときたものだ。
これにはさすがの連合も「中立」を謳うオーブの政権の正気を疑った。

オーブにザフト残党が逃げ込んだのは、甘く見て「亡命」ということでOKかもしれない。
引き渡しが出来ないと突っぱねると連合とこじれるのは明白だが、そこら辺についての交渉があったかどうかは不明。
だが、「宇宙に逃がす」とまでなれば、もはやそれはザフトへの加担に他ならない。
挙句に連合のマスドライバーの利用を拒否したのは、敵対という意思表示に他ならなかった。
そして、最後通告がなされ返答がなされる前に連合各国は艦隊をオーブへと差し向けた。
事実上の恫喝である。だが、オーブの行動を鑑みれば、この恫喝行為もある意味当然でさえあった。

「しかし、皮肉ですね」

そんな声が、ハンターの耳に届く。
クラーラ・ユノー。彼女がコクピットから軽やかにキャットウォークへと上がって来たのだ。
伸ばされ、束ねられている金髪がゆらりと揺れるのは一種の芸術とさえいえる。
生憎と、そこまで興奮しやすい性質ではないのでハンターは関心を示しはしなかった。
というか、反応を示すと彼女にからかわれるとわかっているのだ。

416: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:45:31

「ストライクに限らず、Gシリーズの完成にはモルゲンレーテ社との合同での開発が行われたと聞きます。
 つまり、片親の企業がある国を、子供と言えるこのMSたちは焼き払いに行くのですね」

「……あくまでも、オーブの意思が最終的に示されるまでは分からん」

明言は、避けた。彼女にそういった表現を使われると、対応に困った。
自虐なのか、それとも無意識なのか。そこにある地雷を踏みに行くなどハンターは選ばない。

「それよりも少尉、上陸戦については?」

「上陸戦ですか?一応は教練を受けたことはあります」

「前の所属は陸軍だったか」

「はい。生憎と内陸がメインでしたので、教練の経験はありますが、専門職には劣ります」

「そうか……まあ、貴様に限らんな。俺とて航空支援を演習でやったことはあるが、実際に乗り込むのは初めてだ」

おまけにMSに乗っているのだしな、とハンターは嘆息する。
全く新しい兵科のMSを用いての上陸戦。似たようなことは一応したことはあるが、今回のような規模でやるのは初めてだ。
これまでの指揮系統にMSという兵科を放り込んで、シミュレーションなどを繰り返したとはいえ実戦。
落ち着きがない、とハンターは自分自身をそう分析している。
おまけに、上陸に際しては多数のポイントを同時攻撃して、複数ルートから進行する手筈だ。
補給も交代要員の揚陸も順次行うので、初動に躓けば後の部隊までも足止めを喰らう羽目になる。

「作戦の流れについて貴様はどう思う?」

「理論的には実行可能であり、戦力を評価したうえで無理のない範疇に修めている、と私個人は思います。
ただ、理論段階で実証していない作戦の展開となります。これまで存在しなかった兵科であるMSに、これまでの積み重ねのある兵科の仕事をこなせるのかについては疑問符がつけられます」

確かにな、と相槌を打つしかない。
その指摘は正しい。このオーブ攻略戦に先駆けた会議においても、多くの将兵から疑問の声があがっていた。
上陸するまでと上陸してからの地点確保。航空支援などは従来通りだとしても、歩兵と揚陸艇の代わりがMSに任されるのだ。
だが、それでも作戦は認可された。そして、全軍に最後通牒が拒否された場合にはそれに乗っ取って行動するように指示が出ている。

「MS派閥の鼻息が荒いのも、有用性の証明に焦っているためでしょうか?」

「かもしれん。言うほどMSは万能と思えないのがMSパイロットとしての意見だが、ザフトがMSを用いて不利な状況・戦力・戦局を覆したのも確かだ。同じかそれ以上のことをしたいと考えるのも当然だろう」

最終的にそれが採用されたのも、結局は上層部もこのMSを用いての新たな戦争方式への知見を深めたい、という欲もあるのだろう。
だからこそ、危険を承知で承認がなされた。そしてそれが上層部の決定となった以上、それに従うしかない。
ハンターはその事を上司であるアウグスト大佐から聞いていたが、それに対するユノーの感想はハンターと同じだった。

「見下されてきたからこそ、見返してやりたい、ですか」

「なまじ煮え湯を何度も飲まされた連中が多い。
 コーディネーターが導入してきたMSでザフトを苦しめることで、意趣返しとしてやりたいのだろうな」

「意趣返し、というよりも復讐では?」

「ああ、そうだ。結局は、ナチュラルもコーディネーターも同じような人間だ。
 殴られたら、プライドを傷つけられたら、大事なものを脅かされたら、それに対して報復したがる。
 そうやって精神の均衡を保とうって言う、本能だ」

「……」

「傍から見れば馬鹿らしい。相手はザフトもいるとはいえオーブだ。
 ぶつける相手もわからなくなっている時点で、軍人としては失格だ。勿論、それが命令であるならば、やらなければならないがな」

勝利を。報復を。連合を、大西洋連邦を突き動かすのは、幾分かその手の感情が混じっている。
自分の考えを吐き出したので、北米侵攻を阻止した戦闘から溜まっていたものが消えたような気がする。
ちらりとユノーの方を見れば、少し彼女も考え込んでいる表情だ。

「堅物ですね、大尉は」

やっと返って来たのは、そんな返答。
呆れか、困惑か、はたまた別の感情か。

「よく言われる」

老兵だからな、と自嘲気味に言ってみる。プッ、とユノーは吹き出し、つられて笑ってしまう。
オーブまで、あと僅かばかり。一体何が待ち受けているのだろうか、とハンターは僅かばかりの思索を巡らせる。
広く狭い格納庫は、自分を優しく包んでいるような、そんな気がした。
だが、消え去るわけにはいかない。生き残り、勝利を勝ち取りたいのだ、

417: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:46:16

      • CE70年7月11日 オーブ オノゴロ島沿岸防衛区域



オーブ本島 オノゴロ島への強襲揚陸。
主力をギガフロートに割り当てつつも、大西洋連邦海軍はそれを実行するべく戦力を編成している。
タワラ級をはじめとしたMSを搭載した揚陸艦、特設輸送艦、時代遅れと思われがちだが作戦の都合上引っ張り出された砲艦。
これらによって大西洋連邦ではMSの有用性を証明するための、一種の試験を兼ねて今回の強襲揚陸戦を行う手筈となっている。
MSの持つ能力、それは強行突破能力と機動力。一度陣地内への展開を許せば、相当な被害を覚悟しなければならないという厄介な特性である。
基本的にMSは巨大化した歩兵なので、十分な備えがあれば進軍を足止めるすることが出来てしまう。
だが、それもあくまでは理論上の話。戦場がそんな都合の良い立地であるはずもなければ、何時までも耐久可能なはずもない。

そも、戦場をどこに設定するかの優先権は防衛側ではなく、攻撃側に回っている大西洋連邦側にあるのだ。
オーブ側は何処から攻めてくるのかを予測し、戦力を割り振る必要がある。
そして、大西洋連邦側はその戦力配置を把握するべく、金持ちの戦術を展開していた。

「くそっ、連合の奴らどれだけぶつけてくる気だ!」

沿岸部に設置された対空砲台の砲手が、飛んでくるミサイルやロケット弾を迎撃しながら叫ぶ。
地対空75mmバルカン砲塔システムを中心としたトーチカは、そのほかのミサイル砲台や大型砲などを搭載したトーチカと共に、沿岸部に時間の許す限り設置がなされていた。数に限りのある艦隊による防空で防ぎ切るには難しいとの判断もあっての設置だ。
しかし、連合はそのトーチカや防御陣地を叩きつぶすべく、膨大な鉄量を叩きつけた。
当然迎撃しなければならないのだが、なかなかに敵の攻撃は収まらない。
時間をかけ、じわじわと消耗を誘うように。
自然と、弾薬の消耗と攻撃を受けることによる破壊、そして人員の疲労が目立つようになる。

「オーバーヒートに気を付けろ!」

「弾の搬入急げ!間に合わなくなるぞ」

「道路がやられた!?糞、MSでもなんでもいい、急いで運ばせろ!」

比較的寡兵であるオーブ側は、先程からフル回転である。
ザフトとジャンク屋と傭兵ギルドの人員を加えているが、高が知れていた。
誰もがフル回転。弾薬の運搬・搬入・装填。そしてレーダー情報の伝達。
他にもPSを装備した兵士は破壊された砲陣地から負傷者を引っ張り出したり、車で医療班の控える後方に運搬したりする。

『畜生!畜生!畜生ぉぉぉ!ああああああ!』

また、対空要員として銃撃を放っていたジンが撃墜される。
追加装甲と最低限の回避運動で凌ぎながら対空戦闘をやっていたが、ついに銃撃にからめとられてしまう。
どしり、と鈍い音共に崩れ落ち、破壊されたMSは沈黙を作った。もはや動けはしないだろう。
ダメ押しのようにミサイルが浴びせられ、ジンは完全に破壊された。

「また穴が空いちまった!」

「糞が!MSの増援はまだなのか!?」

「ザウートはこっちに配備されていないんだよ!移動してきても間に合うわけもない!」

「畜生が…?!伏せろ!」

再びロケット弾の着弾。
休みのとれないオーブ側は、さらに戦力の消耗を加速させつつあった。

418: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:47:02


「一佐、このままでは持ちこたえられません!至急増援を!」

沿岸部の防衛線を指揮する発令所に詰める指揮官に、副官が進言する。
彼の表情には強い焦りがある。戦闘開始からかなりの時間が経過したが、それでも攻撃の手は緩んでいない。
彼我の戦力比を考えれば、そして消耗率を鑑みれば、どちらが負けるかなど簡単にわかる。

「わかっている!だが、他のエリアにも同時攻撃が来ているんだ!」

「そんな……」

「上に問い合わせても、戦力を送れない、と返答が来るばかりだ!
 確かにここが重要なエリアではないのは確かだが、ここから崩れたらどうするつもりだ!」

叫び返されると、何も言えない。
特に、上層部への反発については理解できてしまう。
同時に複数個所を叩く、しかも、時間をかけての消耗狙い。
それを狙っていることは明らかなのだが、それを打破することは叶わない。
また一つ、トーチカが飛んできたミサイルを迎撃しきれずに吹き飛ぶ。

「くっ……状況報告!」

衝撃は発令所を大きく揺らした。

「沿岸部ミサイル砲台が先程のミサイルで撃破されました!死傷者多数!無事だった砲台にも誘爆が!」

「退避急がせろ!負傷者は医療班に!」

「防空陣地の損耗、50%を超えます!」

なんてことだ、と一佐は吐き捨てる。
損耗は既に50%。そして弾薬の消費は2回の航空攻撃によって既に3分の2以上が消費された。
当然補給を要請したのだが、どうやら輸送ルートの道路が破壊されたことで立ち往生しているらしい。
他のエリアも同じように攻撃を受けていて、MSを含む増援部隊はひっきりなしに戦闘しては補給を繰り返している。
まだ主力と交戦する前にこれだ。これでは主力とぶつかる前に全滅しかねない。軍事的用語上の全滅ではない。

「連合の第三波攻撃隊接近!」

発令所に、叫び声と、レーダーが敵機を捉えた報告がこだまする。
見上げれば、はるか遠くに複数の戦闘機の姿が見える。連合の主力機であるスピアヘッド、そしてストライカーパックを装着したスカイグラスパーと、さらに少数だがMSを乗せたグゥルの姿まである。

「エアカバーは!?」

「増援の航空戦力が途中で交戦に入ったと!かなりの苦戦を強いられています!」

オペレーターの悲痛な叫びが悪い状況のスパイラルを告げる。

「ちっ……マズイ!後方への退避を許可する!後退準備を急げ!」

その叫びを、膨大な航空機の音と、爆撃音がかき消していった。

419: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:47:47

      • オーブ オノゴロ島沿岸防衛区域 上空



膨大な量のミサイルとロケットが、ついでに機銃の嵐が、地面を耕していく。
勿論、大洋連合のそれには劣ってしまう。だが、それでも脅威なことに変わりはない。
20mm機銃は歩兵や対物破壊には十分すぎるし、ランチャーストライカーを装着したスカイグラスパーはアグニや120mmバルカンという航空機らしからぬ重装備だ。これを叩きつけられれば、必然的に被害は積み上がる。

史実、あるいは正史において、ここまでの物量を叩きつけることはなかった。
だが、この世界においては違う。大西洋連邦はNJによるエネルギー不足を早期に抜け出し、その国力回復をはるかに早く実現していたのである。故にこそ、大国らしく戦力を叩きつけられた。

ギガフロートの奪還に主力を割いていると言っても、また、パナマ攻防戦やその後の北米侵攻への対処で損耗したとはいえ、まだまだ予備戦力は残っていた。さらに、ここオーブを除けば、あとはザフトとの戦いも終わりである。
故に、宇宙に上がれない戦力は惜しみなく投じることができるのである。
反撃の時は今!とばかりに、大西洋連邦は鼻息も荒くぶつけた。

対MS戦闘のノウハウが蓄積され、NJ影響下での戦闘にも慣れていた彼らは、これまでずっと中立の名のもとに、安寧の時を過ごし過ぎていたオーブ軍を容易く翻弄し、自分達に課せられたの役目を見事に果たしていた。
勿論、オーブ軍も備えていたのだろう。彼等とて訓練を重ねていた。だが、訓練と実戦を以て血を流して学んだ違いというのは、微妙であるとはいえ、両者に差を与えていた。まして、MS黎明期故にあっという間に差がつくこともあるのだ。戦訓の獲得度合いと反映度合いには、明らかに差があった。

『Shit!まだ粘るのか奴ら!』

『落ち着け、Echo12。アプローチのタイミングは慎重に待てば必ず来る。
 今は必死に反撃しているが、そう長くは持たない』

『……オーライ、Echo6。新しい彼女の御機嫌を窺いながらやってやるさ』

上空のスカイグラスパー隊は、未だに反撃を継続するオーブ軍に驚愕をしていた。
既に第三次攻撃だ。勿論複数回にわたる航空攻撃を予測していたのは疑いようがない。
だが、それでも、まだまだ粘り続けるのは衝撃的だ。

『コイツでどうだ!』

再度のアプローチでアグニを放つスカイグラスパー隊。
照射されたビームは、今度こそ陣地の一つを蒸発させる。
おまけのように放たれた350mmのミサイルと大型対艦ミサイルも、大地に大きな穴を穿った。
連鎖するような爆発が地面のあちこちで発生し、ひときわ大きな爆発が起きる。
眼下では、大型のビーム砲台が大きな爆炎に包まれていた。

『Foooo!』

『やったぜ!』

『ナイスワークだ、Echo16。これでかなり打撃を与えただろう』

回線に喜びの声が満ちた。
これで戦意を大きく挫くことが出来ただろう。

『MSじゃなくてもやれるんだぜ!』

同意の声が、航空機パイロット達の叫びが、回線で飽和する。
たしかにMSは強い。だが、まだ自分たちの翼はさび付いていない。
それを証明できたのだ、喜ばないわけがないのだ。

『こちらセントラルアイ。第三次攻撃隊、状況報告を報告せよ』

『こちら第三次攻撃隊、Echo隊長機(リーダー)。予定通り対地攻撃を実施。こちらの損害は軽微。
 対地目標は予定通り破壊出来ていると推測される。以上』

『了解。順次帰投し、補給を受けよ。以上』

『ラジャー』

そして、Echoチームは急速離脱を開始する。
時計を見れば、そして、合図として短いコードが通信回線を通じて全体に発せられた。
いよいよ本命部隊の出番である。

420: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:49:01
      • オーブ沖 大西洋連邦海軍 タラワ級揚陸艦「D・D・ポーター」





オーブ海軍の戦力が既に撃破され、接敵を許し、艦砲射撃とミサイルやロケット、スカイグラスパーなどによる綿密な攻撃を受けたことで、オーブの沿岸部は当初の防御能力の大部分を喪失した状態にあった。そも、太平洋で大洋連合とにらみ合う大西洋連邦と、戦闘経験の極めて乏しいオーブ海軍ではその規模も練度も違い過ぎた。

それでもなお、迎撃手段は、急造された防衛陣地や塹壕などに少なからず残っていたのだが、その状態で大西洋連邦海軍は手札を切った。即ち練度の高いMS隊の投入による強襲揚陸からの地点確保である。

『進発する!』

タラワ級揚陸艦「D・D・ポーター」から、MS隊が舞い上がる。
GAT-Xナンバーの中で、唯一奪取を免れ、そして大西洋連邦軍が配備を進めるGAT-X105ストライク。
さらにその強化型であるEXストライク。さらにストライカーパックを装着した105ダガーもそろっている。
先発するのはエースストライカーを装着したMSばかりであり、同時に、南米戦線でMSを操ったベテランぞろいであった。
そう、ウィリアム・”オールド”・ハンターの率いるMS部隊であった。

『一気に上陸地点を抑える、遅れるな!』

MSの急速接近。
それは、消耗していたとはいえ沿岸部の防衛部隊も捕捉していた。
だからこそ、必死にミサイルや砲撃を放っていった。

『迎撃します!』

だが、相手が悪い。
彼等は既にこの手の攻撃を受けた経験は多く、対処法を心得ている。
故にこそ落ち着いて迎撃機銃を放っていく。
炸裂と、爆発。
それを抜けて、MS隊は滑空を続けた。
右に、左に、あるいは減速と増速を絡めて有機的なランダム回避。
確かにマニュアルの回避と違い、操縦に相応の技量を求めるものだ。
難しいが、それ故に効果は絶大。迎撃する火器のFCSが高いレベルでなければ、無駄弾を打たせて浪費を誘うことができる。

ならば、と砲台の数を増やせばあてられると考えるのも間違っていない。
事実、オーブ側はそれに対して更なる火器を放つことで対処とした。
しかし、間違ってはいないが、予想される対応をそのままやりすぎてしまった。

残っていた砲台の多くが海上滑空中のMSの持っていたアグニやビームライフルによって、的確に破壊されていく。
ハンターの率いるMS隊は練度の高い部隊であり、尚且つエールストライカーの装着による高い回避能力と、シールドとPS装甲などで高い防御を持つMSに対して通常兵器が決死の反撃を行ったところで、多くが気にも留めない程度の脅威でしかない。
逆に、自らの居場所を相手に教える羽目となるのだ。それのマーキングが済めば、不意打ちなど狙えなくなる。
着地までの短い交戦。弾幕を潜り抜け、あるいは弾幕を張る砲台を潰し、MS部隊は無事に到着した。

『各機、無事だな』

断定で問いかけるウィリアム・ハンターに焦りはない。
残った僅かな砲台やセンサーに感知された地雷などを破壊してやれば、もはやそこは丸裸だ。
事前の支援砲撃やスカイグラスパー隊による爆撃もあってそこの地形は、ハンターたちが目指すポイントはかなり歪に歪められていた。
だが、それでよい。MSが丁度複数機滑り込むのに十分すぎる空間を生み出していたし、そして、それを終えれば次に接敵するのは当然決まっている。

『お出迎えだ。ブレイク!』

声と同時か一瞬早くに、一端の停滞を経たMS隊は散開していた。飛んでくるビームの発射源は、沿岸部の木々の奥。
だが、それは所詮はオーブの大地に広がる程度の、南米を経験したMSパイロットにとっては薄皮に等しいカーテンの向こう側だ。
熱源と音響センサーは、その数を正確に割り出していたし、目測でどこから撃たれたのかを察するなど、容易かった。
だが、ハンターはちまちま狙うことを選ばないし、部下たちも同様だった。

421: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:49:36

『砲戦、開始します!』

アグニの砲撃が、その木々を丸ごと焼き払った。見事に命中したのか爆発が起こり、そこらじゅうが焼かれていく。
遠慮などしない、薙ぎ払う射撃だ。元々動きが悪いM1アストレイは、さらに悪いことに防御性に難がある。
砲身を切り詰めた結果収束率が落ちているとはいえ威力の高いアグニに対しては、あまりにも脆かった。
数回の照射の後には、すでに動くものはなかった。

『もう少し我慢すれば不意を打てただろうにな』

『ええ、全くです』

仕留めた喜びを全く出さず、ユノーはアグニのバッテリーパックを素早く入れ替える。
南米にいた動きの良いザフトのMSならば、これを回避し、油断させたところで反撃するだろう。
回避の動きが見られなくて、あっけないと思えたほど。拍子抜けだ。
いや、突破されることを前提に待ち受けているかもしれない。

油断なくシールドを構えてクリアリングをしていく。
破壊されたのオーブの喧伝していたM1アストレイだけではなく、ザフト系のMSも見受けられていた。
しかし、とユノーは思う。見れば見るほど、このM1アストレイというのは、ストライクにそっくりだと。
カラーリングや構成する素材を除けば、そのアンテナとツインアイ、額の部分のセンサーなども同じようになっている。
血を分けた兄弟、あるいは、クローンだろうか。ブリーフィングでは、大西洋連邦の技術を流用した、と説明されたが、現在連合と敵対している中立国が合法的なライセンスをとったとは思えない。言うなれば、それは--

『おや、まだ生きておりましたか』

思考を中断したのは、既に下半身を失ったM1アストレイが、わずかに動いたが故だ。
だが、ユノーのEXストライクが無造作に120mmバルカンで止めを刺す。
至近距離で対MSを考慮したバルカンの集中射撃。当然、回避もシールドでの防御もできないMSは穴だらけになる。

(油断も隙もありませんね……)

この期に及んでまだ抵抗、というのもなかなか根性はあると思う。
だが、それだけだ。コクピットを蹂躙してやれば、もう動けない。
そうしている間に、他のMSも残存する兵力を掃討し終えたようだった。

『よし、クリアゾーンを確保した。ウィルキンスとケイの小隊は沿岸部の維持に努めろ。
 間もなくサプライストライカーを付けたスカイグラスパー隊が補給物資を投じる手はずだ。
 マイルズの小隊は俺の隊と来い。ブリーフィング通り、俺達は増援部隊の排除と沿岸部の防衛部隊の排除を行う。
 相手に余裕を与えるな』

『了解!』

『了解。いつも通り隊長の支援を行えばよろしいのですね?』

『そういうことになる。俺達も相応に武器を用意しているが、一番上なのは貴様だろう』

『はい、ではそのように』

先程仕留めたMSのことを頭から追い出し、ユノーは次の目的を再度認識する。
楔は穿った。ならばそれを拡張するだけだ。

『Move!』

そして、ハンターたちは一斉に動き出した。

422: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:50:06

      • オーブ オノゴロ島 沿岸部防衛ライン後方 仮設MS格納庫




『強襲揚陸!?』

『はい!事前の航空攻撃と艦砲射撃で穴を作られました!その後MSが…!』

『機動力でこちらの後方に回り込む気か…!』

CPからの報告に、ヴィルターは大きく舌打ちした。
何が起こったかなど、想像に難くない。防御陣地に大きな空白地帯が生まれたのだ。
そうすれば輸送機からの降下や艦艇を接近させてMSやその他部隊を揚陸させるのも容易くなる。
そして、沿岸部防衛の部隊が突破されれば、内部を食い荒らされるし、そのまま沿岸の部隊を横殴りにされるかもしれない。

『どうします、隊長?このままでは無事な防衛ラインが・・・!』

『ああ、まったくだ…嫌な位置に上陸してきたもんだ』

相手の上陸地点。そこは、地形的に迎撃がたやすいと判断されていた場所であった。
確かに、迎撃はしやすいし、上陸させて展開させるには不向きだった。
当初はこれを陽動と判断し、同時に攻撃を仕掛けられていた他の地点や誘うように展開していた他の部隊への対処を優先した。

だが、上陸させるのはMSだけでいいならば、話は別だ。
多少の障害物、地形などMSには怖くない。むしろ踏破する能力こそ売りとなる。
踏破して、弱点をさらけ出している状態の防衛部隊を強襲することができるだろう。
勿論MSもいるのだが、相手の方が勢いがあるし、戦闘で消耗しているところに不意打ちとなればさらに痛い。
むしろ、MSを送り込むことで通常戦力では簡単ではない状況から戦線をこじ開けることを選んでいるのだ。
司令部からの通信では前言を撤回して、直ちにMSを送って侵攻の阻止を命じる声で飽和している。
何を今さら、と思うと同時に、その手法に、ロナルド・ヴィルターは強い既視感を覚える。

『俺達と、ザフトと同じ手だ。MSで強襲して防衛線をかき乱し、食い破る……そっくりやり返されるとは……』

『どうします?』

すっかり兵士の顔になってしまったメリル・オクトーバーの問いに暫し迷ったヴィルターは、判断を下す。突破を許したことはまずいことだ。ならば出血を拡大される前にそれを抑えなければならない。

『ひとまず上陸した部隊は叩く。相手は消耗しているだろう、だから補給を受ける前に、な』

『揚陸時の戦闘での消耗は少なくはないはずですね』

『ああ、この機を逃す手はない』

先行して突破してきた部隊を潰し、相手の上陸地点へと逆襲を仕掛ける。
上手く押し返せば、敵の増援が押し寄せる前に撃破できれば、防衛線への影響を小さくできるかもしれない。
揚陸時に戦闘が起きれば、少なからず武器弾薬とバッテリーは消費する。いや、現在進行形で消費している。
これから進発して駆けつけたとしても、どちらの方が消耗しているかは明白。
そしてその微妙な差こそが、勝敗を左右するのだ。

『ヴィルター隊はこれより突破してきた部隊への対処にあたる。迅速に向かい、これ以上の被害の拡大を阻止する。
 無理に撃破しろとは言わん。だが、追い返す程度はやってみせろ』

指示と共に、部隊が動き出す。
メカニック班はMSの係留・固定を解除し始め、最終チェックを開始していく。
MSパイロット達はコクピット内部に滑り込んで、機体の立ち上げを始め、用意されていた武器を次々と手に取る。
騒々しくなる中でも、ヴィルターの声は良く通った。

423: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:50:42
『了解!』

『任せてください!』

ヴィルター隊は、いくらか人員が南米時から入れ替わっているし、人員も減っていた。
隊長であるヴィルターの判断で、南米戦線そしてアフリカ戦線経験者を余裕があるうちに宇宙に上げたためだ。
勿論、人員の損耗があったことは否定できない。だが、それ以上に今のザフトにとって貴重な戦訓を持ち帰るには、その経験者達をデータとともに送り返すのが重要なのだった。少なくともヴィルター隊の総意はそのように固まっていた。
だが、質を落とさないためにも返していない人員もいた。メリルがそうであり、彼女に従う僚機を操る二人もそうだった。

『マルチネス、ウォーカー。新米たちが多い分、貴様らには仕事を任せることになる。
 オクトーバーを支えてやってくれ』

正直、ヴィルター隊は新人兵が多い。
促成で仕込みはしたが、質的にはかなりの低下だ。
パナマ攻防戦と北米侵攻作戦の後の再編は、文字通り戦力のつぎはぎだった。
辛うじて統制を保てているのも、まだ地上に残っている古参の部隊員のおかげに他ならない。
若手の面々に負荷をかけてしまうのは、あまりにも心苦しい。さっさと逃がしてやりたい気持ちと、苦戦が続く中で自分達だけでは支えられないのではという不安。

『もちろんです、隊長』

『お任せください』

それを察してなのか、彼らはずっと付き合ってくれている。
既に自分が彼らをフォローするどころか、フォローされることが多いほど。
情けない、と思うと同時に、頼もしい、と彼らを評価する。

『さて、諸君。お仕事の時間だ』

ヴィルター隊は、その言葉を合図として、動き始めた。
勝てはしないだろう。だが、負けを小さくしなければならない。
これはある種の生存競争なのだ。何時までも変化が出来ない種こそ滅びる、とダーヴィンは論じた。
遺伝子に変化を加えたが、それ故にコーディネーターは変化できなくなっているのかもしれない。

(だが、変われるはずだ)

だが、この地球戦線でヴィルターは学んでいる。
遺伝子は生まれた時から決まるが、それからどう振る舞うのかは決められるのだと。
少なくとも、自分は、自分の隊は自ら変化することを望んで行動している。
それが自分たちの生存につながると信じて。

『ヴィルター隊、出撃!』

彼の祈りのこもった声が、とどろいた。
勝利を、そして、生存を。
願うのは、そればかりだった。

424: 弥次郎 :2018/02/17(土) 00:51:55
以上、wiki転載はご自由に。
試しに激しい視点変更をしてみました。
正直滅茶苦茶大変ですねぇ・・・

物語はちょっと飛んでオーブ攻略戦にしてみました。
一応大西洋連邦もオーブ本島を狙っていた、ということですので、ハンターたちを登場させてみました。

497: 弥次郎 :2018/02/17(土) 20:45:43
誤字修正
前回のSSでタラワ級がタワラ級になっていたようです
修正お願いします…

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最終更新:2018年02月18日 09:26