720: 弥次郎 :2018/02/19(月) 19:59:27
では投下を開始します。
投下前に注意を。
今回非常に会話などが紛らわしくなりますので、
『』でくくられた通信が大西洋連邦側、
〈〉でくくられた通信がザフト側とします
「」は生身での会話かそれに準ずるものということで識別してください
以下、ちょっとしたスタッフクレジットのようなものを…
Main Staring:
<Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
William・”Old”・Hunter
Clara・”Private”・Juno
<Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
Ronald・Virta
Meryl・October
Staring Mobile Suit:
<Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
GAT-X105 Strike
GAT-X105EX EX Strike
GAT-01A1 Dagger
GAT-01D Long Dagger
<Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
TMF/S-2 GINN-Amazones
YFX-200-3 CGUE-Long Arms
ZGMF-600G GuAIZ Grand-type
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arrange by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
721: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:01:03
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「Triumph&Survive」3
『FOX2!FOX2!FOX2!』
先手を打ったのはユノーの乗るEXストライクとトーマスのロングダガー。
残っていた脚部のミサイルポッドから惜しみなくミサイルを放ち、すぐさまパージを選んだ。
確かに有用な武装ではあるが、激しい対MS戦闘ではデッドウェイトになりかねないという判断だ。
先手を打って視界を遮りつつ、相手の部隊の分断を狙う。
『前進する、ついてこい!』
そして、あらかじめ決めておいた通り二つに分かれて戦闘を開始した。
前進するハンターの小隊と、それを支援するマイルズの小隊だ。
何故か。それは、マイルズの小隊の消耗と損傷が大きかったためだ。
元々ハンターのMS部隊というのは人員の補充と部隊規模拡張に伴て、錬度の高いパイロット達を分散させることを選んでいた。
ハンターの元々の部下が小隊を率いる立場となったのだ。小隊長がフォローやアドバイスを送ることによって、不慣れなパイロットを的確に助け、質的な低下を抑えられるのでは、と期待しての対応だ。確かにここまで対応は出来ていたのだが、反面、小隊長が脱落や損傷した場合、フォローが難しくなるという欠点もあった。
ならば、マイルズの小隊に負担がかかることを避けるためにも、あえてハンターの小隊が前に出なければならない。
マイルズの小隊には、ユノーのEXストライクの使用していたアグニMod.2がバッテリーパックと共に手渡されているので、支援に徹するだけの力はある筈だ。
敵機を散らすように、120mm対艦バルカンが砲火を放つ。
二機のストライクが肩部に備えたそのバルカンは、相手も警戒していたのかすぐに回避される。
相手ももとより二つに分かれて迎撃を行うつもりだったようだ。固定火器の無いジンかと思いきや、きちんと頭部に迎撃用の機銃を備えていたのか、放たれたミサイルは悉く撃墜される。視界の悪化を狙う程度の効果しかないか。
それを頭に入れつつも、ハンターはガンランチャーからロケット弾を放ってさらに牽制する。
弾速の関係上、これは至近距離でないと当たりにくいと判断していた。
(相手の動きは……そこそこいいか)
そのロケット弾への対処は、なかなかに良い反応だ。
シールドで最低限の爆圧を回避しつつ、同時にライフルをこちらに向けている。
特にゲイツの動きが良い。まだ上の動きを出来そうな気もするが、それでも危険がある。
数の上では四対四。
しかし、相手の一機は装備が軽装だ。
この部隊が追撃を仕掛けていたことや、航空優勢をこちらが維持していたことから考えて、恐らく通信中継機だ。
ゲイツが指揮官機としても運用されていることを体験として理解している。おそらくベテランで尚且つ指揮官。
まるで、自分のようだ、と少しうぬぼれが出てしまう。
だが、すぐに切り替え、指示を飛ばす。
『分断させて片を付ける』
『はい。では私とトーマス准尉で半分を』
『ついてこれるか、マーロウ?』
『問題ありません』
『片が付いた組から、マイルズたちのフォローに向かえ。
主力を失えば、相手も撤退するはずだ。奴らも、宇宙への撤退のことを考えているならばそれを選ぶはずだ』
『仕留めなくてもよいのですか?』
『それがベストだ。だが、ベターを選んだほうが良いかもしれん。判断は任せるぞ』
『了解!』
『お任せを!』
『よし、行け!』
さらに二手に分かれ、挟むように展開する。
ストライクが両方に展開していることから、片方だけに集中するわけにもいかなくなった。
火力もおおむね均等に分かれているので、このまま押し切れば撃破できる。
だが、相手とも良い動きをしてくるはず。マイルズが負傷し、全体としてバッテリー切れが近いことを考えると、時間は短い方がいい。
(そこが勝負になるな……!)
激戦を覚悟の上で、ハンターはフットペダルを力強く踏み込んだ。
722: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:02:03
ハンターたちは、敵を引きつけながら移動をした。
すぐさま駆けつけられる距離にいるべきかもしれないが、性能差を数で埋められるよりも、各個撃破に持ち込むことを狙ったのだ。
『元気がいいことだ』
ハンターは自分を狙い続けるジンとシグーを迎え撃った。
先程の交戦開始から、マーロウの側ではなく自分へと攻撃が集中していた
重突撃機銃とミサイル、そして無反動砲は、執拗なほどにこちらに向かって放たれていた。
ハンターは敢えて、反撃をしない。したとしても、わずかばかりだ。
こちらにヘイトが向いているならば、それでいい。
僚機である新人のマーロウに対して攻撃が飛んでいくことはなくなり、それだけフリーとなる。
(そろそろか……)
右に、左に。時に跳躍と減速を織り交ぜる。
航空機のドッグファイトにもよく似た動きだ。適度に振り回し、相手の動きを焦りと怒りで単純化させていく。
攻撃がやたらめったらになりつつあるのを、回避を重ねながらもハンターは感じていた。
実際のところ、バッテリーがそろそろキツイ頃ではある。だが、新型バッテリーへの交換は稼働時間を延長させていたので、これまでよりも長時間の行動が期待できた。
『いいぞ、マーロウ!』
そして、その時は来た。
相手の弾が、底を尽きかけたのだ。
飛んでくる、という予測のタイミングが大きく外れたのは、
『喰らえ!』
合図と共にマーロウの放ったビームが、こちらの牽制射撃と交差するように飛んでくる。
一応は反撃しているが、どうにもつたない。ラジオマンと隊長機と分断したのは正解だったようだ。
恐らく相手の隊長は戦力を偏らせず、均等にしてこちらの消耗を狙っている。その判断材料は恐らくストライクだ。
特機を相手に自分達が戦闘で勝利できないと即座に判断した。だからこそ、戦術的な勝利を狙っているのだ。
『そらそら!』
一機が、ジンの方がバルカンにからめとられる。追加装甲で何とか耐えたようだが、明らかに動きが鈍った。
すかさずビームライフルと、ガンランチャーを放った。予測される回避方向に、ビームとロケット弾の置き撃ち。
こちらの射撃の意図を汲んだのだろう、マーロウはいったん足を止め、照準をきっちり合わせる。
回避するならばそのまま喰らうしかないし、動かなければマーロウの射撃の餌食となる。
どうだ、と見た先、相手のジンは予想以上にブーストすることで弾幕の檻から逃れた。
『やる……!』
それでも、マーロウのビームは飛んでくる。
飛び上がって回避しつつ、ジンは脚部のミサイルの残りをばら撒いてきた。
『っと…!』
〈喰らえぇ!〉
そして、それの着弾に少し遅れて熱源が接近。シグーだ。
目くらましを兼ねてミサイルを放ち、格闘戦に持ち込む。悪くない手だ。
だが、ハンターもクロスレンジでの格闘戦には覚えがある。
繰り出されたシグーのバトルアックスを、危なげなく回避する。
連撃しつつも、回避を混ぜ、シールドのバルカンまで放ってこちらの動きを抑制しにかかってきている。
勢い任せかと思えば、PS装甲を持つMSとの戦闘を理解している。だが、こちらに集中してしまうのは手柄を焦ってか。
ライフルをサッとしまいつつ、抜き放つのはアーマーシュナイダー。
ビームサーベルを使いたいところだが、電力の消費を考えれば今は温存だ。
手にした武器はシールドで隠し、じわじわと距離を詰めていく。
723: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:03:14
それに気おされたのか、シグーは回避に徹し始める。
こちらは頭部のバルカンで牽制しつつ、さらに詰め寄る。
〈!?〉
やがて、一瞬シグーの動きが鈍る。
同時に自分から見て左後方で爆発が発生した。
『お待たせしました、隊長!』
マーロウのロングダガーから通信が届いた。
どうやら、無事に仕留めたらしい。
『ナイスワークだ、マーロウ!』
褒めつつ、間合いに踏み込んだ。
我に返ったらしきシグーは、重斬刀を引き抜いて牽制するように構える。
だが、その程度で怯えはしない。踏み込むと、繰り出してきたのでそれをうまく切り払う。
案外、重斬刀は棍棒のように振り回すので、パリングを行うのはかなり楽だったりする。
シールドも加えて振り回してやると、徐々に徐々にと押し込める。
『シッ!』
〈ま、まず…!?〉
そして、クロスレンジへ。
慌てた動きで振り下ろされた重斬刀は、シールドでうまく受け止め、そのまま吹っ飛ばす。
確かに運動量としては大きいし、シールドへの負荷は大きい。だが、重斬刀に振り回されるということでもある。
物理的な質量による破壊を行う武器は、MSにおいては重心を乱す要素ともなりうるのだ。
OSの想定の埒外と言える動き、ザフトが想定していなかった『通常ではありえない』動きだ。
たたらを踏み、がら空きになった胴体。そこに、必殺の一撃が襲い掛かった。
入った、という回答を感覚から得た。
シグーは、その四肢にみなぎらせていた力を失い、力なく崩れていく。
『マーロウ、状況報告(コンディション・レポート)を』
仕留めたシグーから離れ、状況報告を命じる。
自分の機体はまだ戦闘ができるだろう。だが、僚機はどうだろうか。
自分は効率的な運動方法を何となくだが把握しているが、新人のマーロウにそれは厳しいはずだ。
言うなれば、バッテリーは人間で言えばスタミナにちかい。動かし方に気を使わねば、スタミナ切れも一瞬だ。
『損傷軽微。しかし、バッテリー残量27%です。これ以上の継戦は厳しいと判断されます』
『む、そうだな……よし、貴様は待機して構わん。
タイムラインによれば、間もなく友軍が増援を降下させる手筈だ』
『了解です』
『連戦で無理をさせたな、すまん』
『いえ……大尉のせいではありません』
マーロウの息は、既に上がりかけていた。
戦車兵上がりでMSになれていない、ということを考慮にしても、ここまでの一連の戦闘は負担だったようだ。
やはり、MSでの長期作戦はパイロットの負荷が大きいか。報告に上げておくべきだろう。
(まずは生き延びてから、だな)
ハンターのストライクは、エールストライカーに息吹を吹き込み始めた。
724: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:04:01
〈前に出ます、隊長たちがGを引き付けている間に叩きましょう!〉
〈了解!〉
オクトーバー小隊の役目は、二つに分かれた部隊のうち、Gを含まない部隊を撃破乃至戦闘継続不可能に追い込むことだった。
数の上においてはこちらが1機少ない。また、G兵器という高性能機を有する連合のMS部隊の方が有利となるだろう。
だが、あくまでもそれは表面上。
戦闘前に確認出来たが、四機一個小隊の連合のMS部隊は、片方の隊の消耗が激しかった。
ほぼ標準化されている筈のシールドを持っていないMSが一機おり、遠目にも損傷が目立っていた。
その他のMSも、損傷の大きなMSをかばうように展開している。長大な砲を構えているが、あれは恐らく支援用だろう。
激しい戦闘ではない、支援。つまり、それを行うには何らかの不都合があるのだろう。バッテリー残量も厳しいはず。
その長大な砲を抱えたMSがこちらに先制射撃をしてくるが、それはもう二度目。
危なげなくかわし、距離を詰める。三機の、メリル オーレリア ジョンのMSは手にした銃火器を放ち、損傷機を集中して狙う。
対MS戦闘も考慮した76mmの弾丸の嵐は、この距離ではかなり危険だ。
だが、相手もさることながらシールドでうまく防ぎつつ、反撃のビームライフルを放ってくる。
〈おっと…!〉
こちらの配置と連携を分断するように、メリルとメリルの左にいるジョンの間を狙った牽制弾が飛んでくる。
だが、それを躱して分断されないように距離を保つ。固まりすぎると狙いをつけられやすいが、攻撃の密度を上げて撃破率を高めることができる。可能な限り短期決戦としなければならないオクトーバー小隊は、危険を承知でそれを選ばざるを得なかった。
『しつこい……!』
『落ちつけ、リック。こっちは堅実にやればいい。大尉たちを信じろ!』
シールドを弾丸が穿つが、何とか凌がれる。
適宜飛んでくる反撃をしのぐが、相手の意図は自然と窺える。
緩やかに、しかし着実に動くことで、狙いを絞らせず、近接戦闘に入らせずにいた。
それでいて、完全に突き放されることもないという、嫌らしい距離の取り方をしていた。
〈逃げて時間稼ぎ!?〉
〈させるか!〉
ジョンの放った無反動砲は、あえて直撃ではなく地面を狙っていた。
それは、相手の動く先、その予測進路上。ドンピシャのタイミングのそれは、相手も予想外だったのか。
各機が咄嗟にブレーキをかけ、爆風に耐える。
〈今!〉
その隙に、三人は動いていた。
メリルはロングアームズのビーム砲を展開、オーレリアは重斬刀を引き抜いて前進し、ジョンもまた重斬刀を構えて大胆に踏み込んだ。当然、迎撃のビームと弾丸が飛んでくる。
だが、二人は被弾を恐れず前進した。
ジンの装甲がビームに焼かれ、迎撃の頭部機銃の弾丸にじわじわと削られていっても、なおも。
725: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:04:42
『やらせるかよ!』
それを、マイルズの小隊は格闘戦に移行することで応じる。
ビーム兵器を標準化しているので、一撃が当たればマズイはオクトーバー小隊の方だ。
ビームサーベルを抜いたのは前衛の二機、ケリーとヤンの二人だった。
格闘戦においてコーディネーターに若干不利なのだが、そんなことは言っていられない
シールドと重斬刀が激しくぶつかる。
体重をかけた一撃だが、それをヤンはうまく受け流す。
真っ向から受けると損傷が大きくなるのは学習済み、だからこそ、斜めにシールドを割り込ませ、ベクトルを逸らすのだ。
そして、カウンターのようにビームサーベルを振りぬく。だが、それは割り込まされたシールドで動きを強引に止められる。
『ケリー!』
『おお!』
それを前提に、ケリーは動きを作っている。
拮抗している状態のジョンを斜め後ろから襲う一撃。しかし、それを阻止せんと今度はオーレリアが割り込んだ。
がっちり組み合い、そして、突き飛ばされる。
『コイツ…!』
〈付き合ってもらうわ…!〉
『舐めるな!』
ケリーは動いた。OSに記録されている格闘モーションの一つを、遅滞なく選んだ。
意表をつくこと。それこそが勝利につながるのだと学んでいる。
前進し、突き出すように伸びてくる重斬刀をシールドでパリングし、さらに間合いを詰める。
すかさず、殴りつけるようにスパイク付きのシールドが迫るが、これも強引にくぐりぬける
『おおおぉ!』
それは、嘗て上官であるハンターがMS同士の格闘戦において選んだ攻撃方法。
シールドを振り回しつつ、それをバランサーとして、繰り出される一撃。
〈がぁっ!?〉
酷く簡単に言えば、それは喧嘩キック。
片足を乱暴に振り上げ、相手のMSの高い位置を蹴り飛ばす。
モーションを無理やりOSに組み込んだため、すかさず崩れかけたバランスを整える。
対して、予想外の一撃を、乱暴すぎる操縦に意表をつかれたオーレリアのジンはたたらを踏む。
MSは人間の形に近い。それゆえに、狙うべき場所も、人に似通っていた。
『とった…!』
〈まずい…!〉
その数瞬を見逃さない。ケリーはビームカービンを引き抜き、構える。
それは一瞬。オーレリアは姿勢制御に時間をとられ、シールドを構える余裕すらなかった。
ジョンもオーレリアの窮地を見てはいた、しかし、止めに入れる距離ではなく、銃もリロードしていた。
これで決着、かに思われた。
だが、介入するMSが、一機だけいた。
726: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:05:44
少し、時間は遡る。
突破を仕掛けたジョンとオーレリアへの対処を僚機に任せたマイルズとマイルズをフォローするリックは、油断なくライフルを構えたままだ。その視線は、ビーム砲を構えたメリルのロングアームズを捉えていた。
〈発射!〉
念のために声をかけ、ロングアームズのビーム砲が、M100 バラエーナ プラズマ収束ビーム砲が放たれた。
フリーダムにも採用されていたこの大型のビーム砲は、絶大な威力を発揮できる。
当然、マイルズとリックはそれを回避する。反撃のビームライフルが発砲されるが、メリルは発砲後に迅速に回避を選んでいた。76mmカービンで撃ち返す余裕もある。
〈有効な一撃は当たらないか…!〉
だが、相互に攻撃が当たらない。互いの反応が良い分、回避されやすいのだ。
どちらが先にミスをするか、あるいは状況の変化を引き起こせるか。
撃ち合いながらも、読み合いが続く。
『くそ、落ちろ…!』
〈ぐっ!?〉
先にじれたのは、マイルズだった。焦っていたと言ってもいい。
マイルズは、その両手にビームライフルとGAU8M2 52mm機関砲ポッドを構え、放つ。
両手がふさがっている状態で機関砲ポッドのリロードは難しい。だが、撃ち合いにおいて手数が多いに越したことはない。
あの長射程の武器を持つMSを黙らせなければ、おちおちフォローもできないからだ。
これにはメリルも射撃を中断して必死の回避を行う。撃てば打つほどバッテリーか弾薬を消耗するが、こちらの動きが封殺されてしまうのも確か。たった一人で二機を抑え込むなど、簡単ではない。
改めて、三機を翻弄したというジョンの技量に舌を巻く。
(よし、落ち着いて……)
木の影を縫うように移動し、弾の浪費を誘う。
銃を二丁も構えれば、片方のリロードに時間を喰うはずだ、と。
だが、不意に悪寒が走り。回避パターンを組み替える。
〈あっぶない……〉
変えたまさにその直後、大地を焼き払うが如く、赤いビーム光が走った。
マイルズのバックアップに立つリックが、ついにアグニMod.2を使用したのだ。
これまでの小さな攻撃だけだったものが、不意にパターンを入れ替えた。無意識にそれを感じ取って回避できたのだろうか。
正直、ぞっとした。
だが、そう考えつつもリロードを完了させ、機体コンディションをチェック。
じわりじわりと動きつつ、飛び出していこうとして---
(えっ……)
それを見た。
オーレリアのジン・アマゾネスが倒れ、それにビームカービンの照準が合わされようという、光景を。
死。それは、宇宙、そして南米戦線でメリルが目撃してきたものだった。
知らずのうちに、それは、彼女の内側に積もり続けていた。
これまでは、抑え込めていた。いわば、彼女の中の感情のダムが維持されていたのだ。
(あ……あ……あ……)
だが、そのダムは感情の蓄積と負担の増加とは反対に、皹が入り、痛み始めていた。
パナマにおける友軍の虐殺、連合の猛反撃、度重なる戦闘、それらによるストレス。
オーブまではるばる逃げてきたことによる、疲労。
(あ……あ……!あぁぁぁぁぁ……!)
727: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:06:36
積み上げていたものが、あまりにも多すぎた。
努めて冷静さを維持していたメリルの、最後の枷を外すものだった。
〈駄目ぇぇぇぇぇぇ!〉
叫びは、操縦となり、一瞬でトリガーを引いた。
遅滞なく、ロングアームズはバラエーナを起動させ、その砲塔を向ける。
その先には、ビームライフルを放とうとするダガーの姿があった。
『避けろ!ケリー!』
『なっ……?』
『させるかよぉ!』
ヤンが叫び、ケリーはトリガーを引こうとして動きが一瞬止まっており、リックがアグニMod.2の照準を合わせる。
メリルは、自らの回避も何もかもをかなぐり捨て、その一撃を放っていた。
リックの動きは、少し遅れた。まさかあのタイミングで姿をさらし、攻撃を仕掛けるとは思いもよらなかった。
ケリーの動きも遅れていた。決死の格闘攻撃を浴びせ、ついに止めというタイミングだったのだ。
そしてヤンは、ジョンとの交戦で動きが制限されていた。
『ケリーぃぃぃ!』
バラエーナのプラズマビームは、ケリーの乗る105ダガーを、あっけなく飲み込んだ。
発射寸前だったビームカービンはあらぬ方向へとビームを吐き出し、何物も破壊することはなかった。
しかし、その対価はメリルへと帰って来た。
アグニの一撃が、慌てて狙いを定めたとはいえ、ロングアームズを襲ったのだ。
丸くえぐられるように、シグー・ロングアームズは上半身に大穴をあけられる。
頭部が消し飛び、バックパックは形を完全に失い、破壊は両腕を切断させる。
そして、大地にシグー・ロングアームズはその機体を横たわらせた。
〈オクトーバー!糞がぁ!〉
決死の救助攻撃と引き換えの大破。
怒りに燃え、ジョンのマチェットと重斬刀の連撃がヤンを連続で襲う。
だが、ヤンも簡単には受けてやらない。被撃墜に動揺を隠せないが、そのまま殺されることはなかった。
上手く連撃を回避し、ステップを踏む。
『やりやがったなぁ!』
そして、大きく空振りしてがら空きになったところを、シールドバッシュで吹っ飛ばす。
だが、ジョンも素早く姿勢を立て直し、頭部機銃で牽制を加えつつ、マチェットを投擲してライフルに持ち替えた。
対するヤンはリアスカートからビームカービンを取り、構えるタイミングを計りつつ回避に移った。
〈何っ!?〉
だが、その時。
レーダーに新たな機影が映った。
かなりの速さのそれは、一瞬で迫ってきていた。
728: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:07:25
『待たせたな……!』
轟いた声。
それは、飛んでくるシールドと同時だった。
そのシールドは、ストライクが装備していたもので、コンバットエッジが内蔵されたモデルだ。
投擲と落下の二つのエネルギーで加速したそれは、超高振動の刃で以てジョンのジン・アマゾネスの構えた腕を切断する。
追撃のように、舞い降りてくる影。それはMSの姿をしており、光を束ねたサーベルを抜いていた。
〈くそっ…!〉
普通のパイロットならばあっけにとられて膠着するが、生憎とそこまでジョンは弱くはない。
咄嗟の判断で、ジョンは振り下ろされたビームサーベルに対処する。
ビームの刃は浅く機体表面をかすめる程度で終わり、続けて振るわれた斬撃も何とか回避した。
『浅かったか…!』
だが、次の瞬間にはライフルが構えられ、牽制射撃を放った。
これにはジョンも左右にステップし、装甲の端をビームで焼かれながらも下がるしかない。
『大尉…!』
そこにはGAT-X105ストライクが降り立っていた。
地面に突き刺さったシールドには所属を示すペイントが施され、特徴的なツインアイと頭部アンテナ。
ところどころに泥などが付着しているが、それでも戦場で美しいPS装甲で構成された機体。
ウィリアム・ハンターが、ストライクを駆ってついに合流したのだ。
『隊長!』
『待っていましたよ!』
『さあ、どうする!?』
〈畜生……!〉
オープン回線で、敢えてハンターは挑発した。
コンボウェポンポッドをパージしているとはいえ、未だに壮健なハンターのストライク。
ジョンのジンは片腕を喪失、転倒状態のオーレリアのジンはようやく復帰しつつあるが、メリルのロングアームズが脱落したことで、完全に流れは変わっている。ここで戦闘を挑んでも、袋叩きにされるのはジョンとオーレリアだ。
なにより、PS装甲に対する有効武器を彼等は持ち合わせていない。ハンターを相手にするにはもはや消極的戦術さえ通用しない。
万事休す、か。
抵抗のしようが無い、ここまで粘っただけ、まだいい方だろうか。
〈ここまでか……〉
〈でも……!〉
確かに、自分たちの隊長であるヴィルターがいる。
シグナル自体は発せられているので少なくとも機体は撃墜されていない。
だが、どうやってこの絶望的な状況を覆せるのだろうか。
どうする、考えろ、考えろ、考えろ----ひたすらにジョンの中の冷静な部分は、叫んでいる。
だが、同時に、自分達に諦めるという選択を目の前のMSが迫って来た。連合のG、ストライク。
ツインアイが不気味に輝き、威圧している。一撃必殺となるビーム兵器を構え、こちらに近づいてくる。
二人の判断は、迫られていた。
729: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:08:18
再び、時は少し遡る。
『残り一機…!』
所詮はラジオマン。
貧弱な武装と性能であったため、ロングダガーとEXストライクの戦闘についてこれないままに、
ユノーが操るEXストライクのビームライフルに通信中継役のジンが撃破されてしまう。
ビームライフルを標準装備する陸戦型ゲイツを操るヴィルターならば抵抗は出来たが、如何せん性能差に押しつぶされた。
ヴィルターも、ストライクほどではないが手練れのロングダガーの遅滞戦闘に苦しめられていたのだ。
〈バルド!くっ……!〉
舌打ちしながらも、ヴィルターは必死に回避を続ける。
アッドオン・グレネードランチャーを織り交ぜた射撃の嵐は、ただ撃つのではなく牽制と本命を混ぜた回避のしにくい物。
また、このオーブは南米ほど遮蔽物が充実していないことも、回避の難しさを底上げしていた。
バルドのフォローどころではない。ギリギリだ。戦力的にもベストにちかいベターな班分けで対応したが、耐えきれなかった。
(こりゃあ、撤退を考えないといけないな…!)
マスドライバーでの打ち上げは、ギリギリまでやっている。
また、近くの仮設発射場からHLVで脱出することもできるし、その地点も把握している。
一応の予定時刻は確認してあるが、戦局が変わればどうなるかは不明だ。
窮鼠猫を噛む、というか、追いつめた相手がここまで抵抗できるとは予想外。
〈おっとっと!〉
危ういところで弾丸を回避し、牽制射撃を加えて追撃を阻止する。
斬り返して足を止めずに移動し、ランダム回避を混ぜて無駄撃ちを誘う。
が、案外つれない。すぐに射撃が収まり、こちらの動きの追尾にかかった。
流石にこの程度で引っかかってはくれないか。せめてもう少し消耗を誘いたいが、それもダメか。
これはもう、手札を切るしかない。
一回きりの手札が二枚だ。無いよりはまし、という判断でつけてきた装備で何とか状況を打破するしかない。
いや、それに加えて、目の前のGを何とかしなくてはならない。一瞬でもいい。とにかく、オクトーバー小隊の方へ、大至急向かわねばならない。先程、分断されていた自分の部下二人のMSの反応が途絶していたことも、その判断を後押ししていた。自分一人で二機を拘束しているといえば聞こえはいいが、実質抑え込まれている。
もはや撃破など二の次。部隊が最大限生き残る手を選ぶべきだ。
(行くか……!)
そして、ヴィルターは行動に移した。
『粘りますね……』
他方のユノーはヴィルターの動きに感心しつつも、一切油断せずに射撃を続けていた。
ここまで粘っているのは驚きだ。撃墜されたとはいえ、装備と性能で劣る僚機フォローをしながらも戦闘をしていたのだ。
手前味噌であるが、EXストライクと自分の腕に抗い続けていたのは相当な腕と言える。
既に隊長たるハンターは救援に向かっているようだ。
ならば、ここで無理に落とす必要があるとは言えない。
足止めしていれば、相手も消耗し、数的不利から撤退か降伏を選ぶしかなくなる。
元々、宇宙にはある程度逃がしてもよい、という作戦でもある。
さあ、どう出る。
そう胸中で問いかけた先、新型の動きが不意に遮蔽物に隠れて止まった。
『少尉、これは……』
『罠、でしょうか』
ここまで動き続けていた敵機が、不意に止まった。
機体の不調なのか、それとも奇襲を仕掛けるための仕込みなのか。
どちらなのかは判別が難しい。指向センサーで探りを入れても、僅かな音しか拾えない。
730: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:09:04
『……』
音声通信ではなく、行動を示すコードを送って行動を伝える。
武器を構え、シールドを大胆にも踏み込んだ。
『な…!』
いない。そこにいた筈のMSが、不意に姿を消していた。どういうことだ、とモニターを注視しようとした瞬間---
『!?しまっ…』
ユノーの視界は埋め尽くされた。
カメラは捉えていたが、ユノーの認識は遅れていた。
ヴィルターのゲイツは、確かにそこにいた。だがそれは、展開されていた偽装の布の影にいたのだ。
確かに布をまとうことによるカモフラージュというのは歩兵でもあること。
だが、敵の眼前でいきなり被る、というのは流石に予想外。モニターに映ったのは、背景に溶け込むMSサイズの何か、だったのだ。
見せてしまった一瞬の隙は、相手には十分すぎる時間だったのだ。
一瞬ではぎ取られた偽装布は、EXストライクのメインカメラの積まれた頭部を覆い隠すように投じられた。
置き土産のようにして落とされたグレネードはその炸裂によってさらに硬直を長引かせた。
ヴィルターの選んだのは、生体式OS、即ち、パイロットにフリーズをさせるための、奇策だった。
『少尉!?何が……!』
〈どけぇ!〉
そして、カバーに回っていたトーマスにぶつけられたのは、ゲイツの標準装備であるビームクローを内蔵したシールドだ。
ビームクローを展開した状態のそれは、辛うじて間に合ったシールドに防がれる。だが、追撃で放たれたビームライフルは、シールドが上半身をカバーするために持ち上げられ、がら空きとなった脚部を貫いた。
『うわぁあぁ!』
『しまった…!』
崩れ落ちたトーマスのロングダガーの横を、ゲイツは全力で駆け抜けた。
ご丁寧にユノーの射線上に擱座したロングダガーが来るように動き、さらにランダム回避を加え、こちらにグレネードまで投げつけてきた。
舌打ちしつつ、シールドで爆風からロングダガーを庇う。トーマスと回線をつないで安否を問いかけようとしたのだが、問いかけるより先にトーマスの叫びがした。
『追え、少尉!』
『しかし……!』
『構うな、もうすぐ友軍の増援部隊が到着する…!奴を逃がすな!』
『は、はい!』
確かに、あの腕前は厄介だ。
あれだけの動きをするMSが不意打ちしてきたら、消耗の激しいあちらでは被害が出てしまう。
足止めしきれなかった、自分たちの失態だ。その事実に歯を食いしばって受け止めつつ、ユノーは素早く移動を開始した。
『任せたぞ……!』
トーマスにできることは、そう通信で部隊の紅一点に頼みつつ、敵機の攻撃によって転倒させられてからずっと右足に走り続けている嫌な鈍痛に歯をくいしばって耐えることだけだった。
731: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:09:50
遠くから爆発が発生した。
それも二回も、だ。
戦闘の流れが『動』から、激突を経て、『静』に代わりつつあるこの状況で、不意打ちの如くリズムが変わる。
それは、多くのパイロットの意表をつき、動揺させるものとなった。
続けて、何かが疾走する音が響き、そして、上空に飛び上がる機影があった。
それは、ザフト系の丸っこい装甲のMS。ジンやシグーとは異なる鶏冠状のセンサーを有する、ビーム兵器装備のMS。
〈ゲイツ……隊長!?〉
〈無事だったのか!〉
ヴィルターのゲイツは上空で身をひねり、武装を解放した。
一つは手にしたライフル。そしてもう一つは腰に据えられた武装。
無いよりはまし、ということで装着したゲイツの正式装備「エクステンショナル・アレスター」だった。
ワイヤーでつながれたそれは、地上では宇宙ほどの射程を実現できない武装だ。
だが、ザフト地上軍の物資の困窮はそれを搭載せざるを得ない状況を生み出していた。
そんなものがここにきて役に立つとは、怪我の功名ととるべきか。
兎も角、奇襲で放たれたビームライフルはハンターへと防御を強いたし、エクステンショナル・アレスターはシールドの無いマイルズに迫った。
『Get down(伏せろ)!』
叫ぶハンターに、マイルズは何とか反応。
左腕を犠牲にして、何とか受け止めてみせた。だが、僅かにビーム刃は胴体へと食い込んでいた。
確かに物理的に阻止すれば何とかなったのだが、ビーム刃の発生器の重量と射出の初速は、ダガーの腕一本で抑えられるものではなかったのだ。
『なんだとっ……!?』
『マイルズ!』
腕が斬り落とされ、マイルズのダガーのコクピットに警告が満ちる。
何処かが逝かれたのか、通信が不気味に途絶えてしまう。
それに意識をとられたハンターたちを尻目に、もう一本のエクステンショナル・アレスターはヤンを正確に襲った。
こちらは、ヤンが既にビームカービンを構えていたこともあって、射撃によって破壊することに成功する。
そして、ヴィルターのゲイツのビームライフルはそのまま、動きが止まってしまったマイルズへと向いていく。
タイミングが悪く、ハンターはヴィルターの放ったビームライフルを回避運動の直後で、咄嗟の照準合わせが間に合うか微妙なところ。
『やらせません……!』
〈チィ……!〉
通信に、鋭い女性の声が轟いた。
放たれたビームの弾丸は、しかし空中で無理矢理機体をひねることで躱されてしまった。
そのままユノーのEXストライクの方向へとビームライフルによる反撃を浴びせたヴィルターは、器用に着地し、最後のグレネードを腰のグレネードケースから引き抜きながら、叫んだ。
〈ヴィルター隊、総員撤退だ!まだあきらめるなよ!〉
そして迅速にグレネードを投擲。時限信管のそれは、規定道理に爆発した。
この爆発が、この戦闘の終局へ流れ込む合図となった。
732: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:10:33
以上、wiki転載はご自由に。
次でラストにできそうです…多分。
長らく占拠して申し訳ないです…
733: 弥次郎 :2018/02/19(月) 20:25:07
修正をwiki転載時にはお願いします…
721
×そのロケット弾への対処は、なかなかに言い反応だ。
〇そのロケット弾への対処は、なかなかに良い反応だ。
724
×シールドを弾丸が穿つが、何とかし逃れる。
〇シールドを弾丸が穿つが、何とか凌がれる。
728
×だが、同時にあきらめを目の前のMSが迫って来る。
〇だが、同時に、自分達に諦めるという選択を目の前のMSが迫って来た。
740: 弥次郎 :2018/02/19(月) 21:19:14
ついでに修正をもう一つ…
727
×発射寸前だったビームカービンはあらぬ方向へとビームを吐き出し、
〇発射寸前だったビームカービンはあらぬ方向へとビームを吐き出し、何物も破壊することはなかった。
728
×所属を示すペイントの施されたシールド、
〇地面に突き刺さったシールドには所属を示すペイントが施され、
最終更新:2018年02月23日 09:02