889: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:01:20
投下前に改めて注意を。
前回と同様に非常に会話などが紛らわしくなりますので、
『』でくくられた通信が大西洋連邦側、
〈〉でくくられた通信がザフト側とします。
また、《》でくくられた通信は大洋連合となります。
「」は生身での会話かそれに準ずるものということで識別してください
今回もスタッフクレジット的な奴から投下します、あしからず。
890: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:02:00
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「Triumph&Survive」4
Main Staring:
<Federation Atlantic Force,O.M.N.I.Enforcer>
William・"Old”・Hunter (Captain)
Clara・"Private”・Juno (Second Lieutenant)
Yohan・M・August (Colonel)
Christiana・Maia(Captain)
<Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
Ronald・Virta
Aurelia・Walker
John・Martinez
Staring Mobile Suit:
<Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
GAT-X105 Strike
GAT-X105EX EX Strike
GAT-01A1 Dagger
GAT-01D Long Dagger
<Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
TMF/S-2 GINN-Amazones
ZGMF-600G GuAIZ Grand-type
Extra Staring:
Pasific Union Navy:United Emirates of Orb Atack Fleet
Amphibious Mobile Armor "Shamblo”
Yonem・Kirks (Pasific Union Navy Major)
Loni・Garvey (Pasific Union Navy Ensig)
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
891: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:04:19
- オーブ首長連合国 オノゴロ島沖 大西洋連邦担当海域
タラワ級揚陸艦「D・D・ポーター」は揚陸艦であると同時に、揚陸戦時における指揮艦を担当する艦艇という側面を持つ。
これはMS搭載の輸送艦として運用がされるようになってからも変わっておらず、むしろ、それは強化される方向にあった。
MSの運用がザフトの有するMSへの対処となっているのは大西洋連邦における基本的な戦術、標準的な戦闘メソッドである。
だが、どこにMSが出現し、どのように行動しているのかを追跡するには航空機の他、歩兵 戦車兵 偵察兵など、既存の兵科との連携が必須となる。また、MSの携行可能な武器弾薬のことを考えるとバックアップ部隊も必要となる。
それだけ多数の部隊が連携するのだから、必然的にそれを無線に結ばれることになる。
その情報量は膨大なものになるので、管制する人間が必要となり、戦場に用意されなければならない。
だからこそ、D・D・ポーター内のCDCには、多くのオペレーターと指揮官が詰め込まれ、各部隊との中継役や全体の信仰の把握に務めていた。
通信管制そのものは上空に展開するAWACSも担当しているが、あくまでも航空戦力がメインであり、MSを含む艦艇や上陸部隊の動向については海上に浮かぶ艦艇のCDCが管轄しているのである。
先行して上陸したMS部隊は順調に制圧地域(クリア・ゾーン)を広げており、補給部隊も遅滞なく補給物資の投下に成功した。
だが、それはまだまだ序の口。作戦全体の流れで言えば、最初の十数パーセントにすぎない。
これからが本番なのだ。
故にこそ、オペレーターやスタッフたちの顔色は侵攻が順調であるにもかかわらず一切緩んでいない。
彼らの仕事はこれからが本格化し、裁くべき仕事の量も膨大なものになっていく。
ザフトの水中用MSによって一線級のオペレーターの多くが海中での勤務を言い渡されているために、彼等はその穴を埋めるべくかき集められて来た人材ばかりで、未知の仕事にこれから挑むのだ。緊張も自然に高まる。
しかし、その渦中にあって、後方でMS隊の動きをモニターで追尾している男性がいた。
ゆるゆると、自分のペースを保っている。周りの空気だけが穏やかである。
手にしたカップの中身を呷って、深く息を吐く。緩慢な、しかし、独特の緊張感のある動き。
視線の鋭さは緩やかに振る舞っているなかに、うまく隠されている状態だった。
「ふん、存外……悪くない。そう思わないか?マイア大尉」
ヨハン・M・アウグスト大佐は、部下であるクリスティアーナ・マイア大尉にそう問いかける。
「同意いたします、アウグスト大佐」
燃えるような赤い髪をショートカットにし、濃い茶色の瞳で同じくモニターを注視していたマイアは、上司であるアウグストの問いにしゃちこばって答える。
「支援体制や通信管制面でも、MS運用の習熟は進んでいるなぁ。
かなりかき集めたんだろう?正直なところ、序盤で何かしらトラブルがあるかと思った」
「シミュレーションや演習ではかなり繰り返しましたので、これくらいはこなせるかと。
また、無事だった艦隊や空軍から引き抜いた航空管制官も動員しているそうですので、海上艦艇の設備を使って行う、ということを除けば慣れている人員も多いようです」
「各軍に借りを作っているな……まあ、この戦争時に協力しなけりゃ予算を減らされるだけだしな、しょうがない。
それより、そろそろやかましくなるころだ。耳栓か何かないか?」
「耳を封じるのは問題かと思いますが?
「俺は耳がいいからな、多少は遮って構わん」
それにお前もいるからな、と笑う。
「おほめ頂き恐縮です」
マイアはすっと耳栓を差し出した。
892: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:05:10
目の前の机に受け取った耳栓を置き、アウグストはもう一度モニターを眺める。
MS隊の動きは、かなりスムーズだ。航空支援も要請があった場所にスムーズに向かい、攻撃支援や補給物資の投下、航空偵察などを確実に行っている。
いや、それ以上に、MSを連携の内側に入れている状態でもスムーズに動いている。
「嫌というほど演習を繰り返した上陸後の行動だからか、問題は特に起こっていないようだな」
「ええ。MS部隊の増員がパナマ以降に急速にすすめられましたが、大佐の心配は杞憂で終わったようですね」
ちっちっち、とその返答を咎めるアウグスト。
足を組み直し、間違いを指摘してやる。
「違うな、大尉。MSの運用をかなりの短期間で仕込んだにしては、というべきだ。
ハンター大尉のような他の分野で功績のある個人に依存しているとはいえ、まともに動かすだけのノウハウを叩き込んだのは良いことだがな。
まあ、大尉が上手くやりすぎている、という面もあるかな。他のエースとされる連中のように……」
辛辣な評価だ。仮にも自分の麾下にあるMS部隊が投入されているというのに、その評価は厳しかった。
個人の能力が高すぎる、そのようにアウグストは評価しているのだ。
「つまり、大佐はハンター大尉を評価していても、マイナス要素もある、と?」
「所詮、個人は個人だ。だが、軍とは法と政府の意思の元に統制される安定した暴力装置でなければならない。
例えばだが、ハンター大尉は年齢的に見てMSパイロットをあと5年ほどで引退となるだろうと言われている。
だからといって、ハンター大尉の率いていたMS隊の能力が5年で衰えることを許容は出来ない。
5年以内に代替となる人材を見つけてなじませなければならん」
それに苦労するのだ、とアウグストは嘆息する。
生きている軍人で、軍隊という非生物的に質などを求められる組織を維持管理し、存続させるのは楽ではない。
一介の佐官が考えることとしてはいささか大きいかもしれないが、アウグストにとっては何ら大きな問題ではない。
モニターを見つめつつも、アウグストは独白のように続ける。
「このオーブ攻略戦は、ザフトを相手にする前の前菜にもならん。
いや、ザフトなど既に通過点だ。ここで脱落したものは、その程度だった、とするしかない」
「……大佐は、以前それとは逆のことをおっしゃっておりましたが?まだ油断はならない、と」
「それはその時の判断だ。今は違う。状況は刻一刻と変化するんだ。一貫性を求めすぎるのもイカンぞ?
ともあれ、弱っているとはいえ、ザフトを相手に優勢を維持できているならばすでに及第点だ。
戦後はそれ以上を求められるだろうがな」
戦後。
その言葉が出たことに、副官のマイアは少しだけ緊張を持つ。
プラントと地球連合との戦争という形式が始まってかなりの期間が経つ。
だが、長い消耗期間を経てようやく反撃の機会はもたらされ、今まさに進行しているのだ。
そして将来的には、終わりを迎えることになる。だが、それで終わりではない。
物語のように戦争に勝利してめでたしめでたし、と簡単にいかないのが、現実であり、今の世界だ。
アウグストもそれを案じているのだ、とマイアはやや遅れて理解する。
「まあ、遠からず前線から少し離れたところで優雅に学ぶことになるのだ。もう少し彼らの動きを見ておきたい」
「さらに上を目指される、と?」
「ああ。前線で奮戦する彼らのことも知っている私が上に行くためにも、彼らには頑張ってほしいものだよ」
そんな、尊大とも取れる物言いのアウグストの見つめる先、オノゴロ島での戦闘は最終局面へと動こうとしていた。
893: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:06:07
- オーブ連合首長国 オノゴロ島 大西洋連邦軍制圧地点
オーブの空に、パラシュートの花が咲く。
それは、オーブに立てこもっていたザフト地上軍残党やジャンク屋、そしてオーブ軍にとっては最悪の事態の証明であった。
既にその効果を阻止するための戦力が破壊されたか、動けない状況にあり、抵抗のしようが無いということを表していた。
なまじ、目で見て理解できてしまうのである。目からの情報は否定できない。
オーブ上空へと対に突入を果たした輸送機から、次々とMSが降下し始める。
『続け、止まるなよ!』
『Go!Go!Go!』
ハンターの部下であり、現在はMS小隊を率いるオーランドやファルドをはじめとしたパイロット達の叱咤の声と共に、降下は続く。
パラシュートを、あるいはエールストライカーを装着したMS隊は次々とオーブへと着陸を果たしていく。
パナマ攻防での反省から耐電磁性が急遽底上げされたストライクダガー、105ダガー、バスターダガーなどなど、
その数はかなりのものであり、同時に、性能的にもザフトのMSの多くを超えていた。
彼等の役目は、すでに攪乱され、先行したMS隊によって破壊された防衛雷を完全に粉砕することにある。
また、先行したMS部隊のフォローと回収も役目として割り当てられている。バッテリーが改良されているとはいえ、所詮はバッテリーMS。長時間の戦闘でビーム兵器を使用したり激しい運動をすればどんどん消耗するのだ。
また、投じられたのはMSだけではない。
パラシュートを付けられた補給物資を満載にしたコンテナ、装甲車を含む軍用車両、PS部隊、歩兵部隊も続いている。
正しく、制圧だ。MS派閥の意見が主流となった今回の作戦とはいえ、他の兵科に対してもきちんと出番が作られていた。
そもそもMSだけですべてをこなす必要などない。あくまでMSはMSの相手をするモノである、というのが連合の認識だ。
素早く整列や集合を行った大西洋連邦軍は、あらかじめ定められたとおりの仕事を始めるべく行動を開始した。
これらに対して、オーブ側は明確な足止めなどを行えない。出血をある程度敷いたとはいえ、既にずたずたに近いのだ。
よほどの自殺願望者でもなければ、さっさと逃げ出した方がいいに決まっている。
(大尉、御無事でしょうか…?)
ファルドは部下のバスターダガー隊に指示を出しながらも、上陸部隊の先頭に立って陣頭指揮にあたるという上司を心配していた。
正確に言えば、元上司。MSの試験運用において、長い付き合いだった。今回自分の役目は後詰めの部隊で、尚且つ空挺降下だった。
自分達の元に報告は届いていないので、ハンターがいったい今どこでどのように戦闘しているのかは分からないのだ。
幾度となく苦境を超えてきたあの大尉が簡単に落とされる、ということはいまいち想像できない。
無事でいてほしい、という願望が強いことによる色眼鏡もあるかもしれない。
しかし、一瞬で気持ちを切り替える。
今自分がやるべきなのは、自分の部下となったMSパイロットを引き連れて、残党軍の制圧を行うことだ。
練度的な不安があることから消化試合を任されているようでもあるが、何があるかなど全くわからない。
自分の役目もまた重要なのだ。
『よし、行くぞ』
自分に言い聞かせるようにして、ファルドは操縦桿を改めて握り直した。
空挺降下に続いて、さらに大西洋連邦は海上艦艇からのMSの上陸も開始した。
膨大なMSの、そして、通常戦力を動員された輸送力でもって広げ、オーブは急速に制圧されていく。
それを止める術は、消耗しつくしたオーブ側にはほとんど残されていなかった。
894: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:07:06
着地したロナルド・ヴィルターのゲイツの投じたグレネードは、ヤンのロングダガーの目の前で爆発した。
当然の対応として、ヤンはそれにシールドでの防御をしつつ移動することで回避とした。
ヤンは無理な反撃を選ばなかった。こちらに集中しているならば、友軍に反撃を任せるべきと慎重を期したのだ。
グレネード投擲のタイミングを狙って攻撃したのが、ユノーとハンターとリック。
それぞれがビームライフルを構え、狙いをつける。三方向からの射撃は回避が難しい。
シールドが無い状態のゲイツであるので、どれか一発でも喰らえばアウトである。
〈舐めるなよ……!〉
だが、ヴィルターは全く臆していない。
飛来する3発のビームに対し、回避と対応を同時に行った。
ハンターのビームライフルの弾丸は、回避された。
これはまだよい。むしろ、回避を強いる射撃で、姿勢を崩してやることが目的だった。
ユノーの放ったビームの弾丸は装甲を一部融解させるにとどまった。これもギリギリ。
そして、3発目。リックが狙いを定めた一撃は、とんでもないもので迎撃された。
『何ィ!?』
ゲイツの腰から再び射出されたエクステンショナル・アレスター。
飛来するビームの弾丸に、ピタリとあわせてそれのビーム刃の発生部が激突したのだ。
命中を確実にするためか、それをギリギリまでひきつけ、射出。言うだけならば簡単であるし、考えるだけならばすぐできる。
だが、それは果たして実現できるものか?多くの人間が不可能だ、と答えるそれを、ヴィルターは実現してのけた。
当然、爆発が起こってゲイツは爆圧を受ける。
しかし、その程度でヴィルターは止まりはしない。エクステンショナル・アレスターを射出しながらも、
その右手のビームライフルは一瞬で狙いを定めており、左手は温存していたビームサーベルを引き抜いた。
そして、ヴィルターの喉は、無事な部隊員への指示を絞り出す。
〈ウォーカー!マルチネスを援護!離脱しろ!〉
〈りょ、了解!〉
オーレリアは叫び返しつつ、その手に持っていた76mmカービンをこちらから武器を逸らしてしまったリックに向ける。
撃破でなくてもよい。今は逃げ出すだけの隙を作ることが肝要だ。狙いを定めた射撃は、リックのダガーの脚部を何とか破壊する。
『しまった…!』
同時に、オーレリアのジンの左腕はグレネードケースからグレネードを引き抜いている。
選ぶのは、爆発して破片効果をもたらす炸裂ではなく、一瞬とはいえ迅速に視界を奪える閃光グレネード。
狙いを定めつつ、機体はヴィルターからの通信で示された方向へと駆け出しつつある。ジョンのジンは既に動いている。
だが、それを油断なく狙っているのは分かっている。今はヴィルターを狙っているが、その次に自分が狙われるのかもしれないのだ。
『落ちろ!』
ビームライフルは何も単発で撃ちきりではない。
ハンターとユノーの、そしてヤンのビームカービンが第二射をそれぞれ狙いを定め、トリガーを引いていた。
油断なく本命の後に追撃を放ったことで、弾丸による檻が形成され、ヴィルターに迫る。
移動を始めていたヴィルターのゲイツの予測進路上にばらまかれたそれは、実際命中しかねないもの。
ただし、ヴィルターの動きが、これまでの予測の通りならば。
再びの驚愕を、ハンターは得た。
ヴィルターは予測を超える速さで動き、バックパックに被弾しながらも強引に切り抜けていた。
そして、予想以上の速度でビームライフルを乱射してきた。これまで以上の、素早いエイムと射撃。
『一体どうやって…!』
『何が奴に起こったんだ畜生…!』
895: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:08:43
咄嗟にハンターとヤンはシールドで防御しながら回避を選ぶ。その速度故に反撃は中断させられた。
ヴィルターのゲイツの、これまでの動きを軽々超えた動き。
それは、ゲイツが陸戦型に調整するにあたってかけられたリミッターを外すことで実現した高機動だった。
元々ZGMFとして設計されていたゲイツは、重力の影響を考慮しない宇宙での出力を発揮できるようになっていた。
勿論地上での運用もできるが、重力がある状態で宇宙と同じ出力を発揮すれば当然支障をきたす。
また、陸戦型ゲイツに限って言えばアマゾンでの運用を考慮し、ジン・アマゾネスのバックパックを移植して運用がされていた。
発揮できる出力がジン・アマゾネスのそれに制限されるが、それでも信頼性は高いのだ。だが、ゲイツの出力自体は、そのバックパックへの負荷やその後の不調などを一切考えなければ発揮できる。
ヴィルターが最後まで残しておいた、もろ刃の刃となる手札だった。
〈ぬううぅ……!〉
事実、コクピットの中には警告音で一杯になっており、ヴィルターは自分にかかる負荷に歯を食いしばって耐えている。
バッテリーの消耗は平時のそれを超えているし、機体も物理的に悲鳴を上げている。
そして、ヴィルター隊の残存が遮光モードに切り替えた直後、投じられた閃光グレネードがさく裂した。
通常のグレネードと予測し、しかし裏切られたハンターたちはその視界を真っ白な先行で埋め尽くされてしまう。
『ぐわっ!』
〈今!〉
〈ポイント19-68だ、急げ!〉
叫び声とともに、三機はブースト。
持てる速度の全てを叩きだし、逃走を図る。
『逃がさない……!』
〈しまった……!〉
だが、唯一閃光グレネードの影響が小さいMSがいた。
比較的距離を置いていた、EXストライクを操るユノーだ。
ビームライフルとビームサーベルを構え、エールストライカーの出力でヴィルターの正面に割り込んだ。
地面に地面を喰い込ませて急ブレーキを掛けつつ、ルート上に立ちふさがった。両肩部のコンボウェポンポッドのガトリングは、
今まさに発射されようとしている。機体にガタが来ているゲイツにはあまりにも危険すぎる武器だ。
120mmもの弾丸をこの至近距離で浴びれば、もはやどうしようもないほど破壊される。
(ここまでか……!)
だが、ヴィルターは前進を選んだ。
刺し違えてでも、このGは止めなければならない。
そうでなければオーレリアとジョンの撤退が上手くいかないからだ。
その為の武器は、左腕に持たせたビームサーベルだ。一撃で良い。
コクピットを狙うか、あるいはバイタルパートにビームサーベルを突き立ててやれば、どうしても止まらざるを得ない。
自分一人の命で二人の命が助かるのだ。安いものである。
ユノーも、このMSだけは逃がせないと判断していた。
これだけの操縦能力、そして、部隊を率いるだけの指揮能力。
質でも数でも圧倒していてなお、このMSだけはうまく逃れていた。
(危険すぎる…!)
だが、相手は装備を多く失い、電力を消耗し、おまけに包囲されている状態だ。
いや、今、自分の目の前にいる。仕留めるには好機そのもの。
先程から不意に動きが良くなったのは分かった。だが、分かってしまえば、あとはそれに合わせればいい。
倒せる。その確信があった。
〈うおおおおおおおおおお!〉
『落ちろぉぉ!』
二機は、二人は、叫びと共に、激突せんとした。
896: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:10:19
- ほぼ同刻 オーブ連合首長国 オノゴロ島沖 大洋連合担当海域
《よし、そろそろか。こちら、シャンブロのヨンム・カークス少佐だ。
これより水中巡航形態を解除して浮上する、MS隊は注意してくれ!》
《こちら、ヴァサーゴ部隊。既に十分な距離をとってある。構わないぞ》
《了解した!》
《シャンブロ、浮上用意!友軍の皆さんは発生する海流に注意してください!》
《了解した!ゾック部隊も浮上する!》
大洋連合海軍 オーブ攻略艦隊に配属された水陸両用MA「シャンブロ」は、遂にオーブのオノゴロ島をその主砲であるメガ粒子砲の射程に収める海域へと進出していた。艦隊攻撃を行ったが、MS隊とユーラシアのアッザムとの連携もあって、速やかに完了していた。そして、シャンブロに与えられた役目が、上陸地点の「掃射」であった。
つまり、上陸地点にいる防衛部隊を消し飛ばし、スムーズな上陸と制圧を行うのである。
ちまちまと制圧を進めるのも良いだろう。だが、そんなことで一々時間を喰う必要はない。
MSを含めたあらゆる兵器で市街戦を仕掛けてくる、というのは沿岸での防衛が不向きなオーブが選ぶと予測していた。
だからこその、戦術攻撃も可能な水陸両用MAであるシャンブロの投入だ。
海面が大きく盛り上がり、シャンブロはその赤い巨体を海上へと晒す。
大型の頭部に設けられたモノアイが不気味に発光し、水中巡航形態から砲撃体制へと組み替え始めた。
さらに、砲戦も可能なゾックも浮上を開始し、そのメガ粒子砲の砲口を大きく開いていく。
それを何と表現すべきか。
それは地獄の窯が開く音と言えるかもしれない。
煉獄につながる門の閂が外されていく音だろうか。
あるいは、怪物にはめられていた重たい鍵が、飼い主の許しを得て徐々に外されていく音か。
《射線クリア。メガ粒子砲口部カバー、問題なく解放できました》
続けて、光が灯る。
口の中の、発射機部。そこに仕込まれた装置が操縦者の命じるままに、その砲口としての機能を解放するのだ。
メガ粒子を収束させるための機能が内部で次々と起動し、Iフィールドを形成。メガ粒子を尋常ではない温度へと押し上げ、物理的な破壊をもたらせるようにしていく。
《融合炉出力安定。安全装置解除。メガ粒子砲、チャージ開始!》
さらに収束が高まり、漏れ出る光は輝きを増していく。
チャージが継続され続けているため、機体を通じて振動が海へと伝わり始める。
生じる波紋。泡立ち。そして、地震でもないというのに細かい波が起こり、沿岸部へと押し寄せる。
あるいは、この時にオーブ側が異常を感じて退避すれば、破壊から逃れることができたかもしれない。
だが、全ては「かもしれない」に過ぎない。
どうせ今から逃げ出したところで間に合うはずもないのだ。
彼らは自分の常識だけで判断した。ある意味正常であり、同時に、それまでの狭い考えで行動した。
《各員に再通達。発射の衝撃及び海中状況の変化に注意せよ。また、迎撃機に注意を!》
そして、メガ粒子砲は発射前の最終段階に入った。
口部のメガ粒子砲は、その解放の時を今か今かと待ち受けている。
《発射!》
カークスの叫びともに、トリガーは引かれた。
極太の光の筋が、否、もはや光の柱が、オーブへと叩きつけられた。
メガ粒子砲は、極論を言えばミノフスキー粒子をメガ粒子として、Iフィールドで収束させ、打ち出す砲である。
その特性上、大気圏内においては他の粒子を用いるよりも減衰率が低く、重力や地場の影響を受けにくいという特徴を持つ。
また、メガ粒子砲は物理的な作用をもたらすのも特徴だ。
ミノフスキー粒子を圧縮し、縮退させ、打ち出すというプロセスで粒子の質量が運動エネルギーとなり、
命中した場合には押され、またビーム兵器でありながらもビームサーベル同士でぶつかり合うことができるのである。
897: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:11:02
さて、ここまでが前提となるが、これがシャンブロほどのメガ粒子砲だった場合、どうなるだろうか。
オーブ攻略戦において沿岸部の防衛ラインを薙ぎ払ったわけであるが、それは単なる破壊だけにとどまるだろうか?
答えは否である。
確かに沿岸に広がるの湾港を含む施設、建造物、自然の地形などを吹き飛ばすという破壊効果がもたらされた。
こちらは大洋連合が意図したものだろう。同時に、起こることは分かってはいたが意図しなかったことも発生した。
発射された分のメガ粒子による質量的な圧迫を受けたのだ。オノゴロ島へともたらされた質量打撃は、これを大きく揺さぶったのだ。
『きゃっ!』
〈何が…!?〉
そして、ヴィルターのゲイツとユノーのEXストライクが交錯しようとした瞬間。
ゲイツ目がけて攻撃を始めようとしたその瞬間に、シャンブロのメガ粒子砲は着弾したのである。
ヴィルターにとっては途轍もない幸運であり、ユノーにとってはとんでもない不運な出来事。
着弾し、照射が続けられたことで、軽い地震のように地面が揺れたのである。
跳躍気味にサーベルを振りかぶっていたゲイツはその揺れの影響が最小限で済み、両足でブレーキをしたEXストライクは影響をモロに受けた。
〈何が何だかわからんが……!〉
咄嗟の判断で、ヴィルターはフットペダルを強く踏み込み、強引に前方へのブーストを跳躍へと変えた。
もはや交戦など選ばない、必死の逃走だけを選ぶ時間だ。EXストライクの上を飛び越え、先を行く二機との合流を果たした。
〈止まるなよ!〉
〈はい!〉
だが、ユノーは、そして、ハンターたちはそうもいかない。
咄嗟に攻撃を中断し、揺れる地面で何とかバランスを保とうとする。
エールストライカーで推力を出せば逃れられるのであるが、生憎とその余裕はない。
不意を衝いての衝撃だ。パイロット達の間に混乱が走ってしまった。
『なんだ、地震か!?うぉっと…!』
『落ち着け、バランスを保つんだ!』
『くぅぅぅッ……!』
ほんの数秒間の照射は完了した。
しかし、その数秒は、命運を分けたのである。
数秒の間、動きが止められてしまった大西洋連邦のMS隊と、何とか動けたザフトのMS隊。
圧倒的に不利なはずの後者が命を拾えたのは、ほんの数秒の出来事がきっかけだった。
揺れが収まり、ようやく持ち直した時には、既にばら撒かれたスモークグレネードとチャフなどをばら撒いて逃走された後であった。
まさに、脱兎のごとく。ザフトの部隊は、その過半数を失いながらも、無事にハンターたちの手を逃れたのだ。
898: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:13:33
『くっ……大尉、追撃の許可を!』
ユノーは叫びつつ、機体チェックを迅速に済ませる。
先程の揺れは特に機体にダメージを与えたわけではなかった。
だが、遅滞を生んだ。MS戦においては致命的な、数秒間。
今ならばまだ間に合う。エールストライカーを装備したEXストライクならば行けると、ユノーは判断していた。
仕留めねば、という義務感も突き動かしていた。絶好の機会が不意に崩れた腹立たしさも、拍車をかけた。
しかし、無情にも上官はその提案を却下する。
『ここまでだ、少尉。消耗が激しすぎる。元々これが終われば戦闘も終了の予定だったんだ』
『ですが……!』
『落ち着け!ユノー少尉!』
ハンターの叫びに、激高していたユノーは急速に冷めていく。
老兵の気迫に思わず固まってしまった。
『俺達は既に役目を果たした。
これから追撃を仕掛けても、何があるか分からん。
追い詰めていた奴らを逃したのは失態だが、あれだけの錬度の部隊を戦闘継続不能に追い込んだだけでも十分だ』
ハッとした表情のユノーに、ハンターは静かに語りかける。
自分は、何をしていたのだと、不意に後悔が走る。
ハンターは、そして周囲のパイロット達は、数回の深呼吸の時間を与えてくれた。
それをやっていると、自然とユノーの感情は急速に静まる。
そして、焦りと怒りに押しのけられていた軍人としての意識が浮上してきた。
加熱し過ぎた、と軍人の意識が自分を咎める。ユノーの理性もそれを肯定した。
感情だけが納得していなかったが、自然と納得する。
(なんということを……)
血が抜けるような感覚が身を襲う。熱くなりすぎたが故に、覚めるといっそ寒くなった。
それを見て取ったのか、ハンターも語気を荒げることはなかった。
『らしくないぞ、少尉。目的を忘れるな』
『……はっ、失礼いたしました』
ハンターは、そしてユノーは戦闘の終結を認めざるを得なかった。
あの揺れの原因は何なのか、逃げたあの部隊はどうなるのか、一体どれほどの技量のパイロットだったのか。
疑問は先程から尽きることはない。だが、目的は果たせた。犠牲も少ない。
今はそれだけが、いつの間にか疲労に蝕まれている体に心地よかった。
899: 弥次郎 :2018/02/20(火) 23:14:13
以上、wiki転載はご自由に。
やっとこさ、戦闘は完了。エピローグ的な次の話でオーブでの動きは終わりですかねー
やはり戦闘は大変ですね…
最終更新:2018年02月23日 09:07