19 :622:2010/10/31(日) 18:06:26
憂鬱召喚
転移
久しぶりのことだ。「平成」の夢を見るのは。
家族に家に町の風景、何もかもが懐かしい。
だが、目の前のそれは突然崩れていく。
「坂本中尉、大変です!起きてください!」
そう言いながら、部下の鈴木軍曹が揺すってくる。
「なにごとだ!」
実にやかましい。ぶち壊しにしやがって。
だがそうも言ってられない。最近の奉天軍はきな臭いのだ。
ソ連と武力衝突を起こした上に正統な中国政府を名乗っていて、ここ遼河油田に仕掛けてきても不思議ではない。
そんなことを考えていると、ふと違和感を覚える。
ベットの上で寝ていたはずなのに、なぜか野外にいるのだ。
「隊長!富士山です!富士山がっ!」
鈴木は必死に叫びながら、指をさしている。
「ここは満州だぞ!」
冗談と思いながらその指の先を見ると、目に映るのは紛れもない富士山だった。
種も仕掛けもないし、膀を引っ張っても痛いだけだ。
冷静になり周りを見渡すと、呆然としている兵たちに怒鳴り散らす守備隊長や不自然に散らばっている部隊の装備が見えた。
何が起こったのだろうか!?
それは昭和15年10月12日、対独宣戦布告がなされるはずの日のことだった。
20 :622:2010/10/31(日) 18:07:20
「こんな馬鹿なことがあってたまるか!」
それは大日本帝国海軍大臣を務める嶋田の心の底からの叫びだった。
「どんな物語ですか?、これは…」
同国大蔵大臣の辻も驚きを隠せない。
それはこの場に集う者達にとっても同じ見解だった。
日本以外との連絡が途絶。
日本の周りの陸地が全て消えていてその上、星の位置まで違うなんて常識外でありえない。
それに海外にいた人間や物が日本各地に出没するという異常事態が発生し、漁港ではおかしな魚が水揚げされる始末だ。
混乱を抑えるために各行政機関は必死になっているがいつまでもつだろうか。
「今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう。これからどうするかが重要なのです。」
宰相の近衛は事態に顔を青くしながらも、これからのことを考えるように促す。
「とりあえず周辺海域を探索することを進言します。」
嶋田は気を取り直し、周辺の探索を主張する。
それに対して一同は頷き賛同の意を示した。
「海軍からは陸攻の捜索範囲を拡大、それに加えて空母1隻を中心とした捜索艦隊を多数編成し周辺海域に出します。
陸地が見つかった場合に備えて陸軍の部隊も出してもらいます。」
それに近衛は具体案を出し、陸海軍に協力を求めた。
「「わかりました。」」
嶋田と陸軍大臣である東条は近衛の要請を了解したのだった。
日本の大航海時代が始まった瞬間であった。
21 :622:2010/10/31(日) 18:08:36
憂鬱召喚
おまけ
「全機につぐ、零式はワイバーンロード、九六式はワイバーンを相手にすること!」
指揮官機の無線の後、40機の零戦、60機の九六式戦はそれぞれの目標に向かい分かれていった。
九六式戦にワイバーンを任せ零戦はワイバーンロードと戦闘に入った。
零戦は編隊を組んだまま敵騎の群れに向かっていき、対空ロケットを放つ。
でたらめな機動で分散しよけようとしたワイバーンロードだが、度重なる戦闘の消耗により動きのキレが落ちてギリギリの回避になる。
ロケットが竜の横を通り過ぎようとしたとき、それは突然爆発した。
新兵器の近接信管だ!
この攻撃は数騎の防御結界を突き破り八つ裂きにし、ほか多数の防御結界を傷つけた。
だが、それは始まりに過ぎなかった。
「各機、小隊に別れ戦闘開始!」
指揮官機の無線を合図とし、対空ロケットにより散らされたワイバーンロードに二機ずつに分かれた零戦たちが襲い掛かる。
それに対してワイバーンロードは格闘戦に持ち込もうとするが、相手の土俵に載るわけもなく、なによりも速度が違いすぎた。
その速度差は200h/kmにも及ぶ。
「遅すぎる。」
大尉はそうつぶやき、瞬く間に敵騎を引き離す。
彼を追っているワイバーンロードの後ろには僚機が迫っていた。
「いまだ!」
大尉は無線で指示を出した。
「了解!」
大尉の指示とともに、ワイバーンロードをとらえた僚機は20ミリ機銃4門の火線を浴びせた。
防御結界の光が見えるが、多数の20mmの弾雨によりすぐに消え血祭りに上げられる。
「初期はもっと骨があった。ソ連機より手強かった。」
数年前にフィンランドで戦ったソ連機のことを思い出し、それと比べてしまう。
ソ連機と比べると初期の彼らは強かった。とくに乗り手の腕は優れていた。
それもそうだろう、彼らロッシェル竜騎士の飛行時間は帝國軍パイロットより遥かに長いのだから。
ただ相手が悪かったのだ。もし機(騎)体が同等だったら…。
「考えてもしょうがないな。」
思考を切り替え次の獲物を探すがワイバーンロードは零戦隊に刈られ一騎も残っておらず、九六式戦のほうも勝利を確実とし、戦いは追撃局面に入る。
22 :622:2010/10/31(日) 18:09:32
目に多数の点が映る。帝國の機械竜だ!その数は優に100を超える。
それに対してわが軍は150、開戦以来の数だ。数「だけ」はやや有利といったところだろう。
わが軍は消耗を重ね竜、騎士共に「促成栽培」するまでになっており、その実態はお寒い限りだ。
同調している自分の騎竜からも、調子の悪さが伝わってくる。
帝國軍機はこちらを見つけると、軽型の機械竜の集団と重型の機械竜の集団に分かれた。
「ワイバーンは軽型、ワイバーンロードは重型を狙え!」
騎士団長は通信魔法具を使い、帝國側の動きに対応し指示を出した。
それぞれの集団が目標に向っていく。
生きて帰ってこれるのはどれだけだろうか?
そう考えているうちに敵編隊との距離は近づいていき、すると重型の翼から白い尾を引くものが多数発射された。
重型が「鉄の槍」を放ってきたのだ!
それは誘導性能がなく普段だったらかすりもしないはずだった。
しかし、それはスレスレでよけきったと思われた。
がしかし、竜たちのごく近くで突然爆発し数騎を空の藻屑にし、ほか多数を傷つけた。
「クソッたれ!」
飛んできた破片は結界に弾かれ自騎に被害はなかったものの、編隊が崩されバラバラになってしまう。
それに対し、重型は連携して向かってくる。
向かってくるうちの1機に狙いを定め得意の機動を使い、格闘戦に持ち込もうにも敵は乗ってこない。
追いすがろうにも敵はあまりにも速く、すぐに引き離される。
その時だった。後ろに衝撃が走る。
竜との同調が途切れ目の前が真っ暗になる。撃たれたのだ!
「ロッシェル王国万z・・」
最後の叫びは声にならず、彼は落ちていった。
落ちていく彼の上を大きな影が覆う。その影の主は銀翼を持った要塞だった。
ロッシェル王国が降伏したのはその翌日だった。
最終更新:2012年01月23日 21:08