941: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:08:56
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「行くべき場所へ」Side H

Main Staring:
<23th Special Unit:MS Comond,Federation Atlantic Force,O.M.N.I.Enforcer>
William・“Old”・Hunter (Captain)
Abel・Miles(First Lieutent)
Clara・“Private”・Juno(Second Lieutenant)
Arthur・Thomas(Chief Warrant Ofifficer Five)
Rick・Simons(Enign)

<Arcengel Class Arcengel MS Unit,Federation Atlantic Force,O.M.N.I.Enforcer>
Mu・La・Flaga(Lieutenant Colonel)
Kira・Yamato(Enign)

Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎



    • C.E.70 7月22日 午後2時15分
    • オーブ沖 大西洋連邦保有大型病院船 病室

オーブから大西洋連邦領のハワイに戻る病院船には負傷者が詰め込まれている。
占拠した地域にある病院を利用してもいいのだが、占拠状態と言えども、敵地にいつまでも置いておくには危険が伴う。
何しろ、大勢が決してなお、敵意の視線を送るオーブ国民が多いのだから。何があってもおかしくない。
だからこそ、安心して治療が行える本国へと返すのだ。重症患者もいれば、回収された遺体を返してやる必要もある。

すれ違う軍人たちから送られてくる敬礼に返礼しつつ、病院船の通路を歩く。
オーブ攻略戦が終了し、事務処理が終わりを迎えつつあるころ、ハンターはこうして病院船を訪れる暇を得ていた。
一週間ほどの期間に詰め込まれたカリキュラムを消化し、宇宙に転属する書類手続きを行い、その合間に私用をこなす。
その為か、ハンターは少し疲労を体に感じている。だが、充実がある。南米戦線からしばらく、激戦に次ぐ激戦が続いていた。
体のリズムは今は平常ではなく、ある種のハイな状態にあるために、下手に休むよりも、ある程度の忙しさがあった方がむしろ落ち着く。
そして、その休みの期間に、ハンターはやるべきことがあった。負傷したアーサー・トーマスとエイベル・マイルズの見舞いだ。

オーブ攻略戦での戦闘、特に練度の高い部隊と激突した際に負傷したのがその二人だった。
特に、乗機が大破したマイルズの負傷は治療に急を要したためか、こうして病院船に真っ先に放り込まれたのである。
仕切りの前で軽くノックをし、マイルズの少し草臥れたような声の許可を受けてすっと入る。内部は、案外広い。
患者が退屈しないようにとの配慮か、テレビやラジオのような情報源こそないが、山と積まれた映像媒体とモニターが置かれている。
しかし、部屋の主が既に観終わってしまったのか、片隅にまとめておかれている。
そして仕切りの中の空間の主、エイベル・マイルズはハンターの顔を見るなり、顔をほころばせた。

「ハンター大尉!」

「暫くぶりだ、マイルズ。ああ、そのままでいいぞ」

ベットの上で横たわりながらも、身を起こし、慌てて上官に敬礼をしようとするマイルズを手で制した。

「お前はまだ重傷だ、無理はしなくていい。
 体のあちこちに負傷があるんだろう?」

「……はい」

諫められ、少ししゅんとしたマイルズは再びベッドへと体を預ける。
マイルズの負傷は、ジンにショーテルで吹っ飛ばされた際の打撲や捻挫に加えて、エクステンショナル・アレスターの被弾の影響でコクピット内部の機器が軽い爆発を起こしたことによる顔の火傷と切り傷。火傷は顔だけでなく顔をかばった手や腕にも及んでいる。
死亡につながるような大怪我ではなかったが、地味に痛い。
幸い、応急処置が適切だったことで、酷い後遺症は残らず、治療期間も短く終えることができる目途が立っていた。
それでも、片目は包帯の下に隠れている。失明は避けられたが、かなり危ういところだったという。いや、現状は失明よりもさらに厄介だ。

942: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:09:56

「右目は、大丈夫か?」

包帯が巻かれ、隠れて見えない状態のマイルズの右目。
それは、決してその目を失ったがための包帯ではない。
むしろ、怪我をしながらも目が健在であるからこそ巻いている包帯だった。

「目の機能は問題ないのですが、やはり幻視がたまに。時には見えるはずなのに認識できなくなってしまいます。
 右側が良く見えるような、それでいて見えないような…」

「やはり、か…」

「医者が言うには、一種の思い込みのようなものなのだとか。
 凄まじい痛みを伴って目の付近に傷を負った結果、脳は『失明して見えなくなった』と錯覚しているのです」

エクステンショナル・アレスターのビーム刃が中途半端に直撃し、コクピット内部では軽い爆発が起こった。
その結果、火傷と共に、飛び散った内装パーツがマイルズの頭部を襲ったのだ。
爆発のショックが物理的にも精神的にも大きく、物理的に目が存在していても、失明に近い状態に陥っているのである。
つまり、認識している体と体の機能が不一致だ。

「…リハビリは?怪我自体は治るのも早かったと聞いているが」

「進めてはいますが……完治に時間はかかりそうです」

言外に、難しい、あるいは治らないかもしれないと言われる。

「右目を見えないように覆っていると落ち着きます。
 見えている状態の方が異常と認識しているので、これを解消するところから始める必要があると」

ハンターは医者の診断が正しかったという現実をかみしめた。
医者からはマイルズの負傷はただの負傷よりもさらに性質が悪い、と忠告を受けていたのだ。
なるほど、厄介なものだ。
右目が見えることが受け入れられないからこそ、精神的な治療に時間をかける必要がある。
恐らく、これでマイルズは戦争終結まで戦場に立つことは難しいだろう。
MS操縦においては人間の視野も極めて重要だ。右半分にあるモニターが見えにくくなるだけで、パイロットが受け取ることができる情報は凄まじく減ってしまい、咄嗟の対応も間に合わなくなるだろう。

「申し訳ありません、大尉」

部下の喪失に等しいこれには、流石に重たいものがある。
南米でのMSの試験の時はある程度割り切れてはいた。だが、こういう状況だからこそ、割り切れにくくなっている。
戦争というものは結局殺し合い。自分達が死なない保証などない。死ににくくするしかない。
死ににくくしてもなお死んでしまったことに、何とも憤りが隠せない。

だが、謝るべきは、自分でもマイルズでもない。誰かが悪いということでもないのだ。
運が悪かったかよかったか。その微妙な差こそが、今のハンターとマイルズの立ち位置を決定づけている。

943: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:10:48

「……貴様に一つ頼みがある」

だが、それを自分の中に押しとどめて、ハンターは手にした鞄から紙を取り出した。

「これは……」

「ケリーの家族への手紙だ。俺の方からも書いたんだが、お前からも一筆したためてくれ」

差し出されたをそれを受け取り、マイルズはハンターの出した名前にしばし沈黙してしまう。
あの戦闘において唯一の戦死者が、ケリーだった。二階級特進。その言葉が、あまりにも重い。
戦闘ログは閲覧したが、ザフトのパイロットの行動は流石に予想外だった。勿論、予想外だが、ケリーの家族への言い訳にはならない。
むしろ、そういった合理的とは言えない行動も考慮しなければ今後も被害が増え、ケリーのような犠牲者を出すかもしれない。
効率的に、機械のように精密に動くことが求められるからこそ、対応できにくかった。
犠牲者は減らすべきだ。だからこそ、ケリーのことを忘却するわけにはいかない。

加えて、ケリーはマイルズの小隊に属していた。
指揮は自分が執っていたのだが、マイルズの部下であることに変わりはない。
マイルズは、もう指揮を執る立場なのだ。ある程度の責任と義務を果たすのも仕事である。
自分とて、そうだったのだ。南米で部下を失ったときも、割り切りはしても、決して切り捨てはしなかった。
感傷的すぎるかもしれない。だが、感情が無ければ人間ではないのだ。
差し出された便箋をじっと見つめ、その意味をマイルズは飲み込んでいく。

「……分かりました、あっ…と」

包帯に包まれた手が差し出され、しかし、一度空を切る。
片目の状態になれておらず、かと言って両目でも物が良く見えない。そんな中途半端な状態に置かれた弊害か。
だが、すっとハンターは便箋を動かし、マイルズの手の中に納めてやった。

「急げとは言わん。だが、必ず貴様の言葉を送ってやってくれ」

「大尉……」

部下の喪失。
それはマイルズにとってのターニングポイント。
この戦争において死亡は決して珍しくはない。
だが、組織の中におけるマイルズの文脈としては、これが初であると知っている。
殊更に、部下を失うというのは戦友や上司を失うのとはまた違うのだ。
MSを割り当てられ、動かすという研究過程とそれを投じての実戦は、両手の指の数以上の部下を失わせるものとなった。
死んでいない人間もいたが、人並みの生活を送れなくなった部下がいた。肉片しか残らずに死んだ部下もいた。
航空戦技に優れ、肉体を鍛えていたからこそ、ハンターはそれらを切り抜け、幸運にもこうして生きている。

だが、生き延びた以上、痛み、喪失の苦しみ、責任。それらが大きくかぶさる。
家族のため、と言っているが、本当はマイルズのためだ。
身を癒す以上に、部下を失ったという現実と自らを形作るリズムをあわせなくてはならない。
その整理には、誰かが傍らにいることが必要な場合もあるし、一人で静かに整理する場合もある。
嘗て、全世界の罪を背負った男は、修行のために砂漠で一人過ごし、悪魔の誘惑をはねのけたという。
だが、ハンターの持論としては、その悪魔はそこにいて、しかし、そこにいなかった。
自らの感情や思想を整理する中でそのように認識しただけのこと。

同じことをマイルズにやれ、とは言わない。
整理が必要なのだ。これまで仕事に忠実であり、これまでの積み重ねが大きいからこそ。
マイルズが、目標を見失い、路頭に迷うなどあってはならない。

944: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:12:06

しばらく無言で考え込んでいたマイルズに、ハンターはタイミングを計らって次の話題を振る。
以前、アウグスト大佐を経由して上層部から通達された、書類を手渡す。

「上官のアウグスト大佐にな、俺が抜けた後のことを考えておけ、と言われた」

もう老兵だからな、とおどけるが、マイルズはそれに疑問を呈した。

「大尉は、まだ、戦えるのでは?」

「そうだな。だが、プラントとの戦いが決着して数年もすれば、俺はMSから降りるだろう。
 肉体的に、どんどんきつくなっていくだろうしな。その時に必要になるのは、もっと若く、経験のある人材だ」

だから、とマイルズの目をじっと見つめて、書類を見るように促す。

「貴様には、その時までに後任となれるように準備をしてもらいたい」

「自分が、その、大尉の後任に…?」

「ああ。その目が治れば、貴様をMS隊を率いてもらう立場に推薦することになっている」

添付されているのは自分の推薦状と、戦後の昇進と士官学校への入学を通知する書類。
現在のところ、大西洋連邦では上位階級の人間の補充も急務となっている。
プラントとの決着がつくまでは何とかなるだろうが、その後を見越せば、佐官・将官の補充は済まさなければならない。
可能ならば、今後のスタンダートとなるMSに通じた人間が望ましい。
マイルズならば、その任に適している。この怪我さえ治れば問題ないと、ハンターは判断している。

「し、しかし……自分は」

「謙遜するな。貴様ならば、少し学べば十分に追いつける。
 まあ、無理にとは言わん。一晩でも二晩でもなやめ。その上で、答えを決めてくれ」

「……ハイ」

再び考え込んだマイルズ。
だが、これでいい。治療に集中してもらうのも大事だが、治療の後のことを少しでも決めておかなければ、
マイルズは恐らく燃え尽きてしまう。マイルズが復帰する頃には、すでに決着がついていると、ハンターは聞かされていたのだ。
あくまでも予測。だが、ザフトの攻勢限界が訪れて久しく、遠からず戦争継続の限界点を迎えることは一致している意見。
その後も、マイルズも、自分も、大西洋連邦も続いていくのだ。

945: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:12:50

マイルズへの見舞が終わったハンターは急いで他の病室へ移動する。
この病院船が出航するまでに暫く日はあるのだが、生憎とハンターたちの余裕は少ない。
今日は何とか時間が取れた貴重な日。だからこそ、予定をこなしておかねばならない。
次に向かうのは比較的軽傷だったトーマスのところだ。念のために、と大型の設備でのスキャニングを行い、体に異常がないか確認する予定だ。ひょっとすれば、宇宙に間に合うかもしれない、という希望がある。
自然と足は速くなる。なかなかどうして、自分の足で歩くという行為に新鮮さを感じる。
MSに乗っていると、自分の足で歩くという行為が、どれだけ複雑な計算や運動が行われているのかをふとした時に感じる。

「ハンター大尉!」

移動中、聞きなれた太い男の声が耳に届く。
振り返れば、リックとユノーがこちらへと近づいてきていた。
時計を見れば、丁度彼らが自由時間を得る頃合いだった。

「お待たせしました、大尉」

「遅れながらも、クラーラ・ユノー少尉とリック・サイモンズ中尉、合流させていただきます」

きっちりと敬礼を送って来るので、こちらも返礼しておく。
聞けば、やはり余暇の時間をようやく得たとのこと。

「よし、先にトーマスのところに行くぞ。その後で…いや」

数瞬悩み、言葉を選んだ。今のマイルズに合わせて、大丈夫だろうかと。

「先程確認したが、マイルズはこの後暫く面会謝絶らしい」

「しかし…」

「了解です、ハンター大尉」

ごねるユノーの言葉を、リックの言葉がかき消す。
委細承知、と目でこちらに伝えてくる当たり、やはりリックも分かっているらしい。
そう、今は少し、一人にしてやった方がいいだろう。

「ユノー少尉。あのMSに不意を突かれ、結果的に負傷させられた…それについてだな?」

「ッ…!」

指摘してやると、びくりと反応する。
まあ、無理もないことだろう。
言っては悪いが、スムーズにこなしてきたユノーにとっては、初めて超えるべき明確な敵が現れたのだ。
勿論、責任感の大きさは評価できる。だが、軍人としてはそれをある程度戒めてやる必要がある。

「だがな、少尉。貴様にも背負いきれないことはある。
 いや、背負うべき範疇というものがある」

「背負うべき、範疇ですか?」

「マイルズは大きく成長する場面に立っている。それは、マイルズが背負うべき責務だ。
 負傷したからこそ背負えるものがある。貴様は、まだ、関わるべきじゃない」

マイルズの為にも。その言葉に、心なしかユノーは元気を失う。
このどこか浮世離れした、年齢とは裏腹に軍人らしい振る舞いのできる彼女も、よく見ればかなり感情が見え隠れする。
わかるか、とハンターは言葉をかける。

「少しずつ背負い合うことで、互いに支え合う。
 だが、一人で時に背負うことも、必要だ。マイルズは、そのタイミングを迎えた。
 いつか…貴様が上司になり、背負う範疇が増えれば、いずれわかる」

946: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:13:25
そう、未来のこと。
この少女を待ち受けている、前途に山こそあれど、希望にあふれた未来で。

「ですが、大尉。……私は、それをこれまで貫いてきました」

「少尉…?」

だが、納得は得ていないのか。
少し震えた声が、ユノーの口からこぼれる。

「陸軍は、地べたを這いずる軍です。
 空を飛んで一瞬ですぎることも、鋼鉄の船の腹に抱えてもらうこともできない。
 ただ、ちっぽけな車両と、自分の体を守る軍服と肉体だけで、あとすべて簡単に失われてしまうもの…だから…だから…」

「お、おい、少尉!?」

言葉尻が震え、目が力を失う。
意気軒高というか、力にあふれていた彼女が不意に不安定さを示し始めた。
まるで、大事な部分が揺さぶられたかのようで、少し戸惑う。
その言葉も、まるで自分に言い聞かせるかのようですらある。

(そうか…)

ふと思い出す。ユノー少尉は、生まれてから孤児院で暮らし、そして、軍に入った。
能力の高さを買われた、というが、一方で、軍が彼女に与えた物もあったのだろう。
それは、支柱だ。クラーラ・ユノーという「プライベート」な存在が折れないようにするための、アイデンティティーであり、精神のよりどころ。軍律や規則、あるいは習慣。たった一人だったからこそ、彼女はそこに居場所を作った。
責任感の強さが妙に人間離れというか、老成していると思ったが、それも当然。

彼女の内側は、大西洋連邦の軍が濃縮されているのだ。その規律が、彼女を動かし、定め、決定させる。
空っぽで、外側から中身の素を入れてくれる周囲がいなかった彼女が、唯一得た支柱なのだ。
だから、教えてやるのではなく、合わせてやるのを手伝う必要がある。
それをそのまま動かすだけではなく、適切に受け入れないといけない。

「……わかった、少尉」

そして、それは自分の仕事。
マイルズが整理を付けるまで、どれほどかかるか。
あとのアフターケアも、やらねばならない。
だが、苦ではない。

「では、まずはトーマスのところによってから、マイルズのところに行くぞ。
 医者には掛け合ってやる…だから、そんな顔をするな」

苦笑と共に、彼女の手を取ってやる。
人と触れ合うこと。なんとなくだが、彼女に必要なのはそれだと思う。
だから、この我儘な娘に付き合ってやるとしよう。








「ハンター大尉、彼女のお父さんみたいですね」

「年齢的にはギリギリだけど、結構お似合いだな」

「おい、聞こえてるぞー!」

「すいません、わざとですー!」

947: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:15:33

      • C.E.70 7月23日 午後1時35分
      • オーブ沖 ギガフロート アークエンジェル停泊場



大西洋連邦の制圧下となったギガフロートは、そのスペースに大西洋連邦の将兵をかなり抱えていた。
ギガフロートの安全確保は制圧後に行われているのだが、念には念を入れてトラップなどが設置されていないかチェックが行われていた。
既に大部分のチェックが終わってはいるのだが、何が仕掛けられているのか、まったく油断ならない。

そして、アークエンジェル級一番艦アークエンジェルの係留されているスペースは比較的早期に安全が確保された場所だった。
現在、アークエンジェルは地上圏での運用から大気圏外での運用を行うための整備や調整に追われている。
MSに関しても、重要箇所の点検やパーツ交換などを行い、データの蓄積からOSへの変更を加え、チェックを重ねているのだ。

一方で、その間のパイロット達もかなり忙しい。
宇宙空間での戦闘シミュレーション、機体調整、肉体的な負荷をかけることによる宇宙空間での肉体の弱体化に備える訓練、宇宙での活動のための座学、再編される部隊の人事異動、宇宙に出発するための荷物の準備などなどなどなど…枚挙にいとまは全くない。
引っ越し、職業訓練、宇宙飛行士になるためのトレーニングが全部一緒くたになっている、といえば簡単だろうか。

娯楽も、そこまで多くはない。
煙草や酒はある程度許可されているが、宇宙では煙草は制限されるし、酒を飲めばアルコールの分解などに著しく時間を喰う。
どちらも依存性があるので、軍人であることもそうだが、ある程度制限しなければならない。
代わりとして、食事は豪華になっていた。宇宙に行けば、宇宙に適した宇宙食を強いられる。
栄養をつけ、日々厳しい訓練をこなすためにもスタミナをつけてやる必要があるのだ。
だが、それだけ食えば、栄養を与えられた人体はそれを蓄えようとする。そして、訓練や勉学で消費する。
ある種の逆ダイエットとダイエットを繰り返し、人間の代謝能を刺激し続けているのだ。

理想的でもあるが、同時に疲れもある。
だからこそ、パイロット達は思い思いに過ごしているのだ。
アークエンジェル級一番艦アークエンジェルのMS隊隊長を務めるムウ・ラ・フラガも、その例に漏れない。
元々宇宙軍でメビウス・ゼロを操っていたが、些か地上で過ごした期間が長く、取り戻すまで時間がかかりそうだった。
その息抜きが、今日アークエンジェルを訪れる予定のMS部隊を見学することだった。
シミュレーション上ではあるが模擬戦なども行う予定であるし、何よりも自分と同じく歴戦のパイロットが率いる隊だという。
MSでアークエンジェルにやってくる、との情報を得て、こうしてアークエンジェルの整備セクションの上層階で待っているのだ。

「お、来たか?」

前方上空。そこには、こちら目がけて滑空して来るMSの機影が見える。
特徴的なツインアイ、アンテナ、装甲で構成された人間のような四肢。
だが、それはムウ・ラ・フラガにとって見慣れた物とは少し形状が違う。
両肩部にはコンボウェポンポッドが据えられ、大腿部にはホルスター、腰にはビームサーベル、そしてリアスカートにはグレネードケース。
そしてバックパックとして付けられているエールストライカーは装甲の形状や飛行翼に既存のものとは違う。
カラーリングもそうだ。白と青で構成されたストライクと違い、こちらは黒と緑など、地味な色を中心としている。
だが、これらは決してブラフなどではない。飾りではなく、実戦での需要に合わせたカスタマイズだ。
事実、このMSを操っているのは大西洋連邦でも選び抜かれたパイロットばかりであるし、戦闘の終結と集計が終わるころには、
誰がどの程度の活躍をしたのかも自然と流れてくる。そして、飛来するMSのパイロットは、危険な任務を潜り抜けた猛者なのだ。

948: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:16:43

「あれがウチに訓練のために来る部隊か?」

「ええ。予定通りここに着艦するみたいですぜ」

「へぇー…」

ムウが感嘆の声をあげ、それに同じく休憩のために外に出ていたマードックが相槌を打つ。

「少…おっと、中佐は希望してなかったですが、希望者にはあんなカスタマイズも許されていたそうで」

「俺の要望でも?」

「……知らなかったんで?一応書類一式はおくられていましたし、こっちにも要望があったら伝えろ、と指示があったんですがね?」

「えっと、その、な…内装がちょっと変わったとかは聞いたんだが、そこまでやってたなんて…」

「まあ、中佐は今の状態のX105でも十分みたいですしねぇ」

そう話し合う彼らをしり目に、EXストライクは滑り込むようにアークエンジェルへの着艦を果たす。
動きとしてはまだまだぎこちない。だが、一発で成し遂げた。着艦の音が比較的綺麗なことからも、
内部での制動運動もかなりうまくいっているようだ。恐らくシミュレーションを何度か行って慣れていたためだろうか。

「うまいもんじゃないか」

「坊主が動かしてたOSを流し込んで最適化したって話ですからね。
 多少調整を入れてやれば、OSでだいぶできるとか」

「でも、装備も違うってのによくやるもんだぜ」

ムウは感心するしかない。
何しろ、ストライクを動かすにしてもかなり手間取ったのだ。
動かしていたキラがいて、微調整や指導をしてくれたが、やはりというか能力差もあってかなり苦労した。
後発とは言え、新装備を詰んだ状態でバランス計算や操縦性に違いが出るのは明白で、既存OSからの違いも大きいはず。
エールストライカーをよく使うのも、機動力が必要になるのと、もう一つは他のストライカーより動かしやすいからだ。
バランスが取れているし、機体制御に意識を割く余裕もある。だが、それ以上の装備を使いこなせる技能は間違いなく本物だ。

「フラガ中佐、ハリン艦長が…って、ストライク?」

その声と共に、キラ・ヤマトの姿が整備のために組まれた整備セクションの上層階に上がって来た。
キラの視線の先には、二機目のストライクが着艦態勢に入りつつあった。

「おう、坊主。前聞いただろ?この艦での訓練にMS隊がくるってのは」

「一応は……」

「少尉と同じく、ストライクを使う事を許された精鋭部隊って話だ。
 宇宙に上がる前に、宇宙経験者のレクチャーを受けたいんだとさ」

「やっぱり、宇宙に行くんですね……」

「まだ地球から追い出しただけだからな。プラント本国に乗り込んで、追撃するつもりなんだろうさ」

「……いつ終わるんでしょう、この戦争は」

「なぁに、そこまで長くかからないさ。
 プラントの国力からすれば、そう長くはもたないだろうしな」

949: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:18:17

憂鬱気なキラに対し、ムウの表情はさほど悲観が無い。軍歴がキラよりも長いムウにしてみれば、ようやく終わりが見えて嬉しい。
だが、オーブ籍ながらもストライクを見てしまい、あまつさえ動かしてしまって、流れに流れて軍人となったキラにとっては、戦争がまだまだ続くことにうんざりしているのであった。もとより、キラ・ヤマトという少年は極めて繊細な人物だ。
戦争や軍という環境・状況においては最も適していない、といってもよい。良くも悪くも彼は子供であり、まっとうな倫理観のもとに生活してきた。
そんな彼にしてみればヘリオポリス崩壊からこれまでの期間だけでも、相当な長い時間だったと感じるだろう。
だからこそ、彼は拒否感を覚える。ある意味それは正常であり、異常でもある。

「坊主、お前は終わった後のことを考えとけ」

「終わった、あと?」

「そうだ。お前、学生に戻るのか、それとも軍をやめてどこかに就職するのか、決めないと駄目だぞ?」

それは、と言いかけ、キラは言葉に詰まった。
半ば強制的に従軍しているが、望めば戦後に除隊できる。
軍人として賞与も出るし、MSを動かす中で色々と技術も知ることが出来て、実戦経験も積んでいる。
それこそ、第一線に訓練無しで放り込んだとしても問題なく働けるほどだろうというのは、ムウでもわかること。

「戦後…」

「まあ、あれだ。金はたっぷりもらえるぞ。だからしばらく遊んでもいいんじゃないか?
 世の中を知ってみろ。あとになって後悔するより、パーッと使って色々学ぶといいぞ」

ムウの言葉に、不思議な重さをキラは感じ取った。
実際、ムウはその重さを持たせる過去を持つ。
実家が資産家であったが、その父親の死の後に自称親族たちにかなり持っていかれてしまったのだ。
金に当然困ることもあったし、それ故に食うために軍に入った。
だが、ムウと違い、軍に入ってもその先の未来があるのがキラだ。
「悪いのはプラントのコーディネーター、地球のコーディネーターは被害者」。
そういった風潮が流れて久しく、むしろ、軍人として戦ったのはキラにある程度の保護を与えるかもしれない。

「戦争が終わるまでもう少しだ、ちょっとくらい贅沢に悩めよ」

「…はい」

アークエンジェルのMS隊は、わずかな休息を終え、宇宙での戦いに向けて動き出していた。
時間は残酷にも進み、終結に向けて、全てが徐々にまとまりつつある。
運命の宇宙まで、わずか。

950: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:19:37
【解説】

  • ユノー少尉の内面
軍生活でようやく拠るべき場所を見つけ、それで自らを構築しています。
人間というよりは、規範を形とした人型といったところ。
だからそれを迂闊に取り上げると大変です。頑張り屋さんすぎるのですね。
ユノー少尉と相性が最悪なのは多分、史実ポル・ポト…

どこぞ副官のようにたくましく自由(婉曲表現)に成長するのは例外です。
???「自由で華麗な大尉とは私のことです(ポージング)」


  • お父さん
ハンター大尉はもうパパでいいと思う。


  • アークエンジェル級のエンジン
流石に大気圏内では相応のエンジンへの換装をやっている……はず!(多分
核融合パルスじゃなくて、うん、なんか、大気圏内でもアークエンジェルを飛ばすのに使える奴よ!詳しくは知らん!
アラスカにまっすぐ降りられたし、それでいいでしょ!(白目


  • ムウのストライク
EXストライクの方が完全に後出しだから、仕方がない…(白目
実際のところ、EXストライクのような複雑な装備は整備面で全く優しくないので、
PS装甲や内装パーツの交換だけに留めるのも間違っていない選択だったりするので、ムウはそれを選んだってことで…
パーフェクトストライクを使ってた?あれはHDリマスター版での話だし(震え声


  • ギガフロート
まあ、そういう設備もあるよねーということで、アークエンジェルに停泊してもらってます
治安維持をやりつつ、MSや艦艇の補修や調整を行い、マスドライバーで打ち上げ用意を進めております。


Q.で、何時宇宙にあがんの?
A.ヴィルター隊の後始末が終わってからな!(上がる上がる詐欺)

951: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:22:10
以上、wiki転載はご自由に。
投下に時間かかって申し訳ないです。

色々と忙しかったのですが、その間にコツコツと書いていました。
外に出たのでようやくネットにつながっているので、好機です。
これ以外にもヴィルター隊の様子の話ですね。あとはブリーフィングファイルが一つか二つ。

これが終われば、ようやくイントロかなぁ…

とはいえ、何処まで形にできるやら…骨組みは出来ていても、肉付け重要ですからね。
今回の話も、かなり肉付けの段階で修正とか加えております。

さて、次回もゆっくりお待ちいただければ

956: 弥次郎@外部 :2018/03/26(月) 23:43:08
修正お願いします
948
×ラミアス艦長

〇ハリン艦長

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最終更新:2018年03月27日 10:41