252 :earth:2012/01/05(木) 22:51:15

 おりがみネタ第二弾。
 原作ブレイクですがネタということで。


「天寿を全うしたあとにこれか……」

 ある部屋で一人の男、いや魔族が頭を抱えていた。
 人外の存在であり、その気になれば人間など物の数ではないのだが、彼の態度からは全くそんな威厳は感じられない。
 そんな男の態度を見て、別の男が苦笑しつつ慰める。

「まぁ仕方ないでしょう。地獄に落ちなかっただけでも良しとしましょう。いや、或る意味地獄かも知れませんが」
「辻さん、相変わらずポジティブですね」
「嶋田さん、そうでないと物事は進められませんよ」

 彼らは天寿を全うした後、この世界に転生した。それも人間ではなく人外の存在、魔族として。

「今のところ、我々と同様の存在を探すのを優先しましょう。そして……」
「組織化すると……夢幻会の再結成か」
「ええ。そちらのほうが良いでしょう。さすがに同胞を見捨てるのは」
「確かに……」

 そう言いつつも男は、かつて嶋田と呼ばれた魔族は嫌な予感を覚えた。

(また仕事漬けになりそうな気がするよ……)

 会合の面々、特に衝号に関わった者達は全員この世界に転生していた。勿論、種族は魔族であったり魔人だったりした。
魔力などにも差はあったが、彼らは特に気にしなかった。

「一人の力に頼るより、知恵を出し合ったほうが良い」
「それに元人間の仲間がいたほうが安心できる」
「回りの価値観が違いすぎて……な」

 こうして夢幻会は再び結成された。当初は変わり者の集団に過ぎなかった。
 技術開発、新天地の開発、人間との交易など、他の者達が軽視することに重点を置いた。
 人間を見下す魔族や魔人からは人間の真似事をする彼らを露骨に馬鹿にする者も多かった。
 しかし彼らはそ知らぬ顔で自分の仕事を進めた。そして魔王制廃止による混乱が彼らに好機(?)を与えた。

「人間社会に溶け込み、何とか生き延びよう。幸い、コネクションはあるし基盤も富もある」

 嶋田の言葉に反対意見は無かった。
 勿論、そのために彼らは他の右往左往する魔族や魔人たちを見捨てることになる。中には反発する者もいたが、残った魔族の間で
人間排斥派が台頭するとそうも言っていられなかった。

「可愛そうですが、救命ボートに乗れる人数は限られているのですよ」

 神殿協会や人間達に狩られていく、かつての同胞を横目にして彼らは人間社会に溶け込み、容易に排斥されないような体制を構築した。
 前世の経験もあって、彼らが人間社会に根を張るのに大して時間は掛からなかった。

253 :earth:2012/01/05(木) 22:52:55

 そして時は流れ、20世紀。
 夢幻会は魔族や魔人の組織でありながら、人間社会に溶け込み、多大な影響力を行使できるようになっていた。

「歴史知識と前回の経験があると(比較的)楽だ……」

 東京に建築した自宅。その中で庭園が見渡せる和室で嶋田は安堵のため息をついた。
 仕事のために打ち合わせに来ていた辻は、嶋田を見て苦笑しつつも同意する。

「神殿協会が怖いですが、こちらも対魔組織を持っています。それに我々が死ねば人間社会にも多大な悪影響が出ますし」
「尤もそれを構築するのが地獄だった。おまけに預言者と顔合わせとか地獄だった」

 元々の彼らの魔族としての力は大したことはない。
 勿論、弱いわけではないが、アウターとは比べ物にならない。故に彼らは神殿協会などの対魔組織と正面対決は可能な限り
正面対決は避けて搦め手で戦ってきた。これが功を奏し、最終的に彼らはマリーチと会談を実現。これまで人間社会の発展に
貢献してきた功績もあり夢幻会を存続を黙認させることに成功した。 
 尤もアウターでもある神殿協会のトップと顔を合わせたときには冷や汗ものだった。

「出来れば二度と会いたくはないな……」
「ははは。私もですよ」
「まぁ状況は安定している。ゼピルムが煩いが……正面戦力は充実している。負けはしないだろう。
 何とかこのまま平穏であってほしい」

 しかし嶋田の願いは叶えられることはない。他ならぬ彼ら自身の改変によって。

「ただいま。あれ、お父さん、お客さん?」

 そう言って入ってきたのは一人の女子高生だった。

「ああ。仕事仲間だ。今日の学校はどうだった?」
「うん。大丈夫。友達もいるし、凄く楽しいよ」
「そうか……」

 安堵の笑みを浮かべる嶋田。そこには娘を心配する親の顔があった。

254 :earth:2012/01/05(木) 22:54:37

 少女が退室した後、辻は興味深そうに尋ねる。

「彼女は?」
「ああ。昔、孤児院で拾ったんだ。事情を聞いて少し同情してね」
「初対面の人間にそこまで同情するとは珍しいですね」
「彼女を見たとき、我々が遥か昔に見捨てた魔人たちの顔が、何故か脳裏に浮かんでね」
「…彼女の名前は?」
「鈴蘭だよ。今は嶋田鈴蘭と名乗ってもらっている。
 表向きは私が統括している会社の一つでも継いで貰いたいと思っているよ」
「剛毅ですね」
「彼女には指導者としての素質があると思っているよ。何かあれば芽が出るだろう」

 彼の願いは叶うことになる。そう、彼のもう一つの願いである平穏を引き換えに。
 ゲートの出現、神殿協会の台頭、そして……一つの凶報が騒乱の幕を上げる。

「鈴蘭が誘拐された?!」

 動き出す神殿協会。魔殺商会。事態はカオスな状況になっていく。
 ここに至り、夢幻会も本格的に動き出す。

「東条さん、南雲さん、お願いします。それと……」

 嶋田が視線を向けた先にいたのは直属の部下達だった。
 夢幻会は余裕が出来てから魔人の保護も行っている。人間を見下す者も多かったので色々と手間取ったが
魔人によって構成される部隊さえ編成できるようになっていた。
 勿論、装備も金に物を言わせて揃えているので潤沢だ。

「我々も出る。少なくとも、我々をコケにした連中に落とし前をつけなければならない」

 かくしてカオスな戦いの幕が開ける。

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最終更新:2012年01月25日 19:43