498: ライスイン :2018/04/16(月) 21:46:03
注)米英中への強めのヘイトやアーッを連想させる記述があります。
1940年 3月某日 モスクワ・クレムリン
「やはりイギリスはドイツと講和したか。」
「ロンドンが大規模空爆に晒された事と戦争遂行派のチャーチルが死亡した事が決め手になりました。」
クレムリン宮殿の執務室でスターリンがモロトフ外相から連合と枢軸の講和に関する報告を受けていた。
中身はほぼ現状維持での講和であった。
「日本とはどうなった?」
「ドイツは講和の際に日本をイギリス勢力圏から追放することを要求し、イギリスも受け入れたとの事です。」
「愚かな。」
イギリスの選択を嘲笑うスターリン。しかもイギリスは本土復興の為と称し、事前に取り決めた参戦報酬である技術供与と市場開放についても
約束を反故にした。技術を供与ではなく有料の売却(復興価格という名の割高で)に変更し、市場開放も空襲で荒廃した英本土の復興事業への参入許可
が与えられたのみであった。
「大口の支援元である
アメリカの意向もあるのでしょうが些か焦り過ぎです。手のひらを返し過ぎて日本は大激怒です。」
「だろうな。幾らなんでも供与された兵器をアメリカに提供しようとしたり、支援の代金の支払いを無期限停止するのはやり過ぎだ。」
イギリスは講和前から接触していたアメリカから多額の支援の条件として要求された事項の一つである”日本から供与された兵器の提供”を
実行していた。アメリカに渡された物は主に97式中戦車(初期型)や96式戦闘機(初期型)に連山(先行量産型)と軽巡天龍・龍田及び
峰風型駆逐艦4隻であった。無論この行いに日本は激怒して抗議したが新たに政権の座に就いたハリファックスは
”日本の支援が足りないから我々はドイツと講和しなくてはならなくなったのだ”
と恥も外見も無く逆ギレしたのだった。当然外交関係は悪化したがイギリスはこれ幸いとばかりにアメリカから提示されたもう一つの条件である
”日本の連合国陣営からの追放”を日本に対して通告した。
「そのアメリカですが我々と接触する動きが多発しています。どうやら日本と分断し、自分達の側に引き込みたいようです。」
アメリカは対日包囲網を形成すべく盛んに活動していた。張作霖の死後(※1)、後継者になった息子の張学良に多額の支援を行う事で父親以上に
引き込み、多額の復興支援や軍事援助を行う事で連合国を味方に付けた。ここで日本最大の友好国であるソ連を自分達の側に引き込めば
対日包囲網は完成し、上手く行けば戦わずに日本を屈服できる。そう考えても不思議ではなかった。
「ロングめ、早々に実績が欲しいようだな。何故我々が萌えを否定する連中(※2)と誼を深めねばならんのだ。」
アメリカの行動に嫌悪感を露にするスターリン。するとそこへNKVD長官のベリヤが入室してきた。
「同志スターリン、吉報です。同志アベルコフ(※3)からトロツキーを”社会的に抹殺”させたとの報告が入りました。」
その報告にスターリンとモロトフは笑みを浮かべる。
「トロツキーはメキシコ警察に逮捕され警察病院の特別地下牢に収監されました。メキシコ政府内の同志によると一生涯収監されるとの事です。」
「よくやった、奴を殺すのは世間体に不味いからな。態々手間をかけて社会的に抹殺して正解だった。これで懸案事項が一つ減ったな。」
日ソ同盟の憂鬱 第4話「黒き死の降臨」
499: ライスイン :2018/04/16(月) 21:46:39
940年6月、世界では一応は戦火はおさまっていたが、ただ憎しみは限りなく燃え上がっていた。その中心は勿論大日本帝国である。
一切の相談も無くイギリスはドイツ陣営と講和した挙句、参戦の際に約束していた条件がほぼ反故にされたのだ。それに加えて更なる支援を求めて
供与・売却した兵器をアメリカに献上した。そして復興の為と称して援助代金の無期限支払い停止を通行し、それに抗議すれば用済みとばかりに
連合国から追放する。一連のイギリスの裏切りに日本中は激怒していた。
「不味いですね、もう抑えが利きません。国民の反英感情は限りなく高まっています。」
夢幻会会合の席上では国民の反英感情の高まりに付いて報告が成されていた。
「まったく、チャーチルが死んだだけでここまでアメリカに媚び諂う位に零落れるとは。」
「民間でも代金の未払いや日本人従業員への不当な措置(給与未払いや不当解雇など)が始まっています。」
民間でもイギリスのモラル崩壊が始まっていた。ここに至り夢幻会は対英関係の再構築、つまり連合国への復帰を完全に断念した。
「連合国からの追放や対米関係の悪化に伴い、奉天軍も我が国への挑発行為を繰り返しています。」
蒋介石率いる国民党軍を奥地の重慶に追いやった張学良。対ソ連接近を図るアメリカの意向で共産党軍には手出ししていなかったがその分、日本への挑発を強めていた。
進出した日本企業への不当な課税や賄賂要求、公共事業(笑)への協力要求や雇用する中国人従業員への過大過ぎる待遇改善命令などである。
「進出企業には満州などの勢力圏まで撤退する様に命令を出しました。同時に暴発に備えて陸軍と増派の準備に入っています。」
「海軍も戦艦長門・陸奥、空母天城・赤城・龍驤を中心とした艦隊を上海沖に遊弋させる予定です。」
近衛や伏見宮が対応策を実行中との報告が成される。
「それで行きましょう。ソ連との関係を密にして、またアメリカへの工作を強化して戦争の時期を可能な限り遠ざけましょう。」
この策は会議終了後、直ちに実行に移された。圧倒的な戦力を前にした奉天軍は反位置活動を一時的に止めざるを得ず、日本企業や邦人は無事に
上海租界や満州などの勢力圏に撤退できたのだった(それでも被害は多かったが)。後は奉天軍との賠償交渉だけ、日本中のだれもがそう思っていた。
しかし・・・
500: ライスイン :2018/04/16(月) 21:47:11
1940年7月9日 アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「今ここに、日本の脅威に晒されている奉天政府(張学良政権)を助けるべく、軍事支援を決定いたしました。」
ホワイトハウスの庭に設置された記者会見場にてロング大統領が喜色満面で記者達に語った。
ロングは日本の行動を絶好の機会と判断し、議会に諮ったうえで大規模な軍事援助に踏み切ったのだ。主な物だけでも
M1戦闘車を始めとした旧式とはいえ装甲戦闘車両が500両、軽榴弾砲など各種旧式野砲200門、37㎜対戦車砲150門、小火器類20万丁
P-36/P-26など単葉戦闘機60機、旧式の複葉戦闘機が100機、複葉爆撃機が50機など旧式兵器の在庫一掃セールも兼ねているとはいえ膨大な量であった。
もっともこれだけなら日本側も大した脅威とは思わなかった。しかし海軍艦艇の供与も発表され、その内容が航海されると日本の怒りは頂点に達した。
○関羽級軽巡洋艦(天龍型):関羽(天龍) 張飛(龍田)
○趙雲級駆逐艦(峰風型):趙雲 馬超 黄忠 厳顔
これ等の艦が全て中国人による運用の元で奉天海軍”中華英雄艦隊”として上海に配備されると発表されたのであった。
1940年7月30日 東京 夢幻会会合場所
「最早これ以上国民を抑えることは出来ません、世論はアメリカ・イギリス・奉天への反感で溢れ返っています。」
会合の席上では国民の3か国への反感がこれ以上押さえつけることが出来ないほど高まっている事などが報告された。
原因は勿論”中華英雄艦隊”である。先の発表時の時点でフィリピンに到着していた同艦隊は20日に上海に到着し、乗員の休息と艦の整備を
行った後、さっそく日本海にて自国商船・漁民保護や海賊対策などの警察活動に入っていた。しかし警察活動とはいっても実態は日本商船への
不当な臨検や金品要求に加えて日本漁船の不当排除など海賊行為そのものだった。この為海軍も巡洋艦を基幹とした小規模な艦隊を複数日本海に
展開させる事を余儀なくされていた。
「それにアメリカもふざけた真似を」
伏見宮も怒りを覆い隠せない様子であった。3日前に上海租界から本土へ帰還する日本人を乗せた客船が中華英雄艦隊に公海上で拿捕される事件が発生していた。
聖撫子女学院(※4)の上海分校の生徒も乗っていたのだが臨検と称して乗り込んだ奉天軍兵士が彼女たちを自分達の艦に連行して”取り調べ”を
行おうとしたのだった。幸いにも引率教員たちが抵抗している間に重巡妙高・足柄率いる警備艦隊が到着した事で中華英雄艦隊は客船に乗り込んだ兵士たちを見捨てて
逃走した(乗り込んだ兵士たちは妙高乗組みの陸戦隊によって捕縛)。この件では女学生に被害は無かったが抵抗した引率教員に死傷者が出た。警備艦隊は
駆逐艦2隻を客船の護衛に付けて本土へ向かわせると全力で中華英雄艦隊を追跡しもう少しで捕捉できるところでアメリカ
アジア艦隊所属のオマハ級軽巡マーブルヘッド
とクレムソン級駆逐艦2隻が行く手を遮った。彼らは奉天海軍の教導任務で派遣されており、密に英雄艦隊の後を危なくなったら助けるつもりで追っていたのだ。
”正当な警察活動を妨害するな”
マーブルヘッドからの電文に警備艦隊は激怒し睨み合いに突入。この隙に中華英雄艦隊は上海港に逃げ込んでしまった。しかも翌日(2日前)に奉天政府から
正当な警察活動を妨害した事への謝罪と賠償及び拉致(拘束)した兵士の即時返還が奉天川から要求されていた。これ等の要因が積りに積もって国民の反発は
限界を迎えていたのだ。因みに中華英雄艦隊の各艦に対しては
”信じて奉公に送り出した娘達が奉公先(イギリス)の借金の形に無法者(アメリカ)に売られ、散々弄ばれた(調査された)挙句に
配下のチンピラ(奉天政府)に下げ渡された”
と薄い本の展開みたいな認識を抱く者も多く、悪堕ちN○Rなど多くの薄い本のネタにもなっていた。
501: ライスイン :2018/04/16(月) 21:47:42
「衝号・・・やりますか?」
海軍大臣の嶋田の言葉が響いた。穏健的な彼にすら強硬意見を吐かせる程に怒りは蔓延していたのだ。
「核は完成しているとはいえカナリア諸島は正式な領土となっています。それにスペインが我々に友好的な共和派政権のまま存続していますので・・・。」
「友好国にも損害を与えますので不味いですよ。」
と吉田や南雲などが反対する。もっとも怒りを募らせているのは彼らも同じだったが。
「いいネタがあります、ニューヨークのロックフェラー研究所で新型ペストが開発されていることが判明しました。」
辻の言葉に会合参加者達は一斉に彼の方を見る。
「他にも炭疽菌や天然痘にチフス・コレラなど多数の細菌兵器を対日様に開発中との事です。」
辻の言葉を補完する様に中央情報局の堀が言葉を続けた。彼らは盗聴の他に研究員を買収・脅迫するなどしてやっと開発情報を掴んだのだ。
「ソ連からも同様の連絡が来ています。彼らはどうやら研究員の一部を”共産化(萌え化)”させた様です。」
その言葉に複雑な気持ちになった。しかしこの情報を上手く使えば衝号をせずともアメリカを大混乱に陥れることが出来る。
「ではソ連と図ってこの情報を暴露してやりましょう。序に寝返らせた研究員に告白して貰えば効き目も上がるでしょう。」
悪人顔で語る辻の言葉に会合参加者達も頷くのであった。
1940年8月15日 アメリカ本土
「私は神に誓って真実をお話しします。私はニューヨークのロックフェラー研究所に勤めていた者です。」
この日、アメリカ全土に激震が走った。出所不明ながら大出力の電波でロックフェラー研究所の研究員を名乗る男がとんでもない告白をしたからだ。
その内容が
01:研究所ではロング大統領の命令で対日戦用に新型ペストを始めとした軍用細菌兵器の開発研究生産が行われている。
02:人体実験として冤罪で逮捕した日本人や日系人が使われている。
03:都市散布実験として極少量が黒人が住む地区にばら撒かれた。
04:今後は白人貧困層が多数を占める地域でも散布実験を行う計画がある。
05:対日開戦後には態と兵士を感染させたうえで日本軍へ突撃させる事も計画されている。
06:ロックフェラーなど財界主導で日本人だけを絶滅させる細菌の開発も検討されている。
など嘘と真実を適度に混ぜ合わせてあるが後悔と懺悔感を露にしたような迫真の告白に多くの人々が真実と思わされた。しかも他の研究員や職員の
告白とされる文章が週刊誌や一部大手新聞に掲載されるに至り全米は大混乱に陥った。
502: ライスイン :2018/04/16(月) 21:48:21
1940年8月16日 ホワイトハウス
「まだ暴動は止まないのかっ!!」
憔悴しきったロングが補佐官らに怒鳴りつける。衝撃の告白から一夜が明け、全米では反ロング・反財界・生物兵器開発反対のデモや暴動で溢れていた。
「大統領閣下、たった今多数の暴徒がロックフェラー研究所に押し寄せたとの事です。それに対して研究所の警備員が発砲し市街戦に発展しているとの事です。」
ノックも無しに入室してきた職員の言葉にロングは愕然とした。生物兵器開発や市民を使った人体実験の報道に怒り狂った市民が多数暴徒と化してロックフェラー研究所に
押し寄せ、それに対して研究所の警備にあたっていたロックフェラーの私設警備隊が発砲。暴徒側も撃ち返して市街戦状態に発展していたのだ。
「警察に取り締まりと排除を命じろ。」
ロングは至急取り締まるように命じる。しかし・・・
「駄目で、すでに指示を出しましたが警察は動こうとしません。”生物兵器を作って市民に人体実験するような悪党を助けるのは法と良識に反する”との事です。」
警察も今回の件で怒り狂っており、何かと理由を付けて動こうとはしなかった。
「ならば軍を投入してさっさと暴徒共を片付けるんだ。」
大切な後援者の危機(と対日戦の切り札を失う恐怖)からなりふり構わずに軍による鎮圧を命じるロング。流石に軍部隊は命令を拒否する事は無く暴徒相手に銃弾を
撃ち込んでいく。無論暴徒側も撃ち返したが火力の差は歴然でその日の内に鎮圧されてしまった。しかし戦闘や暴徒の破壊活動などで研究所は破壊される。
鎮圧後にロングは生物兵器の拡散を恐れて研究所を封鎖し貯蔵庫のあった地下にコンクリートを流し込んで封印してしまった。封印成功の報告に安堵するロング。
しかし一連の暴動や軍による鎮圧で10万人以上の死傷者が発生してしまった。だが犠牲はそれで終わりではなかった。
1940年8月29日、アメリカでは謎の疫病が猛威を振るっていた。暴動鎮圧翌日からニューヨークで風邪に似た奇妙な病気の患者が出始め数日の内に州中に拡大。
更に暴動鎮圧に加わった軍部隊が対日戦を見据えて西海岸に異動した事から西海岸諸州でも患者が拡大した。この奇妙な疫病の正体はロックフェラー研究所で
開発されていた強化型ペストを始めとする各種強化型生物兵器である。暴動で破壊された、若しくは封印措置が不十分だった貯蔵施設から漏れ出した物が
暴徒や鎮圧にあたった兵士に感染、それらが移動することで一気に感染が広まってしまったのだ。しかも現時点で有効なワクチンや血清が存在せず治療が困難を
極める状況でアメリカは徐々に国力(と大統領支持率)を低下させていく。しかも支援物資の空輸や船便輸送などが原因でイギリス本土、そして英連邦各国
にも広がるのであった。
503: ライスイン :2018/04/16(月) 21:49:40
※1:蒋介石軍による暗殺と認識されているが実際は息子を制御下に置こうとしたアメリカによる犯行。
※2:アメリカでは萌えを始めとする同人誌は”風紀と良識を乱す象徴”と判断され嘗ての禁酒法の如く取り締まりが行われていた。
※3:本名 アベルコフ・タカカズフスキー。元自動車工のNKVD工作員で青いツナギが似合うソビエト連邦の”いい男”。任務は反逆者やスパイなどを”社会的に抹殺”すること。
因みに彼によって”社会的に抹殺”されたトロツキーは精神崩壊と肛門裂傷により警察病院の特別地下牢に終身収監される事になった。
※4:辻が出資する女学院で大和撫子を育成するために設立されており、制服が着物で弓道や薙刀道が盛ん。海外領土や租界にも分校がある。
いかがでしょうか?イギリスの裏切りとアメリカの陰謀と奉天の暴走で日本の怒りは頂点に達しました。
まあ約束が反故にされたり信じて送り出した娘(軍艦)が薄い本みたいな扱いを受ければ当然でしょうが。最もアメリカは自爆同然にその報いを受け、
対日戦争どころではなくなり、影響を受けたイギリスでも戦後復興が困難になりました。ある意味衝号をやらずに済んで夢幻会は安堵しているかも。
そしていよいよチョビ髭が東に向けて動き出します。
~予告~
ニューヨークで発生した最近漏洩による疫病はアメリカ本土で急速に拡大し、カナダやメキシコにも達しようとしていた。そして同じく影響を受けて患者が発生した
イギリスを始めとして英連邦でも広がりを見せ、連合国陣営は機能を損失する。またアメリカが本土の惨状で機能しなくなったと判断した張学良は
在中米資産と米軍武器を手に入れるべく在中米軍に牙をむいた。この状況で連合国やアメリカの攻撃は無いと判断したヒトラーは欧州統合軍を組織して
ソ連に対して攻撃を開始する。しかしそこには名将に率いられた完全装備の大機甲部隊が歓迎の用意を整えていた。
次回”どくそせん”
掲載お願いします。
最終更新:2018年04月21日 15:10