546: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:39:06
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「B-Day」
Main Staring:
<Federation Atlantic Space Corps,Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
Green・Wyatt (Vice admiral)
Christopher・Lennox (Commander)
<23th Special Unit,Federation Atlantic Forces,Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
William・"Old”・Hunter (Captain)
<Special Squadron“Thunder Bolt”,Pascific Union Space Force,Pacific Union,O.M.N.I.Enforcer>
Io・Fleming (Ensign)
Cornelius・Qaqa (Chief petty officer:maintenance technician)
Vincent・Pike (Commander)
Edgar・Burroughs (Colonel)
Kasumi・Sajou (Major)
Karia・Mitchum(Captain:co-medical Staff)
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Special Thanks:時風氏
Written by:弥次郎
地上戦線の終結と、宇宙戦線への移行。
それは、ついにザフトが地球連合の攻勢を支えきれなくなり、地上から叩き出された、ということを示す。
これまで何とか支えていたものが、ついに決壊した。あとは、決壊した堤防がそうなるように、一気に崩れゆくのみ。
僅かに生まれたインターバルを利用し、各国は次なる宇宙での決戦に向けて動き出していた。
オーブ攻防戦とボアズ攻防とを結ぶ円環の一部。
宇宙開発の始まりともなったL1宙域をめぐる大規模作戦。
これは、宇宙という戦場を駆け抜けた戦士たちの記録である。
- 月 大西洋連邦 月面基地 アルザッヘル基地 上空宙域
月の弱い重力が届きにくい、アルザッヘル基地上空の宙域。
ほぼ無重力のこの宙域には、連合の宇宙艦艇が浮かんでいた。
さながら、空間に浮かぶ小さなガラスの器のようなもの。実際のところ、宇宙というあまりにも大きな、そして無慈悲な空間に対して、高々300mにも満たないような艦艇というのは、極めて便りのないものなのだ。また、その器も、うっかりすれば月の重力にとらわれ、墜落し、粉々に砕け散ってしまうことだろう。月の重力は地球に比べて弱いとは言うが、実際にはその重力は地球の潮の満ち引きに影響を与え、宇宙から飛来する隕石を地球ではなく月面へとコースを捻じ曲げるほどの影響力を発揮している。
まあ、地球と違って一歩間違えば燃え尽きてしまう大気圏に突入することもなく、落ち着いて上方へのベクトル変更を行えば、特別な装備はなくともとりあえず着地は出来るのだから、難易度としてはかなり低い部類だ。
そして、浮かんでいる宇宙艦艇は地球連合を構成する大西洋連邦宇宙軍の所属となる艦艇だった。
数は合計で7隻ほど。中には、ザフトの艦艇を鹵獲し、改装し、自軍の艦艇として仕立て上げたイングランド級がおり、それらを取り巻くのは、大西洋連邦系のMSだ。直線を多用した量産性と性能と拡張性を喧嘩させずに落とし込み、史実以上に量産されたまさにマスプロダクトの鑑と言える産物。
さらにMSだけでなく、航空機ならぬ航宙戦闘機といえるMAも飛び交っていた。
大西洋連邦の現行の、少なくとも地上での運用や宇宙における研究運用においてはMAとMSはある程度の棲み分けを以て連携し、ザフトのMSに対して対処する、という方針で行動していた。敵機及び敵艦の索敵と発見、MSを凌ぐ速力によるインターセプト、弾幕の形成などなど、あらゆる方面でのMAとMSの連携は研究されていた。
本来ならば、MSによる集団戦と平押しでごり押したことだろう。
実際、それで間違っていない。史実においては、それでヤキン・ドゥーエの決戦まで勝ち進んだのだから。
ジェネシスの存在や三隻同盟などのイレギュラーを除けば、そしてザフトのエースラウ・ル・クルーゼの奮戦が無ければ、それこそプラントなど残骸になり果て、コーディネーターの持ちたる国は消え失せていたことだろう。
されど、この世界では、それ以上にいたろうとしていた。
「んっ…と」
くっと、独特の圧力が体にかかる。
それはひどく懐かしい。MSと違い一方から強く押し寄せるのは直進を基本運動とする航空機特有だ。
ウィリアム・“オールド”・ハンターは久しぶりに航空機の、航宙機の操縦桿を握りしめていた。
非常にシンプルな計器類、HUD、見慣れた配置の操縦桿。違うとすれば視野が広く保てるようにモニターが大きくとられており、機体のコンディションを映す表示が複雑ということか。ただ、複雑ではあるが見やすさが損なわれているということはない。
549: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:45:16
(いい機体だ)
ハンターは、乗り込んでいるMA「スクィッド」をそう評価する。
火力、速力は非常に高い。若干機動性というか、格闘戦には不向きなところもあるのだが、そこはそれ、だ。
大気圏内の航空機のようなエアブレーキが出来ない代わりに、逆噴射をする必要があるというのが違う点だが、それでも航空機よりも自由度が高い。上下左右の区別が客観的には存在しないということは、自由な方向転換ができるということである。
また、大気圏内においては高度によって発生する保有する運動エネルギーの差異がないということも厄介だ。
いつもの癖で下方向への退避を選ぶと、先読みされて置き撃ちされるだろうという予感がある。
一方で、とハンターはモニターに表示されているMSを見やる。
そこに表示されているのは大西洋連邦のMSであるストライクダガーだ。
正確に言えば、初期型からのバージョンアップモデルであるA2型である。
乗り込んでいるのは、第23特務隊に配属された地上戦線から先行して宇宙に上がったパイロット達。
ストライクダガーは性能が抑えめであるが、一方、極めて素直で、スタンダートな仕上がりのMSであった。
何しろ宇宙空間でのMS操縦を行うというのは、かなり難易度が高いので、そういった機体の方が訓練には向いている。
一番マシなのは、航空機パイロットだ。少なくとも上下左右に存在する幅広い空間を動く術を身に着けているのだから。
しかし、一番まずいのは陸軍の戦闘車両の兵や歩兵たちだ。彼等は地上でMSを運用する分にはよかった。
ファランクスを構成し、地面を動き、敵を捕捉し、射撃を行う。それだけでザフト相手には十分戦力となれたのだ。
だが、宇宙ではファランクスは立体的に攻められるが故に、懐に飛び込まれやすくなり、地上よりもやや不安が残る。
宇宙軍が嘗て行った通商破壊では、ザフトも対ファランクスの戦闘技術を得ており既に実施されつつあることが確認されており、なおのこと散兵戦術への進歩が急務となっている。勿論パイロットの錬度が足りなければこうした集団戦を選ぶのは間違いではないのだ。
今映っているストライクダガーは、まだまだ動きが拙い。
正直なところ、MAでも撃破出来てしまえるのでは、という感想を抱いてしまう。
ただ、指導役であるアルザッヘルやプトレマイオス基地のパイロット達に言わせれば、自分達はかなりのペースで飲み込んでいるとのこと。
地上での動きをうまく宇宙の動きに適応させ、OSに慣れる。元々の能力が高いパイロットが多かったために、そこをなんとかこなし、OSや機体の設定などで甘いところを次々とあぶりだし、調整を繰り替えす。これが完了すれば、後発のパイロット達も短い期間で宇宙での動きになれることができるのだ。直近に迫る戦いに備え、可能な限りデータをかき集め、洗練させる。
MAの研究も行う、という仕事のある自分もさらに努力せねばなるまい。
『あれは…ユノー少尉か』
カメラが次に捉えたのは、ユノーが操る「23-01-03」のナンバーが肩や胸部にペイントされたストライクダガーA2型。
陸軍出身というハンデもあって当初は苦戦していたのだが、彼女は並々ならぬ努力で徐々に乗りこなせるようになっていた。
彼女がコーディネーターだから、という見方をする人間は、ほとんどいないし、声として上がることもない。
彼女がどれほどの努力を重ねているか、ともに訓練していれば、嫌というほどわかるから。
550: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:46:09
そして、ハンター自身も、MAとMSのパイロットとして訓練しつつ、MS隊指揮官としての研修を重ねている。
三足の草鞋だ。ハンターがこの戦争で分かったことだが、優秀になりたければ、それ相応の対価を支払えばよいのだ。
生まれる前か、それとも生まれて成長してからなのか、順番はいささか違うかもしれない。だが、本質は同じだ。
力を得るために、何かを費やす。費やして必ず報われるわけではないが、費やさねば、投げうたねば何もない。
だが、それをあざ笑うが如く例外というものは存在していた。
(なるほど、いきなり宇宙で動かせたキラ・ヤマト少尉の活躍に異常を感じるわけだ…)
ハンターの脳裏に浮かぶのは、シミュレーションや戦闘訓練用のレギュレーションとはいえ、戦闘訓練を願ったコーディネーターの少年パイロットだ。
彼の戦闘能力は、搭乗しているMSがフォビドゥンのことを差し引きしても、高いものだった。
一見、フォビドゥンというのはゲシュマイディッヒ・パンツァーでビームを弾きつつ、自在に曲げられるプラズマ砲で戦うだけの、非常にシンプルで堅実なMSに見える。だが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーは案外燃費に注意が必要だ。プラズマ砲にしても、屈曲させても問題なく威力を発揮できるように高出力であるし、単独での飛行さえも実現するバックパックを備える機体を制御するのは楽ではない。
下手に電力が切れればまともに動けなくなるのは他のMSも同じであるが、フォビドゥンは輪にかけて依存している。
腕部に機関砲が設けられ、実体のある鎌が武装として選ばれているのは別に趣味でもなんでもなく、それが適切と判断されたためなのだ。
まして、フォビドゥンというのはビームを弾くが故にヘイトを稼いでしまう。嘗て、敵兵を一方的にたたくことができる弓兵やスナイパーがそうだったように、前線において活躍する盾役というのもヘイトを稼いでしまうのだ。ヘイトが集まれば射撃も集まり、TPS装甲が燃費が良いとはいえバッテリーをさらに消費する。
そんなわけで、適宜ゲシュマイディッヒ・パンツァーとそれ以外の武装を使い分け、尚且つ戦場で立ち回るというのは簡単ではないのだ。
だが、そんなことをほんの数か月前まで学生をやっていた少年にできるというのだろうか?
ハンター自身、信じられなかった。操縦自体はよどみがなく、敵を打ち倒すための、教本通りとはいかないが、相手の動きに合わせて食らい付くようにして反応する、闘争心溢れるパイロットという印象だ。
しかし、蓋を、否、コクピットハッチを開けてみれば、そこには大人しい性格の少年パイロットがいる。
今一、彼以外のアークエンジェルクルーの証言する戦場の姿と実際のキラ・ヤマトの姿が一致しないのだ。
万が一に可能性があるとすれば、彼がたまたまGAT-X105のコクピットに潜り込み、成り行きでMSを動かし続け、幸運とその類稀な学習能力でザフトのエース部隊を退け続けたという、どこの創作だという流れしかないだろう。
流石にそれを、ハンターが追及するのはためらわれた。聞きたくはあったが、それはキラ・ヤマトという人間を見て止めるべきと判断したのだ。
少なくとも彼は、戦争に積極的に取り組む人間でもなければ、快楽を見出すような人間ではないのだ。
(つくづく、戦争はろくでもないな…)
正直、あの好青年が戦争に関わっていることが不思議でならない。
ある意味で盾役を彼が担うのは幸運であり、同時に不幸かもしれない。
心優しい彼が戦い続けるには、敵を殺すためではなく味方を守るという方がよりやる気を引き出すだろう。
だが、優しすぎる彼は、その身と引き換えに味方を守るかもしれない。そんな破綻を彼には迎えてほしくはない。
ハンターにできることは、彼と言葉を交わし、ケアの真似事をすることだけだった。
結局のところ、彼がどのように戦っていくのかを決めることができるのは彼自身にしかできないことなのだ。
ハンターが無理に関わらなくとも、ムウ・ラ・フラガ中佐をはじめとした大人たちが周りにおり、ケアを行っていることも彼を通じて知れた。
だとするならば、自分はほんの少し方向を示してやるだけが分相応というものだろう。
自分が注意を払うべきは自分の部下たちだ。第23特務隊は、錬成を進めているが、宇宙での戦闘で何が起こるかは分からない。
連戦と訓練で精神的にも疲弊しているパイロットも見受けられる状況なのだ。L1に向けてやることは多い。
まだまだやることがあるならば、自分はひたすらにそれをこなしていくだけだ。
「行くぞ…!」
ペダルを踏み込んだハンターの指示のままに、スクィッドは加速した。
551: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:47:21
グリーン・ワイアット大西洋連邦宇宙中将が属する軍内部の派閥は、艦隊派と呼ばれる派閥である。
元々、大西洋連邦というのはイギリスと
アメリカという二か国+αが土台として存在している。
統合された軍が編成され、大西洋連邦となるにあたって、その系譜はいまだに続いている。
そして、宇宙軍内に存在している軍事的な方針をめぐるあれこれの派閥の中で、より軍の規模を拡張していくべき、と嘯くのが艦隊派である。
勿論のこと、これは単に軍艦を配備しろ、ということではない。宇宙開発を推進し、地球という揺り籠への比重を小さくし、更なる宇宙開発を推進すべしという、政治や民生までも絡んだある種の繋がりというかコミュニティーのようなものであった。この艦隊派は世間一般、特に戦争勃発後にはその力関係からブルーコスモスの一派とみなされてはいるのだが、どちらかといえばその艦隊派の伸長がひいてはブルーコスモスのシンパの企業に利益があるためという、割とズブズブな関係にあることに由来している。グリーン・ワイアット中将も、その出自を洗えば宇宙艦艇に関わる企業との伝手があることが分かるだろう。
しかし、かと言って彼は政治とコネだけで成り上がったというわけでもない。
そも、宇宙軍中将というのは生半可なことでは就任できるはずもないのだから、コネも実力も運もなければ無理なのだ。
最近では第八艦隊を開戦から暫くは大佐階級だったハルバードンが艦隊トップを務めていたりしたけれども、あれはまあ特例という奴である。
何しろ、宇宙艦隊の指揮官がザフトが選んでいた「敵主力艦及び敵艦隊旗艦をMSの集中投入で撃破する」という斬首戦術の犠牲になったため、急遽人材を昇進させて凌ぐしかなかったのだ。その中でもハルバードン提督はMSの導入を積極的に行うべしと提言を行っており、隗より始めよということで艦隊を任されていたのだ。まあ、戦力温存を命じられていて、MS運用を行う研究を行っていたのに艦隊全滅は頂けないが。
話を戻す。
ともかくとして、人員の育成とMSの配備が進んだ宇宙軍は、エネルギー不足に悩むことはなく、順調にその牙を磨き上げた。
第八艦隊こそ撃滅され、被害は大きかったのだが、それでもなお止まることはなかった。
プトレマイオス基地やアルザッヘル基地は無事であり、艦隊の再建と戦訓の分析と対策の実施などは行えていた。
何よりも、MSの配備も大きいだろう。MSを搭載できるように改装されたドレイク級やネルソン級、アガメムノン級は続々と就役し、MSも宇宙軍の要求に合ったものが徐々に配備され、さらにMAも対MS戦のノウハウを獲得して配備されている。
その光景は、艦隊指揮官たるワイアットをして、満足に足るものであった。
序盤において戦力温存をあえて選び、地上三軍に大きな貸しを作った宇宙軍がついに主役を務める瞬間が来たのだから。
プトレマイオス基地のオフィスにおいて優雅に紅茶を傾けるワイアット中将は、間もなくに迫る連合理事国宇宙軍同士の会合を前にして、資料のチェックと各国に提案する作戦についての練り直しを行っていた。L1奪還の流れとしては、オーブ戦のように互いのフィールドを区分けし、事前の偵察で確認されているザフト重要拠点を叩く手筈となっている。大洋連合は陽動を務めつつ、敵重要拠点への強襲攻撃を予定している。
一方で、大西洋連邦と東アジア共和国は似たような作戦を展開する予定だ。敵主力を如何に補足し、急行して仕留められるか。
データリンクが乏しい中で視界が劣悪な環境での戦闘だ。フレンドリーファイアや敵を見逃すなどが起こりうる。
ワイアットの視線は、オフィスに持ち込まれたモニターに向けられている。
これまでの偵察の結果からピックアップされたザフトの拠点と要注意戦力だ。
世界樹を構成していたコロニーのデブリの大きな塊がL1宙域には4つほど散らばっており、それらにMSや艦艇と思われる機影が多い。
また、小惑星型のコロニー「ウルド」をそのまま利用したと思われる拠点が3つ。さらに、世界樹崩壊でも無事だったバナール球型が1基。
そのほか、連絡を中継するための基地や監視所のようなものを含めればさらに増えるだろう。
(だが、ことはスマートに終わらせる必要がある)
552: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:48:48
当然の判断として、ワイアットをはじめとした大西洋連邦宇宙軍は、細かな拠点を一つ一つ潰すことを選択肢から外していた。
重要拠点を叩き、決戦で敵主力を叩きつぶす。それだけである。デブリの除去は進めているし、制圧に向けた布石は順調だ。
そうすれば残る拠点の戦力は遊兵あるいは孤立した勢力になってしまい、苦労せずに各個撃破できる。
懸念となるのは、大型の機動兵器、明らかに改装が加わっている大型の宇宙艦艇。さらに、機雷の散布やトラップなどを仕掛け、決戦ありきなザフトが少しばかり手を変えてきていることは明らかであった。明らかな時間稼ぎだ。
それによって被害が積み上がることは、許容は出来ても気分が良いものではない。
コストと時間を鑑みれば、そろそろ攻勢に、それこそ一撃での決着を試みる時期だ。
(……仕掛け時、だろうか?)
何事もタイミングが重要だというのは、少しチェスをたしなめばわかること。
戦力を揃え、場面を俯瞰し、動かす。シンプルだが、それ故に言い訳のきかない。
L1奪還作戦はおおまかな日取りは決まっているが、最終的な開始日程についてはこちらに任されている。
大洋連合からも一定期日以上の準備期間があればいつでもいけるとの了解は得ている。
こうしている間にも着々とMSの開発は進み、人員の訓練は進むし、ザフトは消耗していく。
だが、なんというか、スムーズに行き過ぎていて、妙な感触だ。このまま追い払うことが、プラントとの戦争の勝利につながっているは明らかであるが、どうにもニシンの燻製に思えてくる。
「レノックス中佐。君はザフトの不可解な動きについてどう思う?」
問いかけた先、クリストファー・レノックス中佐は少し迷うそぶりを見せた。
宇宙軍全体でも、このザフトの一見無意味に見える時間稼ぎに困惑があった。
時間を稼いで何をやっているのか。
降伏の準備か、新たなる戦力の配備か、それとも逆転の戦略兵器があるとでもいうのか。
しかし、地球から叩き出され、さらには月周辺の拠点も失えば、プラントから地球に影響力を及ぼすのはかなり難しくなるのが実情だ。
例えば、ザフトがパナマ攻防で用いたグングニグールは降下地点をMSによって強引に確保し、さらには地球の軌道上に艦艇を送れたからこそ大西洋連邦に対して牙をむくことが出来た。逆に言えば、降下地点を確保できなければ迎撃されていたし、制宙権をある程度得なければグングニグールの投下さえできなかった。だから地球や月に対して何らかの兵器を、NJ同様に投下して発動させたければ、最低でもL1は必要になる筈なのだ。例え隕石を地球に落とすような攻撃をするにしても、である。
制宙権は紛れもなく連合のものとなりつつあるのだし、そもそもザフトは既に戦力が枯渇に近い。
そんなことをすれば、本国が落ちて元も子もなくなるのだ。
だからこそ、レノックスの返答はザフトに対する非常に困惑を伴うものだった。
「ザフトが時間を稼いでいる意図が今一釈然としません。
とはいえ、それを推し量っていても問題は解決はしないでしょう。
我々は宇宙での勝利を確定できるかどうかさえ不確定です。まずはそれを始めねば、どうにもなりますまい」
「ふむ、そうだな…」
確かに宇宙での勝利というのは大きなもの。だが、積極的に追いかけても何か意図があるように思える。
時間を稼がれているという自覚はある。だが、何のための時間稼ぎなのかが不明だ。
553: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:49:25
「…しいて言うならば、死なばもろともと攻撃を加えることですが…それを実行するには、ピースが足りません」
「ピース、か」
呟くようにその言葉を転がす。
そう、ピース。決定的な駒といってもよい。
空想する分にはいくらでもできるが、かと言って実行にはきわめて多くの対価がいる。
「例えばですが、地球に核兵器や化学兵器を大量投射するという手もありますが、生産できるかどうかも怪しく、すでに地球にさえ近寄りにくくなる状態でそれは現実的ではありません」
「確かに」
「同じような理由で、NJのような兵器も恐らく投下は不可能でしょう。投じることが出来たとしても、それは月面が精いっぱい。
月面に連合の戦力が集中しているので効果を及ぼせば利は大きいでしょうが、その分迎撃されやすいでしょう」
「そして月面を制圧して維持するだけの戦力は既にない、か」
「先程も申し上げましたが、我々はまず足元を固めるべきです。急いだところで、詰み上がるのは犠牲のみです」
「その通りだ、急いてもしょうがない…ありがとう、レノックス中佐」
もう一度基本に立ち返るべきか。そう思い、お茶のおかわりを頼むことにする。
いずれにせよ、ここを超えられなければそれまでなのだ。部隊の錬成と休養が完了したら、即座に行動に移るのがベターだろう。
レノックスに礼を言いながらも、ワイアットは再度モニターに映るL1宙域をにらむ。
(ともあれ、ここを超えてからだ)
大洋連合への諜報活動の結果からすれば、彼らもザフトの動向を追いかけている最中ということが分かっている。
特に、プラント本国周辺にある宇宙構造物を重点的に探しているらしい。戦略的効果を発揮できる宇宙要塞でもあるのだろうか。
それこそ、この戦力差を覆せる何かを備えた宇宙要塞。ある意味、盲点を突かれている。MS主体のザフトがいきなり要塞を要とする戦略をとれば、
MSをようやくそろえた大西洋連邦は苦戦を免れない。最終的に勝利できても、犠牲が大きすぎることだろう。
(より情報の精査が必要だな)
ザフトの『友人』からも、上層部の考えが不明であるということしかわからない。
というより、プラントのマジョリティを占める人間達にとっては、手段の目的化が著しく、そういった方針についてのある種の無関心がある。
だからこそ、上層部が情報封鎖を行うのも容易いのだろうと予測される。純正培養され、外の世界を知らないコーディネーター達は、あまりにも無知で、幼いのだ。だがその純粋さがある種の防壁となっている。情報を知らなくても疑問に思わないし、出されている情報を鵜呑みにしている。諜報や調略活動においてはある種の天敵でさえある。
(……)
深く思索を巡らせる中将を抱いて、プトレマイオス基地の時間は流れていく。
最後の時、揺るがないと思われたザフトの優位がついに崩れ、安泰の時が終わる時を目指し、時計は動いていく。
554: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:50:33
大洋連合がC.E.初頭から開発を続けてきた月面都市「新因幡」。
プトレマイオス基地を凌ぐ巨大な月面都市であり、大洋連合宇宙軍の月面拠点の一つ。
L1世界樹攻防戦後に地球との行き来が寸断状態になった連合の月面都市や基地が、その後も自足出来た原動力の一つだ。
NJの散布後であってもエネルギーの融通があり、何より無事に温存されていた大戦力がザフトの迂闊な行動を抑止していたのだ。
ここほど安全な月面拠点もない。疑いようなく、連合でもトップクラスの戦力が常駐しているのだ。
宇宙での通商破壊を大規模に行っているのは大洋連合であるし、それを行うためのMS戦力もかなり大きい。
アフリカ戦線、そして南米、オーブと戦場こそ違えども発揮された大洋連合のMSの恐ろしさは、連合内部でも有名だ。
ザフトとの戦線を抱えていない、ということを考慮したとしても、宇宙でも活発な活動が出来ているという点において、やはり大洋連合は一線を画す国家と言えるだろう。
そして、その新因幡の一角。軍港として整備されている一角には多くの宇宙艦艇が集っていた。
第二特務艦隊のアーガマ級強襲巡洋艦二番艦「ニカーヤ」、サンダーボルト師団の神風型を改装したMS母艦「ドライドフィッシュ」および大型輸送工作艦「ビーハイブ」を筆頭に、和泉級巡洋艦や高雄型巡洋艦、そして極めつけに長門型戦艦までもがいる。
長門型は全長が400mを超えるナンバーフリート旗艦を務める長門型が顔を出す意味は、推し量るまでもないし、おまけに後方支援を担当する輸送艦に至っては両の手の指を超える数が集っているのだ。
大洋連合が大規模な軍事行動に移ることは明らかであった。
それについてはどの勢力も、新因幡に無形有形の形で諜報の網を巡らせている国ならば察していた。
少々頭が回れば次なる戦場が何処であるかなどわかる。そう、月-地球間のラグランジュポイント1、元々は世界樹と呼ばれるコロニー群の存在していた宙域。現状、最前線どころか、連合の懐の内といってもよい領域である。
その大洋連合は悠然と準備を整えている。焦ることもなければ、急いでいることもない。大洋連合も地上での戦いの小休止が必要であるし、
今からザフトが逆転の手を打てるかと言われれば、それはNoである。そうであるが故に、連合は堅実な積み重ねを行っている。
さて、宇宙艦艇のメンテナンスは、週間単位で行われるのが常である。
長期に作戦行動及び航行を行うのが当たり前の宇宙艦艇ではメンテナンスが必要な箇所を極力減らし、また、メンテナンスをある程度行わなくとも予備のエンジンや機関部を稼働させることで問題なく航行し続ける能力に秀でている。
何しろ動けなくなれば宇宙では死を意味するためで、何が何でも航行できる能力を失ってはならないという意思は設計や建造に出ている。
帰港した艦艇は、その分だけメンテナンスを時間をかけて行う。戦時ということも会って人員がフル動員されて24時間体制での整備だ。
そしてその期間、多くのクルーやMSパイロット達は暇になる。よって、ここぞとばかりに町へ繰り出していた。
新因幡の町の一角はクルーたちのために貸し切り状態になっている店が多い。
戦時ということもあるし、この新因幡が軍の駐留基地となって久しく、よくよく心得ている店が集まっているのだ。
久方ぶりの開けた空間。そして、艦艇にあるPXなどでも得にくい娯楽品が並ぶ店は、連日騒ぎとなるだろう。
殊更に、イオ・フレミング少尉の機嫌は良かった。
長らく愛用してきたFAガンダムも、経験を積み重ねる中で成長する彼にはついに追従が難しくなり、要望していた新型がついに配備されることになったこと。さらに、単純に休みを得られたこと。
加えて、長らく疎遠だった笹原明人と再会できるということも、イオの機嫌をさらに良くしていた。
イオ・フレミングは確かにエースである。だが、逆に言えば彼に追従し得る人間が少ないということであった。
彼の出自も、彼が孤独を深める原因でもあった。上流階級という、ある種の閉鎖環境に彼は生まれた。
別段彼がそれを嫌っていたとか、憎んでいたというわけではない。曲がりなりにも彼は高貴ゆえの義務というものを心得ており、だが、それでも。思うが儘に、自分の考えたことを素直に吐き出せる環境を、仲間を彼は愛していた。
何が悲しくて不自由なところに身を置かなければならないのか。なぜ偽りの笑みを張り付けて振る舞う必要があるのか。
「なあ、コーネリアス。アキトが来るのは何時なんだ?」
「落ち着けよ、イオ。ここ最近そればっかりだぞ?」
「ああ、分かってるさ」
555: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:51:23
駄目だ、分かっていない。
全く落ち着きのない幼馴染の返答に、コーネリアスは苦笑するしかない。
コーネリアスもよくわかっている。イオの言うアキト、笹原明人はイオ・フレミングという人間に追従し得る逸材なのだ。
たまたま任務が一緒になって、知り合い、そして友誼を結んだ。それがイオにとってどれほどありがたいことだったか。
戦場に自由を求めても、その先には結局孤独が付きまとった。だが、それについてきてくれる人間がいる。共に分かち合える人間がいる。
メカニックのコーネリアスでも、艦長を務めるクローディアではできないことをなせた。
そういう意味で、イオは今充実しているのだろう。
笹原を誘って新因幡で騒ぐ計画を楽しそうに語るのは、嘗ての、地上では見られなかった顔だ。
まあ、少しくらいはこの幼馴染に付き合ってやろうか。そう思って、コーネリアスは楽しそうに休みの計画を話すイオに耳を傾けた。
どことなく、艦内や宇宙港は明るい空気に満ちていて、にぎやかだ。
戦闘を行う艦艇であり軍港は常に一定の緊張感があるのだが、やっと長期の休みということで、どこか浮かれている。
そんな艦内に、ヴィンセント・パイク中佐は少なからず思うところがあった。
「ったく、少しは緊張感を持ってほしいぜ…休暇が嬉しいってのは分かるが」
「あら、中佐はお休みがいらないのでしたら、16連勤程していただきましょうか?」
「そ、そうはいっていない!休ませろ!」
パイク中佐の愚痴に、壇上で資料の確認を行っていた沙条霞少佐はそうからかった。
軍務である以上、感情を抑え、理性と規律のもとに行動することが求められている。
おまけにサンダーボルト師団は基本的には長期作戦行動、長期作戦を行う為にも物資は多く積まれるが、環境ゆえに消費が速く、補給艦が来なければそれは補充されるかどうかでかなりシビアなところがある。
宇宙艦艇勤務者であり喫煙者でもあるパイクは、まさにそれに苦しめられていたと言えるだろう。
本当ならば彼も思う存分に煙草を吸い、栄養バランスを考慮した食事ではなく分厚いステーキを食べたがっているはずだ。
口ではそういいながらも、結局彼が一番羨ましいのだ。
とはいえ、彼をはじめとしたサンダーボルト師団の上位階級の人間が集められているのは、この休暇の後を見据えてのことなのだ。
来たるB-Day。その日こそ、L1宙域奪還の火ぶたが切って落とされることになっている。
そのB-Dayについてはまだ決定されてはいない。防諜の為と、そして、おおよその日取りはともかくとしても実働を担う大西洋連邦と東アジア共和国の錬成完了を待たなければならないためだ。後詰めとなるのはユーラシア連邦で、当該宙域の掃海と警備を実施し、さらに月面都市「コペルニクス」へのにらみも聞かせる手筈となっている。また、他のラグランジュポイントに対しても各国の宇宙艦隊からの派遣隊が向けられることで、ザフトの締め出しをさらにきつくすることになっている。
これによってザフトは地球からだけでなく、月面周辺からも叩き出されることになる。残るは本国とその前の要塞だけ、というわけだ。
その始まりとなる作戦であるが故に、こうした準備はいくらしてもし足りないのだ。
「中佐、君は少し健康に気を使うべきだぞ?」
「ぐっ」
上官のエドガー・バロウズ大佐にまで言われると、流石に言い返せない。
師団のトップの代理という役目を負うバロウズは、当然だが乗員の健康についても把握している。
長期の宇宙での作戦は心理面だけでなく肉体面でも影響が出るのだ。だからこそ、メディカルスタッフの報告はしっかりと目を通しているのだが、
「カーラ君からのレポートには目を通しているが、少し血圧に不安がある。
それにストレスもかなり溜まっているようだ。だが、それの発散でさらに不健康になるのは看過できんぞ?ん?」
「カ、カーラ先生…」
「艦隊の健康を預かる身としては、中佐にはご自身の健康を顧みてほしいです」
既に、味方無し。
がっくりと肩を落としたパイクの姿に苦笑が漏れる。
556: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:53:16
「まあ、パイク中佐にはちゃんと休みも割り当てるし、多少羽目を外しても構わん。
仕事に影響を及ぼすことだけは避けてくれ」
「良い機会です、中佐も少しは体を絞ってみては?」
「勘弁してくれ…」
健康的な肉体を作るための保養施設のパンフレットを取り出すカーラに、パイクは降参だと両手を上げるしかない。
新因幡の軍の保養施設は、それこそ生活習慣を改善する、あるいは矯正するために用意されている施設だ。
健康体になるしストレスもないのであるが、今の生活から切り離されるというのは中々に辛いものがある。
少なくとも、酒やたばこなどが楽しみの一つであるパイクにとっては辛いだろう。
少し緊張がほぐれたころを見計らい、ちらりとバロウズが壇上の沙条に視線で合図をした。
タイミングとしても時間としても丁度良いころ合い。小さく頷いた沙条は一つ咳払いをすると、一礼をした。
「時間です。では、ミーティングを始めましょう」
沙条の言葉に、ビーハイヴのブリッジに集まった首脳部は襟元を正す。
参謀本部との連絡役も兼ねる沙条は、新因幡を経由して大本営から情報と指令を受け取っており、それを持ってきたのだ。
宇宙での行動はこれまでは通商破壊が中心であり、主力艦隊を動員しての作戦は久方振りとなる。
「先だっての定例会議でもありましたが、まもなく地球連合は地上戦線から宇宙戦線での反抗作戦を開始します」
切り出しは、断言から。
その事実は誰しもが認識していたことであるが、改めて言葉として出されることで、それを強く印象付けた。
これまでの通商破壊も攻勢作戦ではあるが制宙権までも左右するような戦略的な影響力はなかった。
その作戦の意義を、沙条は簡潔に述べる。
「L1宙域の奪還が今作戦の目標となります。月と地球間の行き来をスムーズにする以上の価値があります。
奪還によって憂いなくザフトとの戦線を押し上げ、我々が宇宙においてもザフトに後れを取っていないのだという証明に。
本作戦が上手くいくことが、今後の宇宙での攻勢作戦に与える影響は並々ならぬものとなるでしょう」
そうだ、とバロウズが大きく頷いた。
これまでザフトの侵攻を受け止めていた状態からこそ、攻勢のスタートは勝利をとらねばならない。
「今回の作戦に対しては戦力をかなり配分しております。
宇宙軍の肩慣らしという面もありますが、失敗が早々に許される作戦ではないということをよく心得ていただきたいです」
これは大洋連合上層部が懸念していることであり、同時に連合全体でも共通認識となっていることだ。
言外に沙条は告げている。この作戦の価値は、字義以上の、一方面の作戦以上の物だと。
確かにこれまでも重要作戦はあったのだが、それらはすべて地上、連合にとってのホームグラウンドだ。
そこで勝てたからと言って、楽観視は出来ない。相手の領域でも勝てなければ、再びの膠着となる。
改めて、ブリッジに集まる人員の表情が引き締まった。
「では、具体的な…現段階で定まっている基本的な作戦骨子を説明します」
それに満足げに頷き、沙条は手元のコンソールを操作し、モニターにL1宙域の地図を表示する。
「今作戦は、主力艦隊を吸引役としてザフト戦力を迎撃しつつ、事前の偵察情報に基づいて敵拠点を少数戦力で強襲、機能をマヒさせてザフトの作戦行動能力を奪うことが我々の役割となります」
表示されたマップに視線が集まる中、沙条は説明を継続する。
「L1に点在しているザフト拠点の中でも規模の大きなものはデブリ密集地域に4カ所、小惑星型コロニー3カ所、奇跡的に破壊を免れたコロニーに1カ所。その他、雑多な監視所や中継点が見受けられます。我々の目的はこの主要な拠点となります」
マップ上には沙条の言葉を示す通りの拠点が表示されている。
確定で設置されている箇所は少ないが、予測地点を示す光点はその数倍はあるようだ。
それだけL1という宙域が広く、そして遮蔽物や拠点を設置するのにちょうどよいコロニーの残骸などが安定して漂っているということである。
「勿論、これは最新の偵察の結果ではありますが、絶対正しいというわけではありません。
ここ1カ月ほどでザフトのインターセプトの能力は向上が見られており、宙域内での活動の不透明さが増しているためです。
上層部も偵察を進めることにしておりますが、これ以上の情報収集を続けても成果は望めないのではと懸念されています」
「ふむ…やっかいであるな。蛇のいる藪に手を突っ込むような作戦となるとは」
557: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:54:10
「事前の策として我々は偵察用MSと偵察を行う小艦隊を配置し、長門型陸奥を旗艦とする主力艦隊を接近させ、宙域内の動きを探ることとなる予定です。そして、本体がザフト主力を拘束している間に、第二特務艦隊およびサンダーボルト師団及び派遣艦隊からの戦力でこれを強襲します」
画面上に、色分けがなされた矢印が表示され、デブリの密集する宙域を瞬く間に駆け抜け、突き刺さる。
その矢印の先には、ザフトの拠点を示す光点が存在していた。確かに拠点を少数戦力で強襲するのは危険が伴う。
だが、それはあくまでも譜面上の話だ。あくまでも拠点の能力を奪い、離脱するだけならば一撃離脱に徹すれば容易となる。
問題なのは、そこにきちんとザフトの拠点があるかどうか、である。
「偵察の結果の如何によっては、襲撃地点を変更することもあります。
これについては直前までNJで阻害されない赤外線通信などで情報共有を行いつつ、臨機応変に対応していただきます。
可能な限り隠密裏に近づき強襲することになりますが、それでもMSの回収と補給、さらに宙域の移動は時間がかかるでしょう。
MS隊やMA隊については、戦闘で消費する推進剤や武器弾薬について注意を払ってください」
「コイツは厄介だな…ウチのエース殿は確かに強いが、武器弾薬の消費が激しい。
突撃してはずれだった場合、補給を行う間のインターバルが問題になるな」
パイクのつぶやきに、ビーハイヴ艦長のクローディアは頷くしかない。
サンダーボルト師団のエースであるイオのMSであるFAガンダムは強力だが、補給やメンテナンスには時間がかかる。
航続距離・推力・火力・装甲と優れているのだが、補給時間がかかってしまう。どのタイミングで、何処に向けてぶつけるのか。
パイロットの方は心配いらないが、そうであるが故に無駄に動かすことは望ましくはない。
だが、本作戦が政治的なものもあって奇襲と強襲の合わせ技となれば、FAガンダムほど適しているMSは存在しない。
MA戦力もいるので代替が不可能というわけではないが、それでも戦力が動けなくなるというのは厄介なことだ。
広い宙域だからこそ、そこに注意が必要だろう。
「また、サンダーボルト師団の方にも新型がいくらか配備されることになっております。
予備パーツも含めての搬入ですので、艦艇の整備が済み次第、優先して行いたいと」
「ふむ…それは少し大変だな」
バロウズは脳裏にドライド・フィッシュとビーハイヴのメンテナンスや調整のスケジュールを思い浮かべる。
元々予定されていたこととはいえ、手元の端末に表示されたMSやら新型の設備などは予定以上の量だ。
勿論ドライド・フィッシュやビーハイヴに詰め込むことはできるのだが、予定以上の作業でスケジュールがつまらないか不安だ。
パイロット達は事前にシミュレーターを経験しているので完熟訓練は問題は少ないだろうが、それ以上にメカニック班も大変だろう。
これまでの艦隊での長期作戦行動とは状況が違いパーツのやりくりが楽とはいえ、そこは懸念するに越したことはない。
旧式の艦艇を改装したドライド・フィッシュの設備と新型のMSが何処までうまくかみ合うか、運用上の支障がないのか、不確かだ。
「それについては大変申し訳ないです。ですが、貴方方が良いとの判断です。
物資や新型はその期待の表れと思っていただければ。新因幡の人員も融通しますので、何とか対応をお願いします」
「……参ったな。まあ、こちらでも努力はしてみよう」
困った表情の沙条に、バロウズも追及を諦めるしかない。
彼女もまた、上層からの指示を伝えるメッセンジャーとしての役目であり、それをそのまま伝えることこそが仕事なのだ。
例えそれが彼女の目から見て無茶な要求だとしても、だ。それを察せないほど、バロウズは軍人としても人間としても未熟ではない。
558: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:55:02
それに加え、と沙条はもう一つの懸念を述べる。
ここ最近の偵察や強行偵察で確認された、ザフトの対応についてだ。
「また、ラグランジュポイント周辺ではトラップやMSによる奇襲が想定されます。
作戦宙域に近づく前から警戒をお願いします。どうやらザフトも時間稼ぎに手段を選んでおりません」
「それほどに?」
「はい。機雷、長距離砲、ミサイル、デブリをぶつけるミサイルなどなど……固定砲台型のMSも見受けられているので、どこに敵が潜んでいるのかが明確には分からない情勢です」
「となると、対空監視要員を増やすしかないか?」
「直掩のMS隊を展開しておくのも良いと思われます。スナイパーたちならば、遠距離を監視するのも得意でしょうしね」
「なるほど…少し相談してみましょうか」
小声で議論が交わされつつも、沙条の説明は注意事項へと移る。
この作戦宙域の特性上、通常の宇宙空間との戦闘は違うことが多い。
むしろ、同じところがあまり多くないのだ。それを改めて注意するのは宇宙での活動が長い彼らには今更なのだが、確認を怠ればいずれは忘れてしまう。それを避けるためにも、くどい様ではあるが、沙条は繰り返すのだ
「大西洋連邦宇宙軍とザフト戦力の誤認などが起こらぬように、事前のデータチェックとIFF関連の調整を重点的に行ってください。
こちらについてはメカニック班にお任せします。特に大西洋連邦では鹵獲艦艇を投じるとのことで、厳重注意がなされております」
「鹵獲艦艇…まあ、見分けがつくようにはされているだろうが、留意が必要だな」
そのほか、作戦上における注意事項をいくつか確認し、ミーティングは最終段階に移る。
今後の予定だ。実働を担うのはサンダーボルト師団の他、宇宙艦隊からの派遣艦隊も含まれる。
彼等とのミーティングや顔合わせなど、やるべきことは多い。作戦に投じられるMSについても新型の割合が増えるのだし、大人数が動員されるので、おそらく打ち合わせだけでも数日が必要となるだろう。予定調整に苦労しそうだ。
「第二特務艦隊は3日後に新因幡に帰港予定です。また、我々に先行して宇宙艦隊から抽出した派遣隊が新因幡入りしております。
その後、大西洋連邦宇宙艦隊の首脳部との間で再度ミーティングを行い、最終的な作戦が決定となります」
一息入れて、沙条の目は場に集まる大洋連合の軍人たちを見渡し、ファイルを閉じて願うように言う。
「作戦日程についてはもうしばらく調整が必要となります。
ですので、皆さんは休養をとりながらも、動ける状態を維持してください。
皆さんが最善を尽くされることをお祈りします」
そうミーティングを〆た沙条は、一礼をして場をバロウズに譲る。
彼等の仕事はまだ続く。来たるB-Dayのために。
559: 弥次郎 :2018/05/03(木) 22:55:39
以上、wiki転載はご自由に。
漸く書けました…
書きこみに時間がかかってすいません。
どうやら調子に乗って長く書き過ぎたようです。
ザフトサイドのオープニングは時間がかかります。
新キャラを出すのって結構大変ですので、支障がない程度にそれにオーブ同胞団を軽く書きたいのですが、どう考えてもSAN値削れるヤバイモノになりそうで…
あとはブリーフィングファイルで情勢の補足が必要ですな。
今回の「B-Day」
シリーズでは許可を頂きました時風氏の第二特務艦隊を登場させます。
これまでの通りある程度の範疇ではありますが、何卒よろしくお願いします。
次回をお楽しみに。
最終更新:2018年05月06日 11:32