478: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:33:44
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「B-Day」2

Main Staring:
<112th MS Commando,Republic of East Asia Space Forces,Republic of East Asia,O.M.N.I.Enforcer>
Ma(Major)

<Lagrange 1 Defense Forces,Z.A.F.T.,PLANT>
Max・Pellini
Selena・Trivia
Elizabeth・Walti
Angus

Ross・Frois
Iris
Kate

Cain・Molders


<Staring Mobile Suit & Mobile Armor>
GAT-01A2 Strike Dagger Type-A2(Republic of East Asia)
FXet-565 Cosmo Grasper

<Lagrange 1 Defense Forces,Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
ZGMF-1017 Ginn
Ginn-bomber
ZGMF-1017 Ginn + Mobilesuit Embedded Booster Unit(Dynamic hawk)
Ginn-Revenant



宇宙にビームと加速された弾丸による光の条が走る。
その多くが、機動兵器の命を奪わんと放たれる殺意の塊。
生きるか死ぬか、それはほんの一瞬の判断と操縦にかかっている。

『糞、数が多い…!』


馬少佐はおのれの不幸を感じていた。
部下の乗るストライクダガーA2型を変則編成で6機引き連れてのMS隊での偵察行動の最中に、インターセプトを受けたのだ。
元々インターセプトを受けることは考慮のうちで離脱できないものではなかったのだが、如何せん相手がヒット&アウェイに徹しており、まだ情報が少なかったMSのようなMAがジンと共に送り狼として放たれたのだ。

『どちらか片方ならば楽だったのだがな…!』

『少佐、上からです!』

部下からの通信に応じ、その手は操縦桿を操作。頭部の近接防御機関砲とビームライフルで弾幕を張った。
無反動砲を向けていたジンはそれを見て取ったのか、すぐに射撃を中断して回避を選んだ。
こちらに脱落者はいないのだが、偵察用の大型測距装置を搭載したストライクダガーを抱えている都合上、足が鈍っている。
実質的に3倍の敵を相手にしている。全方位に注意を払う必要があるので、一機当たりの担当範囲が広く負担は大きい。
だから、追い払ったらすぐに別な方向を見る。思った通り、こちらにライフルを向けようとするジンが見え、間に部下のストライクダガーがシールドを構えながら割り込んで反撃した。
それに安堵しつも部下が本来警戒していた斜め後方俯角を見やる。

『そこだ!』

ビームライフルの三連射は、シールドともに強引にせまる下半身だけMAのMS--ジン・レヴェナントに向かい、シールドと右半分の推進機を吹き飛ばした。炸裂と破壊は一瞬で起こり、ジン・レヴェナントはあらぬ方向へと飛んでいく。
引き換えに、こちらも重突撃銃の弾丸を胴体に喰らう。だが、装甲に浅い角度で掠めただけか、大事には至らない。

(まだいける…!)

その決意の通り、必死に反撃を重ねている。
数は不利。去れども性能の優位はこちらにある。
その点に関して、ストライクダガーには感謝しきれない。
ビーム兵器の標準化は、一発でも致命傷を相手にもたらしかねないので、相手は攻撃のそぶりを見たら回避をしなくてはならないのだ。
その事実だけでも、相手の動きをけん制できる。だからこそ、動き続け、反撃を続けることだ。

『あわせろよ…喰らえ!』

『いっけぇ!』

立体的に交差するように放たれたビームライフル。それは、回避しそこなったジンを絡めとり、撃墜する。
だが、たかが一機だ。相手も攻撃が散発的になっているが、それでも多数から追撃されているというのは恐ろしい。
命の危険を感じるし、パイロット達は生きた心地がしないことだろう。辛うじて統制を保っているが、それがいつ決壊するか分からない。

(まずい)

479: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:34:36

戦闘開始からしばらくが経ち、こちらの技量の問題なのかバッテリーと推進剤の消費が激しい。
ビーム兵器の利点は高威力で確実な撃破が見込めることだが、反面バッテリー駆動MSにはその消耗が痛い。
ジンなどよりも機動性に優れるストライクダガーだが、その分推進剤も消耗する。
まして、こちらのパイロット達はえりすぐりとはいえ宇宙での経験が乏しい。宇宙経験者ならばAMBACをうまく使い、必要最低限の動作で戦闘を行えるのだが、馬中佐率いる隊はいまだにそれを学ぶ最中だ。
だが、当然できない人間もいる。

『少佐、推進剤が…!』

『あわてるな、慌てれば相手の思う壺だ!』

慌てる部下を叱咤し、こちらにライフルを向けていたジンに牽制の一撃を放つ。
相手もさるもので、それをくるりと身をかわしてデブリに隠れ、少しタイミングをずらして反撃して来る。
それをシールドで受け止め、推進剤の減った部下のストライクダガーを押してやる。
反作用が起こるが、それをマニュアルで殺す程度のことはできる。

『…?!少佐、熱源を多数感知!IFF応答在り、友軍です!』

『幸運を拾えたか…!』

そして、暗い宇宙に光が走る。
それは流星の如く飛ぶ羽。宇宙をかける猛禽類。コスモグラスパー(宇宙を制する者)。
デブリ帯付近での戦闘を考慮し、ビームライフルと専用バッテリーを搭載したシールドを両翼に懸架し、エールストライカーを装着したコスモグラスパー隊は素晴らしい速度で駆けつけてきた。
包囲網を構築しつつあったザフトの連携を切り裂くように、ビームライフルとミサイルが放たれ、足止めを行う。
一時のものだが、その一瞬があれば十分なのだ。

『各機、よく狙え!』

姿勢を整え、ジン---ではなく、下半身が航空機のようになったMSや傭兵の乗るメビウスを狙う。
撤退するにあたって、直線での速力がMSに勝るMAは脅威となる。
それを理解している部下たちだからこそ、馬少佐の声にすぐさまやるべきを見出す。

『うてぇ!』

そして、一斉射。
タイミングや標的こそ違えども、今度こそ射撃はザフトのMSたちを捉え、破壊せしめた。
シールドを持たない機体が迂闊に止まったことの報いは、彼ら自身の命で以て支払いを強要されたのだ。

『離脱する!スモーク!』

『了解、散布します!』

身をひるがえし、離脱を前に機体に各員がスモークグレネードを投擲する。
地上用とは少し仕様が違うそれは、広範囲に煙幕を展開。
立体空間といえども、この視覚を遮る煙幕の効果は確かなのだ。
展張された膜の向こう側にいることは分かろうとも、目視できなければ当たるかどうかは運任せ。
この程度の簡単な装備が時に明暗を分ける。地上戦線の戦訓は、健在だった。

『離脱だ!回避パターンに気を付けろ!』

『了解!』

そして、ストライクダガーA2型のバックパックは推力を解き放つ。
上下左右の立体空間を利用したランダム回避で逃げ出すストライクダガーは射撃を振り切って加速し続けた。
一度足が止まってしまったザフト側は、そこで動きを止めざるを得なかった。
足止めを行ったコスモグラスパー隊もさらにスモーク弾を放って離脱していった。

戦闘領域(ホットゾーン)を抜けるまで、追撃はなかった。
相手は撃たず、こちらも撃たない。互いに手を出さないことが最適解となった。
それは果たして幸福といっていいのだろうか。
次にあった時にどうなるのかはわからない。
後顧の憂いを断つために、今ここで倒すべきか。

『……』

知らず、操縦桿のトリガーを握る指に力がかかる。
だが、最後まで、母艦に帰投するまで、その指は最後まで外れなかった。
恐れていたのだ。以前強行偵察に来た艦艇を葬り去ったという大型機動兵器を。
今回は幸運にも合わなかった。割に合わないから出さなかったのかもしれない。
その不気味さを、馬少佐は感じ続けていた。

480: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:35:06


「----引いていった?」

大型のデブリ---コロニーの残骸と真っ二つになったアガメムノン級などを寄せ集めて作られた簡易のピットの中。
多くの係留ケーブルとMA用や宇宙艦艇用のそれを利用した係留アームに固定された大型の機動兵器、ザフトのMS「ジン」とそれに接続された大型ブースターユニット「ダイナミック・ホーク」とそれに並んで係留される「ジン・ボマー」。

その二機の母港---というには些か狭すぎて、母艦というにはあまりにも大きすぎる、ともかく監視所では、ジンのパイロットであるケイトとイーリス、そしてジン・ボマーを任されているロス・フロイスは遠ざかっていく光点と、戻って来るMSやMAの光に知れず安どの息を吐いた。

連合のMSの手強さは、既にこのL1宙域にいる人間ならばが凡そが把握している。
余計な交戦で被害を出されるのはこちらの心情的に歓迎できない。
そして、いずれ大規模な戦闘が避け得ない時が近づいていることも、だ。
気密が保たれた空間は、さほど広くはない。
もとより、アガメムノン級の格納庫内の管制室を拡張した程度であり、そこにあれこれ機材を詰め込めば、3人のパイロットと通信担当官を2名入れた時点で一杯になりそうである。

「連合のMS隊とMA隊、撤収していきます」

「俺達が出るほどの相手はなし、か」

「はい。光学測距によればMSの懸架してきた装置から機雷敷設がなされています。
 モビルポッドでの回収作業が必要になると思います…」

「またかよ…」

連合の嫌がらせは、強行偵察の他にも機雷の散布、監視装置の設置、通信阻害装置など多岐にわたる。
ザフトが利用て切るものは回収して再利用しているのだが、爆発物などはそう簡単にはいかない。
破壊するか、無力化して処理しなくてはならない。古来より、トラップの類は設置する方が排除するよりもはるかに簡単だ。
勿論連合も自分の首を絞めない程度に自重しなければならないが、それでも徐々にザフト側の余力をそいでいる。
ジャンク屋やコペルニクス傭兵も動員してはいるが、ザフト側も報酬を払う必要があり、物資も使うので痛しかゆしである。
それを実行し続ける連合の物量に。

「とにかく、収容者はこちらでも引き受けよう。メンテナンス程度ならできるはずだし、警戒機なら出せる」

「ケイト、作業用も含めてジンをだしましょう。警戒機がいれば、状況把握もできるはず」

「ラジャーです!」

「おーし、それじゃあ、予備の武装持たせて警戒を頼んだ!
 まだ伏兵がいるかもしれんからな、注意しろよ」

パイロット、メカニック、メディック、宇宙作業員。
それぞれがそれぞれの役目を果たすべく動き出した。
各員が俄かに騒がしさを増す中でも、フロイスはじっと動きを見つめていた。
連合のMSの光点は遠目からでも中継され、見えていた。

(欲しい)

指揮官として、素直に思った。
上手いとは言えないが、今後さらに伸びる動きだ。筋が良いと言っていい。
自軍の促成兵だけでなく、経験の浅いパイロット達よりも良い動きだ。
そう思ってしまうくらい、相手が羨ましい。自分ならば、ジム・ボマーならば勝てる。
だが、万全の勝利は簡単に得させてもらえないだろう。その彼らが次の敵となる。

481: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:36:22

何故だろうか、とても----そう、心が躍る。
おかしい自分に戦闘狂の気はないはずだが、とフロイスは自問する。

(……ああ、なるほど)

そして、すぐに答えを導き出す。
もはやL1から逃れられない。
家族もいない。親友たちも多くがいなくなった。
死に場所を自分は求めてしまっているのだ。
それは、驚くほどすとんと胸に納まり、感情の波を立てることはなかった。
フロイスは静かにそれを抱き、静かに闘志を燃やし始めた。

如何に自分が死ぬことができるのか。
自分という人間の持つ二重らせんの果てに、ひどい興味が湧いた。
最後に残った闘争に、自分は魅せられてしまった。
ああ、なんて救いのないのだろうか。

相反する二つが、フロイスの中で混沌(カオス)のようにまじりあう。




      • C.E.70 7月26日 地球-月間 ラグランジュポイント1 小惑星型コロニー「ウルド3」

小惑星を利用したとされるコロニーの宇宙港に乗艦が滑り込むと、ケイン・メルダースはようやくほっと一息入れられた。
何しろ艦艇が行動するには些かデブリの多い地域だったのだ。ここに来るということで追加で外部装甲をつけ、さらにはMSや作業ポッドでちまちまと排除を進めながら、致命傷を受けないように気を払ってきたのだ。
他にこなせる指揮官がいないが故に、ケインはこのデブリ帯に突入して以来ずっと集中を維持してきた。
正直、コーディネーターであってもなくてもキツイ。宇宙船舶の艦長職についてそれなりに戦歴を重ねているのだが、何時でもこういうデブリ帯は緊張する。まして船員たちの平均年齢や練度が落ちているのでなおのことだ。

「よーし、最終減速を掛けろ」

「了解、最終減速シーケンスへ!」

元々絞っていた速度をさらに落とし、細かな微調整を入れていく。
宇宙船舶の停泊を念頭に建造されている宇宙港でもスペースは限度がある。
むしろ、地上よりも上下左右全てに気を使う必要があるので、より危険とさえいえる。
だが、滑り込んだシャングリラ級は、コロニーとの相対速度をあわせ、内部に設置されている係留アームに身をゆだねる。
よどみのない、見事な操艦であり、各所を結ぶ指揮が優れている証拠だった。

「主機関停止」

「主機関停止!」

そして、シャングリラ級の船体に速力を与えていたエンジンが徐々にその力を絞っていき、0とした。
暫くの冷却を以て機関の熱が問題の無いレベルとなれば、そちらの方へのメンテナンスも可能となるだろう。
この環境を無事に航行できたわけだが、かと言ってトラブルが起きていないということもあるまい。
デブリの存在もあるが放電現象もあるし、艦艇としての機能が問題があるのかもしれない。
まずはそのメンテナンスだ、とスケジュールを脳裏に浮かべる。

(偵察部隊に見つかりそうになったのは流石に肝が冷えたな…)

対空監視員を増やしておいて正解だったと嘆息する。
センサーだけでは不安があり、手隙の人員に双眼鏡などを渡して監視を任せていた。
その結果、MSと思われる軌跡が見え、念のために航路を変更していたのだ。
それだけ連合がこのL1宙域への偵察が行っているということであり、ザフトの迎撃能力が落ちているということでもある。
少なくとも、以前地球への輸送任務でL1宙域を通過した時はここまでの警戒は必要なかった。

自分達が通過した後に戦闘が発生していたようだが、どうなっただろうか。
インターセプトは引き際をどう見るかも重要だ。こちらのホームグラウンドだからと言って完全に有利というわけでもないし、限りある物資をうまくやりくりしての軍事行動が必要になっている状況。どれだけの被害が発生したのか、気が重い。

加えて言えば、このL1宙域に存在していた大型のデブリの数が減っているように感じた。
特に外縁部はその印象が強い。明らかに破壊若しくは回収されている。
遮蔽物がある状態はトラップの設置や戦闘においては優位になり、また回収が手間ということもあって、放置されているモノもあった。それが消えているというのはどういうことか。

(間違いなく、連合の事前工作だな)

外縁部にピケット艦若しくはピケットMSを配置するのは既に常套戦術と化しているのだが、あからさまに敵に姿をさらすのは望ましいとはいえず、時には遮蔽物に姿を隠している。
遮蔽物があるだけで、何かトラップがあるのではと警戒を誘うこともできる。
以前は強行偵察してきた艦艇を一隻、機雷を利用して小戦力で撃沈したと聞く。
その時もデブリをうまく活用していたのだが、それがよほど連合には響いたようだ。

連合の偵察の頻度もかなりのものだ。
頻繁にL1の防備体制の配置換えなどを行っていると聞いているが、相手の方がペースが上。
おまけに、インターセプトで互いに発生する被害が同程度でも、被害を許容出来る範囲はザフトの方が小さい。

482: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:37:41

(ますます、まずいな…)

丸裸になりつつあるL1宙域。手持ちのカードを次々と使って翻弄するといえば聞こえはいいが、逆に言えば徐々に手詰まりとなりつつあるということ。世界樹の影ならばともかく、世界樹の残骸が形を失えば、そこに寄生する弱い物は姿をさらすしかない。そしてそんな弱い物とヒトが争えば、どちらが勝つかは明白だ。
自分達がどちらかに属するかなど、分かり切っている。
それを決して表に出さず、声を張り上げる。

「よし、物資を下すぞ。作業要員は予定通り作業を開始。
 俺は基地の司令に面通しをしてくる。何かあれば副長に任せるぞ」

了解を示す声に満ちたブリッジを後にして、ケイン・メルダースは歩み始めた。
そこはまるでミノタウロスのさまようラビュリントス。あるいは、生贄を置いて怪物を鎮めるための祭壇。
このL1は、もはやそういう価値のある場でしかないのだ。

(アリアドネの糸が…あればいいんだが)

ああ、そんな都合の良いものがある筈もない。
輸送を担当していたからこそ分かるが、このL1宙域を挟んで月と地球間の物流はほぼ連合側に天秤が傾いている。
制宙権という意味で、ザフトは連合に敗北しつつあるのだ。
そうだからこそ、輸送艦隊の指揮官が今後不要になる。
だからこそ上層は前線指揮官の教本だけを渡し、この宙域への片道を自分へ押し付けた。
態度が反抗的だったのがよほど気に食わなかったのか。それとも指揮官が本当に足りないのか。

「…ッ!」

誰に向けるでもない苛立ちを、壁にぶつける。
ここまで従ってきたが、いよいよ限界だ。
責務は全うしてやるつもりだが、事実上の玉砕命令などくそくらえだ。
聞けば、連合はザフト兵士の投降をかなり受け入れており、密かに推奨されているとのこと。
ザフトの広報は連合の捕虜に対する残虐さやこちらの戦意をくじくためのプロパガンダだと嘯くが、どちらが信用できるか。

(言うまでもないな)

ひとまず、部下に良く言い含めなければならない。
分からないなら、そいつの命は見捨てるしかない。
やるだけやって、自分は生き延びるのだ。
馬鹿なことをやって死に急ぐ必要など、まったくないのだから。

483: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:39:07


        • 同日 地球-月間 ラグランジュポイント1 ザフトL1宙域防衛隊司令部本営「レイヤード」


「レイヤード」と仰々しい名前が付けられた宇宙基地はザフト・ジャンク屋・オーブ同胞団・コペルニクス傭兵の合同軍の、実質的な指揮機能を供えた場所だ。デブリがひときわ密集しており、L1宙域に広がるデブリ帯のおおよそ中央に位置する。
分かりやすいといえばわかりやすいのだが、これほど防御の硬い領域もないのだ。
純粋に突破するにはMSではほぼ片道となるし、特定のルート以外はデブリに紛れてトラップがあるし、砲台型のMSやMA達が目を開かせ、逃げ場のない領域でその砲口で敵を穿つのを待ち受けている。
艦艇が突っ込んで来ればその火力で無理矢理こじ開けられるかもしれないが、その前にMSと外縁部の砲台による歓迎を受けるがオチだ。

また、周辺のデブリには通信中継衛星も混ぜてあり、状態さえ良ければL1宙域内の情報が赤外線通信で把握できるという強味もある。
内部でも、生産工廠や母港機能はもちろん、医療設備もL1では随一である。
まあ、他の基地の設備が少々乏しいので相対的にここが優れている、ということの裏返しでもある。

そして、そのレイヤードの司令部空間。
本国で建造中の超大型母艦のCDCを元にしたという巨大なL1宙域を示す電子図面と、それに向けて整然と並んでいるオペレーターたちが座る席が数十隻も用意されている主空間は、先程の連合の威力偵察に関する情報が飛び交っていた。既にルーチン化して長いが、いよいよ連合の攻勢が近いと噂されている状態だ。
光学情報だけでなく、友軍と敵軍の被害状況や戦力の状況など、事細かに情報が集まる。
速報と詳報が時間差で届く場合もあるために、オペレーターたちはその照らし合わせに必死だ。

「とりあえず…報告は受け取っておくわね。ええ。そっちで追加があったらあとで」

そして、統括者の座る席から女性が立ち上がった。
その足は、本来の統括者がいる一室、司令官室へと向いていた。
切る暇がなく伸びた髪は束ねているが、それでも長さは隠せていない。
一方で、その宇宙では似つかわしくない伸びた髪は一種の美しさがある。
濃い青の、紺色に近い遺伝子調整のそれは、セリーナ・トリウィアの美しさの象徴でもあった。

「失礼します、司令。お仕事をこなされているでしょうか?」

そして、彼女の声が向けられたのは、その指令室のトップの配置にある椅子にまるで抱きつくようにして浮かぶ男性だ。

「おいおいトリウィア、この状況でやる気を出せたらそいつは聖人だぞ」

返ってきたのは、気の抜けた声。
現状のザフトでは珍しい、声変わりのすっかり終わった成人男性の声。
制服の襟元を緩め、気楽な姿勢で宙に浮かんでいる。
とてもではないが、それは勤務中にとるべき姿勢ではなかった。

「…はぁ。とにかく、こちらに最低限目を通してサインをお願いします!」

それを咎めても意味がないと知っているトリウィアは、マックスの傍らに浮かぶ嗜好飲料から目を背け、仕事を促した。

「まあ、そう固くなるなよ。どうせ上層部は時間稼ぎ以外認めていない。
 今ここでじたばたしてもしょうがない。俺ができる仕事なんてほとんどないしなー」

「司令がやる気を出して仕事をしていただかないと、私やウォルティさんが苦労するんです。
 それに、司令ができる仕事は私たちが仕立てているんです!」」

あと、とトリウィアは最近のマックスの行動を咎める。
何人かのスタッフやパイロット達から苦情があがっていた件についてだ。
こればかりは伝えて注意しなければ、今後の士気に真面目にかかわる。

484: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:40:01

「就寝時間中にも騒ぐのは控えてください」

「いいじゃんかよー…楽しめるスペースがあそこくらいなんだし」

「寝ている人もいるんですっ!」

「寝ているか仕事をしているかの両極端じゃねぇか…」

そういいつつも、根負けしたのかマックスの手は嫌々ながらもデスク上にクリップされている書類へと伸びる。
最高責任者であり指揮官であるマックスには、相応の仕事がある。勿論、副官であるウォルティやトリウィアが裁いたうえで、上官であるマックスが処理する。だが、最終処理を行う人間がやらねば下が如何に決済しても意味がない。

「別に俺のパスコードで決済してもいいだろうに…」

「そうもいきません。私が勝手にやることは服務規程上の問題が生じるんです…ッ」

「はいはい…」

ぶーぶーと文句をたれるが、その手は従順に仕事をこなし始めた。
それに満足して、トリウィアはその隣に立って監視と手伝いを始める。
先程の戦闘の情報は一応は届いていたのだろうか。何事もなければ何もしない彼が動くということは、そういうことだ。

(その原因は恐らく…)

トリウィアはこの司令室にいない女性を思い浮かべた。
少なくとも自分よりもこの司令官が言うことを聞く、副官。
エリザベス・ウォルティ。
はっと目が覚めるような美貌の彼女は、トリウィアと対をなすかのように可憐であった。

「おおー、ベス!やっと華が指令室に来てくれたなぁ!」

大喜びのマックス。
広いとは言えない司令室がほんの少し明るくなったかのような、そんな錯覚。
事実、彼女の浮世離れした、静謐という言葉を美しい花にしたかのような、エリザベス・ウォルティ。
少し長めの金髪を漂わせる彼女は、熱烈なマックスの声を華麗に受け流した。

「おや、お元気そうですね、司令官。
 お仕事の方も珍しく進んでやっていらっしゃるようで」

「俺だってやるときゃやるさー、ハーフのコーディネーターだって、純粋なコーディネーターにゃ負けないぜ?」

「大方、トリウィアさんに発破をかけられたのでしょう?
 出来れば、そういったことに関係なく、ご自分でやる気を出してくださいませんと」

素気無い返答にちぇーと口をとがらせ、椅子に身を預けるマックス。
無重力のここでは、椅子に備え付けのベルトで固定することで椅子に腰かける。
ちらりとめくった書類の多さにも表情を変えず、ウォルティは司令室内部を見渡した。
司令室とは言うが本命は司令部の方がメインであって、こちらは司令官の執務室といった趣。
いるのは主であるマックス、副官のトリウィアとウォルティ、そして仮眠用のベットで目隠しとヘッドホンを付けて眠る事務員たち。

485: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:40:57

「他に誰かいないんですか?アンガスは?」

「アンガスさんならただいま格納庫での確認作業の真っ最中です。
 本国から送られてきた物資と装備品に関する書類を確認して回っているそうなので、暫くは戻ってこれないでしょうね」

「そう、ですか…」

「司令部の方が人が少ないだろうと、彼が買って出てくれました。
 私の予備のパスコードを貸してあるので、おおよそのチェックと確認はこなしてくれるはずです」

極めて単純なパスコードを刻み込んだカード。
試験的に導入されているそれは、パソコンのリーダーに通せば、責任者がコロコロ変わろうとも一定の事務作業を進めるのには都合の良いものだった。
少なくとも、専用の機械に保有者・使用者を記録しておき、しかるべき書類を用意して更新をすれば役職を素早く継げるのだから。
勿論、現状の権限の持ち主であるウォルティが貸与することに問題が無いわけではないのだが、早々に手渡して使用を認めてよいものか。
それをトリウィアは指摘するが、ウォルティは何一つ揺るがない。

「トリウィアさん、貴方も少し規則から自由にならないと、息が詰まってしまうわ」

「……しかし」

「人員不足が著しい上に、人員のストレスも酷いのが今のL1よ。
 不必要に規則でがんじがらめにし過ぎると、余計悪いわ。おまけに癇癪をぶつけられて黙っている人は、そういないわよ」

言外の非難に、流石に副司令官であるトリウィアも沈黙するしかない。
仕事を進める立場であっても、彼女は仕事を強制できる立場ではないのだ。
まして、その指示がストレスとなり、仕事の阻害となるなど論外である。
落ち着いた年上の女性であるウォルティだからこそ、その静かな口調が時に恐ろしくなる。

「そう怖がらないで…でも、貴方が真剣すぎると、誰かにとっては負担にもなるわ。そこには注意なさい」

「はい…」

言葉も短く、ウォルティは自分の持ってきた書類を手にマックスの側へと向かう。
いつの間にかマックスの手が握られているのは、どうやらセクハラをしようとしたのをがっちり抑えたようである。
くいっと軽い力で、しかし、かなり痛いように関節を極めているようでマックスの悲鳴が聞こえてくる。
元気がいっぱいならいいか、と吐息しつつ、休憩に入ることを告げて仕事場をいったんはなれた。

ハーフコーディネーターであることが原因で嫌われた上司はやる気なし。
頼りになる年上の黒服はちょっと冷たい。
癒しになるのは頑張る年下の部下。
しかし、それでいてL1宙域防衛という任務は非常に重要。

「まったく、やってられないわね…」

でも、やらなくてはならない。
やらねば、いけないのだ。
状況は悪くとも、課せられた仕事をこなして成果を出す。そうでなければ、ならない。

ぎゅっと手を握り、自分の使命を改めて感じる。
苦しい戦いになっているのは百も承知。
だからこそ、迷いはいらないのだ。

L1宙域にいるザフト側勢力の士気はそれなりに高いのだが、オーブ同胞団やすでに主戦力の撤兵の気配を見せているコペルニクス傭兵、さらに数合わせの傷痍兵やマックスのように能力が低く前線に送り出していなかった兵達も混じっている。
如何に正規兵で補い、連合の大多数の戦力と戦うのか。それは指揮側にもかかっている。

(頑張らないと!)

眼前の窓。
広がる宇宙の先に、連合の基地のある月が見える。
自分達のいるL1から見れば、広大で、頼れる、強大な基地。
そこに抱える膨大な戦力が、いずれは攻め込んでくる。
それを直近のものと感じつつ、トリウィアは覚悟を新たにした。

486: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:41:38

「それと司令官」

トリウィアが書類に取り掛かり始める横で、ウォルティは報告を続けていた。

「んー?」

「連合の偵察部隊が外縁部で戦闘をまた行っておりました。
 いよいよペースが激しくなっています」

「撃退で来たんだろ?ならいいじゃねぇか」

「ええ。しかし、少し被害も出ています。
 じわじわと減っている戦力。頻発化している威力偵察。本番は近いです」

「うげぇ…」

押し寄せてくるであろう膨大な戦力を創造したか、マックスの表情が一気に歪む。
やる気は出さないが、そういった指揮官としての能力は一応あるマックスには、連合が差し向ける戦力と、自軍の、L1宙域にある戦力の比較がおぼろげながらもできているのだろう。

「徐々に準備を進めてはいますが、そろそろ司令にも本腰を入れていただきたいのです。
 よろしいですね」

さもなくば、とジトっとした目でせまるウォルティには、マックスも首を縦に振るしかない

「では、お仕事を続けましょうか。まだまだ決済すべき書類はありますので」

そして、彼女はそのままに自分のデスクの仕事に取り掛かる。
補給艦隊が到着し、さらに実質的に最後の増援部隊が到着したので、戦力の再編と振分の仕事があるのだ。
着任直後の兵士へのフォローというのは案外仕事量が多い。

「ま、なるようになるさー…戦力はあるんだしさ」

呟くような、それでいて気楽なマックスが、正直トリウィアには鼻についた。
ウォルティに注意を受けた直後にこれだ、緊張感というのはあるのだろうか。
だが、口には出さない。ハーフコーディネーターであり、左遷気味に追いやられてきた彼にそこまで求めるのは酷かもしれない。
それに、説教をしたところでどうにもならない。

(そう、まだ終われない……)

そんなでこぼこのザフト司令部「レイヤード」は知れず、連合の定めた大反抗作戦の日「B-Day」を迎えようとしていた。

487: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:42:40

【人物紹介】


馬黄英
人種:ナチュラル
年齢:32歳
所属:東アジア共和国宇宙軍
階級:少佐

大西洋連邦宇宙軍、もっと言えばL1宙域攻略に参加する宇宙軍に出向しているMS隊「第112MS特務隊」の隊長。
元々は宇宙軍の艦艇人員であったのだが、適性を見出されてMSパイロットへと転向した。
実直な性格で不慣れながらもMS隊の指揮を執る。



マックス・ペッリーニ
人種:ハーフコーディネーター(母方が第一世代)
年齢:26歳
制服:白服
役職:L1宙域守備隊司令

L1守備隊の司令官。
一つの基地の司令官というよりも、L1宙域全体の司令官。
各基地と拠点の指揮官を束ね、統括する役目である。
これはL1宙域がそこそこ広い宙域であり、遠距離からの誘導兵器を警戒してNJを高い強度で張り巡らせた弊害のためで、基本的に連絡を定期的に取り合いつつも独自裁量を認める方針でいかならければならないためである。

…なのだが、人材枯渇のためと、どう考えても不利なL1宙域に優秀な人材を置くことを嫌ったザフトは、
半ば左遷のような形で勤務態度に問題ありとされたマックスを派遣している。一応、副官や参謀にはそこそこの人材がいるので、お飾りでもよいから、というザフトの意図がうかがえる。



エリザベス・ウォルティ
人種:第二世代コーディネーター
年齢:20歳
制服:黒服
役職:L1宙域守備隊参謀

マックスの部下。セメント系美女。
トリウィアと同じく黒服の養成課程にいた。こちらは繰り上げせずに卒業しており、短いながらも経験を持っている。
この年齢でもザフトでは貴重な20代で、実戦経験者。これまでの情報や戦訓からトリウィアや副官のアンガスと
共にL1防衛のための手を着々と打っている。



セリーナ・トリウィア
人種:第一世代コーディネーター
年齢:17歳
制服:黒服
役職:L1宙域守備隊副司令

副司令官。
マックスの補佐役兼お目付け役。
多くの仕事をエリザベスと共に分担して行っており、実質的なブレインであり敏腕副司令官。
指揮官養成課程にいたが、どうにも状況的に厳しくなり、繰り上げ卒業した。
元々副指令官は別でいたのだが、本国に呼び戻されてしまい、なし崩し的に就任している。



アンガス
人種:第二世代コーディネーター
年齢:16歳
制服:緑服

セリーナの部下の一人の緑服。
本人も気にしているが、年齢を差し引きしても童顔。
実働役ではあるが、この年齢でも所謂中間管理職を任されている。

488: 弥次郎 :2018/06/28(木) 21:43:42
以上、wiki転載はご自由に。
お待たせしました、そのせいなのか、結構駆け足気味でしたね。
次回からいっぱい死にます(小並)

496: 弥次郎 :2018/06/28(木) 22:32:16
さて、誤字とか修正を‥

478
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宇宙にビームと加速された弾丸による光の条が走る。
ぞの多くが、機動兵器の命を奪わんと放たれる殺意の塊。


宇宙にビームと加速された弾丸による光の条が走る。
ぞの多くが、機動兵器の命を奪わんと放たれる殺意の塊。
生きるか死ぬか、それはほんの一瞬の判断と操縦にかかっている。

『糞、数が多い…!』



484
×いるのは主であるマックス、副官のトリウィアとウォルティ、そして仮眠用のベットで目隠しとヘッドホンを付けて眠る

〇いるのは主であるマックス、副官のトリウィアとウォルティ、そして仮眠用のベットで目隠しとヘッドホンを付けて眠る事務員たち。


転載時に修正というか差し替えのほどよろしくお願いします

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最終更新:2018年07月01日 09:18