494: リラックス :2018/07/14(土) 09:02:53
よし、許可をいただけたので
『終焉の出撃』改変バージョン(長門が事情を聞かされ終わった直後くらいから。)
雪風達の代わりにあの艦達が来てくれました。
伝説となった戦艦と伝説の踏み台になった記念艦
――――女々しくなったものだ、私も
自身の口が勝手に語った言葉に対して、内心自嘲する長門。
今係留されている戦艦長門は、長すぎた艦歴に加え、記念艦か解体かの話し合いに決着がつかず、重整備も無く放置されていたせいもあって、機関の一つも満足に動かない老朽艦以外の何物でも無いのだ。
そんな艦が無理に出て行ったところで、この状況を打破すべく動き出している後輩達の邪魔にしかならない。
伝説だなんだと言われても、それがどうしようもない、現実だった。
「……所詮、アタシはド畜生だ。こんな状況でも動ける見込みもありゃしない。だが、アンタは違うだろう?」
「……ああ。だが、私の意志だけでは、最早如何にも出来やしない……」
所詮、自分は大和達の築いた伝説の残滓に過ぎないか、と自嘲染みた笑いを浮かべそうになり……
「安心しな。アンタが一人な訳はないだろう」
それを、静かな、しかし力強い言葉で否定された。
「……なっ?」
そう、それは『常識に則れば』の話。
……恥知らずと罵られるのはアタシ達だけで良い
「ミズーリか!?」
誰も居ない筈の艦内。その艦内で、あの海戦に参加して唯一生還した戦艦の音無き声と共に、今の今まで息も絶え絶えにすり減り続けた機関が、文字通りに息を吹き返し、命をもう一度注ぎ込まれる。
……役立たずと嗤われるのはアタシ達だけで良い
「お……オハイオ?」
ラスト・ドレッドノート、アメリカ合衆国最後の戦艦の決意に応えるかの如く、錆び付き、朽ち行く筈だった計器が、回路が、今までの過去を切り捨てたかのように再度動き出す。己の主人に未だ働ける、未だ動ける、未だ戦えると誇示しているかのように。
……何にだって終わりはある。世界を二分した片方の盟主が消滅したように、終わりは避けられない……アタシのように、アンタだって必ず終わりが来る。
機関が腐り、船体が朽ち、主砲は錆び付き、築き上げた伝説だって忘れ去られる日が必ず来る。そう、何時かは……だけど今日じゃない。
「モンタナ!?お前もなのか?!」
使い込まれ、艦に馴染み切った電探、火器管制装置、その他艦に搭載されていた精密機器が久方ぶりに動き出す。モンタナの願いが、意志無き機械の老兵を呼び覚まし、主の命を受けるべく佇みだす。
495: リラックス :2018/07/14(土) 09:03:25
「どんなに馬鹿をやらかしても、可愛い後輩たちに愛する祖国ってことは変わらない。尻拭いとまではいかないが、アタシたちに免じて、見限るのはもうちょっと勘弁してやってくれ」
「こ……コロラド……」
「それに、戦えない無念を味わうのは、アタシだけで良い」
この場所に係留されて以来、動く事も、そして誰も守るべき者もおらず、放置されていた隔壁や消火装置が、武勲無き武勲艦として時に揶揄されながらも、それでも気高くあり続けようと胸を張って前を向き続けた戦艦の想いに応えて最後の御奉公を果たすべく再稼働を果たし始める。
「……コロラド」
「……所詮、アタシはハリボテの記念艦、だけどアンタは違う。
少しばかり古いが機関は動く、主砲は敵を討てる、船体は海を走れる。記念艦では身動き一つ出来ないが、戦艦なら世界だって動かせる」
長門の言葉にそう答えたコロラドの身体は、足元から静かに消えつつあった。老朽化し切っていた長門を、自然の摂理に、世界というどうしようもない負荷に抗って強引に復活させる関係上、コロラドの力も必須であり……時間切れになりつつあった。
戦艦長門が復活するに合わせてコロラドの身体は徐々に消え始め、足元から次はひざ下まで、次は左手から肩までと、長門が思わずしっかりと握り締めている右手から離れた場所がどんどん虚空へと消え続けていた。
「恥かきついでに、もう一つ頼まれてくれないか?夢見心地な連中の目を覚まさせてやってくれ。
アイツらは、まだ間に合うはずだ」
「何が恥だ…… そんなの、無茶でも何でもないだろう!お前たちの分まで、必ずやり遂げてみせる!」
「ハッハッハ、それは助かる。ステイツの横っ面を引っ叩いて目を覚まさせて世界を救ったとなれば、死に損ないの伝説の残滓だって本物の伝説になれるだろうさ」
本当は誰よりも自らが動きたかったのだろう彼女達が無念を堪え、自分へと託した想いをどうして無碍に出来るだろう?
自分たちの想いを長門が汲み取ってくれたことを理解したコロラドは、肩の力が抜けたようにフッと微笑み、
「……ホンモノになって来い!」
その言葉を残してコロラドは消えた。後に残っていたのは、稼働状態へと変貌した戦艦長門と、その艦霊だけだった。
「……勿論だ、コロラド」
その言葉が発せられた直後、戦艦長門の艦内が俄かに騒がしくなる。
耳を澄まさなくとも分かる。
今の今まで大した整備も無く放置されていた老齢戦艦が、一体全体どういう訳か完全なる稼働状態にまで蘇っていたのである。その事に驚愕し、絶句し、狂乱しない訳が無い。
「吉報を待っていてくれ。もう一度、伝説を築いてみせよう」
もう居ない戦友達に対して、長門はただこの一言だけを言った。それ以上の飾りは、不要だった。
――――――戦艦長門
最初にして最優のビッグセブンと呼ばれた彼女は、本来であればもっと早い段階で記念艦か解体となる筈であったこの戦艦は、紆余曲折と幾つかの必然と偶然の積み重ねによって21世紀直前まで戦艦として在り続け東亜危機を最後の出撃として漸く退役、記念艦となった。
東亜危機後、本来なら既に動けない筈で有りながら全盛期の如く稼働した事に驚愕した様々な機関や組織が長門の事を調査したが、それら全ては判を押したかのように『原因不明』の一言を報告書の結びとしていた。
手がかりになるかもしれない証言の中に、『長門に寄り添う戦艦複数の姿を見た』『その戦艦達は星条旗を掲げていた』というが、これは一部の人々を除いて都市伝説かそれに近い与太話として片付けられているが、この話が出回ると各地に記念艦として存在する戦艦達に献花を行う老人達の姿が見られたことを付け加えておこう。
最後に、もう一つだけ蛇足しよう。
戦艦長門の最後の出撃の際、とある通信が受信されたという。
有志の手により復元された通信、その内容は以下のような物だったとされる。
『発 : 武勲無き武勲艦
宛 : 敗北無き武勲艦
GOOD LUCK!』
496: リラックス :2018/07/14(土) 09:05:45
以上、この艦達も無念だったろうなとバトルシップ見ながら思いついたのでカッとなってやった。
後悔と反省はそれなりに。
最終更新:2020年12月21日 23:55