785: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/12(日) 22:39:49
この作品は『日本国召喚』と『提督たちの憂鬱』のクロスものです。
原作の平成日本は転移していません。
俺TSUEEE系が入っています。
笑い飛ばす程度に読んでください。


提督たちの憂鬱×日本国召喚クロスネタ ロデニウス沖大海戦 前編



ロウリア王国の王都の北の港には、クワトイネ攻略のために待機していた4400隻の大艦隊が存在した。
木造船とはいえ、4400隻もの艦船は壮観であった。
このため、開戦直後のギムの街での戦闘で3万の侵攻軍が全滅したと聞いても、国王以下主戦派にはまだ勝利を確信していた。

「たしかに陸では負けた。しかし、海では負けないだろう」

彼らはそう息巻いていた。
実際、クワトイネ海軍の総艦船数は約50隻。
戦力比88:1となれば、最早虐めでしかないし、相対する側からしたら笑いか、悲壮感かのどちらかであろう。
この戦力差を持ってクワトイネ海軍を撃破し、後方の経済都市マイハークを占領し、そこから公都クワ・トイネを制圧する。
彼らはそう戦略を立てた。

実際、この世界の戦略からすれば、どこも問題は無かった。
近代の鉄道網と道路網が整備されるまで、陸軍の戦略移動はとにかく遅い。
一方で、水運での大量輸送は、今も昔も陸上輸送の比ではない。
そのため、ギムの敵軍が取って返そうにも、ギムから250kmあるクワ・トイネに到着するまでにマイハークから上陸した部隊が制圧している可能性が高かった。

だが、彼らの戦略は、異世界から来た日本の存在によりまたも根底から覆されてしまう。
しかし、それを全く知らない彼らには、それを防ぐことは難しかった。
ギムでの敗北から8日。
4400隻の大艦隊は、ようやく出港準備を終え、出撃に至った。

786: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/12(日) 22:40:24

中央歴1639年4月20日 マイハーク港


ロウリア王国が艦隊を出航させたという情報が伝えられ、マイハーク港からクワトイネ公国海軍は出撃準備に入った。
大半の艦は、木造帆船であるために帆を畳んでおり、水兵たちは敵船に切り込むための梯子、投げ縄、火矢、刀剣類の整備を行っている。
矢を防ぐ木盾が、等間隔に並べられ、バリスタが船横に配備される。
実のところ、近代の大砲を備えた戦列艦同士の海戦であっても、帆船同士の戦いは砲戦だけでは終結しない。
当時の球形砲弾では帆船の硬い木材を十分に破壊することは出来ないし、火災に至ることは中々ない。
ゆえに、乗艦戦闘、殴り込みが基本となる。
これに終止符を打つのは帆が無くても好きに進路を変えられる蒸気機関、容易に火災に至る榴弾、命中率の高い後装施条砲、装甲を張った甲鉄艦が登場してからである。
しかし、クワトイネにもロウリアにもそんなものはなかった。
少なくとも"今までは"。

「鉄でできた軍艦というのは初めて乗るが、これはなかなか・・・」

提督パンカーレは、船に附けられた階段を上って、自らの乗艦を見渡す。
前後に円筒状の砲塔を持ち、垂直に立つ三本の煙突からは黒煙がモクモクと上がっている。
側面にはいくつもの砲が並んでおり、新しく加わったこの艦に大きな期待を抱く。

「装備しているのも列強の砲艦に装備しているという大砲ですが、威力も我々の想像を超えます。
 しかもこれで"日本人たちが40年以上も前に使っていた骨董品"だと言うのですからね。
 最新鋭艦ではどうなっているのやら・・・」

側近の言葉に、改めて日本の凄さを見せつけられる。

彼らが乗艦しているのは、かつて日露戦争で活躍した装甲巡洋艦『出雲』だ。
第一次大戦後から、日露戦争で使用された装甲巡洋艦は練習艦として持ち回りで使用されており、史実では香取型練習巡洋艦が登場するまで大事に使われていた。
憂鬱世界でも兵学校の練習航海のために大事に使用されていた『出雲』も寄る年波には耐えられず、史実通り新造の練習巡洋艦にその座を譲り、あとは廃艦を待つだけだった。
ところが、転移の結果、クワトイネへ兵器の売却が行われた。
当初は松型なども考えられたが、これはある重大な問題によって、断念せざるをえなかった。
それは石油燃料の保存である。

それまで、クワトイネにとって石油は隣国クイラ王国で自噴する厄介物扱いであり、燃料に使おうにも液体である石油は保存や輸送が大変であったのだ。
桶に入れても長時間経つと染み出すし、仮に水道を作っても継ぎ目から液体が漏れ出る。
おまけに、臭くてかなわないし、少しでも火元の傍にあると気化した石油に引火して大爆発を起こす。
まだ石炭を使うほうがマシであった。

日本からの技術支援を行おうにも、転移からたった二ヵ月で完璧な貯油施設を作り上げることは大変であるし、造っても今度は扱う彼らへの教育の徹底しないといけない。
そういうわけで、石油燃料を使用する艦艇の輸出は当面は後回しになり、替わって石炭燃料を使用する艦艇が輸出されることとなった。
これならば、クワトイネもクイラも扱いが容易であった。
しかし、第一次大戦の頃から燃料が重油に移行していったため、石炭を使用するのは日露戦争時代の艦船ぐらいしかなかった。
こうして、白羽の矢が当たったのが、比較的新しい『出雲』であった。
『出雲』は同型艦の『磐手』と共にクワトイネへの売却されることとなった。

787: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/12(日) 22:41:17

「提督、海軍本部から、魔伝が届いています」

側近であり、若き幹部、ブルーアイが報告する。

「読め」
「はっ!
 『本日夕刻、大日本帝国の2個艦隊艦隊50隻が援軍として、マイハーク沖合いに到着する。
  彼らは、我が軍より先にロウリア艦隊に攻撃を行うため、観戦武官を彼らの旗艦に搭乗させるように指令する。
  なお、観戦武官の人数については問わない』・・・との事です」
「50隻・・・本艦の性能を知れば、4000隻が相手でも勝てそうだが、我々が置いてけぼりというのは好かんなぁ・・・・・。
 しかも観戦武官の派遣だと?これは我々の戦争でもあるのだし、どうせなら本艦ごと行けないか?」

原作の圧倒的な差であれば、ここまで主張しなったであろうが、パンカーレは自身が乗る軍艦の性能から、原作とは違い少々積極的になっていた。
加えて、自国の戦争であるのに、日本頼りばかりで海軍の沽券に関わるという事情もあった。
しかし、彼の願いはかなわなかった。

「それは無理でしょう。
 最大速力では、日本の軍艦は本艦よりも遥かに優速です。
 そのため、かえって足手まといになってしまうかと」

同乗する観戦武官がそう言った。
彼の説明によれば、日本の軍艦の主力は、本艦の1.5倍前後速いという。
仕方なしに彼は側近のブルーアイら数名を観戦武官を選出し、彼らを移乗させるため、艦隊から一足先に出撃して、日本艦隊との合流を目指した。



観戦武官に選ばれたブルーアイは、我が目を疑っていた。
その艦は、彼の常識からすれば、とてつもなく大きかった。
いや、大きいというレベルではない。
自身が乗っている供与された『出雲』の倍以上の全長はあった。

(いったいなんだ、この大きさは・・・!
 大砲の砲身も人一人の胴回りほどは有るぞ!
 彼らの技術では40年も経つとこれほど軍艦を作れるようになるのか!?)

実際には『出雲』が竣工してから20年後に竣工したのだが、当の彼らにはそれでもなお驚愕であったであろう。

戦艦『長門』

「『陸奥』と『長門』は日本の誇り」と称され、長らく連合艦隊の旗艦を務めたビッグセブン。
現在建造中の大和が竣工するまでは日本最強に君臨し続ける戦艦であった。

「艦隊司令長官の栗田です」
「クワトイネ公国第二海軍観戦武官代表のブルーアイです。このたびは、援軍感謝いたします」
「さっそくですが、敵艦隊は我々の偵察機が現在追跡しており、ここより西側500kmの位置に彼らはおります。
 船足は、5ノット・・・貴国に供与された『出雲』の最大速力の3割程度と非常に遅くはありますが、こちらに向かってきております。
 我々は明朝出航し、本艦と同型艦『陸奥』のみで、これを撃滅いたします」

ブルーアイたちは驚く。
たしかに日本の軍艦の凄さは、嫌というほど理解させられているが、たった2隻だけで4400隻の大艦隊に挑むのは無謀に覚えた。

(しかし・・・)

彼らの持つ自信とこの艦の異様な大きさから、どことなくそれが可能であると感じてしまう。
その夜、ブルーアイは複雑な気持ちで眠りについた。

788: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/12(日) 22:42:01
翌21日早朝―――――――――――


ロウリア王国東方討伐海軍

「いい景色だ。美しい」

ロウリア海軍の海将シャークンは、大海原を美しい帆船が風をいっぱいに受け進む自らが率いる艦隊を見て、そう感嘆とする。
その数4400隻。
大量の水夫と揚陸する陸兵を乗せ、彼らはクワトイネ公国経済都市、マイハークに向かっていた。
見渡す限り船ばかりである。
海が見えない。そう表現したほうが正しいのかもしれない。

6年をかけた準備期間。
パーパルディア皇国からの軍事援助を経て、ようやく完成した大艦隊。
これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。
いや、もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。
そんな野心が一時とはいえ、沸き起こりそうなほどの大艦隊であった。


そんな艦隊の前方に小島のようなものが二つ見えてくる。
こんなところに島などあったか?と疑問に思うのもつかの間、それは島で無いことに気付く。
巨大な城郭を思わせる鉄の構造物が並び、風を受けずに我が艦隊よりも素早い速度で動いている。
それが船だと気づいた次の瞬間、轟音と共に船から火炎と黒煙が吐き出された。

「なんだ?勝手に燃え始めたのか?」

シャークンが疑問に思った瞬間、最前方を走る帆船が突然大爆発を起こした。
それも1隻ではない。
直撃を受け爆発四散する船の周囲にも鉄のつぶてと燃える火の玉が降り注ぎ、乗員を殺傷し、船を勢い良く燃え上がらせる。
さらに直撃を受けた船からも爆散した火のついた木や船の部品、人間だった物があたりに撒き散らされる。
戦闘に備えて密集隊形を取っていたことが仇となり、被害を加速度的に悪化させていた。

「!!なんだ!!あの威力は!それにあの距離から当てやがったのか?」

目で見えるのがやっとの距離でこの経験したことの無い威力に、それを見ていた船団全員が驚愕する。

「まずいぞ!!・・・しかし、まだここが、ワイバーンの届く距離でよかった。
 通信士!!ワイバーン部隊に上空支援を要請しろ!!『我、敵超大型艦と交戦中』とだ!急げ!!」

789: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/12(日) 22:42:35
ロウリア艦隊から2万8千mの距離から射撃を行っている『長門』の艦橋では、栗田が敵艦隊の様子を双眼鏡で確認している。
陸軍とは違って海軍では見慣れない、あまりに見たくないものまで見える光景に気分が悪くなるが、それでも指揮官としての矜持で踏みとどまる。

「4400隻とはいえ、全てが木造船では、な・・・」
「いくらなんでも弱い者いじめが過ぎますが、武力で物を語る連中には、圧倒的な力でぶん殴らないと話を聞いてくれないでしょうからね」

『長門』から放たれた41cm砲弾は、敵船が木造船という事もあり、対地対空榴弾と対地榴散弾が使用されていた。
いくら長門型2隻とはいえ、さすがに数の暴力ではその前にこちらの砲弾が尽きてしまうため、1発で多くの船を撃沈できるよう延焼効果を期待しての選択であった。
木造船であるため、近接信管であるため、電波を吸収し反射しにくい木材によって無効化されてしまうことから時限信管を用いているが、5ノットしか出ていない低速船に加え、正確に位置を特定する電探と優秀な目を持つ見張り員、それらの情報を基に、正確に理想的な発射角、調停時間等を算出するトランジスターコンピュータによって、その威力は十二分に発揮されていた。

「距離は1万5千まで接近して、そのままを維持しろ。
 敵わないと見て逃げ出されて上陸を許してはならんからな」

栗田はそう言って、『長門』と『陸奥』に距離を詰めるよう下命する。
しばらくして、艦内のCICから対空電探に目標有りとの報告を受ける。

「ワイバーンの援軍がようやく来たか。
 最高時速235kmは、やはり遅いな」
「仕方ありません。生物ですから」

レーダーに現れた飛行物体は350を超えており、敵は全く諦めていないということが理解できる。
まぁ、諦めているならば、目の前の艦隊が既に逃げ出しているはずだ。
未だにこの場に留まっていることは、何らかの秘策があるという事になる。

「射撃目標を敵航空部隊に変更。
 弾種は零式通常弾。
 本艦は近接信管、陸奥は時限信管を使用。
 初弾は各砲塔1発ずつとせよ」



海将シャークンは、攻撃をしていた敵艦が突如としてそれを止めたことにいやな予感が過ぎる。
しかし、未知の攻撃を行う相手の行動を読むことなど彼には不可能である。
彼にできることは、自身の経験上最良と判断できる選択をすることだけであった。

「そろそろ、ワイバーン部隊がこの海域に到達する。
 ワイバーンの航空支援と同時に、一気にたたみかけるぞ」

敵艦とは反対側の方角の上空にワイバーン部隊が見えてくる。
だが、そのワイバーン部隊には、鉄の暴風雨が襲いかかった。

攻撃を止めていた敵艦が再び攻撃を再開する。
それに気づき、衝撃に備えようとするが、攻撃はいくら待っても来ない。
すると、はるか後方で爆発が起きた。

いきなり目の前で黒い塊が爆発し、破片を浴びた竜騎士とワイバーンが次々と落下していく。
何が起こったのか、全く解らないまま、20騎余りが墜とされた。

790: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/12(日) 22:43:09

「生物相手に有効かは不安だったが、意外と近接信管は作動するものだな」

原作知識でグラ・バルカス帝国のグレードアトラスター型戦艦(ほぼ史実大和)が、近接信管によって、レイフォルのワイバーン部隊を墜としていることを知っている。
しかしだからといって、自国の近接信管でも墜とせるという保証は無かったため、念のために『長門』で近接信管、『陸奥』で時限信管を使用して比較を行っていた。
結果として栗田の心配は杞憂に終わり、近接信管でも十分に墜とせることが証明された。

「次射より全門斉射とする。
 三斉射の後、主砲は射撃を中止し、高角砲と機銃によって全機撃墜せよ」

主砲による対空射撃は強力であるが、射撃中は密閉砲塔で防御されているものを除き、高角砲や機銃の操作要員は艦内に退避しなければならない。
そのため、高角砲の射程内では主砲による対空射撃はしないほうが良い。
史実でもレイテ沖海戦では武蔵が対空戦闘中に警報を出し忘れたため、操作要員が主砲の爆風でローストされるという悲劇が生じている。
その後、主砲が三斉射され、ワイバーンが230騎余りにまで減らした。
それでも突撃してくる彼らに対し、『長門』と『陸奥』の45口径12.7cm連装高角砲と50口径7.6cm連装高角砲合わせて32門ずつが火を噴いた。


また1騎、また1騎と、次々と落ちていく。
一通りの鉄の暴風雨が去ると、向かえたのは一面を負う爆発の雨であった。
彼らは、2隻に襲い掛かろうとするが、百発百中。
1発撃てば必ず1騎が墜とされていく。
静粛が大海原を支配した。



「・・・・・・・・・・・・・・・・」

だれもが信じられずに、声が出ない。
ワイバーンは、1騎落とすだけでも、船にとっては至難の技、それが見ている範囲だけでも200騎以上が墜とされた。
出撃してきたのは350騎もの数を有していた精鋭のワイバーンが、血の雨を降らせながら落ちていった。

「わ、我々は、悪魔を相手に戦っているのか?」

海将シャークンは、悲壮な心境でつぶやく。
なんと表現していいのか解らない。
しかし、悲劇は自分たちだけを見逃してはくれなかった。
ワイバーンを全滅させた『長門』と『陸奥』は、再び、ロウリア艦隊に砲を指向して射撃を開始した。





今回はここまで。
予想以上に長くなったため、ここでいったん切ります

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最終更新:2018年08月14日 15:34