811: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 01:04:04
この作品は『日本国召喚』と『提督たちの憂鬱』のクロスものです。
原作の平成日本は転移していません。
俺TSUEEE系が入っています。
以上を理解してお読みください。
提督たちの憂鬱×日本国召喚クロスネタ ロデニウス沖大海戦 中編
再び説明するが、帆船時代の戦闘は、水夫の切り込みで決する。
それはこの世界のロウリア王国・クワトイネ公国・クイラ王国が争うロデニウス大陸の海戦でも同じことであった。
船にはバリスタ等が備えられており、ある程度船にダメージを与えたり、火矢で燃え上がることも稀にあるが、船を根本的に破壊することはできない。
最後は、切り込みによるため、結局は水夫の数がものをいう。
だがそれは、相手が同じ土俵に立っていればの話である。
常に好きな方向へ好きな速度で移動し、有意な位置を取れる蒸気船。
木造船を容易に破壊し火災を起こさせる榴弾。
その榴弾を素早く発射し、確実に命中させる後装施条砲。
そして、その砲弾から船を守るために装甲が張られた甲鉄艦。
これらの内、一つか二つでも相手が有していれば、4400隻の大艦隊であっても、勝敗は分からなくなる。
そして、それらを全て備えた艦が相手では、最早勝ち目はほとんどない。
『長門』と『陸奥』は距離1万5千mからさらに8千mまで近付きながら砲撃を再開した。
ロウリア艦隊のバリスタなんぞ全く届かない完全なアウトレンジ攻撃であった。
おまけに、近付こうにも水夫のオールと風任せの帆で動く帆船では、自由に動き回れる蒸気機関を有した2隻に近付くことなど不可能である。
距離1万mを切ると主砲の50口径41cm三連装砲だけでなく、先ほどワイバーン戦で猛威を振るった45口径12.7cm連装高角砲と50口径7.6cm連装高角砲も加わる。
主砲に比べれば威力が弱いとはいえ、木造帆船からすれば脅威である。
1隻1隻が確実に撃沈され、数分もすれば、半分以上の約2300隻は既に沈み、約500隻近くが損害を被っていた。
既にロウリア海軍の指揮は完全に崩壊している。
水夫によるオールでの航行は、水夫の息が合ってこそ初めて発揮する。
士気が崩壊した現状では、必死に漕いでも息が合わず、まともに進むことができない。
中には船から逃げ出そうとする水夫もいる。
最早大勢は決していた。
812: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 01:04:38
海将シャークンは、絶望していた。
どうやっても勝てない。
このままでは、部下の命をただいたずらに殺すだけである。
徹底抗戦か?撤退か?降伏か?
最初の選択肢はとうに失っている。
しかし、降参して捕虜になっても、亜人殲滅を掲げるロウリア人が許されるだろうか?
彼が艦隊に命じたのは、撤退であった。
ロデニウス大陸の歴史上最大の大艦隊の半分以上を失う大敗北。
国に帰ったら、死刑は免れないだろうし、歴史書に『無能の将軍』として名が残るだろう。
しかし、部下を全て死なす訳にはいかない。
だが、"少しのわがままくらいは許してもらおう"。
「全軍撤退せよ。繰り返す、全軍撤退せよ
ただし、本艦は殿としてこの場に留まる!」
「敵艦隊、反転を始めました」
「引き上げたか・・・」
栗田は砲撃中止を命じる。
下手に退路を塞ぐようなことをして暴発されてはたまらないし、なにより弾薬の残りが心配だった。
「救命筏と内火艇の用意をしておけ。生存者の救助を行う」
ロウリア艦隊がそれまでいた海域に近づくにつれ、おびただしい数の浮遊物が海を覆いつくさんばかりに浮かんでいるのが見えてくる。
大は漂流する帆船から、小はその乗員や板切れまで。
圧倒的攻撃力による一方的な破壊。
それが行われたことを物語っていた。
クワトイネ公国の観戦武官ブルーアイは、艦橋で戦闘を終始見ていたが、実のところ、実感が無かった。
しかし、この海域に近づくに連れ、その実感を改めて感じ取っていく。
そして安堵する。我が祖国がこのような大国と敵対しなくて良かった、と。
そう一息つき、ふと漂流する敵船を見ると、甲板上で作業する人影のようなものが見えた。
(逃げ遅れた水夫でもいるのか?それにしては無事なように見えるが・・・)
ブルーアイが人影を見た帆船は、他の漂流する船に比べて比較的損傷が少ない。
いや、むしろ、損傷は全くないと言って良い。
それほどまでに良好な状態であった。
ブルーアイがその船を注視しようとしたその時、その船は帆を突如広げ、自分たちが乗る船にまっすぐに向かってくる。
そして、船上から勢いよく火が燃え上り、たちまちその船は火の塊となって向かってきた。
813: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 01:05:19
その様子はブルーアイ以外の『長門』乗員たちにも確認できた。
艦橋にいる栗田はそれを見て瞬時に察した。
「いかん!火船攻撃か!?」
火船攻撃。
イギリス海軍がスペインの無敵艦隊を打ち破ったアルマダの海戦で有名な戦法で、可燃物や爆発物を積載した船を敵艦船に体当たり攻撃させる戦法である。
古くから使用されている戦法であり、意外なことにも第二次大戦中にイギリス軍が実行していたりする。
「私の我がままに付き合わせてすまん」
突撃する火船の甲板上で、シャークンは残ってくれた側近にそう言う。
「いえ、私もロウリア海軍の軍人です。海将のお供をさせてください!」
側近は、そう言って答える。
他の乗員たちも私もです俺もですと答える。
作戦前に退艦を希望する者は退艦させており、残っているのは自分の作戦に指示して付き従っている者ばかりだ。
「では、ロウリア海軍の意地を見せようぞ!」
栗田は反撃と火船の破片から乗員を防ぐため、直ちに救助作業の準備で甲板上に居る乗員を艦内に退避するよう命じる。
『陸奥』は射線上に『長門』がいるため射撃できないため、『長門』が応戦するしかない。
乗員の艦内退避が急がれる。
同時に、砲塔の指向する。
「ぶつかるぞ!」
誰かがそう叫ぶ。
乗員の退避がまだかまだかと焦る。
距離は既に500mを切っている。
主砲を撃てば逆に自艦に損傷が及ぶ距離だ。
「退避完了!」
「撃て!!」
『長門』の12.7cm砲と7.6cm砲が堰を切ったように火を噴く。
距離80m。ギリギリの距離で突撃してきた火船は爆発を起こして、海に崩れ落ちた。
814: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 01:05:52
「うっ・・・生きているの、か・・・・・」
最後まで火船に残っていたシャークンは、砲弾の爆発によって生じた爆風で吹き飛ばされ、海に投げ出されていた。
「一矢報うことは出来たかな・・・?」
自分がついさっきまで乗っていた火船から、この戦場において最後となるであろう爆音が発せられ、それが木霊し、火柱と黒煙が上がる。
しかし、敵船はところどころ火が上がっているが、問題なく航行しているように見える。
「・・・・・・だめか。まったく、ついていない……」
見ると敵船は生存者の救助を行っている。
おそらく、将である私は捕まれば拷問を受け、情報を引き出したのちに、兵の志気を鼓舞するために首を刈りとられるのだろう。
我が国ではそうする。撤退して死刑になったほうが楽だったかもしれない。
「だが・・・」
我が海軍をここまで追い詰めた日本国とはどんな国なのか?一体どのような兵器を使用しているのか?
今は好奇心のほうが勝っていた。
一方で、『長門』では被害の確認が急がれていた。
至近距離で船が爆発したのだ。
いくら装甲で覆われた戦艦とはいえ、無事であるとは限らない。
「電探並びに左舷高角砲射撃指揮装置の一部が破片により損傷。
降ってきた破片により、艦橋見張り員数名が負傷しました。
また、木甲板に火のついた破片からの延焼で火災が発生。既にほぼ鎮火しております
操艦・戦闘共に支障ありません」
「ごくろう」
部下からの報告に、栗田はそう返す。
「勇敢な連中でしたな」
「ああ。少なくとも降伏したふりをして騙し討ちするレイフォルの卑怯者共よりは遥かにマシだったな」
栗田は、周囲の人間に聞かれないように、艦長であり、同じ転生者である神重徳とそう小声で話した。
グラ・バルカス帝国と戦ったレイフォルは、降伏旗を掲げさせ、不用意に接近した敵艦に不意打ちを行うという手段を取った。
今回の火船攻撃は、死んだふりをしていたが、相手の懐に飛び込むためには必要なことであるし、レイフォルの行動よりは遥かにマシであった。
「要救助者の救助を再開せよ。勇敢に戦った者たちに対し、海の男として礼儀を示して救助に当たれ」
こうして、一つの海戦が終わった。
それは、この戦争における"2つの海戦の内の1つの終焉"であり、日本の強大さを世界に知らしめる一端となる海戦であった。
今回はここまで。
今回で終わらせるつもりが、予想以上に長くなったため、ここでいったん切ります。
次回こそ、終わらせたい・・・
最終更新:2018年08月14日 15:36