904: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:35:41

大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「B-Day」4

Main Staring:
Io・Fleming (Ensign)
Daryl・Lorentz(Chief Petty Officer)
Fisher・Ness (Chief Petty Officer)
Cornelius・Qaqa (Chief Petty Officer:Maintenance Technician)

Extra Staring:
<Nikaya,2th Special Squadron,Pasific Union,O.M.N.I.Enforcer>
Akito・Sasahara(Ensign)
Mizuki・Sakagawa(Ensign)
Rachel・Ransome(Ensign)

Staring Mobile Suit:
FA-78[G] Full Armor Gundam
MS-14 Hi-ZACK Custam
MS-15 MarasaiI
RXZ-07 Z Gundam
MS-14E2 Zaku-Flipper

Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Special Thanks:時風氏
Written by:弥次郎


      • L1宙域 大洋連合担当宙域



第3波攻撃は第2波攻撃からそう間をおかずに始まった。
大洋連合も第2波攻撃の最中から準備を重ねており、フェイズの進行とともにすぐさま投じられたのだ。
整然と並ぶ宇宙用SFS、そしてその上に設置された巨大なビーム砲「ビッグガン」。
そして、それを操るためのMSと、作業用のMSたち。
さらにミラージュコロイドを用いた奇襲を警戒し、またL1の宙域の情報を集めるための観測MSであるザク・フリッパーも少数だが展開している。
それらは合計で20機近くも展開している。それは大洋連合指折りのスナイパー部隊を抱えるサンダーボルト師団の戦力だ。

整然と並んだMSの中、専用機であるハイザック・カスタムの中でダリル・ローレンツはため息をついていた。
狙撃用の引き出し式スコープを覗きこめば、L1宙域を漂う膨大な量のデブリと、それに紛れる宇宙砲台などが見える。

『どうしたダリル?』

回線に乗ったのか、僚機のフィッシャーから通信が飛んでくる。

『いや、なんでもないさフィッシャー。
 ただ、地味な任務になりそうだなと思っただけさ』

『MSや輸送艦相手じゃなくて、あくまで露払いだしな』

獲物をしとめるスナイパーとしては、些か不満のある仕事だ。
今回の任務は、標的をしとめるのではない。これまでの通商破壊でどちらかといえば副業のようにしていたこと。

『ま、ウォーミングアップにはなるだろ。長丁場の作戦でスタミナ使いきっちゃ話にならねぇし、気楽にやろうや』

『…そうだな』

スコープを微調整し、戻す。
既に準備は万端。適度なリラックス状態だ。
自分用にあつらえてもらったコクピットは過ごしやすく、ダリルは気に入っていた。
これに乗っての初陣も、存外悪くはない。通商破壊がほぼ終わり、真っ向から戦場に臨むことになる。
いよいよ終局が近いのだと、嫌でも実感している。弱いとわかるターゲットを狙い撃つのは気が引けるが、それがあとどれほど続くのだろうか---少し軍人らしくないことを考えてしまい、首を振ってそれ振り払った。
今は、任務に集中すべきだ。

905: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:36:46

『スナイパーの皆さん、聞こえますか?』

回線に、母艦のビーハイヴからの通信が入る。
即座にスイッチを切り替え、スナイパーの誰もが最前までのリラックスムードを振り払う。

『今回はスナイパーの皆さんには突入ルートの構築をしていただきます』

ルート構築。
そう、それこそが今回のダリルやフィッシャーたちの仕事だ。
ビッグガンは今回はMSや艦艇を標的とするのではなく、デブリや障害物をターゲットとするのだ。

『レーダーに映りにくいターゲットはスナイパーの皆さんの目視が頼りとなります。
 測距装置を用いての内部のマッピングもよろしくお願いします』

オペレーターの声に了解の声が満ちた。
防衛の要となる小惑星型コロニー「ウルド1」周辺にはそういった防衛用の自立砲台などが多く、単純なデブリでもかなりのものとなっていて天然の要害と言える。だが、それが問題ならば吹き飛ばしてしまえばよいのだ。
ピンポイントで、正確に、砲台や邪魔となる機雷などを的確に破壊するのだ。
踏み込んでいくのが危険であるならば、遠くから破壊すればよい。

また、どこにどれだけの隙間やデブリがあるのかのマッピングも彼等の仕事だ。
彼等の作ったマップが突入部隊の道しるべとなり、また彼らの作った道が突入部隊の道となる。
地味だが重要な仕事。

『では、お願いします!』

オペレーターの声と共に、狙撃が始まった。

『撃てェ!』

『おら、そこだ!』

ダリルを筆頭としたスナイパーのエース部隊。
彼等の射撃は、多少のデブリでも強引に破壊し、防衛のための砲台などを破壊していく。
ミノフスキー粒子を前提とした大洋連合の光学測距装置とスナイパーたちの勘。
これらは、NJしかないL1宙域の動かない標的相手には過剰戦力とさえいえるほどだった。
まさにダックハント(鴨打ち)。瞬く間に、ウルド1へのルートは切り拓いていく。
C.E.方式と比較し、UC式のビーム兵器の威力は同口径でも単純に4倍の威力と射程がある。
もし威力にある程度目をつむれば、その射程はさらに伸ばすことも可能だ。
それを利用したルートの構築。常識外のそれを、少し搦め手で運用する。
良くも悪くも思考が硬直するザフト側には、予想しきれないものだった。

<しまった、アウトレンジから…!>

<増援を回せ!工作隊、デブリを動かせ!少しでも隠さないと…!>

<駄目だ、こっちも手一杯で工作隊のMSも迎撃に出ていて戦力が…!>

当然、ザフトの指揮官も大洋連合の目論見を察した。
このままではウルド1への、防衛の要へのルートが丸裸になる。
勿論一直線であるならばウルド1の要塞砲で狙い撃ちにできるのだが、スナイパーたちは射程外にいるし、完全に丸裸ではなく、MSが隠れたりルートを変更して躱す程度の余地を残したルート構築だった。
こちら側、ウルド1側だけが不利となり、逆に要塞に取りつこうとするMSにとっては有利となる遮蔽物と化したのだ。

<くそ、防衛隊、展開急げ!敵戦力が突っ込んでくるぞ!>

<防衛砲台組も小口径の奴は直掩に回せ!>

<大洋の奴らが来るぞ、新兵どもは下がらせろ!>

だが、彼らの対応は遅かった。
いや、正しく言えば彼らが対応を始めても間に合わないほど早くに目論みを達したというべきか。
大洋連合の部隊のMS、そのコクピットのモニターに表示された予定ルートのデブリはみるみる破壊され、あるいは避けるべき障害物がマッピングされて表示されていき、ザク・フリッパーの光学測距情報とアセンブリされ、通るべき道として構築される。そして、それらは突入部隊へと最優先で転送される。

『ルートは開かれつつある。突入部隊は発艦はじめ!』

『装備を落っことすなよ!』

『新型の力を見せてやるさ』

輸送艦からは突入用の装備を整えたハイザックやマラサイが次々と展開し、それぞれがカタパルトの加速を受けて突っ込んでいく。
さらに、ビグロなどの突撃型MAまでもが格納庫からその巨体を晒した。

906: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:38:21


それらの先鋒を行く機体は、決まり切っている。
輸送艦兼工作艦の「ビーハイヴ」のハッチが開き、内部でバックライトに照らされたMSが姿を見せる。
不気味に光るツインアイは、モノアイが量産型として普及している大洋連合に置いては『特機』を象徴するものである。

FA-78〔G〕フルアーマーガンダム。
大洋連合の持ち得るMS技術のオールインワンにしてプロトタイプたるガンダムを、技術更新に合わせてアップデート。
さらにフルアーマー構想と呼ばれる高火力・重装甲・高機動の3点で強化した形態のMS。

『いいか、イオ。可能な限り調整しているけど、ZZと同じ感じで振り回すなよ!

『OKOK、そこは何度も聞かされた!愛機をぶっ壊しはしねぇよ!』

手慣れた動作で、ダブルビームライフルと4枚のシールド、ミサイルランチャーなどを受け取りながら、接触回線でイオ・フレミングはコーネリアスの忠告に応じる。そう、特機であるはずのFAガンダムは、既にそのポテンシャルではイオの操縦に追従が難しくなりつつあったのだ。
ガンダリウム合金、マグネットコーティング、ムーバブルフレーム。それらを盛り込んで強化されても、伸び代の限界はZガンダムよりも早くに訪れてしまう。その稼働状態を維持し続けるためのムーバブルフレームの導入が不完全だったことが原因か、過酷な環境での運用に放り込んだためか、それとも別な原因が存在したのか。
勿論、ガンダムMk-2やMk-3を素体とすることでも延命できただろう。しかし、それでも誤差だっただろう。

『晴れ舞台って奴だ。アキトとのセッション、外すわけにはいかねぇよ』

コンソールを操作し、楽しげにイオは語る。
既に戦闘に向けたコンディション調整はばっちりである。
ほぼ1日、24時間以上行われる作戦に置いてはほんのひと幕なのであるが、いつか以来の共闘だ。
あの時の何気の無い共闘は今でもよく覚えている。量産型のカスタム機で、よくもまあ無茶な動きの自分に喰らい付いてきたと感心した。
今はアキトもネームドエースの一人であり、専用機を与えられるほどになっている。
そんなアキトとの共闘で、心が躍らないはずがないのだ。

『FAガンダム、イオ・フレミング!いくぜぇ!』

そして、イオの声と共に、FAガンダムはトップスピードでデブリ帯へと突っ込んでいった。

<まさか……!>

ザフト側の防衛部隊は驚愕した。
デブリの密集帯にためらうことなくかなりの戦闘速度で突っ込む大洋連合の部隊に、だ。
専用の装備をしていることは分かっていたが、それでも速度を落とさず、漂うデブリを次々と避け、残っているトラップを避け、突っ込む。言うほど簡単なはずがない。

おまけに、そのままの状態で戦闘をしているのだ。
接近するこちらに武器を向けて、的確に対応している。
トップスピードで突き抜けて行ったGもそうだったようだが、それに続く一般機までもが同じように戦闘を開始した。
こちらはデブリとの衝突を避けることを優先し、なんとかやっているというのに。

(動きのレベルが違い過ぎる!)

ザフト側の小隊長は相手のレベルの高さを見てとった。
そして、それをすぐさま味方に通達する。

<こいつらは危険だ!ツーマンセルを崩すなよ!>

<了解です、隊長!>

そして反撃を一斉に浴びせる。
デブリにぶつかって届くのは減っているが、少しくらいは牽制になると考えていた。
だが、大洋連合のMS隊はまるでデブリなどないかのように、あるいは、デブリの隙間を華麗に抜けてくる。
そして、自分を狙い、大洋連合特有の、兜を被り、スパイクを各所に配したMSがこちらに急接近してきた。
シールドを構えつつも、このデブリ帯での運用を考慮して切り詰めた銃身を持つライフルがこちらを捉えようとする。

<くっ……>

デブリを貫いて、ビームの弾丸がこちらを狙って放たれる。
こちらも不利な位置取りをされないように機動戦を展開する。
上下、前方、左、上昇しながら重突撃銃で牽制、飛んできたビームライフルを傾けたシールドで何とか防ぐが、すぐにシールドについてのアラートがなる。なんと、被弾面積を大きくして被害を拡散させたはずが、一発で対ビームシールドが使い物にならなくなったのだ。

907: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:39:26

<何だとっ…!?>

<隊長!>

硬直しかけ、部下の叫びに即座に操縦を止めずに動いた。
部下の牽制の間にすぐにシールドを捨て、反撃もそこそこに一旦距離をとる。
そのおかげか、連射されたビームの弾丸を回避することに成功した。
邪魔になったデブリを頭部の機銃で散らし、気休めだがアンチビーム爆雷を詰め込んだグレネードを投げておく。
同時に、友軍の状態をチェックする。

<…くそ、結構落とされているな>

大洋連合のMSはほぼビーム兵器を標準装備し、尚且つ先程体験したように高威力のビームなのはわかる。
しかし、それも当たらなければどうということはないし、デブリに紛れて回避していればそもそも狙いが定めにくくなる。
だがそれでも、大洋連合のMS技術の高さは窺うことが出来た。
こんな危険なL1宙域で機動戦を行うのは、ザフトでさえも危険が伴った。
MSはかなりデリケートで、大きいデブリは勿論、細かな部品サイズのデブリが重要箇所に潜り込んでしまうと、
それだけで内部機構がダメージを受けて行動不能に陥る可能性だってある。

<飛んでもない奴らですね。まるでデブリが怖くないみたいだ…>

<頭のねじがダース単位で抜けているな、あいつら…>

ともあれ、相手の戦力評価は出来たというべきか。
新造された対MS徹甲弾を使っているはずの重突撃銃が命中してもろくに効いていない所を見ると、どうやら装甲面でも相当頑丈らしい。だからこそこのデブリ帯でも難なく行動できるのだろう。

<連合から奪取したMSにそういう装甲があるって聞いたが…>

末端まではそういった情報は届きにくい。
聞いたところによれば電力消費と引き換えに高い耐久性を発揮するというらしいが。
だが、自分の乗機がそれを使っていないことくらいわかる。

さて、どうしたものかとザフトの小隊長は考える。
自分達はアンチビーム爆雷を強引に突き破り、あるいはデブリごと撃ち抜くビーム兵器を放つ連合のMSに対し、決死の抵抗を続けている。こちらも一応ビームライフルを装備はしているが、はっきり言えば相手のものとは次元が違う。
無論、相手の方が圧倒的に上だ。一応相手も直撃を喰らうことは怖いのか回避をしているが、実弾はあまり避けていない印象を覚える。どちらかというと有利な位置取りをするためのおまけのようにさえ。
というか、その機動もかなり追いかけるのが大変だ。
メインカメラで追いかけ、OSがモニターの映像を追従させるのを振り切らんばかりの機動戦。
このデブリの中でさえもそれができるのだから、苦戦は必須だ。彼我の距離が交戦距離に入った状態でまともに戦うのは危険すぎる。

<なんだ…!?>

それを生き残った部下たちに警告しようとして、レーダーが新たにとらえた情報に目を見開く。

<派手に展開したのは、囮だったとでもいうのか…!>

主観から見て、はるか上方。
そこに、蒼い閃光を、否、稲妻を幻視した。

果たして、その幻視は正しかった。
それはまさに稲妻だった。デブリ帯に突っ込むにしてはありえない速度で、そしてデブリに対して驚異的な反応で回避し、最適なルートを一直線に進む閃光。ビームガンとビームライフルの連射で障害物や機雷を破壊する。
コクピット内部で、笹原明人の動きはまさに止まらない。両手両足は絶え間なく最適な操作を叩きこみ、その目は全天周囲モニターと手元のコンソールとをひっきりなしに確認して、自らの進むべきルートを見出し、脊髄反射のレベルで判断し手足へと指示を送る。
ただでさえ、長物で重たいメガランチャーを抱えているというハンデがあるのだ。
一瞬のミスや躊躇いが、即死に繋がりかねない危険なものだ。
だからというように、Zのコクピット内での動きと反射は、人間の限界に迫ろうかというものだった。

908: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:40:18

彼の前世での経験とこれまでの戦闘経験、訓練、NTとしての直感、それらが総動員され、動かしている。
人機一体。
バイオセンサーやサイコミュなどの有無ではない、パイロット側が機体をよく理解し、機体側がパイロットに追従することでなされる、
笹原明人が成すリズムとZガンダムの成すリズム。いや、鼓動というべきだろう。
二つの鼓動が調和し、協和音をなすことで、信じがたい高機動として成立した。
それは、L1という宙域に響いていた。

歯を食いしばる。
体を汗が伝い、連続で動かし続ける手足に疲労がたまる。
目はひっきりなしに動かしているので目が回りそうだし、判断の連続は集中を必要とした。
そしてなにより、NTとしての感覚が、このL1宙域に満ちる思念を感じ取っていた。
驚き、死に対する無念、恐怖、戸惑い、焦り。
戦場では付き物の感情のうねりが、大気圏内で航空機を飛ばしている時の予期せぬ横風のように明人の精神を揺らす。
物理的に揺れるわけではない。明人自身が、その揺れに翻弄されているだけだ。
L1で多くの人間がこの戦争で亡くなっており、そして現在も戦闘で死に、傷ついている。
明人にとってみれば、このL1宙域は広大なコンサートホールであり、あちらこちらで様々な音が騒々しく起きているようなものだ。

(確かにつらいな……!)

NTはそういった思念を感じ取る。
原作に置いてアムロがそうだったように、自分と同じくZを操った歴代最高とさえ言われたNTのカミーユがそうだったように。
明人も例外なくそれを感じ取っていた。一つ一つは小さなもの。しかし、悲鳴のようなものや叫びのようなものもあり、数が重なれば---

『だから、どうした……!』

声に出した。
叫ぶように、振り切るように。
邪魔が何だというのだ、残留思念が何だというのか。
自分は今、生きている。必死に生にしがみついて、悩んで、苦しんで、それでも生きている。
この程度でくじけるなど、Zドライバーの名の折れ。
いや、それ以前に。宇宙の蒼さにレイチェルと共に触れて、成長していた明人はそれを乗り越えられるポテンシャルを持つ---!

不意に、視界が開けた。
モニターに映るのは、団子を6つか7つほど、子どもが気まぐれにつなげたような形状の物体。
隙間をさらに小さな岩石やシャフトで結び、連結したコロニー。
宇宙港としても、資源採掘衛星としても、あるいは居住用としても開発されたそれ。
事前の資料では、L1の世界樹コロニーの開発が始まって、最も早い時期に完成し、L1を支えた小惑星型コロニーだという。
この世界において、C.E.世界においては明人の倍以上は宇宙にとどまり続ける建造物。

『捉えた…!ウルド1!』

デブリを抜けると、すぐさま直掩のMSと砲台の弾幕が歓迎する。
だが、それはあまりにも遅すぎた。ZのWRでのトップスピードに入り、それに順応しきっている明人の意識には、それらすべてがスローにさえ見える。通り抜けたという感慨を抱くまでもなく、身体は動いた。

(1つ、2つ、3つ!)

WR形態からMS形態に戻り、メガランチャーを片手で引っ張りつつ片手のビームライフルを三連射。
瞬く間にMSが3つ爆炎と化した。

<な、こいつ!>

<よくもやったなぁ!>

ザフトはようやく事態を認識できた。。
青い閃光が走ったかと思えば、MAが飛んできて、MSへと変形したのだ。
しかし、事態をまともに認識できているパイロットの時点で、少なかった。
MSだけでなく、モビルポッドのようなMAまでがZを狙うが、遅い。そして、少ない。
明人は的確な射撃で、自分の未来位置にとって脅威となる位置取りのMSを優先して撃破していた。
一歩遅れるように計算されている、そのように調整されたポジショニングなのだ。
悠々と速射されたビームライフルの弾丸は、吸い込まれるように残りを破壊してのける。

だが、戦果を挙げたことに高揚する間もない。
自分への敵意が形となって凝縮し、迫ってくる未来を感じ取る。

909: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:40:56

(ッ後ろ…!)

同時に、Zは大きく宙返り。背中のバインダーを大きく使い、一瞬で上方へと退避した。
そして、敵意の方向へと的確にビームライフルを向けていた。
自分へと迫るのはビームライフルの反撃。ゲイツだ。無駄に撃たなかったのは、おそらく隙を窺う為。
ベテランがのっているのかもしれない。これまで相対したゲイツは、多くが強敵だった。
あのフリーダムを超えるパイロットはいなかったが、それでも、なお。

『オォォッ!』

ゲイツはこちらに接近しながらビームライフルを連射し、同時にビームクローを展開。
こちらは牽制程度の射撃をして、ビームをシールドで防ぎつつ、応じるように接近する。
退避は、無理だ。
こちらとの交戦距離にがっちり入っているし、逃げようとすれば追いかけてきて面倒なことになる。
なによりも、自分の役目、メガランチャーによる対要塞攻撃を果たすことが出来なくなる。
いけるだろうか、と明人は自問しかけ、しかし、判断を中止した。
やるのだ。
出来る出来ないなど、問題などではない。
3手で決める。相手にするにしても、一瞬で終えてみせる。
それが出来なければ、何がエースか。

『行け!』

腕部のグレネードランチャーの二連射。そして、敵機の未来位置へとビームライフルを向ける。
牽制と本命の二発。さらに射撃の予告による包囲の形成。だが、弾速はお世辞にも早いとは言えない。
果たしてゲイツはそれを難なく回避した。最低限の、空いている隙間で姿勢を整え、こちらにビームライフルを向けてくる。
ああ、いい反応だ。グレネードランチャーを大きく避けずに、姿勢を変更するだけに近い動きであった。
少なくとも促成のパイロットならば被弾や炸裂を恐れて出来ないであろう回避運動。

『だが、その反応が命取りだ…!』

こちらに銃口を向け切れていないと油断していたゲイツ。
しかし、瞬時に狙いを変更して放たれたビームの弾丸は、明人の狙い通りのものを破壊していた。
自分が発射した、グレネードだ。

カッ!

二つの炸裂が、ゲイツを包んだ。
十分な回避を行うために距離をとっていたら無理だった。
だが、相手がそれをさほど距離を置かずに回避し、こちらへと距離を詰めることを優先したのがラッキーだった。
お陰で、有効範囲にゲイツを巻き込むことが出来た。爆圧から逃れたゲイツが、ぼろぼろの装甲をまとって飛び出してくる。
デブリ帯での活動の為か、装甲を強化していたのだろう。一撃で落ちなかったのはそのおかげか。
だが、これで終わり。

『3手目だ…!』

ビームライフルの銃口にビームサーベルを形成。
C.E.方式のビーム兵器の4倍以上の威力を持つそれは、回避運動もおぼつかない。満足に動けないゲイツに迫り、一瞬で袈裟懸けに切り裂く。

《ち、ちくしょ・・・・・・》

『……ッ!』

意識に響いた声を、無理矢理シャットアウト。

『コイツで終わりだ!』

フリーの状態で、メガランチャーを外すはずもない。
連射されたそれは、ウルド1を穿っていく。
大型の要塞砲、ミサイルランチャー、ビーム砲台、補給用と思われる甲板、必死に対空攻撃を放つMS。
Zのメガランチャーの火力は、全てを等しく破壊していく。
そして、多くが沈黙したところで、Zは離脱を選ぶ。
去り際にマニュピレーターから放つのは信号弾。
遠方からも見えるであろうそれは、自分の目的が果たされたことを伝えるためであり、ウルド1に止めを刺す合図であった。

『頼んだ、水希、レイチェル!』

そして、最後に。
自分と並ぶ速度で、別方向から突っ込んできた味方機に、叫ぶ。

『イオ、ぶちかませ!』

青の稲妻は、フリージャズを伴い突っ込んできた怪物に叫んだ。

910: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:41:30

      • フリージャズが聞こえたら、死が迫っている

何時の頃からか、ザフトの輸送艦隊にはそういう噂が付きまとうようになっていた。
たかが噂、されど噂である。特に縁起を担ぐ船乗りの延長にある宇宙船舶の船員は必然的にそういう噂に敏感となる。
運に見放されれば、その船は不幸な目にあう。
長い人類の航海の歴史を振り返れば、そういった不幸の“兆し”があり、実際に不幸な目に遭った船は数えきれない。
国家として歴史というものが非常に浅く、船舶も宇宙に殆ど限定されていたザフトでも、それは同じだった。

<…フリージャズ!?どこから!?>

<死神が来るぞ、気を付けろ!>

NJに妨害されてとぎれとぎれだが、オープン回線で僅かな音楽が流れる。
その事を知っているのか、回線で注意を促す声が飛び、周囲を探し始める。
そう、フリージャズと共に死神はやって来る。
だが、一つ修正があるとすれば、フリージャズが聞こえた時にはもはや遅いということ。

『L1には、Fly With The Windが似合うぜ…!』

コクピット内のカセットテープから流れる音楽に身を任せつつも、イオの操縦は止まらない。
止めさせてもらうほど、余裕はないのだ。それこそ風と共に飛ぶように、判断と操作を重ね、風そのものにならなくては。
だが、その風はZほど上品ではない。強装弾の仕込まれた頭部バルカンを使ってデブリを砕きつつ、
分厚い4枚のシールドを以て強引に切り抜ける。既にシールドと機体前面に増設されている装甲はデブリとの衝突により数え切れないほど傷とへこみを作っていた。

『ザフトの連中、こんな密集宙域に穴倉かよ!』

だが、一切揺るがない。
突き破る風の如く、FAガンダムはその推力を解き放っている。
生半可なデブリなどビームサーベルで切り裂くか頭部バルカンで砕くか、あるいは単純に推力に任せて蹴りによってぶち抜いている。

『だが……こっちにとっても都合がいいぜ!』

何しろ、自分達の得意な領域だからだ。放電現象というのもあるが、今のところそれには影響をほとんど受けていない。
遠方、自分から見て上方からドーベン・ウルフの射撃が降り注いでくる。
FFの恐れもあるが、イオはその狙撃手たちの狙いを感じ取っていた。
別に変な能力が、NTだとかいうものはない。だが、射撃に意図を感じることはできる。
こちらの動きの邪魔になりそうな敵をうまくけん制しつつ、要塞の能力を奪っている。
そして、こちらへと注意が向かなかったのも先行したZのおかげだ。

『ナイスだぜ、アキト』

口笛と共に、デブリの高速突破とその間の防御で傷ついたシールドを機体の前からどかす。
要塞そのものの状態が不味いためか、内部にいたMSやMAが飛び出し、大小の艦艇が動き出そうとしていた。
逃げるか降伏するならば放置で良い。脱出艇などは脅威ですらない。
だが、艦艇は、少なくとも戦闘が出来そうな艦艇は無力化してやる必要がある。

場は既に出来上がっている。
稲妻と呼ばれているアキトの鼓動(ビート)で最高潮。
自分とドラムで被っているように思えるが、他人のドラムもたまにはいい。
二人のスナイパーの射撃がトランペットやピアノ。
別方面の、おそらく別動隊の戦闘だろうが、それらが自己主張し過ぎないベース。
ザフトの部隊の雑多な、しかし、一部でいい音を出すのはトランペットか。
では自分は?決まっている、ドラムを譲っている自分はメロディラインを描くギターだ。

『行くぜぇ!』

<来るか!>

眼前、MSが展開している。
無造作にイオは左手に持たせたビームサーベルを連続して振るう。
彼我の速度差もあって、FAガンダムはMSをあっけなく両断していく。
ザフト側のMSは、手にしたライフルや重斬刀で反撃しようとして、それを動かす暇なく戦闘力を失ったのだから、もはや引き殺しにしたといった方がいいかもしれない。

『死にたい奴だけ抵抗しやがれ!』

オープン回線で叫びつつ、イオは火力を解放する。
武器を構えるジン、ジン・レヴェナントなどは吹き飛ばし、艦艇にはロケット弾をお見舞いして戦闘力を奪ってやる。
勿論、その間も止まらずに飛び回り、相手に的を絞らせない。
砲撃の追尾を振り切るように飛び回り、艦艇のエンジンを潰し、格闘戦を挑むMSをビームサーベルで切り飛ばす。

『っと!』

飛んでくる無反動砲をくるりと側転しつつ、相手と縦の軸を直角にした状態で回避して回り込む。
ジンは戸惑うように姿勢を制御してこちらを追尾しようとするが、そんなことをしている間にビームライフルが機体を破壊する。
ここは宇宙、立体的に動く場だ。それが理解できないやつ等、相手にすらならない。

911: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:42:57

降伏を積極的に認めるというのは、案外面倒だ。だが、イオの心情としてもガキのMSの相手を殺すなど願い下げだ。
通商破壊任務の時もそうだったがこの作戦では輪をかけて酷い。多少はマシな動きの奴もいるのだが、機動戦闘を投げ捨てたような砲台のようなMSまでいるのだ。何が悲しくてそんなMSと戦わねばならないのか。

『邪魔だぁ!』

そして、『前方』に重突撃銃を片手にきょろきょろとこちらを探すジンの改造機の姿が見える。
こちらに死角となる両足を向けたままだ。面倒だ。ビームサーベルを抜くことさえも。
対処として、無造作に蹴り飛ばす。前転するようにして相手のリアスカート部を踵で蹴っ飛ばしたのだ。
文字通りくの字に折れたジンは、上半身と下半身が泣き別れになったままどこかへ飛んでいく。
それを隙と受け取ったのか、こちらにビームの格闘兵装を振りかざして迫って来るシグー。

だが、悪手だ。アンチビームコーティングもなされたシールドが強引に割り込み、シグーの動きを止める。
一瞬の拮抗さえ許さず、FAガンダムのパワーはシグーの腕をパワーの差で吹っ飛ばしていた。
シグーはきりもみするように吹っ飛ばされ、デブリに激突。あしらうように放たれたビームライフルが止めを刺す。

『良い腕だが……遅いぜ!』

アラート。後方に敵が回り込んでいた。
デブリを、そしてこちらの戦闘の動きに合わせて目立たないように動いたか。
だが、FAガンダムの推力はそれを容易く振り切った。背中を捉えられたのはほんの一瞬。
次の瞬間には、急加速で上方に回り込んだFAガンダムの砲火が襲い来る。

『おらぁ!』

ビームライフルを打ち切りつつ、未来位置にビームキャノンを放つ。
冗談でもなんでもなく、その位置に飛び込んでしまったジンが、アストレイが、至近弾でも溶けるように消し飛ばされる。
その次の瞬間に、FAガンダムは次のターゲットに襲い掛かる。
止まりはしない。一瞬の停滞もためらいもない、人の形をした暴虐の王。

暴風の如く暴れるFAガンダムだけではない、ついてきていたマラサイや少数だがドライセンが、FAガンダムから逃れようとする戦力を叩いて回る。既に直掩MS隊は逃げ惑うのが大半だ。
直進という言葉となって進むFAガンダムより遅いが、その分だけ余裕を持ってL1のウルド1を包囲した。

そして、ついにウルド1にもMSがとりつき始めた。
対艦・対要塞戦闘にMSは不向き。だが、生き残っている出撃ハッチや要塞砲などを抑えるか破壊すれば、もはや要塞はその支援能力を失うことになる。バッテリー駆動のMSに限らず、補給を受けられなくなったMSは緩やかに終わる。
元より対艦・対要塞攻撃能力にも優れたFAガンダムがとりついていて、おまけに砲撃に優れたドーベン・ウルフが砲撃し、それらを排除できないほどウルド1を取り囲んでいる時点で戦いの帰結というのは決まったようなもの。

<馬鹿な…こ、こんな筈は……!>

ウルド1の指揮所で、司令官は絶句していた。
防衛部隊が、防衛装置が次々と撃破され、ウルド1表層の防衛設備が機能を失う。
見る見るうちにレーダーには敵機ばかりであふれかえる。
ザフト側の戦力はほぼいなくなり、連合の、大洋連合の放ったMSばかりだ。

『もう終わりだ、降伏しろ』

WRで一度離脱し、戻って来てMS形態に戻りながらZが、明人が静かに降伏を促した。
戸惑うように武器を構える僅かに残ったザフト側のMSだが、戦意などまるで感じられない。
トリガーに指がかかっていない、構えているだけのMSばかりだ。

『命も保障するし、戦時協定はないが捕虜としての扱いをする。
 大丈夫だ、殺したり、暴力を振るったりしない』

語り掛けるように、願うように、明人の声がザフト側に届けられる。

『死にたくなかったら、武器を捨てるんだ。武装を捨てて、両手を挙げてMSから出てくるんだ。
 抵抗するなら---』

ぐっと、言うべき内容が喉で詰まってしまう。
抵抗するならば、やるべきは一つ。

912: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:45:03

『抵抗するなら、相手をしてやるぜ』

代わりのように、イオの低い声が脅す。
ガンダムフェイスのツインアイが、不気味に発光した。
丁度逆光となっているので、その発光は殊更に恐ろしい。

『アキトと違ってよ、俺は気が短いんだ。さっさと決めろ。
 俺は、まだまだやり足りないぜ?』

苛立ちと怒気を含んだその声は、大の大人さえも怯ませる『覇気』に満ちている。
これまでイオがため込んでいた感情が、濃縮されて、ぶちまけられる。
まるでFAガンダムから圧が発せられているかのようだ。

『……』

ほどなくウルド1の基地の司令官が降伏勧告を受諾。
L1外縁部を固めていたウルド1は、遂に陥落したのだった。

ウルド1が陥落したことの報告が済んだ大洋連合のMS隊だが、まだ彼らは油断せずにいた。
ここはまだ相手のテリトリーだ。陸戦隊も何もいない、たんなるMS隊。
妙な動きをしているかどうかなど、外側にいるMS隊には分からないのだ。
例えば、ウルド1内部にため込んだありったけの爆薬を起爆したら---ウルド1事態が巨大な破片効果を発揮し、大洋連合のMSといえども無事とは言えないだろう。精々、司令部のある位置に対して、脅しの意味も込め、ビームライフルを突きつけておくことしかない。

(あとは陸戦隊が到着するのを待つだけだな)

明人は今の光景にふと既視感を覚えた。
エゥーゴによるジャブロー攻略だ。
Zガンダム作中で行われた軍事作戦だから、よく覚えている。
スポンサーであるウォンに、というかアナハイムに押し切られる形で、というなんともエゥーゴの実態を窺わせる理由での攻略戦。
しかし、実際のところジャブローの連邦本部としての機能は既に移転されており、書類上は本部であっても、実際の戦力は旧式品ばかりであり、そのことはジャミトフを除く軍の派閥には知られていなかったという有様。
おまけに核兵器まで用意されており、エゥーゴをまとめて吹き飛ばそうとしていたほどだった。

(あれと同じことを……やるとはいえないがな)

SEED原作に置いて実行したのはむしろ連合の方だった。
だが、それと同じようなことをザフトがやらないという保証はない。
それに、閉所ならば効果が高いBC兵器の使用も推測されるので、正直ウルド1の占拠は楽ではないだろう。
ここが長らくザフトの勢力圏下にあったことを考えれば、最後っ屁とばかりにグングニールを設置して、と考えるかもしれない。
まあ、すでに対策をうったMSばかりであることを考えれば、効果は雀の涙ほどだろう。

(……まだ、声がする)

どこか遠く。
ここからある程度の距離のところから、声が聞こえてくる。
なんとなくだが、大西洋連邦の攻略が進められているウルド4ではと思う。
戸惑い、混乱、困惑。そんな感情の波のようなもの。
レイチェルも感じているだろうか、とひとりごちる。
自分のNT能力を疑うわけではないが、この戦いを経てまた変化するのではと、そんな期待を抱いてしまうのだ。
ニカーヤでレイチェルと触れ合うというのは、個人として、またNTとしてとても良い刺激だった。

『よう、アキト。派手にやったな』

『お疲れ。イオほどじゃないさ』

大暴れし、粗方弾薬を使い切ったFAガンダムがZに近寄って来る。
先程の威圧感はとうに消え去っている。今は少しリラックスしているようだ。
通信回線には先程までのジャズは混じっておらず、代わりのようにコクピットに響くスティックの音が聞こえてくる。

『それと、さっきはありがとう』

『いいさ、気にすんな』

イオにとっても気分がよくないものだったろうに、と明人は頭が下がる思いだ。
案外繊細なイオに言わせて行う役目ではない。言い切れなかった自分に、少し嫌悪を感じてしまう。

913: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:46:20

『これで第一幕は終わり。次のセッションが待っているわけだな』

『そうだな…早いとこ、ここの制圧をしてほしいな』

ここはいまだに敵地。一時的に制圧しているに過ぎない。
襲われても撃退できる自信はあるが、弾薬や推進剤のことを考えれば限界はある。

『俺は次が待ち遠しいぜ…!まだまだ足りねぇ!』

『お、おう』

少しハイになっているのか、イオは興奮をあらわにしていた。
まあ、無理もない。そう思い、ハイになっているイオに暫く付き合うと、すぐ落ち着きを取り戻した。

『にしてもアキト、お前、前より動き良くなってるな』

冷静になったイオの発言に、明人は驚きを隠せない。
確かにZに乗ってしばらくが経ち、Zに慣れ、海苔初めのころ以上の動きができるようになっているとの自負はある。
けれど、それがイオに明確にわかるほどまでになっているとは思ってもいなかった。

『そうなのか…?』

『ああ。ぞっとするくらい、容赦がなくなってきてる。鋭い刃って感じだぜ』

戦闘しながらこっちを追いかけるとかどういう視野の広さだ、と思うが、そういえば自分もデブリを突破しながらもイオの動きを追いかけられていたことを考えると、不思議ではないのかもしれない。自惚れを抜きに、自分が成長している証拠のようにも思える。

『流石だぜ。そいつもアキトに乗ってもらえて喜んでるはずだぜ』

『ありがとう。イオの方は…FAガンダムでもちょっときつい感じがしてるな』

気を使った操縦だというのがなんとなく伝わってくるものだった。

『あー、わかるか?』

やっぱりか、という表情のイオに明人は相槌を打つ。
パワーと推力に任せた無茶苦茶な戦闘機動はイオの十八番だった。
だが、今回はやたら大人しい。マニューバに置いてかかる負荷を軽減するかのように予備動作やスラスターの噴射を交え、自機をコントロールしていた。

『だいぶ無茶しちまってな。ぶっ壊すなって、コーネリアスから釘刺されてんだ』

よくわかったなぁと感心される。だが、成長が速い、と明人は素直に驚いた。
元々イオはエースパイロットだ。ジムからFAガンダム、そしてアトラスへと乗り換える。
それだけのポテンシャルを持っていたが、FAガンダムが追いつけなくなるほどとは。

(エースの成長ってのは怖いもんだな……)

その時、呼び出し音がコクピット内に発生した。
どうやら、後続部隊と入れ替わりで戻って補給を行い、次なるターゲットを探し始めるらしい。
イオの方でもそうらしく、サンダーボルト師団のマークを付けたMSたちは整然と動き始めた。

『どうやらお呼びがかかったみたいだな……』

『そうみたいだ』

残念さを隠さないイオに、明人も同意するしかない。
相手がザフトの少年兵ばかりということを差し引きにしても、戦闘の高揚というかコンバット・ハイはある。
連携がうまくいったり、作戦が上手くいけば、当然のように。今回のように、イオというエースと共に戦えたのは、明人をしても得難い経験だったのだ。

『楽しかったぜ、アキト!』

去り際に、FAガンダムのイオは暫しの別れを告げた。
その声、その表情。それはまるでなにからも自由で、力溢れる少年のようで、思わず明人も笑顔になった。

『ああ、またな!イオ!』

そして、二機は分かれていく。
L1の重要拠点をめぐる戦いの一つは終わり、次なるステップへと進む。
幕間を彩る僅かな間奏が、戦場には流れ始めていた。

914: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:47:06

        • L1宙域 小惑星型コロニー「ウルド4」





小惑星型コロニーであり、ザフトの防衛基地であるウルド4はアラートと混乱に満ちていた。
いや、それ以上に---外部との通信を司るアンテナやレーダー設備で突如として爆発が起こり、さらにはMSや艦艇の出入り口となる出撃口の多くが潰れてしまったのだ。
辛うじて人やパワードスーツなどが出入りするためのハッチなどは残されているのだが、このままでは基地としての機能と司令部としての機能が失われたままで、麾下の戦力が独自判断を強いられる遊兵と化し、
基地の復旧までの間、碌な戦闘行動を行うことが出来なくなってしまう。特に艦艇に配備されていないMSは最悪だ。
やがてバッテリー切れか推進剤が切れて戦う前に戦闘不能となるだろう。艦艇で回収するという手もあるが、それでも収容能力には限界があるし、各地の監視所にしても艦艇にしても補給能力には限界がある。

「畜生、畜生、どうしたらいいんだよぉ!」

ウルド4の司令室に、幼さを含んだ若い声が響く。
オペレーターたちは各地の被害状況の確認や、どれだけの通信設備が生き残っているのかの確認で大わらわ。
参謀たちもそれらに振り回され、司令官である彼はひとり残されてしまった。
ようやく成人年齢を迎えた彼は、その事実を以て指揮官へと任じられた。
だから、今の状況に対応するすべを、知識を、持ってなどいなかったのだ。

「誰か、誰か応答してくれ!こちらウルド4司令部!連合の奇襲を受けている!繰り返す!連合の奇襲を受けている!」

近くの空いたマイクを手に、通信回線を全方位で飛ばす。
だが、帰って来るのはノイズばかりであった。自分の声が通信回線に乗って飛んで行っているかどうかさえ怪しい。

「くそ、駄目だ!」

コンソールを叩くが何ら解決にはならない。
幸い、内部の通信回線ならば生きているようだが、外が分からなければ。
目視での監視の当直者への呼び出しを開始するとともに、破損の原因は?と考えを巡らせる。

ウルド4が設置される座標はランダムに見えるが、放電現象が少なく、デブリの密集具合や他の監視所との距離、その他輸送艦の通行ルートなどから計算され、決定される。その内容はひどく複雑で覚えきってはいないが、そういう放電現象などの影響を受けにくい座標が選ばれたはずだ。それにこの基地自体が監視所に守られているので、敵機が接近していれば即座に見つかり、警報が鳴る筈。

「一体どうしてだ…」

どうして?なぜ?
混乱もあって思考はループする。
アジャストさえできなかった。

「何があったんだよォ!」

ウルド4は混乱のままに、必死に対応に出る。
しかし、そんな彼らは知らない。
既に自らの所在地を知られ、無防備な状態で漂っていることを。
大西洋連邦の獰猛なる狩人たちが、ついにニシンの燻製ではなく狐を捉えたことを。

915: 弥次郎 :2018/08/16(木) 21:47:58
以上、wiki転載はご自由に。

明人+イオ+ダリル+レイチェル+水希=イジメダメ絶対。
長くなりました。時風氏には本当に感謝です(土下座
少しでも質の良い戦闘シーンを描けたならば…満足していただければ…!

そして、大西洋連邦のザ・搦め手。
次は大西洋連邦が主体となります。

921: 弥次郎 :2018/08/16(木) 22:23:37
904のところに若干追記修正を…
Staring Mobile Suitの項目の後に以下の分の追加お願いします

Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Special Thanks:時風氏
Written by:弥次郎

122: 弥次郎 :2018/08/19(日) 19:41:29
98
はい、もうしわけありません
いつものです…orz

×マニューバに置いてかかる負荷を軽減するかのように予備動作やスラスターの噴射を交え、

〇マニューバに置いてかかる負荷を軽減するかのように予備動作やスラスターの噴射を交え、自機をコントロールしていた。

修正お願いします

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最終更新:2018年08月29日 13:21